「明日京都に行っとくれ」
「は?」





ネギま×HUNTER!第7話『修学旅行珍事件その1〜何故オレはここにいる〜』






嵩田レンジは一介の警備員だ。決して教員ではない。
嵩田レンジは一介の社会人だ。決して暇人ではない。
嵩田レンジは一介の念使いだ。決して一般人ではない。

「そんな君もこの『修学旅行専用カメラマン』腕章があれば胸を張って修学旅行を堪能できる」
「行くことを前提に話を進めないで下さいよ。他の先生はどうしたんですか。いや、それ以前に行く必要がある理由を教えてください」
「さらにこの『団長』腕章があれば世界を改変できるかも―――」
「聞けやこら」

この場合の先生は魔法先生を指す。ちなみに、団長は何もない場所に何かを作る能力なので、改変というより作り直しが適切である。

「うちの木乃香が狙われててのう」
「ナンパ男にですか?」
「関西呪術協会の一派にじゃ」

どうやら本気でマジメな話らしい。レンジはそれを心得て先を促した。

「木乃香の父母は魔法界で屈指の実力を持っておる。自分で言うのも何じゃが、祖父のワシもそこそこ強いつもりじゃ」
「要は魔法界のサラブレッドってことですか?」
「例に漏れずにの。じゃが親の方針であの子には魔法関係の一切を教えておらん」
「まともな親ならそうするでしょうね」

一部の男性教諭は娘に魔法使いであることを教えているようだが?

「あの子の実家は京都なんじゃが、今言った事情でワシが引き取ることになっての。魔法使いが多く居るここなら警備も心配なかったんじゃ」
「それで今回の修学旅行ですか。城から出た世間知らずのお姫様は夜盗に襲われる」
「うむ。先方に敵意が無いと示すために魔法先生を2名しか配置できなかったんじゃ。一応こっち側の生徒にも護衛を頼んでおるが、これは緊急事態にならんと動かせん。なるべく旅行を優先してあげたいからのぉ」
「そこでどこにも所属せず、自由に動けるセキュリティが必要ってことですね。魔法先生は誰が?」
「ネギ君と瀬流彦君じゃ」
「応戦する気ゼロじゃないですか。瀬流彦先生は補助が主、子供先生はまんま子供でしょう」
「なにも戦うと決まったわけじゃない。あくまで万が一に備えてじゃ」
「発生確率の高い万が一なんて皮肉でしかないですよ。わかりました、受けますよ」
「気をつけての。相手はここを襲撃したとき数を減らされておる。なりふり構ってられんはずじゃ」
「………もしかしてそれオレの所為?」

先日の停電のとき調子に乗って捕まえまくった侵入者の中に、そう言う人たちがいたのだろうか。

「備品、経費は心配せんでいい。生徒達を頼む」
「任されますよ。身内と弟子がいますんで」

その2人なら虫キング級の敵が来ない限り自力で何とか出来そうな気がする。

なにはともあれ、レンジも修学旅行へ。





修学旅行当日。

午前五時半という人間が起きる時間じゃない時間に起きたレンジは、旅行バックとカメラマンセットが入ったジュラルミンケースを担いで社宅を出た。
始発で大宮駅に到着すると、違う車両から何人か麻帆良の関係者が降りてきた。

「あ、どうも」
「カメラマンの方ですか?五日間お世話になります」
「問題児が多いので苦労すると思いますが、よろしくお願いします」

同僚の瀬流彦先生と、高畑教諭との関係が囁かれているしずな先生、厳しいことで有名の新田先生。

「あれ?エナちゃんの保護者さんじゃん」
「ハ、ハルナそういう言い方は失礼だよ〜」
「警備員じゃなかったんですか?」
「これは副業なんだ」

桜通りで見知った3人。他生徒5人。

「おはようアル、師父!」
「おぅ、おはようさん」

弟子一人に、

「はっはっは、やはり来たかレンジ!」
「おはようございますレンジさん」
「ケケ、似合ワネェ格好ダナ」
「朝からテンション高すぎなお前。あとお前は喋んな」

吸血鬼とガイノイドと呪い人形1セット。

「…………」
「……(声をかけないでやるのが優しさなんだろうな、この場合)」

物陰に隠れている神鳴流剣士1名。

その他のクラスの子が続々と出てくる。
何気に5クラスも京都へ向うようだ。
学園長もその辺りを考えて1クラスに一人専属カメラマンをつけている。
当然レンジは3−A担当だ。

