その日の彼は大いに憂鬱だった。

「こんな所でサボんなよ吸血鬼」
「校舎の中まで入ってくるな警備員」

夜に会うはずなのにこうして昼に会ってしまったから。

「ハイデイライトウォーカーだったっけ?その割りには随分眠そうだな」
「フン、真祖といえど吸血鬼の範疇は超えられないということだな」

ふあぁぁ、と大きな欠伸をするエヴァ。

「エナから伝言だ。行くのは構わないが人形は実物を見て選びたいとよ」
「ほう?」
「あいつは筋金入りのマニアだからな。結構目利きだぜ?」
「かまわん。自分のコレクションを渡すんだ………同じように大事にしてくれるなら人形も喜ぶだろう」
「まだ成功するって決まったわけじゃねぇのに」
「無論、成功したら渡すに決まっているだろ。私はそこまでお人好しじゃない」

等価交換は基本だろ?と、エヴァは床に寝転がった。

「私は寝る。さっさと出て行け」
「……はぁ…(言っても無駄だなこりゃ)」

こういう不良生徒を指導するのも仕事の内なのだが、昨日学園長から聞いたエヴァの、現状というか
事情を考えるとどうにも接し辛い。
自業自得な気はするのだが、約束を守ってもらえてない事実は変わらない。

「まぁいいけどな。あんまり子供先生を困らせんなよ」
「………」

返事はない。本格的に眠るつもりのようだ。
やれやれと、レンジは頭を掻いて屋上から出ようとする。

「西南で結界を破った者がいる。力は感じんが一応調べておけ」

急に掛けられた言葉にレンジは振り返る。寝そべって背を向けていてその表情はわからない。

「(律儀と言うかなんというか………)」

ちゃんと警備員の仕事もしている同僚に、レンジは呆れつつも感謝として頭を軽く下げた。






夕方。

あれから西南を中心に侵入者を探し周ったレンジだが、なにも見つけられず無駄骨となった。
当の本人はさっさとネギの匂いがする建物で女が多い場所(大浴場)へ向ったのだが、相手がスケベ
な小動物だと知らないレンジに探し出すのは不可能だろう。
例え見つけたとしても、警備員が女子寮の大浴場にいれば、逆に不審者として扱われるかもしれな
い。
結局、エヴァと会う約束の時間が迫って来たので夜勤の人の引継ぎを済ませ、レンジは女子寮にい
るエナを迎えに行った。
管理人に適当な理由を言って、2人はまっすぐエヴァのログハウスへ向う。

「子供先生がパートナーをねぇ」
「大方エヴァちゃんに痛い目見せられて悩んでるだけでしょ。おかげで皆勘違いしちゃって」
「学園長の話だと恋人探しの口実ってことらしいからあながち間違っちゃいねぇな」
「ねぇ。それでね――――」

ネギを元気付ける戒(違)のことや、浴場に紛れ込んできたネズミのことを楽しそうに話すエナ。
それを見てレンジはここに留まって正解だと思った。
適度な刺激と適度の平穏。
あっちの世界も似たような感じだったが、元の世界に帰るという名目があったためどこか殺伐としていた
ものだ。
そういえばロイソンやクロロに憑依した人はどうなっただろうか。ここのところ忙しかったから確認していな
い。
明日辺り調べてみようと決めるレンジだった。



学園都市内にあるログハウスに来るのは2人とも2度目になる。

「あ〜緊張する」
「教室で毎日会ってんだろ」
「サボってばっかりで全然会わないわよ。今日だって茶々丸ちゃんに伝言聞いただけだもん」

意を決してエナはハウスのドアをノックする。
数秒後、ちょっと重そうな足音が聞こえ、中からメイド服を来た長身の機械人形が出迎えた。

「嵩田レンジ様、エナ・アスロード様ですね。お待ちしておりました」
「此度はご招待預かり光栄の極みです……とかなんとか言ったほうがいいか?」
「いえ、お気になさらず」

どこか慣れた挨拶をするレンジ。その横からエナがおずおずと紙袋を差し出した。

「えぇっと、勝手に借りた制服だけど、高畑先生と戦ったときちょっと破れちゃったから新品取り寄せた
の。一応古いほうも入ってるけど」
「ありがとうございます。それでは、マスターがお持ちしてしていますのでこちらへ」

