「なんというデリシャス!」
夜の寒空に暖かい点心と熱燗。労働の後ということもありその味は格別だった。
路面電車を改造した屋台『超包子』。生徒だけで構成されている屋台だというのに、その繁盛っぷりは一流レストラン並。
料理長の人柄も人気の一つで、みんなから『さっちゃん』と呼ばれている。
調理師免許とか商売に関する法律とか、野暮なことを言ってはいけない。
ここは夢が混ざっている学園なのだから。
(警備の仕事お疲れ様です)
「お酒は甘酒からスピリタスまで揃えてるネ!でも死んでも当方は責任取らないヨ!」
「一人一巡2つまで!割り込み厳禁アルよ!」
今日は茶々丸という最強戦力が欠けているのでセルフサービスのようだ。
重労働の後、しかも明日が休みということも手伝って(だって原作で私服着てた奴いるもん)即席屋台は大いに賑わっていた。
「君も結構いける口だね」
「品行方正ってわけじゃありませんでしたから。酒は結構早い時期に覚えましたよ」
「現職教師の前で言うかな普通」
「とっくに時効でしょう。昔は俺も悪だったって奴ですよ」
それが今では念を使う警備員。人生なにが起きるかわからないとはこのことだ。
成年のレンジはエナと別れて飲酒組に混ざっていた。タカミチと飲み交わし周りの魔法使いとコミニュケーションを取っている。
所変わって、エナがいる酒が飲めない組では。
「ワタシと勝負するアル!」
「なんでこうなるの」
ネギま×HUNTER!第6話『中華娘は念を習う!?』
あ…ありのまま『昨日』起こった事を話すわ
『崩れたかけた皿を崩れる前に素早く積み直したら喧嘩を売られた』
な…何を言ってるのかわからないと思うけど
私も何を言われたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
喧嘩早いとかキレやすいとか
そんなチャチなもんじゃ断じてない
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったのよ。
そして現在進行形で追いかけられてるわ!
「勝負するアルーーー!」
「えーいしつこい!」
纏を最大限駆使して学園中を走り回るエナと、同じ速度で追う中国武術研究会部長『古菲』。
転校初日にエナが確認した『オーラが充実している若干数名』の一人である。
日曜日で人が多い歩道を避け、屋上や電信柱を使って逃げているというのに、微妙に一般人である古菲はまったく同じ速度………どころかJOJOに距離を縮めていた。
目立ちまくって一般人に見られているが、古菲が関係しているのでいつものこととして見られている。
お陰で誰も通報したりしない。
「どうして偶の休みに鬼ごっこなんかしなきゃいけないのよーー!」
「待つアルーーーー!」
タイマン鬼ごっこは一時間続いたという。
そして世界樹広場へ
全身汗だくで息を切らせて、もうこれ以上動けませんと全身でアピールしている。
「さぁ……勝負……するア…ル」
「根気勝負は…負けでいいから……もう勘弁して」
中華娘が上記のそれに対し、エナは少し余裕があった。
効果的にオーラを使っているため常に全力使用の古菲とはわずかな差になった。
あと一時間も逃げれば完全に振り切れるだろう。
しかしそうすれば明日も同じことをする羽目になる。火を見るより明らかだ。
そもそも自分は何で逃げていたのだろう。こんなのはさっさとボコッておとなしくさせればいいじゃないか。
エナは放出系らしい短気な思考が結論を出した。
「わかったわよ。10分待ってあげるからさっさと準備して頂戴」
「おぉう!?ホントアルか!?あとになって『やっぱ無し』は聞かないアルよ!」
よほど意外な言葉だったのだろうか。心底驚いた表情をしたが、すぐに大喜びする。
しかも一瞬でオーラが充実して、疲れも現在進行形で癒しているようだ。