もし他のクラスが巻き込まれたら助けなければならないのだろうか。そんな事態になりませんようにと、レンジは心から祈った。


数時間後。

生徒の集合時間が過ぎ、駅のホームは女子中学生で大変混雑しております。
女3人揃えば姦しいというが、31×5÷3で51姦しいになる。
想像できるかどうか分からないが、とりあえず駅内の放送が一切聞こえないほどと言えば、少しは分かってもらえるかもしれない。
この時点でレンジは帰りたいと心から願っていた。

しかし、無常にもしずな先生が告げるのは出発の合図。荷物が多いため、レンジは3−A列の一番最後に並んだ。

「いよッス。結局来たのね」
「なんか一悶着あるってな。飛び火しないように気をつけるけど、一応気をつけてくれ」
「大丈夫でしょ。レンジなら」

最後尾の6班はエナを含め、見知った顔が半分もいた。6班にオアシスを見出したレンジ、なんとか気力を回復させ、京都へ向う新幹線に乗った。

「エヴァンジェリンさん!?あの、呪いの方は?」
「一時的に中和できる人物を見つけてな。その間私はただの中学生だ。何があっても巻き込むなよ」

はっはっはと、朝からハイテンションのまま自分の席へ向った。よほど京都が楽しみなんだろうか。

「申し訳ありません。マスターはこの修学旅行を一週間も前から楽しみにしてましたので」
「え?い、いいんですよ!エヴァンジェリンさんだって生徒なんですから!」

前言撤回。よほど京都が楽しみらしい。
そしてザジ、エナと続き、最後に桜咲が入る。

「6班は1名を除いて全員揃いました」
「あ、はい」

最後の班を見届けたネギはレンジと向き合った。実はこれが2人にとってファーストコンタクトである。ただしネギはレンジが関係者であることを知らない。
しかし、ネギの肩に乗っかっているオコジョことカモは、オコジョ魔法でも使っているのか、一瞬でレンジが只者じゃないことを見抜いた。

「(すげー。3−A関係者の中でもこいつがダントツじゃねぇか。こりゃなんとしてもパクティオを成功させねぇと)」

主思いなのか、金目当てなのか。おそらく両方だろう。このオコジョはそういう生物だ。

「いつも中等部を警備してる人ですよね?エナさんの保護者の」
「えぇ。今日は学園長に暴漢対策にと雇われた臨時のカメラマンです。噂は聞いてますよ、幼いながらよく頑張っているって」
「いやぁ、僕なんてまだまだです」

知ってるよ、とレンジは小さく呟いた。

「え?」
「いえ、問題児が多いクラスと聞きました。お互い頑張りましょう」

胃に穴が開かないように。レンジは心のなかで付けたし、関係者用の少し広めの席に座った。
温泉に入っているわけでもないのに、はぁ〜ビバノンノ。

「おいレンジ!休んでないで写真を取れ写真を!」
「あ、こっちもお願いしま〜す!」
「こっちも〜!」

彼の運命は、おそらくここで決まったのだろう。レンジはシクシクと哀愁漂う雰囲気でカメラの用意をした。





『CAMON製50倍光学式ズーム搭載手ぶれ補正付きデジタルカメラType20GB。オプションの赤外線装置を使えば夜でも布地の荒までバッチシ。さらに耐水、耐熱、耐電、耐ショック、耐魔法、防弾仕様。初心者から戦場カメラマンまで幅広く使える当社自慢の一品です』

「CAMONスゲェ!」

突っ込むどころかむしろ感心するスペックである。
説明書には他にも魔法を駆使したギミックが隠されていると書いていた。よく見ればカメラのあちこちに妙なボタンが設置されている。
とりあえず今は生徒を撮るだけなので、後で確認することにして説明書をケースに戻した。
疲れも吹き飛んだレンジは新しい玩具を手に3−Aの面々を撮り出した。
酔ってダウンしている子、問答無用で席から離れている双子など、実に様々な被写体が飛び交っていた。

「レンジ!あの山をバックにして撮れ!茶々丸もちゃんと入るようにな!」
「お前ホントテンション高いな」
「申し訳ありません。マスターは日本の景色が大好きなのです」
「えーい、さっさと撮らんか!」

