常夏など問題にならないほどの陽射しが降り注ぐ灼熱の地でクレアは情報収集をしていた。
暑いからといって薄着をすると、返って火傷をしてしまうこの地域ではサリーとサングラスを着ている。

『ああ、やけに頑丈なトラックだったな』

なまりのある英語で通訳する地元の協力者を通しての会話。

「どこへ?」
『この先さ。こっちは砂漠しかないってのに』
「何もないの?」
『ああ。遺跡もなけりゃオアシスもない。道路からは離れてるし街もない。用ができる方角じゃないさ』
「いつ頃来るかわかる?」
『一ヶ月に一回は必ず通るよ。でもその割には帰ってこないから不気味でしょうがないんだ。そういえばそろそろ来るかなぁ。この辺にはない車種だから見ればすぐわかるよ』
「そう、ありがとう」

品物である子豚の丸焼きを受け取って2人はその場を後にした。
世界中に支社を持つアンブレラだからこそ、世界中に非合法研究所がある。それは同時に、戦おうとする人も世界中にいるということである。
ただ個人でできることは少ない。銃を持って戦うことも情報戦を仕掛けることもできず、手を拱いている被害者は多数に及ぶ。
友人、知人、親、恋人。大切な誰かの仇を取るために、彼等はできることをなんでもするだろう。

「ここまででいいわ。あとはあたし達の仕事だから」
「はい。お願いです、必ずアンブレラを」

しかしクリス等は、どんな事情があろうとも彼等に銃を持たせようとしなかった。チームワークや実力不足が主な理由だが、やはり民間人にさせることではないと判断しての配慮だ。
中にはソレをよしとせず、顔を合わせただけの徒党を組んで自滅する組織もある。そういう者たちは決まってこう叫ぶ。
―――を返せ、と。
この女性もその一人だった。

「わかってる。そのために来たのよ」

勤めを果たした女性と別れ、尾行を確認しながら宿へ向かった。
迷路のように立ち並ぶ民家を迷うことなく進んで、周りを確認しながら隠し扉の奥へ入る。




荷物をキッチンに置くとすぐリビングで行われている会議に参加した。
万が一のために普通の家を装っているが、壁一枚向こうには軍隊並みの銃器が身を潜めている。もちろんこれらの一部はチェコから持ち出したものだが、アサルトライフルやグレネードは全て現地調達だ。
経済発展を遂げた国とはいえ、20世紀のエジプト革命前後に起きた5度に渡る中東戦争や、イスラム過激派のジハード団による大統領暗殺等、未だにきな臭いものを抱えるこの国では個人、組織問わず銃器の売買が秘密裏に行われている。
しかし大っぴらに商売ができるものではないため、一般人が手に入れる確立は皆無。ましてや外から来たクリス達は、地理や気候に順応することで精一杯。
そんな中、似たような気候で育ち、なおかつ裏に精通している人間が一人だけいる。

「帰ったぜ〜。注文のマガジンだ」

元ゲリラのカルロスだ。今回持ってきたのは空のマガジンで、弾はバラで調達済みだ。
この手の相手を手玉に取れる彼がいるからこその芸当だろう。

「お疲れさん。もう少ししたら飯にしよう。そっちはどうだった?」
「タレコミ通り。ここから西の砂漠――――こっちの方へトラックが向かってるみたい」

机に広げている地図の、砂漠を示す区域を指す。

「そうか」
「それとちょっとおかしなところがあるのよ。なんでも行くだけ行って帰ってくるところを見たことがないらしいの」
「それは……たしかにおかしいな」

机に広げられた地図に印をつけていたクリスが怪訝な顔をした。

「どっかに別の出口を用意してるな。以前作戦で見たことがある」
「私もそう思う。ラクーンシティーでも地下鉄を用意してたんだし」

カルロスの推測にシェリーが応えた。

「そうね…………。ん?セイジとレオンは?」
「セイジさんは観光だそうです」
「レオンはその付き添い」

クレアは呆れた。この緊迫した状況でなにを暢気なことを。

「2人とも嘘言わないで。本当はアンブレラの監視が紛れてないか調べに行ったの」
「どこへ?」
「ギザ」
「結局観光するんじゃない」
 
 
 
 
 
 
 
 
同時刻、ギザ

【あちらに見えますのが古代クフ王の遺体が納められていたピラミッドです。このピラミッドは四隅のそれぞれが東西南北へ正確に向いていることから、古代エジプト人は何らかの方法で方位を知ることが出来たということが伺え、その方法は今でも調査中です】

クーラーの効かない古い観光バスに揺られながら2人は英語で案内するガイドの言葉に耳をかたむけていた。

「なぁレオン」
「なんだ」
「お前俺になにか恨みでもあるのか?」
「何のことだ?」
「俺のこの服装はどういうことだと聞いてるんだ」
「それが海外に来た日本人のスタンダードな服装だと思ったんだが」

いくらなんでも黒のコートは変だといわれてレオンから受け取った服。

「基本としてタオルに水とサングラス。ここまではいい。この半そでのカッターシャツと上下のスーツはなんだ!しかもご丁寧にカメラまで」
「俺が以前住んでたところでも観光の日本人といえばこうだったよ」

どこかおかしいのか?とレオンは首をかしげた。ちなみにレオンは普通に男性用サリーを着ている。
しかも周りから奇異な目で見られて『いない』こともなんだか悲しかった。

「全部の日本人がこうだと思ってんのかなぁ……」

一人浮いていることこの上なかった。
落ち込んでいる聖司をよそにバスは停留所に着いた。やはり観光地だけあって、世界中からやってきた人間で犇いている。

「見ろセイジ、お仲間だぞ。やっぱりスタンダードなんじゃないか?」

レオンが顎で指した先には別の観光バスから出てきた日本人の観光団体。その中の数人は聖司と同じ格好をしていた。
 
「……世界にとって、日本=アレなのか……」
 
聖司の指すアレは我先にピラミッドの中へ入っていった。無遠慮にカメラで乱写して、周りの客から顰蹙を買うこと請け合いだろう。
 
《あたし達も》
「(動くな。はみ出たらばれるだろ)」
 
頭から被っている布を日除けのように見せて隠しているエルに急かされ、
聖司はピラミッドをバックにしてレオンと記念写真を撮る。やはり目的は観光らしい。
 
「チャーチルはピースサインに戦争継続の意味を込めてたから平和の象徴というには相応しくないと俺は思う」
「お前は何を言っているんだ」
 
返事もそこそこにして遺跡の中に入っていった。
その遠くで2人が入っていくのを確認していた影が通信機を取り出した。

「目標を二匹確認した。これから片付ける」
【油断するなよ。相手はCIAのレオンだ。もう一人もこちらの諜報員達を尽く退けたらしい】
「青二才共に殺られるつもりはない」
【………まぁ頑張ってくれ。ニコライ】









「この遺跡は現在も調査が行われてますのでロープを張った道以外に入らないようにして下さい。うっかり備品を壊して賠償請求されても当社は一切責任を負いません」
「だったらもうちょっと頑丈に閉鎖しておきゃいいのに……」

団体の最後尾についている2人は暗いごつごつした道を進んでガイドの説明を聞いていた。それなりに広い通路には使い古された電灯が規則正しく並んでいる。

《さむ〜い》
「(外に比べたら天国だよ)」
《うん。でもさっきから通路ばっかりでつまんない》
「(実際遺跡事態は世界遺産だからな。その中でも王の棺がある場所は未だに調査されているらしい)」
《なんで?》
「(ピラミッドへの入り口や部屋は中心から少しずれた所にある。理由は天井の重さを分散させるためなんだが、当時のエジプトじゃ左右対称の美学があったんだ。つまり、左右を対象にするため反対側に同じような部屋を作ってるんじゃないかって…………)」

以前テレビで得た知識を披露していた聖司は妙な思念を感じ取った。

《どうしたの?》
「(誰かが見ている……)」

さりげなく後ろを振り返ってみても、観光客の列が続いているだけで相手がわからない。

「レオン、ちょっと待て。誰かが俺たちを見ている」
 
聖司の言葉を聞いてすぐに懐の銃を握った。
 
「アンブレラか」
「多分な。…………こっちへ行こう、巻き込んじまったら面倒だ」

道を塞いでいたロープをくぐって2人はさらに奥へ進んだ。










「下はこうなってたんだなぁ」

ピラミッドの地下は迷路のように入り組んでおり、そのせいで相手の居場所が掴めなくなってしまった。迎え撃とうと待ち伏せをすれば反対側の通路へ向かったり、逆に待ち伏せされてわざわざ遠回りした挙句に迷ったりと、まともに戦えない状況が続いていた。
こういうときに頼りになりそうなテレパシーも、迷路の形は把握できないため相手の動きが予想できないのだ。
そうやってわずかな明かりを頼りに何十分も迷っていると、何度か通ったT字路に突き当たった。

「今度はこの辺りでいいか」

レオンがそう言ったのと同時に目の前の電灯が急に消えた。

「ケーブルをやられたか!」

聖司が左へ、レオンは右の通路へ隠れた。聖司はしゃがんで膝からHVナイフを二本取り、逆手に構える。

「武器は?」
「ナイフが二本だけだ」
「俺もマガジンが2本しかない……」

デザートイーグルのマガジンを数えてレオンが呟いた。あきらかに戦いなれている向こうに対してこっちはマグナムと聖司のナイフ2本のみ。
こう暗ければ闇雲に撃っても当たりはしないだろう。無駄弾に使う余裕はない。だからこそ待ち伏せして短期戦に持ち込む必要があるのだが、ようやく出会った奇跡を無駄にしたくはなかった。

《テレで誰か呼べないの?》
「(ここからじゃ距離が開きすぎだ)」

聖司は深呼吸するとテレパスを後ろへ向けて相手の思考を探った。だが今の相手は銃を構えて自分等を殺すことしか考えていない。

「おい、誰だテメェ!」
「…………」
「(アンブレラのニコライ…………え〜と)」

返事は無い。こんな極自然の反応でも聖司にとっては列記とした情報だった。

「こんな狭ぇところでなんの武器使うつもりだぁ?!」
「…………」
「(小型のアサルトライフル……ハンドガン……手榴弾……暗視ゴーグル……ナイフ…どうやって持ってきたんだよこんなに)」

アホみたいな質問でしっかり情報は手に入るものらしい。

「(こんなん出たけどどうよ?)」
《ここに来たのはまずかったかも。完全に向こうが有利》

コートさえあれば――――後悔してもはじまらないため、エルはすぐ考えるのをやめた。

「どうする……?」
「相手の場所がわかれば何とかなるんだが……」

聖司とレオンは明かりになる物を探したが、ペンライトすら持っていなかった。

「しゃーない…………ちょっと待ってろ」
《どうするの?》
「(なに。テレパシーは電話ってわけじゃねぇんだ)」

聖司はそう言うともう一度集中した。

「(レオン、今から相手の目線を送る)」
「(ん?)」
「(すぐわかる)」

聖司はすぐに意識をニコライの神経に集中する。

「!?」

レオンの頭にスコープ越しでT字路を覗くニコライの目線が浮かび上がった。
それはほんの一瞬の出来事だったが頭にはその映像が鮮明に焼きついている。

「(………ふぅ……。…どうだ?)」
「(だいたい50メートル先でうつぶせて銃を構えてるな。充分弾が届く)」
「(当てれるか?)」
「(……可能だ)」
《じゃあバリケードが必要だね》

急に聖司を操ったエルは立ち上がり、今まで背もたれていた壁を切り裂いた。瓦礫となったブロックをそのまま通路に山済みにして簡単なバリケードを作り、真正面からでも撃てるように施した。
その際ニコライが何発か撃ってきたが、意外にもびくともしない。