挨拶もそこそこで終らせ、茶々丸はさっさと奥に引っ込んでしまった。

「やっぱり怒ってんのかな」
「機械なんだから感情なんてねぇだろ」

2人は茶々丸の後を追い、地下室へ向う。
途中大量に鎮座する人形に出迎えられ、エナが興味津々で見ていたが、その度にレンジに注意され
る。
そして地下室の奥の扉の前で茶々丸は佇んでいた。

「こちらでマスターがお待ちです」
「もちっと明るい場所で話し合おうと思わんのかあの吸血鬼は」
「申し訳ございません」

夜の郊外で、人形に囲まれた地下室の奥。いったいどこのB級ホラーかと。
エナは人形に囲まれてご満悦の様子だが。

重苦しい雰囲気の中、重々しい扉が重そうな音を立てて開いた。




「で、ここはどこだ」

『南国孤島へようこそ』と書かれたタレ幕があっても不思議ではない光景が広がっていた。






ネギま×HUNTER!4話『彼の父親はラナルータを使う』






「さて、まずは乾杯といこうか」

大きなテーブルに豪華な食事。南国風を意識してかトロピカルな料理が目立つ。
このハウスの主、エヴァはワインとグラスを持って2人を出迎えた。

「幻術か?それとも前に言ってた転移魔法ってやつか?」
「転移に近いが、今は気にするな。料理が冷めるぞ」

エヴァは2人にグラスを渡し、ワインを注ぐ。

「未成年なんだけど……」
「気にするな。ここには無粋な大人はおらん」

勝手に粋な大人にされてしまったレンジであった。

「で、何に乾杯するつもりだよ」
「そうだな…………出会い……いや、巡り合わせに」

『乾杯』

グラスを合わせ独特の音が鳴る。エヴァは赤い液体を全て飲み、レンジは半分程度、エナは一口含
んで舌を出した。

「な〜んか変な味ね」
「ふっ、お子様には早かったかな」

にゃにおう!とエナは反論する。

「ワインは口に合わなかったようだが、料理は絶品だ。茶々丸が久しぶりに気合を入れたからな」

エナと口論をするつもりがないようで、エヴァはさっさと席に着いた。レンジ達も席に着こうとすると、見
慣れない女性がイスを引く。

茶々丸の姉達であった。

「これも人形か」
「あたりまえだ。生身の人間を置くわけにもいかんだろ」

3人が席につき、話もそこそこにして食事をする。
鯛の岩塩焼き、ロブスターのワイン蒸し、絶妙な焼き加減のローストビーフ。
一流ホテルでもなかなか拝めそうに無い料理がたった3人のために作られ、食される。正に贅沢の極
みと言えよう。

「全部食いきれねぇなこりゃ」
「庶民なら庶民らしくタッパーで持ち帰ったらどうだ?」
「ぜひともそうさせてもらおう」

冗談で言ったつもりが本気にされてしまったらしい。あとで茶々丸にタッパーを買いに行かせることを心
の隅に留めることにした。







食事を始めて数十分。口運びが乏しくなってきたころ、エヴァは本題を切り出した。

「除念とやらで私の呪いを解いてほしい」

もちろんエナもレンジから事前に聞いている。その上でこう応えた。

「除念って言っても、私のは一時的なモンだから精々3・4日が限度よ?だいたい念と魔法じゃ勝手
が違うんじゃないかしら」

「念は気の一種だろう?魔力も気も自然にあるエネルギーであることには変わりない。根本はどっちも
一緒なのさ。おい、あれを」

エヴァは茶々丸の姉にあるものを持ってこさせた。
本である。表紙には例のようにHUNTER×HUNTERと書かれていた。
何気に全巻揃えている辺り、全て読破したのだろう。

「詳しく調べるために読んでみたんだが、なかなか面白いことがわかってな」

エヴァは一冊を手に取り、体に穴をあけたボクサーが音を奏でて木星を具現させるページを見せた。

「物質を具現するのは魔法でもある。氷や炎はその典型だし、場合には剣や隕石もそうだ」

炎は物質かどうか微妙なところだ。

さらにと言ってエヴァは別の冊子から、クラピカが鎖を具現するまでの経緯を書いたページを見せる。

「こういうイメージの修行は魔法を習う過程において必ずやることだ。イメージが魔力を操り、魔力がイ
メージに沿って形を作る」

エヴァはまた別の冊子を開く。アベンガネが自らに掛けられた念を除念するシーンだ。

「自らの念と自然の力を組み合わせる。理論だけ見れば、魔法の関係に似ている」

そう言って本を閉じ、エヴァは自身が出した結論を言う。

「念能力とはこっちでいうところの『魔法剣士』と同じ。そして『練』や『堅』は硬気功。多少の違いは
あれど、魔法と気に酷似しているというわけだ。ならば除念で呪いを解くことも不可能ではない」

