『侵入者?結界はなにも反応していませんが』 
『じゃが現にエヴァと茶々丸君が襲われておる。幸い怪我は無いがの』 
『あの2人を襲った?侵入者はどうなりました?』 
『茶々丸君のメイド服と制服と金をいくらか盗っていっただけじゃ。見たことの無い魔法で拘束されたと言ってるんじゃが……本人から魔力は感じられなかったとも言っておる』 
『魔力を使わずに魔法を?』 
『それも無詠唱。理論上はありえんことじゃ』 
『そうですね………そんなことは彼等にもできないと思います。それで、犯人は今どこに?』 
『わからん。なにか特殊な術を使ってるのか捕捉できんのじゃよ』 
『やっかいですね』 
『うむ。そこで明日は犯人探しのために動いてもらいたい。他の者にも監視はさせるが…』 
『当たるのは僕ってことですね。なにか情報はありますか?』 
『茶々丸君から送られてきた映像があったかのう』 
…………………… 
『まだ子供じゃないですか。でもこの動きは……』 
『見た目どおりの年齢とは限らんぞ。エヴァと同じかもしれん』 
『そしてこれが例の……。確かに無詠唱ですね』 
『茶々丸君だけでなくエヴァも巻き込む辺り、かなり戦い慣れているのぅ』 
『やはり刺客でしょうか』 
『それを含めて、明日は頑張ってもらいたい』 
「なるべく穏便に済ますつもりだったんだけど……ね」 
対峙して数分。たったそれだけの時間で2人の周りは破壊の限りを尽くされていた。 
もし人払いの結界を張ってもらわなければ大事になっていたことだろう。 
しばらく睨み合い、ポケットに入れていたタカミチの腕がブレた。 
『居合い拳』。高畑・T・タカミチの得意技が放たれる。 
大抵の人間には腕を振るっていることすら気づかず、急所に当てられて気絶する。 
今放ったのはタカミチにとって手加減抜きの一撃だ。 
それをエナは両腕でガードする。体重差があるため威力に負けてあとずさるが、完全に見切られ防がれた。 
自分とは一回りも幼い少女に。 
エナは距離が開いたのをいいことに、両手から念で出来た塊を出す。 
色は緑と青。 
まずは緑色の念弾を投げる。 
放物線を描きながら飛んだそれをタカミチは居合い拳の衝撃で叩く。 
瞬間、念弾は空中で爆発し爆風と砂煙が舞う。 
「(炎系の魔法?いや、だが……)」 
タカミチは素早くその場から離れた。数瞬遅れて、黒煙の中からもう一つの念弾がタカミチが居た場所に落ちる。 
地面に着弾したそれは一瞬にして地面を氷結させた。 
空中に漂う水分が凍ってカラカラと落ちる。 
「(氷系も一流クラスだ。相反する属性をここまで習得するなんてエヴァでも簡単じゃない)」 
加えて体術も凄まじい。居合い拳を防ぐほどの硬気功など達人レベルだ。 
「君は一体、何者なんだい?」 
ここまで凄まじい人間が、何故今まで知られなかったのか。 
ますます興味が湧く。是非とも話を聞いてみたい。 
「なんて答えれば納得するわけ?正義の味方?悪の組織の改造人間?残念だけど私もなんて答えればいいのかわかんないの」 
「わからないというのは?」 
「全部。ここがどこで、どういう場所で、服屋とスーパーの場所も、その辺にある標識がなんて書いてるのかも」 
「記憶喪失……てことかい?」 
「そんなんじゃないわ。ホントになにもわからないのよ。レンジだったら多分分かると思うんだけど………」 
「レンジ?さっき言っていた迎えに行く人のことかい?」 
エナは頷いて肯定する。 
「…………(迎えに行くのは例えでもなく本当だったのか。なら)」 
タカミチは戦闘体制を解いて一つの案をエナに提案する。 
「ここまでやってて甚だしいとは思うんだけど、その人と一緒に責任者に会ってくれないかな?」 
「なんてことがあったわけ」 
「うちの馬鹿が迷惑かけてほんとスンマセンでした」 
ネギま×HUNTER!第2話『麻帆良学園都市』 
座ってはいるが、目の前にあるテーブルに頭が当たりそうなほど謝罪するレンジ。 
とりあえず保護者と同伴。という条件で納得したエナはタカミチに買い物の手伝いをさせたあと、レンジと合流して女子中学の学園町室に赴いた。 
室内には銃刀法違反な女性やヤクザ顔負けのアダオス、極めつけにはネテロにそっくりなジジィが居て、 
「帰って来れなかったか」 
とレンジは呟いた。 
それに耳敏く反応したネテロ(偽)はそこから会話をスタートさせる。 
