『超能力。一般にはESPと呼ばれ、それを駆使する人はエスパーと呼ばれている。
その種類は多様を極めるものの、日常で目撃したことのある人はほぼいないというのが現状である。

一部の国では超能力を利用して事件解決に役立て、実際に成果をあげていることは列記とした事実であり、そのほとんどはサイコメトラー『遺品等に触れて持ち主の現在位置を割り出したりする』やクレヤポンス、所謂『透視能力』の使い手であって、漫画やアニメに出てくるようなパイロキネシス『発火能力』やテレポーターの『公認』された使い手はいない。
今回、私は数ある能力の中でもサイコキネシスと同等の知名度をもつ『テレパシー』を使う人物との接触成功した。
S・K氏(以降は彼とする)の協力の下、今まで解明されなかった『テレパシー』の調査を行い、ここにその結果を記す。



ファイル1:テレパシーとは。

一般的に知られるテレパシーとは思考による交信―――つまり、声を出さずに会話を成立させることができるモノである。
個人により範囲等の差はあるものの、テレパシーと言える力はこの一つに集約される。
彼自身他者との交信を可能とし、頻繁に活用している模様。
しかも驚くべきことに、彼は動物との交信にも成功したと言う。これについての記述は下記の『ファイル4』に明記する。



ファイル2:仕組み。

脳が関係している以上完全に調査できたわけではないが、ある程度の実験により以下の内容が判明。
1・交信の使用時にEEGの異常を感知。
2・多用による脳の衰退及び精神異常を確認。
以上のことから一種の電波のようなものであると推測される。
確立された手順や操作の方法は本人すら把握しておらず、おそらく彼は無意識レベルで脳内電波のチューニングを行っているのではないか。
1人1人波長の違う相手と同時に送受信できるトランシーバーというのが私の見解である。



ファイル3:実験1

複数の第3者立会いのもと、彼の遠感現象の有効範囲を測る。
場所の都合もあり、実験は10代から20代の男女を用いた。知的好奇心により私も実験に参加する。
直線距離から初め、日常にありふれた様々な障害物、遮蔽物を通して観測を行い、以下の結果をはじきだした。
ただし、彼の遠感現象がある種の電波によって構成されているという仮定で記述する。
最高到達距離、72メートル。
最低距離、0〜3メートル前後。
障害物がどんな材質でも大きな変化は見られず、やはり普通の電波とは違うようだ。(あるいはニュートリノのようにほぼ全ての物質を透過する性質を持っているのか。アレは素粒子なので電波とかけるのは少々合わないかもしれないが)
しかし、影響を受けた障害物がたった一つだけ見つかった。
それは『人ゴミ』である。
電波は混線すればノイズとなって受信機に届く。それと同じ現象が彼の精神感応に起きているというのだ。
α波かβ波か、それともまだ発見されていない未知の脳波か。何にせよ、精神感応に関連する何かは一般人である私達にも持ち合わせているということになる。
そういう意味では、彼だけが特別とは言いがたいのかもしれない。




ファイル4:人間以外への感応。

『ファイル1』に述べたように、動物との交信を実験する。この実験では、私の学者としての探究心から見ても、実に興味深い結果が出た。
飼い犬が飼い主に懐くのは警戒心が無く、飼い主を仲間であり主人であると認識しているから。
犬に限らず他の動物も調教によって飼育は可能である。
しかし私はあえて現在所在地に生息する野生動物を実験に用いた。
容易にペットを用意できなかったのも原因の一つだが、野生動物が彼にどういう態度をとるのか気にかかったのだ。
手始めに野生のウサギ―――以降より記述する動物は全て野生のものとする―――を与えてみる。
結果:懐く。
犬を差し向けてみる。懐く。
狐を数匹与えてみる。結果:餌を与えられる。
冬眠中の爬虫類を与えてみる。特に反応なし。
虫類は彼の懇願により実験を取りやめる。
率直に言って実験と呼ぶには甚だしいものの、やはり友愛の態度を取るというのは憶測の通り。
意思が通じて、自分の害にならないとわかるだけの何かがあればどの生物も同じ行動を取るのだろうか。それともこれが彼の持つ可能性なのだろうか。
続けて手懐けた動物を操れるか試してみる。
彼が犬に『リンゴを取って来い』と命令すると、犬は台所からリンゴを咥えて来て彼に渡した。
彼がウサギに『立ち上がれ』と命令すると、ウサギは後ろ足だけで立ち上がった。
一見何でもないように見えるこの動作。考えてみると少しおかしなことに気付かないだろうか。
『なぜ野生の犬に人の名付けた固有名詞であるリンゴの場所や物体を把握することが出来たのか』
『なぜウサギは立ち上がるという行為を2本の後ろ足で直立することだと解釈したのか』
もちろん犬にも簡単な認識はできる。だからこそ介護犬や救助犬が生産される。しかしそれは、目的に沿った調教を施しているからだ。
ただの飼い犬に麻薬犬のマネは出来ないし、首に酒をぶら下げたところで寒冷地の救助犬になれるわけがない。
ましてや今回は野生の犬。人と触れ合うこと事態ありえない状況で、リンゴをリンゴだと解釈して探し出し、彼に渡すというのはどう考えてもありえないのではないか?