元々こういう小難しいことが好きなのか、更にアレやコレやと除念の可能性を列挙していく。
2人から見たら論文を発表する学者気分だと思うかもしれない。だが実は違う。

さっきエヴァが言ったように『イメージが魔力を操り、魔力がイメージに沿って形を作る』。
もしエナが『念と魔法は違うからあまり効かないかも』と思って除念をすれば、例え効いたとしても結果
は大したモノにはならないだろう。

だが『念も魔法も似たようなものだから同じぐらい効く』と思い込めば、相応の結果を出すことができる


乾杯と称して酒を渡したのも、豪華な食事を渡したのも、今の話を信じやすくする催眠効果を狙って
のことである。

皮肉かどうかは知らないが、念も思いや覚悟によって効果が違う。

「―――――ということであるように、例え一時の除念とはいえ相応の効果が期待できるというわけだ
。わかったか?」
「…………まぁ、魔法と念が似てるってことぐらいわね」

ただ、腹が膨れているときにそういう授業のようなことをしてちゃんと聞くかと聞かれれば、多分聞かない
のではないのだろうか。

「初心者には難しかったな。腹ごなしに人形でも見に行くか?」
「ぜひ!!」

やる気を出させるため最後にご褒美を見せる。600年生きているだけあってなかなか心得ているらし
い。

「貴様も来るか?」
「いいや、戻ってくるまで一眠りするよ」

さっきの講義で眠気が来たらしく、レンジはイスから離れ近くにあったベンチに腰をおろした。

「食べてすぐ寝ないでよ。豚になっちゃうわよ」
「念でカロリー消費してるから大丈夫だよ。時間がきたら起こしてくれ」

はいはい、と簡単な返事をして、エナとエヴァはどこかへ行ってしまった。

「やれやれ………zzz」

酒の助けもあってか、レンジは常夏のリゾートで優雅に昼寝と洒落込む。






「オホ♪」




人形倉庫にて。

「あ、このテディかわいい」
「だろう?目のボタンが最高級の象牙で出来ている一品だ」
「わ、結構年代ものウッドゥンじゃないこれ?布地が手作りじゃないの」
「400年前に田舎で拾ったものだ。それぞれの家庭で製布技術が培われていた名残だろう」
「あのさぁ、このワックスドールって………」
「察しがいいな。かなり昔だがどこぞの教会跡から発掘したものだ。よくわかったな」
「ここにかすれてるけど聖グラストンベリー修道院って………」
「なに!?」

と、こんな感じで特殊な男以外には一生分からない話が延々と続いていた。
巨大な塔の中に作られた人形だけの部屋には、それこそ何万という大小さまざまな人形が保管され
ていた。
2人とも筋金入りのマニアだけあって話が盛り上がること盛り上がること。

しかし、何時間も話しているうちにエヴァは少し妙なことに気づいた。
エナが注目する人形にある共通点があったからだ。

エヴァ自身魔法使いなだけあってマジックドールを作っているが、当然他の魔法使いにもドールを使う
者はいる。
エナが発掘しているもののほとんどはそういう魔法使いが遺した、所謂曰くつきのモノなのだ。それもほ
ぼピンポイントに。

魔法に精通していないエナが何故。
そう思って聞いてみると、実に単純な答えが帰ってきた。

「凝で見ると大体そういうのが見えるのよ。例えばコレ」

エナが今まで見ていた人形を手にもつ。曰くつきではないが、かなり有名な技工士が作ったマリオネッ
トだ。

「関節から糸に至るまで凄い量の念が残ってる。まるで自分の命を分け与えてるみたい……」

うっとりした目で人形の細かいところを見るエナ。エヴァの脳裏に、似たようなことして金儲けをする2人
の少年が浮かび上がる。

「私が人形を好きになった理由は、こうやって大切に作られて大切に使ってもらえたものを見れるから
なの。子供から大人へ、そしてまた子供へ。そうやって何年も大切にしてもらって、いつか壊れる。でも
また直してもらう。ほら、まるで人と同じ」