エナとある程度会話をしておぼろげに情報を持っているタカミチを交え、レンジは自分が経験したことを話した。 
漫画の世界に召喚された。そこでは何度も同じ時間を繰り返している仲間がいた。 
帰るために決められたシナリオを狂わせてみることにした。 
エナとはその時出会った。 
死ぬべき者を助け、起こるはずの事件を寸前で解決する。 
そして化け物との最終決戦。 
「それじゃあ彼女が使っていた力は魔法じゃなく、その『念』という気の一種なのかい?」 
「主人公を手っ取り早く強くするために、作者がその世界に作ったデタラメ。友人はそう言っていました。ところで、今『魔法』って言いました?」 
レンジも案外耳敏かった。今度はレンジが質問をする。 
裏の世界には魔法が存在する。 
もちろん神や悪魔もいる。 
この学園都市は多くの魔法使いが登校し、働いている。 
そこまで聞いて、レンジは首を傾げた。 
「ここって麻帆良市ですよね?」 
「うむ。君から見れば異世界ということかのう」 
「…………ちょっと電話いいですか?」 
レンジは手で受話器を構えるジェスチャーをする。 
ジジィ改め近右衛門の目配せで、レンジの後ろに控えていたヒゲグラサンが、なんか少しファンシーな携帯を差し出した。 
ピッポッパ。トゥルルルルル。ガチャ。 
「もしもしオヤジ?オレオレ」 
「詐欺は間に合ってるよ」 
プツ。 
……… 
……… 
……… 
……… 
「で、なにがしたいんじゃ」 
「すんません、もう一回かけさせてください」 
発信履歴からピッ。トゥルルルルル。ガチャ。 
「おかんに告白したとき『結婚してくれなきゃ死んじゃう』っつったらしいな」 
「このクソガキ!今までどこほっつき歩いてた!」 
ピ。 
謎は全て解けたと言わんばかりの表情で、レンジは携帯を切る。 
「いいのかい?お父さん怒ってたみたいだが」 
「何日も音信不通でしたからそれが普通でしょう。むしろ繋がってホッとしてますよ」 
携帯をヒゲに返し、大きく深呼吸をする。 
「どういうこと?」 
今の一連の行動の意味がわからないエナが問う。レンジは笑顔で答えた。 
「ここは、俺がいた世界だ。帰ってこれたんだ」 
それから数十分して、あるものを手配しに出て行った葛葉刀子が戻ってきた。 
「学園町、ありました」 
「ほう。では本当に」 
「はい。異世界から帰ってきた、という意味では、彼はこの世界の者です」 
そう言って刀子が差し出したのは、レンジの戸籍だった。 
「千葉県○○○市在住、姓名嵩田レンジで22歳、○○○○大学4年生で○○○○○運送会社の経理の内定までもらっておるのぅ」 
「いまの戸籍って内定の内容まで書いてるんですか?」 
「これは大学に問い合わせただけじゃよ。戸籍だけなら偽造されるかもしれんが、現地の情報だけは誤魔化しきれん。ま、裏を取るという意味合いでの」 
レンジはなるほどと納得する。 
「それで、俺たちこれからどうなるんです?」 
「うむ。身分も証明できたし、帰る場所もある。これ以上の拘束は無意味じゃとワシは思うが?」 
近右衛門がタカミチを始め他の魔法先生の意見を聞く。 
「彼が魔法の存在を知ったことに関しては?」 
肌が黒い男が言う。 
「行方不明だった息子が帰ってきて『ねぇねぇお父さん、この世界には魔法があるんだよ』って言ったら、俺なら有無を言わさず精神病院に連れてく」 
レンジが言った意見に他の者はうんうんと頷く。 
「レンジ君に関してはなんの心配もなさそうだね」 
となると問題になるのは、戸籍も無ければこの世界の一般常識が通用しないエナということになる。 
レンジの考えでは、自分は二十歳を越えているから身元引受人なりなんなりなって面倒を見るつもりだったらしい。 
しかし、 
「身元引受人になるには安定した収入が条件じゃぞ」 
「え?俺内定もらってるッスよ」 
「あぁ……いい忘れとったが、内定は会社側から取り消されておる」 
「うそぉ!?」 
レンジは驚くが考えてみれば当然のことである。研修に出ないうえ連絡も寄越さない相手を誰が好き好んで雇いたいと思うだろうか。 
「行方不明で内定取り消し。オヤジに殺されるなこりゃ」 
実際戦って勝つのはレンジだろう。纏だけでもかなり体は強くなるのだから。気分的な問題なのだろうか。 
加えて2人は普通の生活に必要ない『力』を持っている。 