はいチーズ。

「なんと、この席は回転するのか!レンジ、エナと茶々丸込みでもう一枚だ!」

はい発酵乳製品。

「おぉ、これが車内弁当か!レンジ、もう一枚だ!」
「自分ので撮れ!」

付き合い切れない、とレンジさっさと別の班へ向った。

「師父師父!私達も撮るアル!」

そこへ古菲が長身の女の子を連れてやってきた。尻尾っぽい部分長髪と細目が印象的である。

「(なんだろう。龍宮と同じ匂いがする)」

いろんな意味でそれは合っているが、そのセリフはなんとなく変態っぽい。
早速カメラを構えるレンジ。


そのとき、レンジは意図せずシャッターの横にあるボタンを押した。
瞬間、一瞬だけ画像がブレて下着姿の古菲と楓がレンズに映る。

「ブホ!!」
「ど、どうしたアルか!?」
「ななな、なんでもない!器官に入っただけだ!」

エフンエフンとわざとらしい席をしながらカメラを見る。外見は何も変わっていない。
レンジはもう一度カメラを構えた。
さっきと同じように下着姿の楓と古菲が映っている。これが説明書にあった魔法の効果なのだろうか。

「(同じ中学生だと言うのにこの戦力差は一体………)」

服が透けて見えることより女体の神秘のほうに目が行っているあたり、レンジも男である。

「なにかヤラシイ視線でござるな」
「師父〜、なにしてるアル」
「(おっとっと、やばいやばい)ピントを合わせてたんだよ。撮るぞ〜」

今度は意図して同じボタンを押した。するとまた画像がブレ、2人の格好は元に戻る。
安心してシャッターを押すレンジ。
なにかすっきりしない表情の2人を置いて、レンジは次のグループへ向った。

「あ、おじさ〜んこっちこっち!」
「おじ!?」

天罰覿面。周りからクスクスと笑いが漏れている辺り確信犯らしい。カードゲームをしているサイドポニーテールの子に呼ばれ、レンジはしぶしぶ赴いた。

「裕奈さん、お世話になる人ですし、もう少し言い方ってものがあるでしょう!」

ちょうどそこには担任のネギや、クラス委員長の雪広あやかがいた。
その2人も交えて写真を撮る。裕奈だけ顔が切れているのはささやかな仕返しだ。

「すみません、非常識な方が多いクラスでして」
「気にしてないから」

めっちゃ気にしている声音だった。

「さて次はどこに」

気分を変えて別の班へ行こうとするレンジ。そのときだった。

「キャ、キャーーー!!」
「カエルーーー!」

ゲームに負けた早乙女ハルナが、罰金として渡すはずだったお菓子の中からカエルが飛び出す。
それを境に車両のいたるところからカエルがモロモロと溢れ出してきた。

持参の弁当箱、水筒。果てにはバッグの中から。

「どうしたんですか!?わっ、なんですかこのカエルの団体さんはー!」

かなりの量のカエルが溢れてしまい、車両の中はパニックになった。ネギや古菲を含む気の強い子は必死でカエルを回収するが、狭い通路にイスがあるためなかなか思うように行かない。

レンジは円を車両一つ分まで広げて『クロノスライサー』を発動させた。
円の効果も継続されているのでどこになにがあるのか感覚で知ることができる。

レンジは円から生徒が出ないように気をつけながら黙々とカエルを回収した。レンジにとって5分。周りから見たら一瞬で、カエルはその姿を消した。

「わっわっ……アレ?消えちゃった」

急に現れたり急に消えたりで混乱する生徒達。ネギはすぐ被害の確認と対処を伝える。この辺りはネギの非凡な才能を感じる瞬間である。
レンジはすぐに近衛木乃香の安否を確認した。カエル騒動で目を回しているがとりあえず無事の様子である。

「(誘拐が目的じゃない?なら一体なんだ?)」

その答えはあっけなく知ることになる。ネギが不用意に取り出した親書を一匹のツバメが咥えて飛んで行ってしまったのだ。
レンジは可視領域を出ないうちに凝でツバメを見る。
一瞬だけ捉えたそれには、紙の芯とオーラでできた肉が見えた。

「あれが呪術か………ほとんど念と同じだな」

ネギは慌ててツバメを追う。だがレンジはその場に留まった。ツバメが陽動という可能性を考えると、いつの間にか居なくなっている桜咲の代わりに木乃香を守らなければならない。

騒動で涙目になっている面々を写真に納めながら、レンジは桜咲が帰ってくるのを待った。






その後、何事もなく旅を続けられたネギ達は、到着予定時刻の午後一時に京都へ着いた。

「まったく、とんだ災難だった!キャーキャーうるさくて景色を堪能できなかったではないか!」
「その割りには弁当にカエルが乗って驚いてたじゃない」
「言うなーーーー!」