エナはマリオネットを棚に戻して、エヴァへ振り向く。

「そうやって何年も大切にしてもらった人形には、必ずその人の念が篭る。それを手にとって触れてみる
と、その人がどんな気持ちで人形を大事にしてきたのかわかるの。まるで人形が、前の主人がどんな
にいい人か自慢しているよう」

それを知る瞬間が堪らなく大好きなのだと、エナは語る。

「あのね、エヴァちゃん。私が協力するのも人形のおかげなのよ」
「?」

なぜ自分に協力するのに人形が関係するのだろうか。ワケがわからないエヴァにエナは続きを話す。

「エヴァちゃん家に入ったとき、最初に入った部屋に人形がたくさんあったのよ。どれも使い込まれてるし
修繕も自分でやってるみたいだったし」

真夜中の暗い部屋だったのに目敏いものである。

「その中で一個だけ、すっごく念が篭ってるのがあったの。それこそ何百年も使ってきたんだと思う。それ
を見て、あぁここに住んでる人はいい人なんだなぁって思ったのよ」

だから賞金首だと聞いても殺さなかった。エナはそう言った。

「そしてとってもさびしがり屋さんってね」
「……………。フンッ、良い人で寂しがりか。どうかな……私は悪の魔法使いだ。それすら策略の一
つかもしれんぞ」
「あら、私は自分の眼に自信があるつもりよ」

エナは目の下を引っ張ってその主張を誇張する。

「そろそろ良い時間じゃない?おなかもすっきりしてきたし、やることはさっさと終らせましょ?」

そう言ってエナはエヴァを置いて部屋を出て行った。一人取り残されたエヴァは誰もいない部屋で呟く


「良い人?何百人も殺してきたこの闇の福音が。寂しがり屋だと?このドールマスターと言われた私が
!」

自分が悪だと再認識する言葉を吐く。だがエヴァの頭の中にはエナの言葉がこびり付いて離れなかっ
た。

「別に構わん。自信があるというのならその自信ごと貴様等の鼻っ柱をへし折ってやる!」

呪いが解ければ先日と昨日の借りをまとめて返せる。

このときのエヴァはそう考えていた。




「で、これはどういうこと」
「私に聞くな」

レンジのいる場所へ戻ってきた2人は実に奇妙なものを見ていた。
ベンチでぐっすり眠るレンジに向って、妙に長いナイフで峰打ちしようとして止まっている三頭身の人形
を。
人形の名はチャチャゼロ。さきほどエナが凄く念が篭っていると言った人形だった。






「モガーー!モガモガモガーーー!!」

塔の下にある砂浜に黄色いネバネバした何かで絡め取られているチャチャゼロの悲鳴が響く。
除念のために移動したレンジ達は、一度実験をしてみるということでチャチャゼロを使うことにしたのだ。
呪いの内容はまともに喋れないこと。

「モガーーーー!(ゴ主人ノ腐レ外道ーー!)」
「やかましい!毎度毎度勝手ことばかりする従者に罰を与えて何が悪い!」

魔力か何かで繋がっているからか、エヴァにはチャチャゼロの言っていることが分かるらしい。
エヴァの横では除念に使う念弾を練っているエナがいる。なんか髪がウネウネと逆立ってゴゴゴゴゴな
擬音を発している。

「(何故こんなに怒ってるんだ?)」
「(感じからして『裏切ったんだ、僕の気持ちを裏切ったんだ』ってところだな)」

自分が挫くはずだった自信を従者に挫かれ、出端を折られたエヴァであった。
それを理由に簡単な実験をすることになったのは成り行きである。
チャチャゼロは魔力で動いているので、除念などすればただの人形になりそうだが、どうせ一時的なこと
だということで、人形本来の役割の一つを担ってもらおうというわけだ。
つまりは身代わり。

「できたわ」

エナの練が終わり、今まで練っていた念弾は紫色になってエナの手中に納められていた。
作ったときの心が反映したせいか、かなり禍禍しい雰囲気を漂わせている。

「かなり気合入れて作ったから、もしかしたら一週間ぐらい効果が続くかもしれないけど、いい?」
「問題ない。今は実験の成功が最優先だ」
「モガーーーー!」
「おい、さっさとしないと黄色の効果が切れるぞ」