正義の味方と自称している彼等魔法使いとしては、なんとか監視しておきたいところだろう。 
故に近右衛門はある案を出す。 
「ならば君達、ここに住むのはどうかな?」 
「エナ君は言うに及ばず、レンジ君も強いのじゃろ?ワシとしてはそういう力は世のため人のために使って欲しいと思っておる。ここにいる魔法使いのようにの」 
「セキュリティーガードマン?」 
「うむ。レンジ君はこの学園の社員として働き、エナ君はここの中学で社会勉強をする。一石二鳥ということじゃ」 
「う〜ん……」 
出来すぎた話にエナは悩む。 
そもそもなぜ学校に行かねばならないのか。確かに自分は14―――もうすぐ15だが、前の世界ではマフィアの娘ということ、レンジ達と一緒に居たこともあってロクに学校に行っていない。 
何をするにも今更、という感情が出てくる。 
ふと、エナはレンジの様子をうかがった。 
「………」 
自分と同じようにあれこれ考えているようだ。 
『あと2年もすればいい女になってあげるから』 
この世界に来る直前言ったセリフが突然エナの頭の中に浮かんだ。 
少し考えて、エナはフッと笑う。 
「私はいいわよ」 
「お?てっきり断ると思ってたのに」 
「それはそれで合ってるんだけど、今回は事情が違うから」 
肩をすくめて面倒くさそうに言う。 
「それじゃあ、こいつ共々よろしくお願いします」 
レンジもここで働くということらしい。頭を下げて返事をする。 
「うむ。手続きに少し時間を食うでの、今日は家に帰ってやりなさい。家族の方には『研修で海外に行っていた。連絡に不備があった』と伝えておけばよかろう。エナ君は向こうから一緒に来た留学生ということで通せば穏便に済ませられるじゃろ」 
狡い言い訳を考えたものである。 
「ちょうど3日後から新学期。無理も無く転校生として入学できる。ようこそ嵩田レンジ君、エナ・アスロード君。麻帆良学園都市へ」 
学園町室の窓から見える桜が、春風に乗って舞う。 
「君達を歓迎しよう」 
晴れた空は最高の門出となった。 
んで 
「ヨークシン……ニューヨークから転校してきたエナ・アスロードです」 
「キ、キサマはーーーー!!」 
学園生活最初の一日は最悪の始まりとなった。 
「あ、久しぶり〜エヴァちゃん」 
「誰がエヴァちゃんだ!」 
片やフレンドリーに、片や険悪な雰囲気という矛盾した対話にクラスは混乱する。 
「エ、エナさん、エヴァンジェリンさんと知り合いですか?」 
あまり周りに溶け込まないエヴァが相手なので、雪広あやかは恐る恐る尋ねる。 
「こっちに来たとき困ってたところを助けてもらったんです(半分嘘)。あのときはお世話になりました」 
そう言ってぎこちなく御辞儀をする。 
そのせいで、感心したクラスの連中の目線がエヴァに向けられる。 
「ち、ちが!おい、何をでた―――――!」 
抗議しようとしてエナを睨む。するとエナもエヴァを鋭く見つめていた。 
「(今はこれで通せ)」 
ここで否定すればさらに面倒くさいことになるぞ。と半分脅迫めいた内容だが、それはエヴァも御免こうむる。 
「………同じ留学生と聞いてな。困ったときはお互い様だ」 
オォ〜、と拍手喝采が起きる。 
「(忌々しい……。だが)」 
これでいつでも屈辱を晴らせる。そう思いエヴァはエナに微笑み返した。 
見る人が見れば、かなり殺気立っているのがわかる。 
「(あ〜、今日あたり用心しとくか……)」 
面倒くさい学園生活なりそうだ。そう思い、エナは小さく溜息を吐いた。 
「それじゃあ質問タイムといきましょうかー!」 
クラスを代表して朝倉和美がメモ帳を片手に立ち上がる。将来記者を目指しているためこういう場合は頼りになる人物である。 
「じゃあエナちゃん?いくつか質問するから応えてね〜」 
「なにこの拒否権がなさそうな雰囲気……」 
それが3−A力場というものです。 
「え〜と、無難に趣味から行ってみようか」 
「特に無し」 
「アラ」 
いきなり出鼻をくじかれ朝倉はこける。 
「なんてのは冗談で、人形収集ってとこね」 
「へぇ、意外にファンシー。どんな経緯で日本に?」 
「向こうでお世話になった人がここで働くことになったからついて来たの。ちなみにその人警備員だから」 
その質問で『かけおち』とか『逃避行』とか囁かれたが、朝倉とエナは無視することにする。 