「(世界遺産が……)」
《自分の命が最優先》
「(弁償しないで済みますように弁償しないで済みますように)」

いっそのことアンブレラの所為にしてやれと思う聖司だった。

「(で、どうよ?)」
「(充分……だ!!)」

通路から飛び出しながらしゃがみ、何も見えない暗闇に向けて銃を乱射した。

「ぐあ!……」
「よし!」

確かな手ごたえを感じ、レオンはバリケードを乗り越えて走った。聖司も後に続く。

「くそ…なぜここがわかった……」
 
右肩を撃たれたニコライはその場に倒れていた。だがすぐ近づく足音に気付く。幸い急所を外れたので逃げるのは容易い――――が、それだけでは面白くなかった。
ニコライはタイマー型の手榴弾を取り出すと先端についているつまみを回す。
それを破いた服で包み、地面に落ちても音を出ないように施し、足音の距離を測り、少し自分に近い位置へ投げた。
足音が止む気配は無い。それを確認したニコライは一気に逃げた。慌てて追いかけてくればちょうど良いタイミングで爆発してくれるだろう。

「待て!手榴弾だ!」
「なに!」

途端足音が遠ざかる。確実に逃げられるものの、これでは意味がない。

「何故わかっ――――」

最後の呟きは手榴弾の爆発音が掻き消した。









【ここで臨時ニュースが入りました。今日の午後二時頃、クフ王のピラミッド内部で小規模の爆発が確認されました。幸い怪我人はありません。警察は今回の件をテロの可能性有りと見て調査しています。なお、爆破された箇所は観光用に作られた通路から離れており、今後も観光は続けられます】
「……だって」

辞書を片手に、三日間かけて覚えたエジプト語を思い出しながらシェリーが翻訳していた。いかんせん覚える時間が無かったためほとんど片言だが十分通用している。

「……2人が向かったところじゃないか」
「そうね……なにかあったのかしら」
「わたし迎えに行ってくる!」

クリスとジルが怪訝な顔をし、シェリーは身支度を始めた。

「その必要はない」

突然入り口から埃だらけのレオンと腕から血を流しているセイジが現れ、その場にいる全員が安堵した。

「大丈夫ですか?」
「あぁ。あ、エルに消毒液はつけなくていい。勝手に治るから」

レベッカが救急箱を開いて聖司のみ治療をする。

「なにがあった」
「エージェントに襲われた。セイジ、奴の名前は?」
「ニコライ。それしか読み取れなかった」
「ニコライだと!?」

聖司が名前を言うと、カルロスとジルがすぐに反応した。

「あぁ。知り合い?」
「ラクーンシティーから脱出するとき何度か出し抜かれたわ」

ジルの脳裏にヘリを奪って逃げるニコライの姿が浮かび上がった。

「で、どうなった!?」
「手榴弾で自爆したよ。見てねぇけど、多分死んだんじゃね?」

治療が終わり、包帯を巻いたエルの触手と腕をさすりながら楽観的返答する。
逆にジルとカルロスは、さすがにそれは無いと確信している。
ロシアのスペツナズ出身で、UBCSの中でもトップクラスのベテランはSTARSの精鋭に劣らない実力を持ち、それ以上に残酷な人間だ。幾度もピンチに陥って、その度に生き延びているのを2人は嫌というほど見ている。
奴が関わっているとなると、非常に仕事がやりにくい。

「どっちにしろ、もうここのことがバレたな。今更変更はできないんだが………」
「そっちはどうだった?」

埃まみれのサリーを脱いでレオンが問う。

「手がかりは見つけたわ。あとは待つだけよ」

クレアはそう言って調理した子豚の丸焼きをテーブルに並べた。

「おぉ?美味そうじゃん」
「おかわりはまだありますから遠慮しないでいいですよ」

続けてシェリーが両手一杯に料理を持って来た。

「考えても仕方ないな。明日の成功を祈ろう」

クリスの音頭に全員が杯を合わせた。








そして次の日。







「明日の成功を祈ろう」
『ふざけんな!』

考えてみれば明白だった。奴らの乗ったトラックが来なければずっと現状維持しなければならない。




それから二日。





「なぁ、今回は失敗じゃねぇの?」
「言うな。俺だってなんだかな〜って思ってんだから」

砂漠への出口を近くの建物から見張っているカルロスと聖司がぼやく。カルロスは愛用のアサルトライフルを弄りながら、聖司はナイフを研ぎながら交代で監視していた。
一ヶ月に一度とはいえ確実な情報ではなく、どこからトラックが来るのかもわからない状況ではしかたのないことだった。
とはいえ協力してくれる特殊部隊からは、いつまで待たせる気だと文句を言われ、現状は刻々と悪化していく。

「差し入れ持って来ましたよ〜」

時計を見たらすでに一時を過ぎており、レベッカが冷水の入った水筒とサンドイッチを持って来た。
最初は子豚の丸焼きだったが、滞在費が減るに連れてグレードが徐々に下がり、今では肉気のない食事が続いている。このサンドウィッチも中はポテトサラダだけだ。
現状は別の意味でも悪化していた。

「サンキュー。先に食っててくれ」
「あぁ」

ナイフをコートの裏に仕舞い、レベッカから弁当を受け取る。

「来ないですね〜」
「もしかしたら町を迂回して行ったのかもな。ニコライの件もあるから俺たちがここにいることはバレているはずだ」

サンドイッチと水を交互に食べながら素早く食事を済ませる。最後に水をエルにかけてようやく一息つく。

《ふぃ〜………》

この暑さでは流石の彼女でも辛いらしい。








それから二時間。しばらくレベッカと談笑していると、通信機から待ちに待った連絡が入った。

「はいはい。こちら暇人三名、どうぞ」
【給油所で確認したわ】

無線の向こうにいるジルは抑えた声で、しかしどこか嬉しそうに囁いた。

「本当か!それで?」
【多分そっちに向かうと思うから発信機の準備をしてちょうだい。装備はこれから持って行く】
「了解。セイジ、レベッカ、行くぞ!」
「やっと出番か」

これでそっけない食事とサプリメントから開放される。そう思うと俄然やる気が出てくる聖司達だった。



3人は階段を下りて建物の陰に隠れる。古い車が横行していく中、一台だけキャタピラをつけたトラックがやってきた。
カルロスが荷台に発信機を打ち込む。流石にトラックの後ろを列を成して追跡するわけにもいかず、しかし砂漠という遮蔽物のない地域では生半可な距離では存在がバレてしまうため、双方が一度完全に見失う必要があった。
STARSが特殊部隊に協力を頼んだのは発信機を追跡するためにエジプトの軍事衛星を借りるためだ。そのために払った代償が手柄という俗物だった。

「発信機の取り付け完了しました」
【了解すぐに向かうわ】
「よし、後は待つだけ……っておい!セイジなにやってんだ!」

レベッカの通信を見ていたカルロスがトラックを追っている聖司に気付いた。

「《トラックに付く!先に行って待ってる》ぞ!」

聖司がトラックの荷台に飛び移る。

「あの馬鹿!」

砂の上を走るために特別なキャタピラを付けた車は聖司を乗せて砂漠に出た。








荒れた砂利道から黄土色の砂しか見えなくなり、遂には地平線が見えるほど遠くへ来てしまった。
熱砂が陽炎を作り、照る太陽が身を焼く。
数十分前に通ったはずのトラックの痕跡は風が消してしまい、唯一GPSが示す位置だけが頼りだ。

「着いたわ」

そう言ってジルは車をとめた。だがそこには周りと何一つ変わらない砂漠の上だった。

「どういうことだ?」
「さぁ。発信機はここで合ってるんだけど……」

辺りを見回しているクリスが小型の受信装置を見ているジルに問う。そのとき、

「(おーい!誰かいるかー!)」
「セイジさん!?」

シェリーが聞き慣れた声に反応して辺りを見回し始めた。

「セイジがどうかしたのか?」
「今、誰かいないかって聞えたんだけど――――ほら、また」
「俺は聞こえねーぞ」

カルロスが耳を凝らして集中する。他のメンバーもカルロスと同じ意見のようだ。

「セイジさーん!」
「落ち着いてシェリー。わざわざこっちで話すってことは見える範囲にはいないわ」
「あ、そっか。(セイジさん、今どこですか!?)」
「(真下だよ真下。今から入り口開けるから少し退いていてくれ)」

聖司に言われたとおりその場を退くと地面が音をたてて割れ、運搬用エレベーターが現れた。
全員がそれに乗るとエレベーターはゆっくり下降をはじめ、同時に開いていた穴が閉じた。
いくらかしないうちに下へ到着して、上下降用のコントロールパネルを操作している聖司を見つける。

「地獄の一丁目にご到着〜ってな」

傍に設置されていた警備室から装置を弄っている聖司が手を振る。カルロスが慌てて部屋に入ると、運転手と警備員の死体を踏んづけてしまった。

「おい!勝手な行動はするんじゃねー!危ねぇだろ!」

あとからゾロゾロと部屋に入ってくるが、誰も死体のことは気にもとめなかった。むしろ積極的に身包みを剥いで役に立ちそうなものを物色している。

「まぁまぁ。でもセイジさん、カルロスさんの言うことはもっともですよ。何かあってからじゃ遅いんですから」
「運転手覗いたらこういうイメージが見えたんだ。結果オーライだからいいだろ」
「ったく。荷台に装備があるから取って来い」

聖司は軽く返事をするとプロテクター一式とM1L1ガトリングを取りに行った。

【侵入者を確認しました。研究員は速やかに退避してください。掃討部隊は所定の位置へ着いて直ちに殲滅してください】
「気付かれたか!」

館内放送を聞いたクリス達は準備を急いだ。

「少々予定と違うが、これより作戦を開始する!A班の俺とジル、レベッカは奥のコンピュータールームで情報収集。レオン、カルロス、クレアのB班はこの場所の確保。シェリーとセイジのC班は捕われた人たちを救出しろ。場合によっては早めにBOWが出てくるかもしれん。充分に注意しろ!!」
『了解!!』
 
 
 
 
 

 
 
 
TeamA point of view

「この端末からマップをダウンロードします。そのあとシェリーとクレアさんの端末に送信します」

警備室にあった死体を片付けてレベッカがNPC(ノートパソコン)につなげて端末を操作する。

「………………ダウンロード、転送共に完了。開いてみてください」
【問題ないわ】
【大丈夫よ】

レベッカが通信してすぐに返事が返ってきた。

「今からコンピューターを黙らせます。少しかかりますから時間を稼いでください」
「わかった」

クリスがマシンガンを、ジルがショットガンを構えて部屋を出た。

「さぁって急がなくっちゃ」

タタタ――――まるでリズムを刻むようにレベッカはキーボードを叩く。
 
 
 
 
 
 
 
 
TeamB point of view

「来たぞ!」
「弾は全部貫通……アーマーピエシング弾だ。充分引きつけてから撃て」

装備された機銃を引っぺがし、車を横転させてバリケード施した3人が構える。
大勢の足音が扉の向こうから聞え、
扉が蹴破られた。そしてその場の時が止まる。
今の構図はというと、一本道を通ってエレベータールームに入ってきた掃討部隊の目の前に横転している車の向こうで三人が銃を構えている。つまりカルロスの持っている機関銃の直線状に部隊が並んでいるのだ。

「一本道だし、貫通弾だからここからでも充分殲滅できるんだぜ♪」

そう言ってカルロスは二十ミリ機関銃を放った。弾は先頭にいた男の頭を突き抜け、隊員達は次々と倒れていった。
長い一本道だから隠れることも出来ず、前にいる仲間が邪魔で反撃も出来ないまま、最後の1人が悲鳴をあげて絶命した。

「ちょっとかわいそうだったな」

なんせ扉を開けた途端撃たれるのだ。相手にしてみればたまったモンじゃないだろう。

「こちらB班、掃討部隊第一波の撃破に成功。引き続き死守します」
 
 
 
 
 
 
 
 
TeamC point of view

「こちらC班。現在掃討部隊と交戦中。1分後に排除し次第任務を続行します」

通路に隠れてやり過ごすエルとシェリーがガスマスクを装着する。
シェリーが閃光弾と煙幕弾をエルに渡し、ピンを抜いてからすこし時間をおいて手首のスナップを利かせて部隊へと投げた。
地面に落ちる前に部隊の中心で催涙効果のある煙が分布され、強烈な音と光が攻撃の手が止ませた。