レンジの言った黄色とは、エナがエヴァンジェリン邸に侵入し、逃げるときに使った念弾のことである。

「そういえばエナの能力は聞いてなかったな。と言ってもだいたいわかるが」
「『配色爆弾(カラフルクラスター)』。あまり詳しいところまで教えないけど―――」





配色爆弾(カラフルクラスター)
色のついた念弾を放つ。効力は色によって変わり、一度決めた色の効力は変えることが出来ない。
色の違い―――例えば赤と青を6:4と5:5で配合した色の差―――等が頭に思い浮かばない限
り新たな色による効力は得られない。
また爆弾であるという前提を覆す効力は得られない(弾で傷を癒したり等)。あくまで破裂して効力を
発揮する。
威力は念弾の大きさによって変わる。(練らなければ大きくならないから)
なお、エナはすでになんらかの制約と誓約を課しており、完成度は高い。





「大体色=イメージだから見るだけでなんなのかわかると思うわ。火だったら赤、氷だったら青って具合
に」
「威力はともかく、瞬時に無詠唱で出せるわけか。タカミチが苦戦するはずだ」
「言っとくけど、アレでもまだ本気じゃなかったんだからね」
「言っておくが、タカミチも本気じゃなかったからな」
「グヌ……」
「クク……」
「いいからさっさと投げろ。弾からなんか迸ってるぞ」

弾を維持するのが限界らしく、紫電が迸っていた。エナは慌てて弾をチャチャゼロに向って振りかぶり、

「カラフルクラスター……『紫弾』!!」

ノリ的には大リーグボールっぽい。だが弾は勢いがあるわけでもなく、変な軌道を描くわけでもなく、放
物線を描いてゆっくりチャチャゼロに向っていく。

「モガーーー!(ゴ主人ノアホーーー!)」

弾は寸分狂い無くチャチャゼロに命中した。瞬間、『シュボン!』という音と共に紫色の煙がチャチャゼ
ロを包む。
何故か風が吹いても消えない煙は10秒後に綺麗さっぱり消えた。
跡に残ったのは砂浜に横たわる人形一つ。

「死んだか」
「死ンデネーー!」

ガバっと起き上がるチャチャゼロ。
表情が固まっているのでよく分からないが、額に井桁マークが張り付いているところを見ると、かなり怒
っているようだ。

「成功ね」
「そのようだ。……なるほど、念能力を吹き飛ばすというわけか」
「さすが600歳。見ただけで分かったか」
「600歳言うな!」



紫弾の効果について。
絶を利用した技術で念能力もしくは体内の念を吹き飛ばす。効果は練の長さにより一瞬〜7日ま
で調整可能。ただしエナには大まかにしかわからない。
効果は煙に触れた時点で現れる。エナ自身も例外ではない。



「………」

それからしばらくして、エナとエヴァンジェリンが距離を開けて対峙する。

「ケケケ。がらニモナク緊張シテンゼ」
「そりゃ一時的とはいえ自由になるかならないかの大勝負だからな」

やることがないレンジとチャチャゼロは更に離れた所で2人の様子を伺っていた。レンジはワインを、チャ
チャゼロはウィスキーを持って食後の一杯と洒落込んでいる。
というかチャチャゼロはなぜ飲食ができるのだろう。これも魔法の神秘なのか。

「それじゃあ行くわよ〜」

エナはさっきと同じ念弾を掲げエヴァに合図を送る。エヴァは腕を組み、胸を張って堂々と立ち、無言
の返事を返した。
こういうところは600年も生きた真祖であると実感させられる。

エナは前振り等を省略して紫弾を投げた。
放物線を描き、チャチャゼロの時と同じように、着弾した瞬間紫色の煙が広がった。

ゴクッとレンジとエナは唾を飲む。その数秒後、煙は晴れた。

「体が……軽くなった気がする」

念弾を撃たれる前と何ら変わらないエヴァがそこにいた。外見は一切変わっていない。
しかし本人にしかわからない感覚があるのだろうか、しきりに体を動かしたりしている。

「もしかして失敗?」

エヴァの行動を不信に思ったのか、エナが駆け寄ってきた。

「いや、おそらく成功しているはずだ。なにか……枷が取れたような気がする」
「その割りには全然変わってないわね」
「登校を強制するだけの呪いだからな。朝になるまでわからん………だが」
「なにか?」
「………いや、なんでもない」