「何か部活に入る予定は?」 
「バイトするから帰宅部」 
その言葉にエヴァを含めた何人かの生徒が反応した。 
「ふんふんなるほど。じゃあこっちからはこの辺にして、エナちゃんから質問はある?」 
「質問……ねぇ……」 
エナは軽く教室を見回した。 
とても中学生には見えない小さな人物3名。 
普通の中学生にはありえないモノを持つ4名。 
そして何故かオーラが充実している者若干数名。 
そして色とりどりカラーヘア。 
「(質問というよりつっこみどころが多すぎる。なんでジャポン人特有の黒髪が3割しかいないのよ)」 
はたしてそれを言っていいものか。 
エナが真剣に悩んでいたとき、教室のドアがノックされる。 
入ってきたのは指導教員のしずなであった。 
「ネギ先生、今日は身体測定の日ですよ。すぐ準備してくださいね」 
「あ、そうでした。皆さん今すぐ脱いで準備してください!」 
ネギがそう言うと今まで賑わっていた教室内が静まる。そしてネギの近くにいた双子の姉妹や学級委員長がニヤニヤして、 
『ネギ先生のえっちー!!』 
「うわ〜ん、間違えました〜〜!」 
慌てて教室を出て行くネギ。一段落して保険員が機材を取りに行き、残りは服を脱いで下着だけになる。 
「子供なんだからそんなにイジメなくても……」 
「いいのよ。あのマセガキにはこれぐらいで」 
ネギが学校に来てから碌な事が無いアスナはそう言って切って捨てる。 
出会い頭に失恋の相が出てるだの、魔法に失敗して下着を消されたり服を破り飛ばされたり、一般人ならトラウマものである。 
「で、身体測定ってなにするの?」 
「えぇっと、今日は簡単なやつだけだから体重と身長とBWHを計るだけね」 
あ〜やだやだ。とアスナは舌を出して嫌悪感を出す。同じクラスの者が計るとはいえ恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。 
自分よりスタイルの良い人と比べられたら目も当てれない。 
そんな一般的な女子中学生の憂いとは別に、エナは少し困った顔をする。 
「下着に…………ならなきゃだめ?」 
「そりゃそうよ。服の上からだとちゃんと計れないじゃない」 
「…………」 
さすがに自分だけ特別扱いされるわけにもいかず、エナは諦めて服を脱ぎ始める。 
「まぁ女しか居ないんだし、そんなに気にするようなこと………っ」 
アスナがシャツを脱いでエナの方に振り向き、息を呑んだ。 
白人特有の透き通った肌をしているエナだが、体中の至る所に小さな傷があり、中にはまだ治りきれて無いものもある。 
極めつけは、背中にある大きな手術後。これは龍宮真名だけが気づいたことだが、心臓近くに出来ている手術痕に円状の腫れが出来ている。 
「(弾痕?さすが銃社会というだけあるな)」 
言うまでも無いが、全てHUNTER×HUNTERの世界で負った傷である。キメラアントとの最終決戦が終った直後に麻帆良へ来たため碌な治療をしていないのが原因だった。 
念で新陳代謝を活発にしても治せるものには限界がある。 
「エナさん………その傷」 
「…………隠すことでもないからいいんだけど」 
エナの家族は代々続くマフィアだった。 
双子の弟『エド』と共に何不自由なく育ち、将来は父と同じように組織を継ぐ。 
そんな最悪な人生を歩くはずだった。 
ところが数発の銃弾が全てを壊した。 
珍しく家族揃って外に出たというのに、それを狙った他組織の鉄砲玉がエナの家族を襲った。 
放たれた銃弾は父を殺し、庇ってくれた部下を殺し、その隙間を縫うように飛んできた数発の弾はエナの心臓近くを穿ち、エドの手足を貫く。 
捨て駒の下っ端はその場で処理され、エナの祖父は急いで2人を医者へ連れて行った。 
ただし普通の医者ではない。ワケありで普通の治療を受けれないものを治療する闇医者の所へ連れて行かれたのだ。 
祖父は闇医者『ロイソン』に2人を預け、そのまま報復へ向う。 
しかし、敵組織側は強力な用心棒(念能力者)を雇って逆に返り討ち。エナとエドはロイソンの友人である嵩田レンジに預けられ、そこで暮らす。 
「日本に来たのも組織の跡目争いが嫌になったってのが理由なの。結局エドがボスになるってことで落ち着いたんだけど。居心地悪くて」 
最後は若干嘘をついているがほとんど事実を言っている。 