ファイル5:仮説

今までの実験で浮き彫りになった疑問を元に、一つの結果へ辿り着く。
テレパシーに定着した概念は精神における『会話』だと思われたが、それはテレパシーという力の一つに過ぎないのではないかと。
私自身が資料とした物の中にテレパシーを扱った小説等の娯楽物がある。
その中でテレパシーを使える者は、相手が隠している本心を聞いて苦悶するということが必ずある。
現に彼も幼少の頃はそれに悩んだ経験があるらしい。
しかしここでも考えて欲しい。私たちは四六時中、会話のような語句を頭の中で考えているものだろうか。
例えば、
「私はアイツが嫌いだ」
と、態々考えるだろうか?一言一句、なにかをしているときでも。人と話しているときでも。
はっきり言おう。それはほぼありえない。頭と口が同時に別の行動を取るなどほぼありえない。
大抵は目の前の何かに集中するものだ。会話なり作業なり。
また、自分の本心を常に考えている人はいない。
しかし彼は実際に相手の本心に触れ、それについて悩んだことがある。
ならば彼は一体なにをテレパシーで読み取っているのか。
そこで、私は仮説として以下の内容を提示する。






『テレパシーで送受信しているのは言葉ではなくイメージ、もしくは条件反射による構築である』






人の頭は考えるだけでなく、『思い浮かべる』こともできる。
もしテレパシーというものが脳内に干渉できるというのなら、これらを読み取ることも可能ではないのだろうか。




ファイル6:イメージを送受信する。

彼が犬に送った情報はリンゴの形、色、匂い、味、場所であり、犬は情報に適合するものを探し出し、彼に渡した。
彼は四本足を地面に着けている状態を伏せているという見解を持っており、自分が立ち上がるというイメージをウサギに当てはめ、ウサギが後ろ足で立ち上がるという結果になった。
動物の脳がそれほど高度な認識を行うとは思えないが、少なくとも言葉以上の何かを感じ取っているのは想像に難しくない。
それ以前の問題で、人の言語=動物が理解できる言語ではないのだから。




ファイル7:条件反射による構築

簡単に言えば、『リンゴ』と言われて思い浮かぶソレである。
五感のいずれかに刺激された情報を、脳が過去の記録から照合し、適合したモノを他の感覚器官に送る。これが『思い出す』プロセスになる。
人はこの動作を無意識に行っている。思い浮かんだモノを表に出すかどうかは別として、それがセキリュティの類でも同じことだろう。
そして、感じていることは全て脳による処理―――いうなれば想像(イメージ)であり、ファイル6のように送受信が可能だと推測できる。
一つの例として、彼が私にある質問をしたとしよう。
すると私の脳内は質問の内容によって、『答えられる』『答えられない』の2種類を用意する。
この場合は『答えられる』とする。
しかし、質問はプライベートなことなので私は『嘘の答えを言う』とする。
しかし彼は脳内の状況を把握しているので、ソレが嘘だとすでに知っている。
分かりやすく言えば、嘘発見器と同じようなものだと思えばいいのかもしれない。




ファイル8:まとめ

レベッカ氏による『セイジ・カサヅカの考察』に述べているが、彼は言語を介さずコミニュケーションを取ることができ、言葉のイメージが見えるという。
当たり前だ。人は言いたいことを考えて言うのだから。
以上のことから、テレパシーというものは『無言の会話』ではなく、一方的なイメージの送受信であることが推測される。
CTスキャン等による解析を行えなかったため、このレポートはまだ完成とは言いがたいが、彼の健康状態や事前調査もろくに管理していない状態では止むを得ないとし、このレポートはここで一応の終了とさせていただく。
なお、彼のテレパシーを防ぐ手段は今のところ確認されておらず、100メートル以内に接近しなければ害はないとする。

 著『シェリー・バーキン』

参考書『セイジ・カサヅカの考察』著レベッカ・チェンバース