「(後先考えない上単純、プラスして人の意見を聞かない。強化系特質寄りかも……)」
レンジは、魔法使いはいるが念能力使いはいない。しかし4大行は自然に身につくものだから纏と絶ぐらいは使える奴もいる。と言っていた。
何か武術を嗜んでいるようだし、修行によって偶然目覚めたのだろう。
しかも本人はうまく扱えてない。この程度なら『能力』の方を使わなくても十分だろう。
「フフフフ、最近強い奴が居なかったから楽しみアルよ」
なんか表情とか雰囲気がガラっと変わった古菲を見て、やっぱり本気を出そうかなと考えるエナだった。
ドゴゴゴゴゴとか背後で鳴ってるし。
そして10分が過ぎた。完全に復活した古菲はすでに構えている。
エナは見慣れない構えに警戒し、最初から『堅』を纏った。
「(この威圧感……やっぱり只者じゃないネ!)」
古菲の表情はそのまま、しかし心は躍っていた。
しかも相手の雰囲気からして、一撃で決める気のようだ。
ならば受けて立つのが礼儀。
古菲は静かに解きの時を待つ。
「(そういえばゴンもこんな感じだったわね。ホントバトルジャンキーってのは)」
負けると思っていない。絶対の自信を持ってエナは我流の構えを取る。
一撃で終らせる。これから用事があるのだから風呂に入らないといけない。
余計な手間を取らされたのだからそれぐらい構わないだろう。
エナは静かに解きの時を待つ。
2人の心境とは逆か、それとも表しているのか。
世界樹の麓の広場は静かな時間に満たされていた。
春らしく暖かい風と鳥の鳴く声が辺りを包む。
それは偶然か、2人の額から顎にかけて汗が伝う。
鬼ごっこの熱がまだ冷めていなかったらしい。
汗は少しずつ水分を増やしながら、万有引力の法則に従って、
同時に地面に落ちた。
古菲は活歩、エナは流でオーラを足に集中させて跳ぶ。
空気にすら当てられそうな拳を、古菲が一瞬先に打ち出した。
エナは腕で受け止め、反動を利用して体を回転させて古菲の真横に移動する。
がら空きの脇腹へ真直ぐ拳を打ち出した。
しかし、次の瞬間真下から打たれた古菲の蹴りがエナの顎に当たる。
「(うまい!)」
これはエナ自身も賞賛した。威力、スピード共に絶妙な体位と体重移動が揃わなければできない一撃だったのだ。
後ろに跳ばされるエナ。だが彼女も負けてはいない。
跳ばされた勢いを利用して、振り抜かれた古菲の足を蹴り上げた。
自分の勢いにエナの蹴りが相乗したため古菲自身も跳ばされる。
「(一合目は引き分け)」
「(次で決める)」
同時に着地する2人。そして休む暇を二重の意味で与えず、また同時に接近した。
先に動いたのは、またしても古菲だった。
体を落としての下段蹴りを払う。エナは古菲の頭上を飛び越して避けた。
それが古菲の狙いだった。すぐに足を戻した古菲はしゃがんだまま逆立ちをする。
そしてエナが着地をした瞬間飛び上がるように蹴りを放った。
体勢が整っていないエナは避けずに両腕で防ぐ。
「もらったアル!!」
一瞬の硬直を見逃さず、古菲は足を開いて大きく回転させた。エナの無防備になっている脇腹へ古菲の蹴りが命中する。
急ぎの繋ぎだったため威力は期待出来ないが、エナを弾き飛ばす程度の威力はもっていたらしい。
こっちの世界に来て、初めてエナが地面に倒れた。
完全に無防備。古菲はその瞬間を逃さず、一気に距離を詰めた。
慌てて立ち上がるエナ。しかしもう遅い。古菲はすでに崩拳を放つ瞬間まで来ていた。
だがエナは腕を伸ばす。拳を作らず開いたままで。
ドン!!と、大きな音がした。
エナの鳩尾に触れている古菲の拳。逆にエナの手は古菲に届いていない。
だが倒れたのは古菲だった。
目を開いた瞬間、金色の糸と青い空が見えた。
「負けたアルか」
「勝負はね。でも試合はこっちの負け」
その言葉に古菲はムッとする。