「(あ〜あ、普通の友達ってのは諦めたほうがいいかしら)」 
こんな話を聞かされてまともに付き合おうと思える人はほとんど居ない。自分の世界ですらそうだったのだから、得体の知れない転校生なら尚更だろう。 
案の定教室内は一気に静まってしまった。 
自分が悪いわけじゃないのに。諦めてはいるがやはり納得がいかないとエナは思う。 
「(やっぱりレンジだけかなぁ)」 
自嘲のような笑みを浮かべ、エナはさっさと終らせようと人垣を抜けて機材の方に向った。 
「待って」 
だが、突然エナの肩を掴む者がいた。 
さっそく何かやるつもりだろうか。そう思ってエナが振り向いた先には、さっきまで話していたアスナがいた。 
ただし、妙に目をウルウルさせている。 
周りを見回してみるとほぼ全員似たような顔になっていた。 
「ごめんね、そんな辛いこと言わせて」 
アスナの一言から始まり、周りから次々と同情や慰めの言葉が出てくる。 
「いや、もう昔のことだからそんなに気にしてないんだけど………その…いやじゃない?マフィアの娘と一緒にいるなんて」 
「それも昔のことでござろう?お主はもうこのクラスの一員でござるよ」 
「そうそう。このクラスにゃ変なのがたくさんいるんだから気にしちゃ負けよ」 
その変なの筆頭で細目が特徴の長瀬楓と、触覚頭が目立つ早乙女ハルナが前に出る。 
「………。ありがとう、ありがとうみんな!」 
『エナちゃん!』 
感極まったエナはアスナに抱きつき、他の生徒もエナに抱きつく。 
素晴らしく微笑ましい瞬間だった。 
それを下着姿でするのはどうだろう。 
結局、この三文芝居(本人達はいたって真面目)は佐々木まき絵の騒動があるまで続いたという。 
その日の放課後 
「桜通りに吸血鬼?」 
真面目に警備員をしているレンジと一緒に、エナは缶コーヒーを飲みながら歩いていた。 
「柿崎って人がそういう噂があるって言ってたのよ。クラスメイトに襲われた子が出たんだけど、凝で見てみたら首筋に変なオーラが残ってたわ」 
「魔法使いがいるんなら吸血鬼が居てもおかしかないわな」 
「キメラアントにも吸血タイプいたしね」 
短く太い人生を経験してきた2人にとって、この程度騒ぎはほとんど眼中にないらしい。 
特にレンジの方は、念能力の特殊さから身の危険そのものもあまり感じていないようだ。 
「それと、クラスメイトのことなんだけど」 
「変な奴が多いんだろ?今日学園町に聞いたよ。なんかそういうワケ有りの連中を主に集めたって言ってたぜ」 
「だと思った。普通じゃあんなリアクションとらないもん」 
「ははは。あ〜それで住む場所だけどな…………ん?」 
いつの間にか桜通り近くに来ていたレンジ達の前に4つの人影が現れた。 
「あ、エナさん」 
「アスナさん」 
そこにいたのはアスナと近衛このか、ハルナと綾瀬夕映だった。 
「どうしたの?いきなり補導されるようなことでもした?」 
「違いますよ、朝言ったじゃないですか。警備員の知り合いがいるって」 
そう言われて生徒達は納得する。 
「エナの保護者をしている嵩田レンジです。中等部の寮と校舎周辺を警備してるから、なにかあったら呼んでくれ」 
「あ、どうも」 
朝にエナから聞いたハードボイルドな世界とは無縁そうな印象に、アスナ達は拍子抜けした。 
ゴ○ゴ13とかジ○ザスをイメージしていたので、普通な雰囲気のレンジはあまり頼りになる感じがしない。 
「それで、こんな遅くに4人でなにを?バイトと部活動以外はもう寮に帰る時間じゃないか」 
「えっと……。そういえば私達どこに行くんだっけ?」 
たった今学校から出て、宮崎のどかと別れて。 
そこまで考えてアスナ達は事態の矛盾に気づく。 
さっきまで部活動をしていて、学校を出て、何故のどかとだけ別れなければならなかったのか。 
「わ、私本屋ちゃん送ってくる!」 
「あ、アスナ〜」 
なにか野性的な勘が働いたのか、急いで桜通りに向うアスナとこのか。 
残された夕映とハルナはアスナの早足に汗を浮かべつつ、 
「えっと……うちらはどうしようか」 
「やることもないから帰るです」 
何故こんなことになったのかはさておき、時間も遅いのでさっさと帰ることにしたらしい。 
「送ろう。さすがにこの時間で女の子だけってのは不味い」 
「ありがとございますです」 
「フリーゲランス・エクサルマティオー!!」 
「うあっ!」 