「ぐぶぇ!!」
「がはぁ!!」

エルが杭で一気に2人を貫き、シェリーが後ろから援護射撃をして前衛を掃討。
大人2人を串刺しにしたままエルは左手に持っているガトリングを放つ。銃弾の嵐を浴びて後衛部隊は全滅した。

《うん……結構使い勝手がいい》

死体から得物を抜き、勢いよく振って血を払う。
鉄板を仕込んだコートは重さも相まって銃弾の衝撃をほとんど吸収し、尚且つ頑丈。盾―――という名のプロテクター―――に杭を装着することで防御から攻撃への移りがスムーズになり、これも良い。

「こちらC班、部隊の掃討に成功。任務を続行します」

きっちり一分の出来事だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
TeamA point of view

「…………やった!!」

キーボードのEnterを押して出た結果にレベッカはガッツポーズをした。

【システムの凍結を実行します。BOW保管室、生命維持装置、ホストコンピューター、緊急脱出設備以外の施設のシステムは一時停止されます。なおホストコンピューターへのアクセスは許可されています】

通路の灯りが消え、赤い蛍光灯が代わりとなって通路を照らす。

「これで少しは時間が稼げます。急ぎましょう!」
「よし!走るぞ!」

手榴弾を投げて道を作ると三人は一気に走り抜けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
アンブレラpoint of view

「急いで!最低でも扉の開閉さえなんとかなれば時間が稼げるわ!」
「駄目です!復元パスコードが変更されて1からインストールし直さないと接続すらできません!」
「外板を外して以前使ってたシステムボードを使いなさい!コードが一度初期化されるから、そこから再接続してちょうだい!」

赤く照らされたメインコンピュータールームで若い女性と数人のスタッフが復興の指示をしていた。

「侵入者が第3区画を突破しました!BOW保管庫に向かっている敵部隊も依然進行しています!」
「たった8人に警備はなにやってんのよ!……仕方ないわ、BOWを使うわよ」
「しかし……ここからじゃあシステムが」
「電力供給を止めれば勝手に出てきてくれるわ。幸い配電盤はシステムとは無関係だから通常のパスワードでも…………」

女が配電盤の前に立ってパスワードを押すと赤のランプから緑のランプが点灯した。
そして『第六実験室』と記されている取っ手を下げた。それと同時にガクンという機械音が鳴る。

「さぁ行きなさい」

女の顔は醜く歪んでいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
TeamA point of view


レベッカの背中にしょっていた端末が警告音を鳴らした。すぐに見取り図を確認するとBOW保管庫を記している区画が赤く点滅している。

「そんな!シェリー、向こうがBOWを使う気よ!すぐにそこから離れて!!」

レベッカが通信をつなげて叫ぶ。

【こちらエ……聖司。レベッカ、BOWの種類と数はわかるか?】
「凡庸タイラントが10体、ハンター各種あわせて15体、バンダースナッチが…20!?とても2人で何とかできる数じゃありません!逃げてください!!」
【確かに多いな……でもここで逃げれば奇襲されるのがオチだ。まとまっているところを撃破したほうが結果として悪くない】
「いくらなんでも、これだけは無理です!」
【なら聞くけどな、人質を守りながらBOWと戦えっつーの?】
「そ、それは……」
【2人でも無理っつってんのに、足手まといまで増えて勝てる確率は?どっちが合理的か考えるまでもないだろうが】
「ですけど!」
【少しぐらい信用してくれてもいいだろ?】

聖司の自信に満ちた言動にレベッカが黙った。

「セイジさんはBOWの特徴を知ってますか?」
【いや、考えてみれば全然知らないなぁ】
「凡庸タイラントはネメシスと違い腕力だけですが、しっかり仕留めないと変異します。おそらく防弾コートも装備してないから楽に倒せるはずです。ハンターは俊敏な動きと鋭い爪が共通しているから気をつけて。バンダースナッチは動きも鈍く片腕しかありませんが、腕が何メートルも伸縮します。結構頑丈ですから注意してください」
【わかった。ありがとう】
「絶対、死なないで下さい!シェリーも!」
【わかってる!】

シェリーの返事が会話を終わらせ通信が切れた。

「セイジにそんなことができるのか?」
「彼なら無理ですが、彼女ならおそらく」
「それはそれで問題だな」
「ですが……有用です」
 
 
 
 
 
 
 
 
TeamC point of view

「勝手に決めちゃって。いいの?」

シェリーは聖司ではなく、背中に憑いているエルに聞いた。状況と口調から、今は聖司が表に出ていないとわかっているのだ。

《聖司は別にいいって。はいこれ護身用》

プロテクターについていた杭を背中に納め、HVナイフをシェリーに渡す。
そして西洋の剣を手に持ち、ガトリングのマガジンを新しい物に換える。

《聞いたとおり凡庸タイラントが10、ハンターがあわせて15、バンダースナッチが20がこの扉の向こうにいる。無理だと思ったらすぐどっか言って…………っつーか、本当に来るわけ?》
「邪魔にはならない自信はあるよ」

いるだけで邪魔やっちゅーに―――――それを言わないだけの優しさぐらいは、エルは持っているらしい。






鋼鉄製の扉が開かれると同時に大量のBOWが2人目掛けて襲ってきた。
最初にエルはガトリングを乱射して動きの遅いバンダースナッチを中心に殲滅していった。
時々襲ってくるハンターやバンダースナッチの腕を避けながら、その度に刃物で切り落とす。
聖司の背から離れず、以前聖司からもらったイングラムを撃つシェリー。
BOWの標的が主に聖司に向いていることから比較的楽に仕事は進んだ。
だがあまりにも量が多すぎる上、絶え間なく襲ってくるBOWから次第に2人は後退していた。
唯一の救いはカプセルから出てくるタイミングにバラツキがあることだろうか。
とうとう弾切れをおこしたガトリングが情けない音を立てて停止した。
聖司はすぐに銃を置き、剣を右手から左手に移す。素早く体勢を整え、跳んできたハンターの攻撃をプロテクターで防ぎ、鈍い切れ味の剣で首を刎ねた。

「なんだか……ナイトみたい………」

聖司の横に戻ってきた軽い切り傷だらけのシェリーが息を切らせながら笑う。
片手で大の大人ほどあるモンスターを叩き切る。それだけ彼の体が異常になっているのが見て取れた。

《タイラント7、ハンター4、バンダースナッチ2……まぁ減った方かな》
「(もうシェリーは限界じゃねぇか?)」
《30分近く全力で動けばそうなる。でもどうせ言っても聞かないよ、こういうタイプ》

そういうタイプが分かるほど生きているわけではないのに、それがわかるほどシェリーの性格は単純だということだろうか。

《まだやる?》
「当た…り前!」
《強情張り》
「なんとでも言って」
《じゃあ銃のマガジンを落とすから装填して》

エルの触手がコートの内側にあるマガジンを地面に落とした。
その音に反応して警戒していたBOWが一斉に2人に襲い掛かる。
シェリーは急いでマガジンを拾い、冷却装置が働いて湯気を出しているガトリングのマガジンと交換する。
その間聖司はシェリーを背にバンダースナッチの腕とハンターの体を切り裂く。

「エル!!」

シェリーの声に反応して聖司は得物を足元に捨て、ガトリングを受け取った。
すぐに跳んで来たハンターを撃ち落とし、次いで腕のなくなったバンダースナッチの頭を打ち抜く。

《あと10!!》

銃で牽制しながら足元の剣を触手で拾い、右手に持たせる。

《9!最後のハンターお願い!!》

掃射して最後から2匹のうち、一匹を打倒す。だが、

《!!》
「セイジさん!!!」

そのハンターの影からバンダースナッチが現れ、勢いのある一撃が聖司を壁まで殴り飛ばした。コートの表面を破いてクラン鋼合金板が露になる。
この、×××!!――――エルは外見特徴から連想した悪態をつき、引き戻されかけた腕に剣を串刺す。
腕が固定されたため逆に体を引っ張られる形になり、バンダースナッチは勢いよく聖司に突進した。
エルは右足でバンダースナッチの顔面に当てて受け止め、すぐに銃口を胸に向ける。

《死ねよ!!》

半円を描くように斉射して首の付け根と胴体を分離した。

《8!!》

首無し死体をどかし、今度はタイラントが密集している地帯にガトリングを放つ。

《7、6、5、4!!!》

似た外見をしたタイラントの集団が次々と崩れ、残り三匹になったとき、弾が切れた。

《切れるの早すぎ?》
「(使い古し落としたんじゃねぇか?)」

弾切れ程度で慌てるほどのことではなかった。エルはすぐ背中の杭を左手に持ち、残り三匹を始末するために走る。
武器が無くとも素手で――――この結果は彼女が疑うはずの無いモノと一致した。











「……どうしてこの男が…………」

ディスプレイに表示された監視カメラの映像を見て女は絶句した。
アンブレラ最高の戦力を持つBOW45体がたった二人に壊滅されている。
そのディスプレイを見ていた別の研究員も半ば放心状態で聖司を凝視している。

「システム初期化完了しました!!」
「!!、すぐに復興を開始して!開閉システムと通信ラインを最優先に」

別の端末を操作していた研究員の声に気を引き締め自分の仕事を再開する。
監視カメラでは聖司とシェリーが同時にハンターとタイラントを貫いていた。










《…………ゼロ》

聖司の後ろにいる首のないタイラントとシェリーに頭を穿たれたハンターが同時に倒れた。
流れ弾で破壊された部屋、死屍累々とした部屋の中央で一人が静かに立ち、もう一人は膝に手をのせて息を整えている。

「はぁ…はぁ…はぁ……」

息を切らせて今にもはじけそうな顔をしているシェリーに聖司が近づき、右手を顔のところまで上げた。その意図を知ったシェリーは同じように右手を挙げ跳び上がった。

「やったーーーーー!!」
「Yeahーーー!!」

2人は景気よく右手を叩き合わせた。

「って、セイジさんなにもやってないでしょ」
「エルだとこういう気の利いたことしねぇだろ」

彼女が奥に引っ込んだのだろうか、奮闘していてもどこか死んだ様だった顔にようやく笑顔が浮かんだ。

「それはそうですけど………。C班から朗報。保管庫のBOWの殲滅に成功しました!引き続き任務を続行します!!」

装備を整えている聖司の後ろでシェリーが通信を入れる。
 
 
 
 
 
 
 
 
同時刻B班

【引き続き任務を続行します!!】
「なんだって!?」

バリケードに隠れながら機銃の装填をするカルロスが問う。

「保管庫のBOWを全部片付けたって!」
「2人だけでか!?」
「なんてでたらめな奴らだ」

自分のすぐ横に穿たれる弾に見向きもしないでマグナムを撃つレオン。
バリケードにしている車はすでに穴だらけで蜂の巣そのものになっている。

「あとはA班か」

カルロスは機銃を構えて引き金を引いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
同時刻A班

「信じられません……あれだけの数を相手に」
「だが現実に起きている。気持ちはわかるがな」
「とにかく、これであっちの心配はなくなったわけね」

メインコンピュータールームの前で突撃の準備をしている三人。レベッカがカードスキャナーをイジって合図をすると、二人が銃を構えて突入した。

「動くな、警察だ!動物実験法違反及び殺人、誘拐の容疑で逮捕する!」
「全員中央に集まって両手を頭の後ろに回して。抵抗すれば射殺します!」

クリスが警察手帳を見せ、ジルがショットガンで威嚇する。
ほとんどの者は素直に従うが、命令を下していた女は気にした風もなくキーボードを打っていた。

「今すぐそこから離れなさい!」
「撃ちたければ撃ちなさい。どうせもう誰も助からないんだから」
「どういうことだ!」
「こういうことよ」

女がキーボードのEnterキーを押すと警報が鳴り始めた。

「そんな!?システムは――――」
「コンピューターほど信用できないものはない。こういう事態のために予め独立させておくのは常識よ」
「なにをした!!」

クリスが正面を向かせて銃を向ける。だが女に動揺した感じはみられない。

「自爆装置ではない、それだけは言っておくわ。あとは自分で確かめることね」

そう言って女は白衣の裏から拳銃を取り出し――――

「うぐ!」

クリスに向けようとした瞬間女の後ろにいたレベッカが後ろ首を銃で叩いて気絶させた。

「やるだけやって逃げるなんて許しませんよ。あなたはこれから罪を償わないといけないんですから」
「よくやった。なにが起きたかわかるか?」

女をジルに任せてレベッカがボードを操作すると赤い文字がディスプレイされた。

【SIVAprogram発動を承認。D・E区画を解放します。同時に迎撃システムを無期限解放します】
「シヴァプログラム?」
「始めて見る単語ですね。D・E区画というのもマップには載ってませんでしたよ」
「SIVAprogramだって!?」