「試合をした覚えはないアル。いまこの状況が勝負の全てネ」
「気分の問題よ。主に私のね」
エナは柔らかい笑みで答えた。戦っているときの顔とはかけ離れている優しい顔で。
古菲は腹部の痛みを堪えて起き上がった。服をまくって患部を見ると、鳩尾のところに丸い痣が出来ている。
ようやく正座から介抱されたエナは足を崩す。どれくらいだか知らないが、ずっと膝枕をしていたらしい。
「最後のアレ、一体何をしたアルか?」
「………」
やっぱり聞いてきたか。エナはそんな顔をする。硬や堅だけなら気でなんとか誤魔化せそうだが、能力ともなればそうはいかない。
さてどうやって誤魔化そう。そう考えると、古菲が真正面まで迫って来た。
「その顔は嘘をつこうとしてる顔アルな?」
「…………」
滝汗を流すエナ。バレたとか何故分かったとかではなく、『この味は嘘をついてる味アルね』と言って頬を舐められなくてよかったと心底思ったからだ。
「もし嘘をつくつもりなら今思ったことをしてもいいアルよ?」
エナは今日二度目の敗北感を得た。
んで
「ここに何か見える?」
エナが掌を古菲に見せる。ジ〜っと眉をしかめて凝視するが、古菲は首を横に振った。
「OK。じゃあそこの岩を見てて」
エナは地面に埋まっている岩に向って手を振る。すると岩が粉々に砕けた。
「おお!?」
「これが念の力。あなたに当てたのはもっと威力の低いやつだけど」
「やっぱり手加減してたアルか!?」
「無茶言わないでよ。耐性のない人に本気で当てたらミンチよミンチ」
そう言われて古菲は身震いした。流石にまだ若い身空で肉塊になりたくない。
それからも古菲の質問は続いた。他にどんな技があるのか。誰に習ったのか等色々。
そしてお約束のように、最後にこの質問が出る。
「私にも教えて欲しいアル!」
「ムリ」
あんまりと言えばあんまりの即答に古菲はorzになった。
「何故アルかーー!」
「だって私教え方知らないもん!」
「そんなの知らないアル!ずるいアル!」
「落ち着けーー!」
ガックガックと揺らされ、エナはちょっと吐きそうになった。
「代わりに教えてあげられそうな人紹介するから」
「その人はエナより強いアルか?」
「強いかどうかはともかく、今の古菲なら絶対勝てないわよ」
「おおう!?」
言い切ったエナのセリフに驚きつつも、やはりどこか嬉しそうな顔をする。
2人はその人物の話をしながら、その人物が居るところへ向った。
「ということがあったわけで」
「お前俺の休日を何だと思ってるわけ?」
ワインを片手に、レンジは大きく溜息を吐いた。青々しい空が映えるリゾートにいるというのに、心はすでに曇り空。一気に気分が萎えた。
ご存知ここはエヴァンジェリンの別荘。定期的に外へ出て遊びたいというエヴァの要望に応え、代わりにここを使わせてもらう約束をしたのだ。
常夏風な格好をしているレンジだが、片手のワインが死ぬほど似合わない。
「しょうがないじゃない。私じゃ教え方知らないんだし」
「俺だって分かるわけねぇだろ。急に目覚めたんだから」
「でもほら、これ見ながらならできるんじゃない?」
エナはそう言ってHUNTER×HUNTERの単行本を取り出した。ゴンとキルアがウィングやビスケの修行を受けているシーンが載っている。
「私じゃまだ日本語わかんないからさ、レンジが一番最適なのよ。お願い、私の顔を立てると思って」
「お願いネ!私はまだ強くなりたいアル!」
2人同時に頭を下げる。さすがにここまでされて断ってはなにか悪い気がするのが人というものだろう。
「はいはいわかったわかった。纏まで出来てんなら他のもすぐできるだろ。適当なところまで手伝ってやるよ」
「ありがとうアル!」
太陽のような、と表現できるほど古菲は喜んでもう一度頭を下げた。
「では早速指南を!レンジ師父!」