2つのフラスコが割れ、中の液体が術者の魔力に反応して魔法に変換される。 
その効果は武装解除。 
「(エヴァンジェリンさんが犯人で魔法使い?)ってあわわわわ」 
ネギは上着の左袖部分だけが氷壊しただけだが、位置的に最悪だったのどかは首周辺だけ残して、下着を含めて全て氷壊した。 
なぜか靴と靴下だけは残っている。これは神の趣味なのだろうか。 
「なんや今の音!」 
「あ、ネギ!それに本屋ちゃん!?」 
「こ、これは違うんです!」 
タイミング悪くアスナ達が到着する。このかは状況を見てネギが吸血鬼だと勘違いするが、真っ先にのどかを介抱する。 
「フフ……」 
「あ、待って!アスナさん、このかさん。僕は犯人を追いますから先に帰っててください!」 
言うが早いか、ネギは魔力を足に収縮して逃げた人影を追った。 
「うわ、はや!?」 
「ちょっとネギーー!〜〜〜〜。ごめんこのか、本屋ちゃんのことお願い!」 
「え?アスナ!?ってアスナもはや!?」 
突然のことに呆けるこのか。小柄とはいえ力のない自分がのどかを担いで寮に戻れるわけがない。 
どうするかな〜。このかは途方にくれる。 
そのとき、後ろから人の気配がした。 
さすがにまずい。不特定多数の人に今ののどかを見せるわけにはいかない。 
そう思ったこのかだが、振り向いた先にいる4つの人影を見て安堵した。 
「夕映、ハルナ!」 
「このかさん?……のどか!?」 
付き合いの長い夕映が真っ先にのどかに飛びつく。レンジは着ていた警備服を脱いで夕映に渡した。 
「どもです」 
「これも仕事だよ。その娘は暴漢にでも襲われたのか?」 
このかはさっき見た出来事を口早く話した。 
黒いマントを来た小さな人影、ほぼ全裸になったのどかを抱えていたネギ、逃げた人影を追ったネギとアスナ。 
全てを聞き終えて、レンジの顔が引き締まる。 
学園の者を狙って外から来る者のことを聞いてはいたが、まさあ初出勤で相手にするとは。 
「………エナ、お前はこの子達を守れ」 
「了解。気をつけてね」 
小声で互いの役割を決め、レンジはすぐネギ達を追った。 
「あ、ちょっと!」 
のどかを運んでもらおうと思ったハルナはレンジを呼び止めようとする。 
しかしエナがそれを止めた。 
「仕方ないわよ、仕事だから。その子は私がおぶるわ」 
「大丈夫?ここから寮まで結構あるけど」 
「体力には自信があるから」 
そう言ってエナはのどかを軽々と背負った。 
「ホント………最悪な一日ね」 
『練』により体を増強したレンジは素早く動けるようになり、割りと早くネギ達を見つけた。 
なにかの建物の屋上で戦っているようだが、実際は長身の女性に遊ばれているようである。 
呪文を唱えようとした矢先に口を左右に引っ張られたり、額にズビシと軽く当てられたりして、詠唱が満足にできないのだ。 
「あの程度で呪文を防げるのか。いや、そういう制約だからいろんな魔法が使えるっつーわけか?」 
レンジが戦況分析しているうちに、ネギは長身の女性に羽交い絞めされ、何故か下着姿の少女に怒鳴られている。 
「そろそろ頃合か。2対1だとそんなもん「うちの居候になにすんのよー!」おぉ!?」 
アスナに蹴られて盛大にぶっ飛ぶ少女。ズザザザと滑って屋根から落ちるかと思われたが、運良くギリギリのところで止まった。 
というか屋上で飛び蹴りをかますアスナのほうに若干問題がある気がする。相手のこともそうだが、自身が足を踏み外して落ちることは考えなかったのだろうか。 
きっとあの子は強化系だ(つまりは単純)。 
「―――――――!」 
「―――――!」 
少女と女性が屋根から飛び降りる。どうやら逃げることにしたらしい。 
残ったネギはアスナに泣きついている。所詮は子供だ。 
「さ〜て仕事仕事」 
レンジは夜空に消えた二人を追う。勤務初日から妙なことになったものだ。 
林に逃げ延びたエヴァはご満悦だった。途中で邪魔が入り少ししかネギの血を吸えなかったが、ナギの血筋と本人の潜在力のおかげで体の魔力が少しだけ戻っているのだ。 
だから確信が持てた。ネギの血をある程度摂取すれば自分の呪いを解く切欠になるだろう。 
更に今日は満月。吸血鬼である彼女にとって良い夜なのだ。 
そしてこんな日はなにかが起きる。 
「マスター、こっちへ向う人間が一人います」 