後ろで女の世介抱をしていた研究員が声を荒げた。

「あんた、知ってるのか」
「あぁ。本社への報告フォルダの中にデータが入ってると思う。このカードを横のカードリーダーに入れれば直接ネットワークを繋げられるはずだ」

男は女の白衣からIDカードをはずしてレベッカに渡した。

「頼む。まだ死にたくないんだ!」

よくもそんなセリフが言えたものだ――――自分が危機に陥った途端掌を返すとは、よほどこの女は信頼されていないらしい。

「心配するな。法の裁きを受けさせてやる」

レベッカが言われた通りに操作すると、目の前の画面と上部に設置された大型ディスプレイ機に映された。





SIVAproject概要

ネメシスに使用される寄生体をあえて単独で使用する方法を用い、寄生対象を増やし破壊活動を行うように仕向ける。
従来のNEに短時間だけ単独行動を付加し、目標の背中に神経針を刺して乗っ取り、その体が保つまで破壊活動を行う。
メリットは通常の人体に寄生してもハンター並の戦力が期待され、その上大量生産が容易いこと、さらにタイラント以外にも寄生可能であること。また自己分裂が可能であることが挙げられる。
デメリットとしては敵味方の区別がつかないこと。ただし教育により改善の余地あり。
以後、このプロジェクトに使用される寄生体はNE−L型【Legion】と名づける
奴等は一つでありながら、多数であるが故に。






一緒に格納されていた映像ファイルには実験体に寄生体が体を乗っ取る瞬間が撮影されていた。
何一つ外見が変わらないにも関わらず、素手でブロックを粉々にしたり、触手を使って遠くの瓶を払ったりしていた。

「……どこかでこれと同じ様なものを身近で見たような」
「奇遇ですね。わたしもです」

ジルとレベッカが苦笑いする。

「このD・E区画っていうのは?」
「D区画に寄生体が収納されてる。E区画には実験中の人間やBOWがいたはずだ。この二つは他の区画とは離れていて、第六実験室の横にある扉から行くしかない」
「実験体に寄生させるつもりか!クレアとシェリーにデータを送れ!」
 
 
 
 
 
 
 
TeamC point of view

端末から警告音が鳴り、シェリーはすぐに確認した。同時に聖司の通信機に連絡が入る。

【こちらA班。メインコンピュータールームの占拠に成功したんだが、トラブルが発生した。詳しくはシェリーの端末で確認してくれ】
「了解。シェリー、どんな内容だ?」
「…………」

聖司は表示されているデータを覗くと絶句した。

「これ……セイジさんと……」
「…………確かに似てんな。でもそれだけだろ」
《聖司……》
「(大丈夫……大丈夫だ…………)」

似てることがどれだけ不安を煽るだろうか。いずれこのデータはSTARSを通じて関係者に送られるだろう。そのときの皆の反応は考えるだけで鳥肌ものだ。

「行きましょう。この先が留置場です」
「あぁ……」

今は考えても仕方が無い。問題を後回しにする形で、シェリーはこの話題を終わらせた。




2人は監獄を思わせるような簡素なつくりの一角の南京錠付き鉄格子の前まで辿り着いた。
かつて聖司が居たアルプスの牢獄によく似ている。

「ここですね」

シェリーは銃で錠を破壊すると警戒しながら中に入った。

「警察だ!助けに来たぞ!」

片や15歳の少女、片や非現実的な重装備で説得力の欠片もない。

「…………誰もいないのか?」

聖司は不思議に思い、テレパシーで一帯を探ったがこれといってなんの思念も感じなかった。
必ず人がいる。そういう確信に近いものをクリス達がをもっていたのにはワケがある。
タイラント、ハンター。主力BOWであるこの2つは人間を使っているのだから、当然ストックがあるはずなのだ。
今まで襲撃して得た情報の一つでもある。

「………とりあえず報告しとくか」
 
 
 
 
 
 
 
 
TeamA point of view

【こちらC班。留置場に突入したが誰もいないぞ?】
「そんなはずはない!おい、監禁された人たちはどこだ!」

クリスがさっきの男に問う。

「昨日のうちに別の場所に搬送された。理由は俺にもわからないんだ」

かなり怯えながら男は答えた。
やはりニコライに知られたのが裏目に出たということだ。それと同時に、もう一つわかったことがある。
実験用モルモットは連れて出したというのに、研究員には何も知らされていなかった。おそらく彼等は見捨てられたのかもしれない。

「くそ!セイジ、もうそこには誰もいない。B班の援護に……」
「待って。もしかしたらE区画に助けられる人がいるかも」
「あの2人に行かせるのか?」
「シェリーはともかく、セイジ以上の適任は居ないでしょ」
「……よし。セイジ、さっき送ったマップにE区画という場所があるはずだ。そこに実験中の人やBOWがいるらしい。もし救助が可能なら連れ出してくれ」
【そりゃかまわんけど……シヴァとかいうのはどうする。俺はエルが憑いてるから心配ねーけど……シェリーは】
「そうだな……シェリーは」
【わたしなら大丈夫。それに扉開ける人がいないと不便でしょ?】
「たしかに、この区画に行くにはコンソールに直接接続しないと開けれません」

レベッカが同行するよう促す。

「…………わかった。セイジ、シェリーの2名はE区画へ人命救助に向かってくれ。その後は各自の判断にまかせる。シェリーを頼んだぞ」
【C班、了解した】
 
 
 
 
 
 
 
 
TeamC point of view

シェリーがカードスキャナーに端末をつなげてパスコードを解析する。
その間に聖司は杭を背中に納め、剣を右手に持ち、銃のマガジンを交換する。

《はい交代》

有無を言わさずエルが聖司の体を乗っ取った。

「開きます」

鋼鉄製の扉が開き、長い一本道が聖司の前に現れた。何も無い一本道はいざというときの時間稼ぎだろう。本来なら逃げたBOWを捕まえるための装置があるのかもしれないが、システムが死んでいるいるため静かなものだ。
50メートルほど進むと頑丈そうな扉が見えてきた。
 
《ナイフはまだ持ってる?》
「はい…………って、もう代わったの」
《当たり前。行こう》

扉を開けて廊下の端から中を覗き見る。監視カメラと消毒用の穴が無数にあるが、今はどれも動いていなかった。
BOW用の実験室だけあって区画全体が頑丈らしい。さっきから実験途中で自由になったハンターが部屋の中で暴れまわっているが、ヒビどころかへこみもしない。
これならさっきのBOW戦より楽に終わるかもしれない――――さっさと終わらせてしまうべく、一歩エルは足を踏み入れた。

《ブホ!》

直後、頭上からLegionが降ってきた。顔面を触手で拘束して気道を押さえる。失神させて動かなくなったところを寄生するつもりらしい。

「エル!!」

急いで引き剥がそうとするシェリー。だがエルはすぐ制した。
何故ならネメシスはすぐズルリと地面へ落ちたからだ。それをエルが思いっきり踏み潰す。

「なにをしたの?」
《聖司の血を注した。抗体が入ってるから》

服の両袖と背中からそれぞれ二本ずつ、合計六本の触手が出てくる。

「そんなことが……」
《できるんだなぁ。だからあまり離れないでね》

触手がシェリーを囲むように捲きつく。

《探索か〜いし》

エルの活躍は目を見張るものがあった。エルが注入する聖司のワクチンは寄生体の体組織を破壊し、やがて死に至らしめる。
聖司がテレパスで位置を探り、そこへエルが攻撃する。まるで機械のように2人は作業していた。
シェリーの首は聖司の腕がガードしているため一切被害を受けていない。
時折シヴァとなったBOWが襲ってきたが、ガトリングで充分撃破できた。

頼もしいと思う反面、シェリーは一つわからないことがあった。
t−生命体が生きていくにはt−ウィルスが必要で、ワクチンを打たれたら死んでしまうという理屈はわかる。人間だって大腸菌がいなくなれば相応のダメージを負うのだから。
ならばなぜエルは死なないのか。同じt−生命体が死んでいるのなら彼女も死なないと理屈が合わない。
無理矢理理屈を合わせるとするならば、彼等は本当の意味で『共生』しているからではないだろうか。
聖司にワクチンを作ることによって、エル自身もワクチンへの抵抗力を高め、NE−α―――ひいてはt−生命と似て非なる種へ変貌してしまったのではないだろうか。

どちらにしろ確かなのは、エルという生物は同族に対してなんの感慨も持たない生物だというのは間違いない。
t−ウィルスが進化を促すというのなら、彼女はどんな進化を遂げたというのだろうか。



数十分にも及ぶ探索はなんの成果も齎さず、ほぼE区画の全域探索し終え、もう生きている人間はいないのかとあきらめて、最後の部屋に入った。

「ここは……」

2人の入った部屋はそれなりの広さをもっているが、設備されている機材のほとんどが破壊されていた。

《まだ壊されて間もない。誰が……》

なにかが居たであろうその部屋の四方には割れたカプセルが陳列している。妙に細い円柱状のカプセルは異様に小さく、精々赤ん坊が入る程度の大きさしかない。

「エル、あれ!」

シェリーの指差す先を見ると、ぼろぼろの服を着て肩まで伸びた髪に欧米人独特の白い肌を持った十代前半の少女が立っていた。
首に蠢く寄生体をつけて。
エルはようやく理解した。この部屋は同族を育てる苗床だったのだ。
だとすれば目の前に居るのは自分と同類。

《でも》

シヴァとなった少女はゆっくりこちらを向く。何も映していない目は聖司が同族である証をしっかり見ているはずだった。しかし少女は何の反応も見せず、二人目掛けて襲い掛かってきた。
突進してきたシヴァを左右に分かれて避け、聖司はシェリーとリンクした。

「(クリス達と連絡してこの状態からでも何とかできないか探ってくれ!頭は繋げておく)」
(わかりました!)