「シフ?あぁ師匠のことか」
「教えてもらうのならこれぐらいあたりまえアル!」
そのうち家事全般も修行の一環とか言って押しかけて来ないだろうか。レンジはそこんところが非常に心配だった。
「つっても念を教えるだけならそう意気込むことなんかねぇよ。纏は使えるんだろ?」
「硬気功のことアルか?」
古菲は気合を入れる。レンジ達から見たら完全に纏をしているようにしか見えなかった。
「それを俺達は『纏』と呼んでる。4つある基本の一つだ。じゃあ次は『練』をやってみようか。エナ、手本を見せてやれ」
エナは頷いて自然体になる。そして纏から更にオーラの量を増やした。
「なんか威圧感が増した気がするアル」
「気の量が増えたからそう感じるだろうな。続いて『絶』だ」
エナの体からオーラが徐々に減り、普段垂れ流している程度のオーラも消える。
「気配断ちに似てるアルな」
「どっちも同じ意味だな。ただ絶は意図的に消してる感がある。最後の一つはこの2つができるまでお預けだ」
「了解アル!」
と言って早速『練』してみる古菲。流石に心得てるだけあってかなりの量のオーラが出てきた。
「(見ただけで本能的に理解したな。天才ってどこにでも居るんだな〜)」
「(さすがバカイエローって言われてるだけあるわね。勘が野生児並)」
馬鹿と天才紙一重。その言葉を噛締める2人であった。もしここにビスケが居たらゴン達と同じように嬉々として鍛えただろう。
「本を読み返して似た修行でもさせるか」
数分後、練でオーラを出し尽くして倒れた古菲を見て、ちゃんと育ててやろうと心に決めるレンジだった。
それから古菲はエヴァの別荘の仕組みを知り、昼に学校と部活、夜はレンジとエナから念の修行を受けていた。
修学旅行まで一週間をずっと修行で費やす気のようだ。
「駄目だ、まだ漏れているぞ!自分の外と内にオーラを感じて、更にそれを内に抑えるイメージだ!」
「はい!」
「気張るな!自然体で自分の全てを消せ!」
かな〜り意外なことに、レンジの教えはそこそこ的確な部分をついていた。横でエナの手本を見せながらかなりの速度で成長を促している。
「………。よし、その状態を可能な限り維持しろ!一度できれば慣れの問題だ」
「はい!」
元々できる纏と錬は一足飛びで卒業し、絶も今聞いたようにほとんど完成している。
もしかしたらゴン達より筋がいいのかもしれない。
「まったく、勝手に人数を増やしおって」
水着姿のエヴァが茶々丸とチャチャゼロを連れて様子を見に来た。食事を持ってきている辺り、もう昼らしい。
「別にいいじゃねぇか。こんだけ広いのに4・5人だけっつーのは寂しいもんだぜ」
「………。何故だろうな。これから更に増えていきそうな悪寒がするのは」
予感ではなく悪寒と言う辺り実に勘がよろしいようで。
「…………。あ」
気が削がれたのか、古菲の体から微妙にオーラが漏れた。そこから決壊したように体中からオーラが溢れ出す。
「匂いに当てられたな。丁度いい、飯にするぞ」
「うぅ……精進するアル」
情けないやら恥ずかしいやらで古菲は俯いた。
茶々丸が作ってきた料理に超包子の点心で豪華な昼食が広がっていた。
どうやら魔法で新鮮なまま保存しているらしく、どれもできたてホヤホヤである。
『いただきます(アル)!』
おんどれは『アル』をいれないと気が済まんのかいと肋骨が折れるぐらい突っ込みたいが、食事中に野暮はよそう。
「さて古菲」
「?」
ちゃんと噛んで食っているのか疑わしい速度で食事をする古菲にレンジは切り出した。
「『纏』『練』『絶』を出来た以上、お前に最後の一つを教える義務ができた」
「おぉう!?とうとうアルか!?」
「おう、まだ3日しか経ってないがとうとうだ。だが教える前に聞きたいことがある。これはとても重要なことだ」