まだどこか腑に落ちないところがあるらしいが、本人は成功したと言っているので良しとする。しかし呪
いが発動する朝になるまで証明はできないので、レンジとエナは一日だけこの孤島に泊まる事にした

例え帰りたいと言っても丸一日出られないように出来ているのだが。

そんなわけで、暇を持て余したエナはさっさと報酬用の人形を選びに塔にもどった。何故かチャチャゼ
ロまで連れて行ったが、多分気に入ったのだろう。
レンジはエヴァの相手をすることになった。明日の朝まで酒に付きあわせるつもりらしい。





食事が所狭しと置かれていた名残は無く、今は簡単な菓子と酒が置かれている。
レンジはここのワインが気に入ったらしく、もう何杯も飲んでいた。

「気に入ったようだな」
「あぁ、その辺で売ってる4000円のワインに比べたら、やわらかさが全然違う」

この別荘のように時間を操れる魔法があるのなら、あっというまに100年もののワインもできるかもし
れない。
そう考えたレンジは軽い笑みを浮かべた。

「魔法ってのは便利だな。人形に命を宿すこともできる、こんなリゾートを持つことができる。正に人の
夢、人の業だよ」
「貴様が行った世界でも似たような念があるじゃないか」
「でも魔法は修練すれば誰にでもできる。念はそうはいかない。このアドバンテージを覆すのは難しい
ぜ」
「はっ!お前達は並みの魔法使いでは勝てないタカミチと私達を相手にして、自分を優位に保ってい
るじゃないか。エナは無詠唱で属性を付加した魔弾を撃ち、お前は時間すら操る。『赤き翼』の奴等
ですら不可能だぞそんなこと」
「なにその暗黒騎士が率いてそうな名前」
「ナギ………私に呪いをかけた者が率いていた戦闘集団だ。ネギの父親にタカミチの師匠もいる」
「ふ〜ん」

興味ナサス。と体全体でアピールするレンジ。

「お前の師匠はあの中にいるのか?」
「あぁ、ビスケさんに習った。効果的な使い方から弱点まで諸々教えてもらったよ」
「あのゴリラ女か。…………待て、お前の能力に弱点があるのか?」
「最強無敵なんて言葉は弱者の言い訳らしいぜ。『世は回り回って巡回する。対極にあるものは自
分に足りないものである』って言ってた」
「貴様の対極?………わからん」
「言われてみると納得するぜ。生憎俺は言わねぇぞ」
「いいさ、じっくり模索させてもらう」

エヴァは茶々丸にシャンパンを注がせ、一気に呷る。

「この平和な日本から殺伐とした漫画の世界へ。魔法使いにとっても夢のような話だな」
「一般人が見る夢である魔法使いが見る夢か。シャレがきいてるな」
「向こうの感想はどうだった?」
「どこの世界も変わんねぇ。そんだけだ」
「それこそ洒落がきいているな」
「まったくだ」

2人は同時に酒を呷った。
酒と肴。この2つを吟味しながら、2人の夜は更けていく。






へっくし!!





「というわけで朝だ」
「待てや。くしゃみで夜から朝になるってどういう原理だ」
「『パパノンクルマゲハ』という魔法だ。詠唱ではなくクシャミで発動する天候呪文だよ」
「夜から朝にしか出来ないくせになにが天候呪文よ」
「『ノモラカタノママ』でやってもいいぞ」
「是非とも見てみたいが却下だ」

理不尽極まりない魔法だが出来てしまったものは仕方が無い。話を続けよう。
別荘で丸一日過ごして出てきたレンジ達は、別荘での一日は現実の一時間というカラクリに度肝を
抜かれた。
しかし外はまだ夜。また何時間も待つのは御免こうむると言った矢先が、さっきのクシャミというわけだ。
時間も調整されているようで、現在午前8時。登校するのにギリギリの時間帯である。
いつもなら8時10分になると同時に呪いが発動するらしく、きっかりあと10分。
誰でも経験があると思うが、こういうときの数分は異様に長く感じるものである。
エヴァ達は緊張した様子でその時を待った。






結果は単行本3巻67ページを見よ!!








あとがき


修羅の世じゃなくネギまに力を入れいる自分がいる。

もしかしたらメインをネギまにする日が近いかもしれない。

そんな私をののしってください。