シェリーは通信機と端末を持って部屋の隅に移動した。エルは積極的にシヴァへ接近する。
しかし攻撃は一切行わず、プロテクターでガードし続けた。
細い腕ながら、コンクリートぐらい一撃と豪語した己の言葉を証明するかのごとく重たい拳を打ち続ける同族に、やはりエルにはなんの感慨も浮かばなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
TeamA point of view

【こちらシェリー。現在セイジさんがLegionに寄生された少女と交戦してます。どうにか救助する方法ないでしょうか!】
「どうなんだ!?」
「…………その女性の外見特徴を教えてもらえないか?」
【えっと……銀色のストレートヘアが腰あたりまで伸びてて、白人です】
「その子か……。残念だがLegionを排除できたとしても意味は無い」
「どうして!」
「そこのフォルダに詳細が書いてる」
レベッカは男の研究員の言ったフォルダを開いた。画面に少女が施された実験内容の詳細が映し出される。
「…………これは」
【どうしたの?】
「その女の子に施された処理なんだが……脳を取って植物状態にされているらしい」
【どうしてそんなことを!?】
「新型は寄生した生物の脳に影響して自身を変え、人間なら人間の、犬なら犬の脳をトレースして操る。その子は最初から、脳が無い状態で寄生されたときの反応を見るために使われたんだ」
【……ひどい…………】

あきらかに落ち込んだ声でシェリーが呟いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
TeamC point of view

「(セイジさん)」
「(どうだった?)」
「(ネメシスを摘出することが出来ても、その人は生きていけないんです)」

シェリーはかいつまんで概要を説明した。

「(ヒデェ……)」

一歩間違えれば自分もそうなっていたと思うと、尚更嫌悪感が増す。

《どうしたの?》
「(その子はもう助からないらしい)」
《あ、そう。じゃあちょっと試したいことが有るから、やっていい?》

エルの態度は素っ気無いものだった。その理由がわかる聖司はあえてなにも言わなかった。

「(なにをするんだ?)」
《………………》
「(命に関わらないのならいいぞ)」
《は〜い。じゃぁソレの動きを止めたら体返すから、準備しててね》

エルは言ったとおりシヴァを羽交い絞めにして動きを止めた。
その瞬間聖司が表に出る。力が抜けて解けそうになった腕にもう一度力を込めてシヴァを拘束する。
すると、ズルリとエルが半分に裂け、シヴァに飛び移った。

「(おい!なにを!?)」

首の後ろに残っているエルにリンクしたが返事はなかった。
聖司が慌てている間に少女に乗り移ったエルが同属を排除し、代わりにエルが寄生した。
少女が抵抗しなくなったのを確認した聖司が戒めを解くと、少女がその場に座り込む。

「おいコラ!」

聖司が正面に回り、肩を揺らすと少女はゆっくり顔をあげて微笑んだ。
「お前……L型だったのか」
「うん。試験段階だったけどね」

肩を強く握る彼の手に、そっと手を添えた。

「セイジさん。どうしたんですか?」

遠くから見ていたシェリーが変わった空気に怖気つつ二人に近づいた。

「エルがコイツに憑きやがった」
「え?でも……」

エルは未だに聖司の首から離れていない。シェリーがその意味に気づいたとき、聖司はようやく答えを呟いた。

「新型だったんだ」
「……うそ……」








「つまり、セイジさんからその体に乗り換えただけなんですね?」

ようやく落ち着いた2人がエルに説明を求める。

「聖司に着けてるのは手だけ。数はそれ以上増えないけど、ちゃんと動いてるから、無理矢理取らないでね」

そう言われて聖司は2本しか残ってない触手を操る。次いでプロテクターと剣を持っている右手を上下に振る。

「たしかに……。脳障害もなさそうでなによりだ」
「だってまだ着いてるもん」

そう言って聖司の腕に抱きつくエル。
その言葉で聖司は別の意味で焦った。エルが離れるのは別にかまわないが、一部が残るとは思わなかったのだ。これでは憑いていてくれたほうがまだ都合が良かったかもしれない。
分裂してまで彼に憑いていなければならない理由があったのだろうか。もし無いのだとしたら、彼女はどんな理由で聖司から離れたというのか。
なんにせよ、目的が果たせなくも任務は終了した。中枢を押さえたことでアンブレラ側の抵抗もなくなり、作戦も概ね成功したと言えるだろう。

「指示も無いし、一旦合流しましょう」

鶴の一声に反対する言葉は出なかった。











「C班ただいま到着しました!」

入ってきたシェリー達を見て、クリス達は聖司の腕に抱きついている女の子に目を向けた。

「セイジさん、その子は?名前は?」

なにか面白そうなものを見る目でレベッカが問う。

「エルだよ、エル」
「エルちゃんですか、ふ〜ん……ってぇえ!?」

一度パソコンに顔を戻したレベッカが今度は驚愕してエルを見た。

「ホントに……エルちゃんなの?」
「うん」
「『冬のヒナタ』第3話で主人公がヒロインに嫌われた理由は?」
「スパゲティで犬食いしたから」
「ホントにエルちゃんなんだ……」

もう少しマシな確認の仕方は無かったものか。

「どういうことだセイジ」
「いや、実は……」

聖司はかいつまんで説明した。引き締まっているクリスの表情が徐々に呆れたものへ変わっていく。

「……本当にでたらめだな、お前達は」
「俺を含めないでくれ」
「あなたが元凶でしょ……」

苦笑いしているクリスの横でジルが人生に疲れた様な顔を手で覆った。これで悩みの種がもう一つ増えたのだから。

「そんで、これからどうするんだ?」

「今レベッカがデータを複製している。それが終われば本隊に連絡してここの研究員を渡せば俺たちの任務は終わりだ」

「ふ〜ん」

聖司がチラッと研究員達を見ると一人、見たことのある人物を見つけた。

「あの女……」
「知っているの?」
「…………」
「セイジ?」

ジルの問いに答えず、聖司はゆっくり女に近づいた。右手が震えるほど強く握って。

「よぉ、久しぶりじゃねぇか」
「…………」

女は答えない。意図的に無視しているように見えた態度が気に入らず、聖司は女の襟を掴んで頭上に持ち上げた。

「ぐっ!」
「あの時殺しときゃあよかったな!こんな馬鹿げた事を続けるのなら!」
「ちょっと、なにしてるの!?」
「セイジさん、落ち着いてください!」

持ち上げた女に銃を撃とうとしたがジルとシェリーの説得でなんとかその場は収まった。聖司が落ち着いたのを確認するとシェリーがジルに話し掛ける。

「いったい誰なの?その人」
「ここの研究主任でシヴァプロジェクトの発案者みたいよ。セイジ、この女を知ってるの?」

聖司はジルの質問に答えずうつむいたまま。そこへエルが心配そうに寄り添ってくると、大丈夫だと言わんばかりに頭をなでる。

「アルプスの研究所から脱出するときにアンブレラのことを聞いたんだ。まさかここにいるとは思わなかった」
「フンッ。わたしだってあんたが生きてるとは思わなかったわ」
「シヴァプロジェクトはあんたが作ったらしいが、いったい何考えてんだ。街中で化け物をばら撒くつもりだったのか?」
「低コストで絶大な威力。この手の兵器はテロリストやゲリラに高く売れるらしいわ」
「それは無いだろ。こんな高いモノ買えるようなゲリラがいるはずがない」
「どうかしら。ゲリラが買った事にして別の誰かが手に入れる―――なんてよくある話よ」

アンブレラに対抗する組織か企業か、それとも国か。元になるウィルスと共に現物が手に入ればコピーは時間の問題だ。
もちろん実験中である以上、ロールアウトはまだ先の話になるだろうが。

「テメェはアルプスで、いつか医学に応用できるとかっつったよなぁ!?こんなんどうやったら医学で使えるのか言ってみろよ!」
「あなた結核は知ってるわよね!黄熱病は?ガンは?今でこそ治療できるけどその治療法を見つけるのに人体実験をしなかったと思うの!?」
「なにを勘違いしてんだよ!人を化け物にする実験が治療法と何の関係があんだ!」
「今のt-ウィルスの使い方はほんの一例に過ぎない。実際各地の研究所で良質の特効薬が開発された例もある!大を救うために小を犠牲にして何が悪いっていうわけ!?」
「そういうセリフは、テメェがその小になってから言え!!」

あーだこーだと聖司と女が言い争う横でレベッカがデータのコピーを終えた。

「作業完了しました。本隊を呼んでください」
「わかった。……そこ、いつまでやってないで撤収の準備を急げ」

クリスの見る先には今にも掴みかかろうとしている聖司をシェリーとエルが抑え、受けてたとうとしている主任を抑える研究員たちが居た。












「なんか……良いとこ取りされた気分だよなぁ」

ぼろぼろになった四駆に座って頬杖をついている聖司が特殊部隊の隊長になにか報告しているクリスとジルを見てそうぼやいた。
その後ろではエレベーターを使って装甲車が運び込まれている最中。

「気分、じゃなくて正にその通りよ」
「まだBOW用の武器が配備されてませんから。特殊部隊といってもそう簡単に重装備が出来るわけじゃありま――――痛!!もうちょっと優しくしてよ」
「自業自得でしょ!こんな傷だらけになるまで戦ってたなんて信じられない!」
「全部かすり傷よ」
「シェリー、医学上四針も縫う切り傷はかすり傷とは言わないわ」

右には包帯を巻いているクレア。左には切り傷を縫っているレベッカをはべらせて治療を受けているシェリー。

「あ〜ん、これじゃ見せ物よ〜」
「だったらこれから無茶は控えるんだな」
「カルロスのイジワル!」
「はははは」

動こうにも動けないシェリーにここぞとばかりにちょっかいを出すカルロス。





「隊長!このトレーラーはどうします!?」

地下駐車場のような運搬エレベーター室の端に駐車してあった巨大トラックを見つけて隊員が叫んだ。聖司が飛び乗ったキャタピラ付のトラックだ。

「なにか証拠になるようなものが入ってるかもしれん。カーゴの中を調べろ!」
「了解!おい、手伝ってくれ!」

近くにいた仲間を呼んで扉を溶接し始める。

「おい……今何か聞えなかったか?」
「気のせいだ」

仲間の呟きを気にも留めず、男は最後の鍵を溶接した。

「開けるから警戒してくれ」
「わかった」

溶接した男が片方の取っ手を持って開ける。ギィ〜という音を立てて完全に開ききるともう一人が銃を構えて暗いカーゴの中を覗く。瞬間、

「ギ!!!」

意味不明の叫びを残してその男の首が跳んだ。

「び…BOWだーーーーー!!!!」

そのBOWは開放されてないもう片方の扉をこじ開けるとゆっくりその姿をさらけ出した。
悲鳴を聞いてSTARSメンバーが駆けつけ、少し遅れて別の部隊も到着する。
シェリーだけは傷を縫うために使った麻酔のせいで体がまともに動かないので装甲車へ避難を余儀なくされた。

「退け!こいつは俺たちの管轄だ!」

クリスが隊員の襟を掴んで後ろに引く。
隊員は聖司達の合間を縫って一目散に逃げた。モンスターを初めて見れば当然の反応だった。
一足先に集まったクリス達は、たった今死んだ隊員の体を食べているBOWに銃を向ける。
赤黒い全身に鋭い棘の生えた甲羅。反り返った尻尾の先にあるカジキの角のような針。
顔には大量の複眼、横腹に生えた十対の足に血が付いた鈍く光るハサミが死体を口があるのだろう2メートル近くある体の下へ運んでいる。

サソリを模したBOWは死体を半分まで食べると、ゆっくり次の得物を定めた。

「新型だ、注意しろ。撃て!!」

総勢三十人のマシンガンやマグナム、ショットガンがサソリの化け物に放たれる。
だがほとんどの弾が火花を散らしてはじき返されている。

「くそ!どんだけ硬ぇんだよ!!」

貫通弾でさえわずかにへこませることしか出来ない事実にカルロスが舌打ちをした。
雪崩のように襲ってくる銃弾を物ともせず、『Steely』は端の方でガトリングを撃っていた聖司へ向かって突進した。その際体から突き出した鋏で何人か串刺しにされる。

「マジかよ!」

聖司はガトリングでは効果がないと判断し、素早く銃を手放して背負っている剣と盾を交差するよう構え、突進を止めようとした。

「尻尾!!」

エルの声に反応して、反射的に横に飛び退いた。すると聖司の顔があった場所を毒液が通過した。

「××××してんじゃねぇ!!!」

また見た目から連想した悪態をついて剣を振り下ろすが、ガキンという金属独特の音を立ててわずかに表面が欠けただけだった。逆に剣の刃毀れの方が著しい。

「セイジの怪力で無理なのか!?」
「なにか強力な武器は!!」
「車に対戦車ライフルがあったはずだ!」

レオンのマグナムを弾くSteelyを見てクリスが部隊長に催促する。鈍器という破砕に優れた聖司の一撃まで効かないのであれば、それ以上のブツが無ければ倒せない。
返答を聞いたカルロスが急いで取りに行き、マガジンを装填して人の背丈ほどある銃の砲身を獲物へ向ける。

「奴を離してくれ!」

両腕のハサミ、尻尾の毒針とそれから発射される毒液をなんとか避ける聖司が邪魔でライフルが撃てないでいた。他のメンバー達が銃を撃って威嚇しても、Steelyはそれらを無視して聖司のみを襲っている。