エナとエヴァの顔が鋭くなった。おそらく念を習得したあとのことを聞くだろう。
力を持った人間がやることは一つ。『力を使ってみる』だ。
はるか昔から、兵器だろうと魔法だろうとその誘惑に打ち勝つ者は少ない。
なにか質問して古菲の反応を見るつもりだろう。
そして、古菲は口を開いた。
「念を悪用するつもりなら毛頭ないアルよ?」
「あ、ならいいや」
エナとエヴァの顔が地面に埋まった。
「あぁ、マスターとエナさんが見事な足ズッコケを…」
茶々丸は慌てて2人を地面から引っ張り出した。
「おいこら!重そうな話で切り出しておいて、なんだその軽さは!」
「いいんだよ。こういう強化系な奴は思ったこと口にするから」
それは、良く言えば正直、悪く言えば馬鹿正直と言う。
「古菲!お前も適当なこと言ってるんじゃないだろうな!」
「武術において大切な『己が貫く義』を破れば、それはただの暴漢アル。私は一武道家として自分を偽りたくないネ」
誰もが聞いたことがある『心技体』の心得。ある流派はこれを『信儀態』と書くことがある。
『信じるモノを行儀とし、相応の態度で示す』
要は武術の本懐を理解して凛とせよ。ということである。
勝負しろと言って人を追い掛け回す古菲には未だ遠い境地かもしれない。
食事を一通り終らせた面々は水の上に葉っぱを乗せたグラスを中心に円状に座っている。
「『纏』『練』『絶』に習得したことにより、お前は念の出力を調整することができるようになった」
なんかパンダっぽい目になってコクコク頷いた。
「これから教える『発』は念の集大成だ。出した念を操り形にする。これで個々のチカラを得るようになるわけだ」
「魔法みたいに皆同じ力を使えるわけじゃないアルか」
「人には個性がある。念はそれが顕著に表れるんだよ。それを俺達は念系統と呼び、『強化』『変化』『放出』『具現』『操作』『特質』の六つに分けている」
レンジは纏を展開してグラスを囲むように手を置く。
「これは生まれたときから決められている。それを確かめるのがこの『水見式』だ」
レンジのオーラがグラスを包む。すると水の上に浮いている葉っぱがシュビビン!シュビビン!と動き出した。
「俺は操作系だから『オーラで何かを操作する』ことに長けているわけだ。ちなみに、グラスの中の水はオーラを表している」
「おおう!?さっそくやってみるアル!」
『(どうせ強化系だろうけど)』
その場にいる誰もがそう思っていた。実際彼女は単純馬鹿である。
そしてみんなの予想は
「あ、水の色が変わったアル。
あと葉っぱも」
『そんな馬鹿な!!!』
反対側の少し斜め上を通っていた。
古菲、特質系と判明。
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『絶対強化系だと思われた古菲が特質系だった』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
「そのネタはもういい」
スパーンとエヴァにハリセンで叩かれるレンジ。気が動転するぐらいショックなことだったんだろう。
「だってお前なら分かるだろ?あの古菲だぜ?一体どんな能力になるのか見当もつかねぇよ」
今はエナから特質系の何たるかを教えてもらっている。またパンダ目で頭にハテナがいくつも飛んでいるが。
「大まかにわからないのか?」
「……色が変わるのは放出系。それが葉っぱでなったってことは操作系も入る……かも」
「その2つに特化した特質か」
「いや、特質系に関しては決め付けはよくない。いずれ本人が欲しいチカラを与えてくれるさ」
「しばらくは基礎と応用で時間潰し?」
「そうなるな」
目の前ではエナが身振り手振りで教えているが、ハテナの数が増えるだけだった。
「本当に、世の中何が起こるか分からん」