「大方さっきの騒ぎを見ていた魔法生徒か先生だろう。適当にあしらっておけ」 
「いえ、魔力を感知できません。しかし人ではありえない速度でこちらに」 
「タカミチか?いや、あいつは出張中のはずだ。なら……」 
今学園にいる裏の事情を知っている者を順次思い出していく。しかしほぼ全ての者が魔法生徒であることから、魔力を使わずに人以上の力を持つ者はいない。 
しかしエヴァの横で、別の方向から検索をしていた茶々丸は違ったようだ。 
「警備員のようです。ICチップの反応がありました」 
「詳細を言え」 
「千葉県○○○市在住、姓名嵩田レンジ22歳。3日前に近衛近右衛門に雇われ、今日が初出勤。被保護者にエナ・アスロードがいます」 
「あの女の関係者か!なるほど、ならば納得がいく。迎え撃つぞ茶々丸!」 
「はい、マスター」 
エヴァ達は足を止め、臨戦体勢をとった。 
前回は不覚を取ったが、似たような術を使うのなら対処はできる。 
600年間戦いに身を置いていたステータスがエヴァに自信を与えていた。 
「フゥ……やっと追いついたぜ」 
上着を着ていない警備員が暗闇から現れた。まだ着慣れていないせいか、服のあちこちに張りが残っている。 
対峙する3人。 
そして、レンジはエヴァに言った。 
「なんだ変態か」 
「誰が変態だ!!!」 
「春とはいえこんな夜中の寒空にメイドを従えて下着姿で闊歩する少女の、どこが変じゃない言うんだ!」 
「くっ………。たしかにそれだけ聞けばただの変態だ」 
いつものマント姿でも充分変態チックなのだが、エヴァの中ではカウントされないらしい。 
「フン、ならばこれでよかろう」 
エヴァが指を弾いて音を鳴らす。するとどこからか飛んできたコウモリがエヴァにまとわりつき、いつの間にか黒いマントのようになった。 
「お〜それが魔法か」 
「キサマも似たようなものを使うんだろ?あの女のように」 
「あの女?」 
「エナ・アスロードだ!」 
「なんだエナの知り合いか」 
「知り合いではない!いや、確かに知り合ってるしクラスメートではあるが……。とにかく、貴様がエナ・アスロードの関係者ということは、あの妙な術も使えるんだろ!」 
「形は違うけど、まぁ使えるっちゃー使える」 
「ならば好都合だ。いずれ奴とは決着をつけるつもりだが、貴様を前菜として頂いてやる!」 
「さすが吸血鬼、メインディッシュは生娘じゃないとだめか」 
「減らず口を…。その余裕がいつまで続くか見せてもらおうか!行け茶々丸、手加減無用だ!」 
「はい、マスター」 
エヴァの合図で茶々丸はバーニアを噴かしてレンジに接近した。 
「失礼します」 
ロボットだから律儀、ということだろうか。茶々丸はわざわざ断ってから拳を振りぬいた。 
わずか5メートルという短い距離で、ジェット噴射による急接近。加えて茶々丸が人間ではないという事実が相手の動揺を誘う。 
エナとネギの時は暗くて気づかれずあまり意味が無かったが、この状況なら充分効果はあるだろう。 
案の定、男は立ち尽くしたままだ。 
「(期待はずれだったか?いや……)」 
朝に聞いたエナの過去と、自分だけが知っている彼女の力。その保護者をしている男なら彼女より強いと思っていたエヴァだが、拳を振りかぶっている茶々丸に対し男は何の反応も見せない。 
それほどまでにド素人なのか。いや、それはありえない。 
ド素人ならあの古狸が警備員に雇うはずが無い。 
「(さぁ、私に力を見せろ!)」 
ならばなにか手段があるはず。それを見極めてやる。エヴァはこれから起きるであろう事態を注視した。 
茶々丸の拳が振りぬかれた。 
その一瞬でレンジは消え、 
「ロボット三原則違反だろそれ」 
その声はエヴァンジェリンの背後から聞こえた。 
「き、キサマいつの間に!?」 
一瞬で背後に現れたレンジから距離を開けるエヴァ。だが、何も無いはずなのになにかに当たってその場に止まった。 
今まで目の前にいたレンジが、また背後に立っていたのだ。 
「そんな逃げなくてもいいだろ?俺のバニーハートは傷つきやすいんだぜ」 
「くっ!」 
「マスター!」 
茶々丸がバーニアを噴かしてレンジに襲い掛かる。しかしまたも攻撃が当たる寸前で消え、一瞬で茶々丸の背後に現れる。 
逃げても攻撃してもレンジに当てられず逃げられない。目を離していないのに、気づいたときにはその場から居なくなる。 