「なんでセイジさんばっかり!?」
「邪魔だ!下がってろ!」

避難していたシェリーが装甲車から体を乗り出しているのを、車体を背もたれにして銃を構えるカルロスが照準を外さず叱る。

「…………セイジさんの背中になにかついてない?」
「ああ、あいつの装備か何かじゃないのか?」
「さっきまでなかった!セイジさん、背中になにかついてます!!!」
「ど、どこ!?」

急いで背中に手を当てるが、逃げながらという状態で分厚いコートが嵩張って満足に探せない。
見かねたエルが、素早く駆け寄って彼の背中からドミノ板ほどの黒い物体を外し、あさっての方向に投げる。
途端Steelyは聖司を無視して同じ方向に向かった。

「よっしゃ!喰らいやがれ!!」

カルロスのライフルが爆音を挙げて弾丸を吐き出した。
強烈な反動で銃身を反らせ、もう一度銃を構える。
弾が当たったSteelyは転げまわりながら吹き飛ぶが、目立った外傷は見受けられなかった。
せいぜい拳ほどの凹みが出来ただけ。

「なんて固さだ……おい!もう他に無いのか!?」
「無茶言わないでくれ。対戦車ライフルが効かない生物がいるなんて想像できるか」
「まずいわね。今この場に有効な攻撃手段が無いとなると……」

突然の衝撃で気絶しているのだろうか。ピクピクと痙攣をしているSteelyに警戒しながら打開策を練るクリス達。その内容には物的証拠として持ち帰ることも含まれていた。
その少し離れた所では腕に火傷を負った聖司を治療するレベッカとエルが心配そうに傍らについている。

「あの毒液、強酸だったんですね」
「合金溶かすってどんだけ―――超痛ぇ!」
「ちょうど筋肉のところで止まってますね。新しい皮膚ができるまで可能な限り―――――いでください」

レベッカの声とカルロスが放ったライフルの音が重なり、三人はSteelyへ顔を向けた。
銃弾を受けて再度転がりながら吹き飛んだが、同じような凹みがもう一つ出来ただけでダメージには至っていないようだ。

「みんな、作戦を練るから集まってくれ。カルロスは通信機で参加しろ」

ばらばらに散らばっていたSTARSがクリスの側に寄る。

「あたしは?」
「寝てろ」

カルロスから簡潔に答えられシェリーすごすごと装甲車の中に戻っていった。

「このままじゃ埒があかない。なにか提案はないか?」
「装甲車に繋げてサハラ砂漠縦断の旅」
「干乾びさせるつもりか?何週間掛かると思ってるんだ」
「装甲車で体当たり」
「悪くないけど、充分な加速ができるほどここは広くないわね」
「…………ねぇ、さっきコンピュータールームで迎撃システムがどうのって書いてなかった?」
「そういえばそんなことが……。調べてみます」

ジルの進言を聞いたレベッカがパソコンで調べ始める。その横では自分の提案が通らなかったことにいじけて地面にのの字を書く聖司と慰めるエルの姿があった。

「これ……この施設の武器庫ですね。対BOW用の武器が保管されてるみたいです」
「決まりね」
「ああ」

横から画面を覗いていたレオンとジルが顔を見合わせて頷く。

「よし。セイジと俺、レベッカはここで待機、他は武器庫に向かってくれ。カルロスはそのまま足止めだ」
「隊長、怪我人を先に上へ避難させてはいかがでしょう」

レオン達が武器を取りに行っている間、暇を持て余していた隊員が進言する。

「うむ。君のところの嬢ちゃんも出すか?」
「ええ、お願いします」

進言してきた部下が指示して怪我人が装甲車に運び込まれる。

「あんな子供を戦場に出すとは」

怪我をしているシェリーを見て、男はクリスに皮肉を言った。お前の部隊はこの程度なのかと、おそらく当然のことを考えていることだろう。

「本人が望んだことです。それに作戦上どうしても連れて行かざるをえませんでした」
「それでも子供だろう。本来守るべきのな」
「隊の中で彼女と並ぶ技術を持っている者がいないのが現状です。人手不足は否めませんが」
「いつか取り返しがつかなくなるぞ?」
「今日、あの子は生き残りました」

シェリーに顔を向けると、外へ行くことを必死に抵抗している最中だった。動けないくせに最後までいる―――と。

「それで十分でしょう」

直に説得するため、クリスは男に背を向けた。
面白くない――――そう思ったのだろう。男はザラつく口からツバを吐き捨てた。

「この程度ならウチだけで制圧できたんじゃないか?」
「最後までいる!」
「無茶を言うな。まともに動けない奴が戦場に出れば必ず足手纏いになる。お前は皆を危険な目にあわせたいのか?」

クリスの冷たい言葉がシェリーの喧騒を一気に静めた。

「わがまま言ってんな」
「セイジさん……」

全身に麻酔が回り、担架で運ばれているシェリーの側に聖司が立つ。

「……外に出てもしばらくはその場に待機するだろう。アレは繋げておくから寂しくなったら話し掛けてこい」

聖司の心遣いにシェリーは微笑んで頷いた。

「そろそろ下がってくれ」

怪我人を乗せた装甲車に運ばれるシェリーと手を振って別れ、エレベーターはゆっくり地上へ上がっていった。








「あ〜あ。つまんないな〜……」

聖司はああ言ったが戦闘中に邪魔になるようなことは出来ない。皆のためを思うなら、結局何もしないほうがいいのだ。
備え付けのイスに座って溜息をつく。周りは同じようにイスに座って頭を垂れる隊員で埋め尽くされていた。
よほど疲れたのか、眠っているのだろう。誰も話そうとしない。静かなものだ。

「……………………?」

そんな隊員達を見ていたシェリーがある疑問に気付く。いくら怪我をして疲れているからといって現役特殊部隊の隊員が作戦行動中に寝るなんてあるだろうか。
更に言えば、寝息をたてない人間などいるだろうか。答えは否。
シェリーは恐る恐る隣りの隊員を起こすように強く肩を揺らした。

「ヒッ!」

イスから転げ落ちた隊員の目は焦点が外れ、小指分の穴が穿たれていた。

「察しがいいな」

死体しかいないと思った矢先、座っていた隊員の1人が立ち上がる。
パッと見れば他の隊員と変わらないが、腰に挿したハンドガンの銃口にはサイレンサーがついており、正規の隊員でないことが伺える。

「『DEVIL』を手に入れるためとはいえ、生かして連れて来いとは妙な話だと思わんか?」

しゃべりながらヘルメットを取ると、冷めた目をした中年男性の顔があらわれた。

「アンブレラ……」

男は答えず、わずかに口の端を持ち上げただけ。
シェリーの中に、また一人になるという焦燥概念が沸きあがった。







「(助けて!!)」

約束通り、テレパシーが届くうちは繋げていた聖司の頭に、突然シェリーから強いイメージが送られてきた。
慌てて上を見上げるものの、エレベーターはもう触手が届かない位置にまで上がっている。歯軋りをひとつして、彼はすぐにエルとリンクした。テレパシーは聖司の言いたいこと、やりたいことを明確に伝え、2人は同時に走る。
エルがエレベーターの少し前でしゃがんでレシーブの構えをとり、聖司がエルの手に足を掛け踏ん張るのと同時に、
エルもその怪力で聖司を上空に飛ばした。

「セイジさん!いったいどうしたんですか!」
「シェリーが危ないって」
「どういうこと!?」
「さっぱり」

エルは昇っていくエレベーターをじっと見つめていた。







「顔をあわせるのは初めてだな。ニコライ……」
「貴様……俺の名を。いや、そもそもどうやってここまで来た」

シェリーを人質にとり、銃を構えるニコライが叫ぶ。

「まさかあの爆発で生きてるとは思わなかったよ。あの妙な板を付けたのもテメェだな?さぁ、シェリーを放せ」
「動くな。この小娘の命が惜しかったらな」

シェリーのこめかみに銃を突きつけられ、聖司はその場から動けなくなる。

「それでいい。では改めて質問に答えてもらおう。貴様は何者だ」
「…………」

拳銃の撃鉄が引かれる。

「嵩塚聖司、日本出身だ」
「今後はもっとスムーズに答えろ。では次に――――」

聖司への尋問が続く中、シェリーは小刻みに体を震わせていた。
ニコライは恐怖で怯えているのだろうと気にしないでいるが、シェリーはまったく逆のことで震えていた。

「(悔しい!)」

図らずともクリスの言っていたことが現実になり、何も出来ない自分が目の前の人を苦しめていることに、今までに無い怒りを自分に宛てていた。
あまりの情けなさにシェリーは頭を垂れる。だが服の内ポケットに納められているものを見たとき、シェリーは顔をあげて聖司を見た。
律儀にニコライの質問を答える姿は、まるでなにもできないことを語っている。

「(どうして……テレパシーで相談ぐらい………)」

不思議に思った。声を出さずに会話できる力はこういうときに活用するべきではないか。
どうして律儀に答える必要がある。

「………………。……ぁ?」

シェリーは考えた。なぜ、どうして。出会ってから今までの聖司を分析して、ようやく答えにたどり着いた。

『彼はまともに戦ったことがない』

いつもエルに助けてもらっていた。この初陣でも、さっきまでそうだったのだ。
戦場の殺伐とした空気、敵と対峙する恐怖。様々な要素が絡み合って彼の思考を妨げている。
今、この場所で、なにがベストなのか。おそらくシェリーを殺させないことを第一に考えていることだろう。

「(違う!)」

そんな考えではダメだ。敵の言いなりになることは決してプラスにならない。

「(私がやらなきゃ!)」

さっき仲間の足手まといになることを悔やんだシェリーが、聖司1人に対して悔やんだ。
STARSに入隊して数週間、そんな素人をこんな戦場に連れてきたことが、今のシェリーにとってなにより悔やむことだった。
幸い両手は戒められておらず、ある程度動く。
シェリーは決意を込めた瞳で聖司を見返すとすぐに行動を起こした。

「ぐあ!!」

ニコライの横腹にHVナイフが突き刺され、一瞬だけシェリーから銃口が外れた。

「!?ふ、伏せろ!!」

麻酔のせいもあってシェリーはそのまま倒れる。聖司は左袖から触手を放ちニコライから銃を奪った。

「ネメシスだと……?」

銃を奪われ刺さったナイフを代わりに構えるが、聖司はその問いに答えず銃を向け後ろに退けとジェスチャーする。
指示に従うニコライに警戒しながらシェリーに近づき、肩を貸して立ち上がらせた。

「すげぇな…あんな状況でああいうことするかよ」
「えぇ………言いなりなんて悔しいだけですから」

これで少しは心が晴れた。少しだけ楽になったシェリーは、悪いと思いつつも全体重を聖司に預ける。彼ならたいした重さにならないはずだ。

「そろそろ地上か……」

日の光が強くなったのを察して呟いた聖司に対し、ニコライは口の端を持ち上げた。それを見た聖司は疑問を感じる。
地上には特殊部隊の居残り組みが待機しているはず。現にここの研究員達を先に連れ出したのを見ている。ニコライにとってもっとも不都合なことではないのか……。
聞いても時間の無駄と判断した聖司はニコライにリンクする。予想が当たらないことを信じて。
だが流れてくるイメージは聖司の予想通りの結果だった。

「シェリー!出るぞ!!」
「させん!」

シェリーを抱き上げて外に出ようとする聖司を止めるためナイフを投げる。
飛んできたナイフをコートで受け止め、銃を撃とうとした……が、なにを思ったのか、聖司は銃を手放すとシェリーの懐に残っている煙幕弾のピンを抜いてニコライへ投げた。
勢いよく噴出される煙に紛れて車の外に出た。もう出口が近いのに、地上ン十メートルもある高さを、彼は躊躇なく飛び降りた。








あらかじめ持っていたガスマスクを装着して、ニコライは散乱する死体の上に落ちている自分の銃を手にとった。

「セイジ・カサヅカ……。ただネメシスじゃないのか…………」

銃から取り出されたマガジンに、弾は一つも残ってはいなかった。
なぜ銃に弾がないことを知っていたのか。寄生体を有していながらなぜ自我を保てるのか。なぜ自分の作戦が知られたのか。
多くの疑問が浮かぶが、ニコライはそれを無視して懐から携帯電話を取り出し、でたらめな番号を押して発信した。