別荘内深夜。南国の心地よい風のお陰でスヤスヤと寝る古菲達。ただしレンジはかなり離れた所で寝ている。
寝ながらでもクロノスライサーを張れるため、もしかかってしまったら数分で朝になるという拷問を受けてしまう羽目になる。そのためレンジだけは離れた場所で寝ていた。
そこから更に離れた場所の、蝋燭を一本立てただけの暗い部屋で誰かがグラスを前にして唸っていた。
「むぅ………やはりまだ無理か」
エヴァだった。どうやら水見式を試しているらしい。古菲の修行を盗み聞きして自主練習をしているようだが、なかなか芳しくなさそうだ。
「魔法使いにはできないものなのかもな……」
「それ以前の問題よ」
「うひゃぁ!」
突然かけられた声にエヴァは驚く。慌てて口を塞ぎ振り返ると、チャチャゼロを抱いたエナがいた。
「ケケケ、ソノ歳デ伸ビ悩ミカゴ主人?」
「う、うるさい!私は今後の役に立つと思ってだな!それより、何故ここにいる!それ以前の問題とはどういうことだ!」
「あれだけうんうん唸ってれば大抵気付くんじゃない?」
エナはそう言って近くにあったイスに座った。
「纏はできてるみたいだけど、出力が全然追いついてないのよ。ある程度密度を満たさないと反応しないわよ」
「そ、そうなのか………」
あきらかに気落ちしているのがわかる。蝋燭の明暗効果も手伝って演出もばっちりだ。
「そんなに落ち込まないの。ほら、もう一回手をかざして」
「あ、あぁ……だが今のままじゃ密度が」
「私の念で精孔を押し広げてあげる。出力は上がるから上手くいくはずよ」
エナの片手がエヴァの背に当てられる。そして軽くオーラを送った。
するとエヴァの体から少しだけ多くオーラが噴出す。
「ほら、今のうちに」
「よ、よし!」
改めてエヴァはグラスにオーラを送る。
すると、葉っぱの茎の部分から根が生え始めた。そして根はドンドン育ち、一枚の葉っぱで出来た木ができた。
「できた……」
「特質系ね。こんな反応見たこと無いけど」
「オレハテッキリ操作系ダト思ッタンダガナ。吸血鬼ダシヨ」
エヴァはグラスを大事そうに持って堪能している。よほど嬉しいのだろう。
「これには、どんな意味があると思う?」
「…………。このまま死ぬはずだった葉は根を生やすことで生き長らえた。そういうことなんじゃない?」
「いや、意味がわからんが」
「じゃあそれが宿題ね。ヒントは、特質系は皆自分勝手ってこと」
「お、おい待て」
話と用事はこれで終わり。エナはそう言って部屋から出て行った。
一人残されたエヴァは蝋燭に照らされる小さく、歪な木を見て、
「鉢植えに移してやるか」
小さく笑みを浮かべた。
「オイ、エナ」
「ん?」
「サッキゴ主人ニ言ッタ意味ッテナンダ?」
「ん〜〜、エヴァちゃんには内緒よ」
「合点ダ」
「植物だって生きてるのは知ってるでしょ?少し歪になっちゃったけど、根が生えたってことは植物として生きていける。エヴァちゃんの念はあの葉っぱを『救った』のよ」
「ツマリゴ主人ノ念ハ助ケタリ癒シタリスル能力ニ長ケテルノカ?」
「その可能性が高いだけ、だけどね」
「ケッ、ダークエヴァンジェルモ丸クナッタナ」
「………。念の系統は生まれたときから決まる。将来その人がどんな人生を歩いても変わらない。例え10歳の時、吸血鬼になったとしても」
「アン?」
「エヴァちゃんは生まれたときから、そういう運命なのよ」
「エナ?」
「生まれたときから決まった運命…………」
「オイ、ドウシタンダヨ」
「なんでもない、なんでもないのゼロちゃん」
エナはチャチャゼロを少しだけきつく抱きしめた。
「ただ、この世界も変わらないなって……思っただけ」
最近ネギましか更新してませんね。
そろそろ他のもがんばってみようかと思います。
でもBIOはサウンドノベルなんで更新とかできないんですね。
そんな私をツンデレチックにののしってください。