「(馬鹿な。魔力の気配がないなら転移ではない。だが瞬動術だとしても必ずワンモーション入る。ノーモーションで瞬動などあのタカミチですらできないぞ)」 
さらにレンジの技と瞬動の違いを述べるなら、瞬動は極限まで早く動いているので必ずブレーキをかけなければならない。つまり足が地につく瞬間がある。 
しかしレンジの場合は、まるで最初からそこに居るかのように静かなのだ。 
そんなものは600年生きてきたエヴァンジェリンでも、あらゆる情報を網羅している茶々丸でも知らないものだった。 
「キサマ、何者だ!」 
「見て分からんか、ただの警備員さ」 
「嘘つけーー!!」 
エヴァが裏拳でつっこむが、それすらレンジは避ける。 
「くそ、あの女といいキサマといい、一体何者なんだ!」 
「だから警備員だっつってんだろ」 
「どこの世界に瞬間移動する警備員がいる!」 
「Yes, I am(はい、私です)!」 
「ぬおぉぉムカつくーーー!!」 
当たれば骨ぐらい軽く折れそうな拳打を雨のように繰り出すエヴァ。当然のように全て避けられてしまう。 
「ぜぇぜぇ……。だいたいキサマ、何故一撃も打って来ない!遊んでいるつもりか!」 
「いやぁ、流石に女子供をぶん殴るのは気が引けるなぁと」 
「誰が子供かーーーー!!」 
「はっはっは、背伸びしたい年頃なんだなお嬢さん」 
600年生きているのにオバハンと言われるのを嫌い、体型から幼女や子供と言われても仕方が無いのにそれすら嫌い、ならばなんと言えばいいのかいささか疑問である。 
「まぁ真面目な話、あんだけ派手なことやってくれたんだ、ちょっと責任者のところまで来てくれねぇ?これも仕事なもんで」 
「フン!連れて行きたければ力尽くでやれ!」 
声に合わせてエヴァは渾身の一撃を放つ。 
その一撃を、レンジは避けずに片手で受け止めた。魔力を全て魔法障壁と身体強化に使っているというのに。 
「なに!?」 
「じゃあオシオキも兼ねてお灸を据えてやるよ」 
その一言でレンジの雰囲気が変わった。 
気が充実し、エヴァを掴まえている腕の力が増していく。 
「馬鹿な、これほどの気を持つ人間がいるはずがない!」 
「現にテメェの目の前にいるじゃねぇか。さぁ歯を食い縛れ」 
「くっ、離せ!」 
拘束されていないもう片方の腕で反撃を試みる。だがそれもあっさり受け止められてしまった。 
「クソ、茶々丸!茶々丸!?」 
エヴァは茶々丸に助けを求めるが、当の本人は何故か一歩も動かない。 
「キサマ、茶々丸に何をした!」 
「心配すんな。ただ止まってもらってるだけだから。それより自分の心配でもしろよ」 
レンジは気を込めた腕をエヴァの眼前に持ってきた。特徴的な指の形はある攻撃方法を表している。 
「オシオキターイム」 
「ま、待て!そんな気の篭った一撃を食らえば唯じゃすまんぞ!」 
「大丈夫だよ。何度もやってるから加減は心得てる。せいぜい気絶する程度だ」 
「た、助けて、誰か助けてーーー!!」 
「はっはっは、誰も助けに来やしねーよ。食らえやーー!」 
レンジの気を込めた一撃がエヴァを襲う。 
「デコピンインパクトーーー!!!!」 
「あぷろぱーーーー!!!」 
ただのデコピンと思う無かれ。硬によって極限まで高められた指の力は、エヴァを盛大に弾き飛ばすほどのパワーを持つ。 
なお、この技を本来の持ち主が使うと30%の力で人の頭が弾け飛ぶ。 
レンジの威力はまだ良心的と言えよう。 
「フゥ。あ〜やっと終っ「あいたたたたたた!!!!」ぅえ?」 
念を解き、リラックスモードに入ったレンジだが、当然念能力も切れてしまうので茶々丸への警戒は怠らない。 
だが気絶したと思っていたエヴァからの悲鳴は予想外だった。 
「おっかしぃなぁ。ちゃんと気絶する程度に力込めたのに」 
「あぁ、マスター」 
茶々丸が悶えるエヴァを介抱する。彼女の額には大きな赤い痣ができていた。 
「しゃーねー、もうちっと本気出して『そこまでじゃ』今度はなんだよ!」 
レンジは『円』を展開して周囲を警戒する。すると頭の上あたりに何かがいた。 
「学園長さん!?」 
杖も使わず空に浮いていたのは学園長『近衛近右衛門』その人だった。服装や雰囲気からしてもう人間の域出ている気がするのはレンジの気のせいではあるまい。 
彼は「ふぉっふぉっふぉ」とバルタンちっくに笑いながらレンジの前に降り立った。