「これで死んでくれればいいんだが……」

地上に着いたエレベーターから降りてニコライを待っていたのは、壊滅された特殊部隊と複数の弾痕を体に刻んでいるタイラントの集団と、ソレを運搬してきたヘリだった。その数およそ5。手にもっていた携帯電話を捨て、自分を待っているヘリに乗り込む。

「研究員共は全員連れて行った。そっちの首尾は?」

ニコライはタクティカルベストを脱いで小型ビデオカメラを取り出す。中はSTARSとSteelyが戦うシーンが納められている。当然聖司との会話や、彼の体のことまで。

「今更こんなデータが必要なのか?」
「上の考えることなんか知らんさ」

ヘリがその場を離れると、集まっていたタイラントが一斉に爆発してエレベーターが破壊された。










「セイジさーん!落ちてるーー!」
「しっかり掴まってろ!!」
「はいー!!」

シェリーを抱えたまま聖司は
『ドスン!』という音を立てて着地した。同時に
こんな音も鳴った。

「うあ!!」

完全に衝撃を受け切れなかった聖司はとっさの判断でシェリーを放り出す。
横に投げ捨てられたことで勢いは消え、彼女はしりもちをつくだけで済んだ。代わりに聖司は足の骨を折り、体を地面に打つ形で倒れた。体の筋肉は強化されていても骨の強度まではどうにもならなかったようだ。
声にならない悲鳴をあげて聖司は左足を押さえて蹲る。

「聖司!!」
「触っちゃ駄目!あの高さから着地すれば折れるに決まってる」

折れている足に触ろうとしたエルを止め、レベッカは辺りに落ちてあったマガジンを当て板にして応急処置を施す。両足が折れなかったのが唯一の救いだった。
「シェリー、何があった」

放り出されたシェリーを抱き起こしてクリスが尋ねる。

「ニコライって奴が部隊に潜り込んでたの。怪我人はみんなあいつに……」
「あのクソヤロウ!やっぱり生きてたのか!」

聞き耳を立てていたカルロスは悪態をつき、エレベーターを見上げる。すでに地上へ到達して、今から追っても間に合わないだろう。

「それで?」
「セイジさんがリンクしてくれるって言ってたから助けてって叫んだの。わたしは人質にされたんだけど、なんとかなって。でもセイジさん、何故か地上に出ないで飛び降りるって」
「上の部隊は……多分全滅してる……」
「それはどういうこと―――」

聖司の発言に部隊の隊長が掴みかかろうと詰め寄った。そのとき、

【外部より自爆プログラム起動コードが入力されました。職員は30分以内に脱出してださい】

というアナウンスと一緒に警報音が研究所全域に響き渡る。

「またこのパターンかよ」

それはここにいるSTARS全員の気持ちを代弁していた。

「隊長、早く撤退を!」
「あぁああわてるな。地上へのエレベーターはこの部屋に―――」

自分が慌てていることにも気付かず、近くにあったコントロールパネルを押そうとした。
だが隊長が下降ボタンを押す前に地上で爆発が起こりエレベーターの支柱が折れ曲がった。何度もボタンを押すが一向に降りてこない。

「そ、そんな!」
「すぐ別の出口を探せ!」

明確な脱出手段を失いパニックに陥る部隊員たち。そんな喧騒の中、STARSの隊員だけは冷静に対処方法を思案している。

【今のアナウンスは何!?】

トランシーバーからジルの声が出る。自分の名を告げないほど慌てていた。

「聞いての通りだ。急いで戻ってくれ!」
【了解!】

戻ってきたところで脱出できるかどうか。どうせならメインコンピューターで脱出路を探すべきかもしれない。

「クリスさん」

改めてジルに指示を出そうとすると、レベッカが呼び止めた。

「広い通路がアレの向こうにあります」

指したところには、大きな搬入口らしき扉がある。カルロスとシェリーの推理は正しかったようだ。
だが開けるために必要なボタンがどこにも見当たらない。カードリーダーが横についているが誰もカードキーをもっていない。

「どうだ?」
「……できます。少し時間を下さい」

カードリーダーに磁気カードを挿しこみパソコンを操り始める。無駄な労力にならないでくれ――――いまだ慌てているだけの現地部隊を一瞥して、クリスは何かもわからないモノに祈った。



その少し離れたところでカルロスが最後の弾をSteelyに放った。

「こんだけやれば……」

空になったライフルを捨てて横転しているSteelyを観察する。
体中凹みだらけ、右のハサミも半欠けで10対あった小さな足も何本か吹き飛ばされている。だが尻尾や足がピクピクと動きだし、やがて体を起こそうとブンブンと振り回し始めた。

「くそ!」

カルロスはアサルトライフルを肩に掛けて搬入口へ駆けた。対戦車ライフルがなくなった以上、頼りになるのは聖司の怪力だけなのだが、

「アイツ大丈夫か?」
「左足が完全に折れてるらしい。これ以上は無理だ」
「これで丸腰同然か……。ジル、急いでくれ」
 
 
 
 
 
 
 
 
少し前、ジル班。


「なにこれ、すごい数」

パソコンで道案内していたクレアが武器庫に入ってそう呟いた。
ショットガンやグレネードは当たり前。非力な研究員でも使えるように固定器に付けられた対戦車ライフルやら連続発射を可能にしたマシンロケット。二層に分かれている2連ガトリングなんて有った日にはあきれるしかない。

【外部より自爆プログラム起動コードが入力されました。職員は30分以内に脱出してください】

ちょうど物色している最中に例のアナウンスとサイレンが鳴った。

「今のアナウンスは何!!」
【聞いての通りだ。急いで戻ってくれ!】
「了解!」
「なんだって?」
「急げって」
「言われなくても……」

率先して手近にあったカートに重器を放り込んでいたクレアが奥で布を被っている一際大きい何かを見つけた。ゆっくり布を剥ぎ取ると、小さな砲台が目に入る。

「小型戦車?にしては口径が小さすぎる」

布を全て剥いで全体を見る。ジルは方針の部分に何かが書かれているのを見つけた。

「なにかしら…………『RaiJin』?EML……って、ひょっとしてこれレールガン!?」

ラクーンシティで使ったような配線だらけの大型ではなく、底に車輪のついた移動可能の小型(といっても大型バイクぐらいある)レールガンがそこにあった。

「これで起動できるのか?」

横から興味深そうに覗いていたレオンがコンソールをあたり始める。

【システム起動………異常なし…各種動作確認……………異常なし…電力チェック……Error、速やかにバッテリー交換してください】

備え付けられているスピーカーから流れる指示に従って棚から出した巨大バッテリーを取り付ける。

【充分な電力が確保出来ました。『雷神』発射可能です】

ウゥ〜ンという機械音を発しながら脈動する。同時に車輪部からモーター音が聞えてくる。どうやら移動しやすく出来てるらしい。

「それだったら確実だわ。先にそれを持って行って」
「わかった」

もう一つ残っていたバッテリーを背中に担いでレオンが雷神を操作して部屋を出て行く。
残った二人も大量の武器弾薬を2台のカートに積んでエレベータールームへ急いだ。










聖司の背中に付いていた発信機を破壊したSteelyが、搬入口に集まっているクリス達の方を向いた。

「さぁてどうする?」
「あの足ならそんなに速く動けないはずだ。左右に逃げて撹乱させる」
「どっちに向かうかは運次第………だ!」

2人とSteelyが同時に駆ける。だがSteelyの方は最初の時のように俊敏な動きでなく、2人とたいして変わらない速度で二人へ向かう。
やや距離が縮まり始めて、クリスとカルロスは左右に分かれた。Steelyはその場に止まりキョロキョロと挙動する。

「おらおらこっちだ化け物!」

お互い銃の直線上に入らないように動きながら銃を撃つ。一切ダメージは与えていないが気を引くには十分効果がある。そんな防戦が数分続いた。

「武器を持って来た!!!」

いくらか疲れたレオンが急いでSteelyに照準を合わせ始めた。

「レオンの所へ行くぞ!」
「あいよぉ!」

2人が一斉にレオンの方へ走るとSteelyもついてくる。レオンは2人が自分の後ろに隠れたのを確認する。

「撃て!」

クリスの指示でスタンバイしている雷神を放った。
その名に恥じぬ雷鳴のような発射音をたててパチンコ玉サイズの弾がSteelyの甲羅を粉々に打ち砕き後方へ吹き飛ばす。

「よっしゃ!!」
「喜ぶな。見ろ」

腕を上げて叫ぶカルロスをレオンが釘を指す。言われたとおりSteelyを見てみると、甲羅が破壊されたのは命中したと思われる左腕のみで体はひびが入っただけ。

「調整されただけあって頑丈だ」

もう一発撃とうとレオンが発射ボタンを押した。だが雷神は動かなかった。

【過度の温度上昇により強制冷却に入ります。次弾発射可能まで二十秒です】
「一発で休むなこの根性無し!!」
「作った人間の性格がうかがえるな」

Steelyは起き上がるとクリス達ではなく別方向にいるレベッカたちの方を向いた。距離としては確かにそっちの方が近い。

「う、撃て!撃てー!!」
「うわーー!来るなーーー!!」

恐怖に駆られた部隊員たちが銃を乱射する。一切ダメージを与えない攻撃に反応してSteelyが搬入口から少しはなれたところに集まっている特殊部隊に迫る。

「なにやってんだ馬鹿!!逃げろ!!」

カルロスが叫ぶがその声は銃声に消される。進行を止めない相手に対し、尚も彼らは銃を撃ち続けた。
もうすぐ衝突する。STARSの誰もがそう思った瞬間、突然Steelyが動きを止めた。

「さっさと逃げろ!!」

集団から離れたところに避難していた聖司が叫ぶ。
その尻尾には六本のヒルのような触手が絡められている。わざわざ使えない足をエルが補う形で支えてまで彼等を助けた。
だが隊員達は聖司の叫びを聞き入れず、なおも銃を乱射し続けた。

「チッ…」
「ぬぁ!!」

Steelyを抑えていた2人の触手に流れ弾が当たり、戒めが解けた。Steelyは再度進行を開始する。

「ぎゃーー!!」

ある者は強酸の体液を掛けられ上半身の全てを溶かし、ある者は体当たりの際突き出されていた鋏で串刺しになった。

【冷却完了。『雷神』発射可能です】

ようやく20秒が経ち、レオンは弾を装填して狙いを定める。モンスターの周りにはもう誰もいない。仲間の死体をおとりにして避難していた。

「これで最後だ」

レオンは死体を貪っているSteelyへ雷神を放つ。
亜音速で放たれた弾はひび割れた甲羅を貫き、その体を真っ二つに弾き飛ばした。
STARSの面々はようやく騒動が片付いてホッとするも、新たな騒動のことを考えてげんなりする。なるべく隠していく予定だったものが白日の下にさらされてしまったのだから。











ジルとクレアが合流してもレベッカの作業はまだ終わらない。
その間クリスとレオンは周りに聖司とエルの説明をしていた。Steelyを撃破した後シェリーが2人を撃ったことを問い詰めて口論が起きたからだ。
仲間、協力関係、被害者。あらゆる説得を試みても、彼等の敵意は一向に揺るがない。
たった今、大勢の仲間が悲惨な死に方をして、その一部を身に宿しているというだけで殺意の対象になる。
そんな化け物なんか信用できるか――――口々に叫ぶ内容は概ねこういうものだった。

「彼は被害者であり、同時に貴重な証拠だ」

そうは思いたくないと願っても、クリス等の現状は聖司を利用しなければならないところまで来ている。
元々BOWは麻酔やスタンガンで簡単に捕らえることができる。しかし保存の方法が確立されていない。
特殊な薬品や高度な冷凍保存が無ければ死体を証拠として出す羽目になり、生きた証拠にならないのだ。加えてt−ウィルスの所為で腐食が早く、処理にも困る。
そんな問題も、聖司一人で解決するのだから、クリス達には何が何でも聖司を守らなければなかった。仮に聖司本人の意向を無視してでも。

「……………」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「開きます」

手元のパソコンのEnterキーを押し、頑丈な扉がゆっくり開いていく。入り口の先には広い停車場があったが本来あるはずの列車は存在しなかった。やはりこの作戦は知られていたということだ。でなければ、最初から研究員達を逃がす気がないということになるのだから。
流石に予想はしていた。しかし人数を考慮すると装甲車だけでは全員を運びきれないと判断し、Steelyの入っていたトラックを使おうと提案する。
それがいやだと言わんばかりに生き残りの隊員達はほぼ無視に近い形で装甲車の方へ向った。
定員オーバーしても詰め込む姿はラッシュ時の電車のようで滑稽に見える。
あきれてトラックに乗ることにしたクリス達は意外と汚れていない内装に安堵し、出来る限り戦利品を積み込んでいく。
負傷しているエル、聖司、シェリーは暗いカーゴ奥の壁に寄りかかって休んでいる。

「足、大丈夫ですか?」

半分自分の所為で負った傷を心配して訊ねる。

「骨が折れてるだけだから、一ヶ月もすれば治るってよ」

添え木代わりにしている空のマガジンをカツカツと叩く。

「お前はどうよ?」
「もう治った」

ユラユラ揺らす触手はすでに完治していた。やはり本体だけあって代謝のスピードが尋常ではない。
無事作戦が終わったのだからもう少し喜びを分かち合いたいところだが、疲労の所為で話すの億劫になっているようだ。シェリーが寝息をたて始め、釣られて聖司にも眠気が漂ってきた。

「(寝ていいよ)」

ずっと繋げていたエルが察してくれたので、聖司も遠慮なく寝ることにした。エルに寄りかかり、柔らかい触手を枕にして。
こうして過激と言える彼の初任務は終わった。思わぬ収穫を得て、思わぬ失態を犯して。














「良かったな」
「なにが?」

チェコへ向かう飛行機の中、ノートパソコンで報告書を作成しているジルにカルロスが小声で話かけた。

「セイジだよ。アレなら大丈夫だろ?」
「………」
「超能力なんか信じてなかったし、テレパシーも知識程度しか知らなかったけど、やろうと思えば視線も覗けるっつーのは戦慄ものだったぜ」
「そうね。単にプライバシーが無くなるってだけじゃない」

ジルは文章の履歴から新しい文章を選択してディスプレイ上に出した。










セイジ・カサヅカの考察。

周知の通り、セイジ・カサヅカ―――以降は「彼」とする―――が言語を介さず人と意思を疎通できることは明白であり、疑うべきもない。
彼との言語を介さないコミニュケーションは非常に効率がよく、また意見の食い違いがまったくと言っていいほど起きない。彼にそのことについて問うと、言いたいことのイメージが見えると言う。そのことから言語中枢だけでなく視覚にも影響があると推測される。
私は彼の「可能性」について一つの推測を立ててみた。
なお、これは私的予測であり、確実な未来を予見したものではない。

人は嘘をつく。だが彼はそれを見破ることができる。
昔から単純なものほどないがしろにされる一方重要視されるが、人にとってこれは無視できないことがらである。
もし彼が情報を扱う職に就いたとしよう。電子によって他者との距離が縮まっている今現在においてすら面談という原始的な交渉は行われている。
対面することにより相手の雰囲気を見ること。電気信号では伝わらないものは確実にあるのだ。
もし彼がその場にいれば、相手にとって不利になる情報も手に取ることが可能。

この事実は企業同士の情報など実に些細なことである。
もし、彼が先進国の保有する核ミサイルの起爆コードを知ったら?
原子力潜水艦の位置を知ることができれば?
何でもいい、自分にとって命に関わる情報を彼が知れば?
彼はどんなセキュリティでも『知る』ことができる。なぜならセキリュティを作るのは他ならぬ人なのだから。
彼はセキュリティをもつ人間にただ問うだけでいい。それで世界は彼の手から逃れられない。

以上のことをしようとしても―――例えば核ミサイルを使うとする―――彼一人でできることには限界がある。
人員、専門知識、物資。
国や世界を相手に個人でできることがどれだけあるだろうか。
しかし、以上の三つを揃え得る可能性について、私はエルについても考察した。

アンブレラが生んだ知的生命体NE−α型―――彼によりエルと命名。以降は彼女とする―――は本来自我を持たないように作られている。なぜなら自我は兵器にとって意味が無いどころか、邪魔でしかない。
彼によると、接触した当初は自我を持っていなかった様子。つまり彼によって自我を芽生えるなんらかの要因を得たと推測される。
自我を得た彼女は彼から出来る限りの情報を摂取した。言語、感情、固有名詞、文法。人の知恵を吸収するために必要なものを全て。

彼と彼女は我々が保護し人並の生活をするようになった数日後、彼女は彼より先に英語―――これは単純に私たちが日常から使っていたため―――を習得する。その後、彼女に続くように彼も日常レベルでは問題ないほど英語を習得するにあたった。
彼は彼女と情報を共有しているのだろうか。この問いに彼は答えられず、彼女もなにも言わなかった。たとえそうだとしても英単語を知っているからといって会話ができるわけじゃない。
やはりテレパシーにしかない特別な何かがあると見るべきである。

彼女は驚くべき知性を持っている。それに即席で覚える知識は人のそれをはるかに凌駕する。
一度だけ遊びと称して知人と共に様々な計算テストを行ってみた。例えば2GM/c2の値など。
彼女が難色を示したのは提示した最初だけ。なぜなら私は解き方や意味をあとから教えたからだ。
知らないものは知らない。教えられれば答えれる。
非常に単純である。しかしそれが出来れば学校はないのだ。

最後には一度だけ見た円周率を時間が許す限り暗唱していた。放っておいたらそれこそ、覚えているものを全て言うことができたかもしれない。
ともかく、彼女が人より優れた知能を持っているのは明白。これは単純にt−ウィルスの影響でニューロン、シナプスの増量と構築を常時繰り返していると推測できる。
つまり彼女は頭脳に関して進化するよう作られたBOWなのだ。

だが彼女はそれを意欲的に使おうとせず、使った試しは無い。私の遊びも最後はほとんど作業のようになってしまった。
彼女が己の全てを使うとき、そこには必ず彼がいる。寄生しているのだからあたりまえだが、そういう意味ではない。
彼が必要としている時にしか彼女は動かないのだ。
命の危機に出くわしたとき、選択に迷ったとき、彼が動けないとき。
自我を確立し、自由に動ける方法を持っているにもかかわらず彼女は彼を乗っ取らない。
そのことを問うと彼女は一言で答えてくれた。

『必要ないから』

彼女は嘘をつかない。必要ないから。
彼女は語らない。必要ないから。
彼女は彼以外に干渉しない。必要ないから。
ならば彼女のしていることは、己と彼のためだけということになる。

一見なんでもない、ただのインプリンティングの一種。
これがただの動物なら私はここまで戦慄することは無かっただろう。
なぜなら彼女はこの数週間のうちに、自分が生きられる環境をシミュレートして、成功にまでこぎつけたのだから。
その中に、人類が彼を排除もしくは捕獲を目的として動いたときのことまで示されていた。
具体的な方法は別途資料をもって省かせてもらう。
その方法は極めて具体的であり、かつ合理的に進められていたことは記しておく。
ここにきて彼女は人の行動すら想像できるようになってしまったのだ。
最後に一つだけ、私はなぜ彼にこだわるのか聞いてみた。
彼女はまたも一言だけで答えてくれた。
 
『他にすることがない』
 
偉人は、人は生まれながらにして知ることを欲するというが、人ではない彼女に人の法則が当てはまるのだろうか。
私が思うに自我とは、知ることを知った瞬間から生まれるのではないか。
人がなにを切欠にして生まれるのか想像し難い。しかし彼女の切欠は間違いなく彼にもたらされたものだろう。
唯一絶対無二。彼女の行動原理はその一点のみで、その対象が偶々彼だった。と私は推測する。

つまり、彼が望めば彼女は持てる力を全て使ってそれを成すだけの力を持ち合わせている。
例えば核を作る専門知識。例えば同族を増やして手足として使う。例えばその人員を使い物資を調達する。
必要な情報はインターネット、書記で十分補える。
まるで化学反応のよう。よりによってこの2人が出会った、その瞬間から世界は脅威にさらされていると言っても過言ではない。

以上をもって仮説を終了とさせてもらう。
今現在、彼は周りと共同歩調を保っていることから、彼女がなにかを起こすことはないだろう。
少なくとも今は――――の話ではあるが。
最後に一つだけ、私にはどうしても推測できないことがある。
彼女が彼に奉仕するにおいて、彼女は彼に何を求めているのかということである。
彼女は彼に寄生している。なのに彼女はなにもしない。
それを知る日がいつかくるのだろうか。
私はあの2人が人に絶望しないことを祈るばかりである。





著 レベッカ・チェンバース』










改めて読み返したジルはそっと安堵の溜息を吐いた。

「よくもまぁこんな面倒くさいことを」
「昔からこんな感じよ、あの子」
「マジかよ。ともかく、この考察を信じるなら、あいつの問題はなくなったな」
「そうね……」

レベッカの立てた仮説はともかく、聖司が人を害さないのは確定した。重傷かつ正体が知られてしまってでも人を助けるような心を持っている人間が、この報告書が記している懸念を許すはずが無い。
ただの素人判断としてしまえばそれまでだが。

「でもね、やっぱり疑ってしまうのよ」
「あ?」






「全部踏まえた上で、セイジはああいうことをしたんじゃないかって」











インターミッション
エル(人Ver)登場

「無事機種変更(違)に成功した記念で二度目の登場〜。今回は結構あったからちゃっちゃとね〜」
 
ニコライについて。
 
本名ニコライ・ジノビエフ。元ソ連のスペツナズ出身で、カルロスと同じUBCS(アンブレラの用意した裏専門の傭兵部隊)にいたんだけど、同時に監視員とかいう変な仕事もやってた。典型的な悪党って感じ?
 


あたしの傷に消毒液はつけなかったことについて。
 
普通に死んじゃうからね。
 


バンダースナッチについて。
 
人を素体にしたBOWの一つ。全身黄土色をしてて片腕しかない。ただし、その片腕は伸縮性があって攻撃と移動の2つを兼ねてる。動きがとろいくせに攻撃するときだけ早いやな奴。


 
あたしがNE−L型だったことについて。
 
いつα型だって言った?
 


パラケルススの魔剣について。
 
ジルがネメシスt−型に襲われたとき使ったレールガン。元々G−ウィルスを奪取するために来てたアメリカ軍の物だったんだけど、ただのタイラントと共倒れしちゃって使ってなかったものをジルが拝借した。中型トラックぐらいの大きさで、暴走して大きくなったネメシスを一発でぶっ飛ばした、まさに最終兵器。
雷神はそれをコンパクトにした簡易レールガン。ただ、ここにあったのは初期型で、気温が他のところより高かったから一発でオーバーヒートしちゃった。



Steelyについて。
 
初期型であるスティンガーの改良に成功した後期甲殻BOW。毒が無いのは変わらないけど体液は強力な酸性へ変わり、唯一の弱点だった殻の薄い頭部も無く、タイラントより完成されてるっぽい。
ただ殻が固くても関節が柔らかいから、強い衝撃で千切れたりする。レオンが持ってきた大砲はこのBOW用に配備してたと思う。



今回のテレパシーの使い方について。
 
聖司は質問しただけなのに、なんでニコライのことがわかったのかわからない。シェリーとレベッカが考察みたいなもの作ってたから、今度見せてもらおっと。
聖司と離れて少し寂しいし不安だけど、独立して動けるメリットはとても大きい。こんな貧弱な体じゃすぐ壊してしまうと思うけど、それまでは束の間の自由を堪能しよう。
それに……確かめたいこともあるし。