清水寺へ向うバスの中でもエヴァはハイテンションを崩さなかった。もう今日はずっとこの調子だろう。
狭いバスの中では特にすることがないレンジは、カメラの説明書をもう一度読み直していた。もちろん透写機能の部分を重点的に。

「なになに?千里眼技術を応用した透写機能は敵の服を透過し、武器や異物の発見に貢献できます。そのまま撮影すると透過したまま記録が可能なので証拠などにも使えます。被写体には充分注意してください。………ん?PS?……これで木乃香を写したら給料カットじゃ。木乃香以外なら大歓迎じゃぞ。…………」

レンジは透過ボタンをONにし、

「瀬流彦先生、新田せんせい、一枚お願いしま〜す」

なるべく被写体を見ないように撮影した。



閑話休題



「はいチーズ」

清水寺をバックに集合写真を撮るレンジ。
無事寺まで着いた中等部はエヴァ並のハイテンションで寺内をはしゃぎ回っていた。
ちなみに当のエヴァはというと。

「はーーーはっはっはっは!これが夢にまで見た京都の清水寺か!やはり写真で見るよりいいな!」

手すりの上で仁王立ちしていた。関わらぬが吉だろう。
他にエナやネギ、超といった海外組は夕映のありえないまでに詳しい説明を聞き入っている。

「誰か飛び降りれ!」
「では拙者が」
「おやめなさい!」

馬鹿が何人かいるようだがそれはエヴァと同じ方向で。

「すいませ〜ん、写真お願いしま〜す」
「はいは〜い」

大仏や鉄具、デカイ香炉をバックに写真を写す。エヴァとか見なければ実に平和な修学旅行のワンシーンだった。
このまま安らかに終らせてくれねぇかな〜。と現実逃避してみるが、

「はははは!見ろ茶々丸!この角度から見ると光が反射して目が光っているように見えるんだぞ!全身光沢も考え物だな!」
「マスター、そこは立ち入り禁止………」
「おい、向こうに鉄具を全部装備した外人がいるらしいぞ!」
「誰かがホントに飛び降りたーーーー!!!」

全部身内なんだろうな〜。
それがわかってしまう悲しさは如何程だろう。レンジはそっと涙した。





その後、恋占いの石で落とし穴にかかったり、縁結びの滝に酒を入れられたり、命に関わる程ではない
嫌がらせが3−Aを襲う。
なんとか旅館まで辿り着いたネギ達ははしゃぎすぎということで誤魔化した。
現在アスナとカモで話し合い中。

一方もう一つの勢力は。

「風流だ……」
「酒もうまい」
「ユカタもいい感じ」

おもっくそ旅行を満喫していた。

「そういう場合じゃないでしょう!」

ドスンとテーブルを叩く刹那。茶々丸がいれたお茶が一瞬宙に浮いて元の場所に落ちた。

「お嬢様にとって、思い出になる修学旅行が邪魔されてるんですよ!?しかもこんな陰気な方法で!」
「私は無関係だ。今は一端の女学生にすぎん」
「麻帆良の権力外ですのであまり目立った行動は取らないようにと……」
「オレハ動ケネェ」
「別にいいじゃない。まだ(自分に)被害っていう被害が出たわけじゃないんだし」
「あまり言いたかないが、ネギに任せて傍観してたお前も悪い」
「…………」

最後のはザジだが、基本的に関係ないため窓辺で鳥と戯れている。そろそろ日が沈むが鳥はちゃんと帰れるのだろうか。
それともペットだろうか。ペット同伴で旅行とはいい度胸だ。

「相手が誰だかわかんねぇんだから待つしかねぇだろ?誘拐が目的なら絶対今夜来るはずだ」
「どうしてそう言いきれるんですか?」

かな〜り疑わしい視線で聞く刹那。それに答えたのはレンジではなく、一緒に酒を飲んでいたエヴァだった。

「たしかにやり方は一見地味で陰気だ。だがそのおかげでルームメイトの半分は酔いでダウン。そして班ごとの入浴。お膳立ては揃ってるとおもうが?」

敵はアホらしく見えて実は深いところまで考えているらしい。

「見学中、旅館の部屋では人目があるが、『露天風呂』なら容易に外から連れ出せる」
「ましてや相手は一般人を巻き込むことに躊躇がない。ついでとか言って何人か人質程度で攫うかもな」
「そこまで予想してて何もしないんですか!?」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」

レンジはおちょこを置いて直接徳利で酒を飲む。ちなみにここで飲まれている酒は悪戯に使われた酒樽で、レンジがお持ち帰りした。

「同じ学校に同級生で同じクラス。護衛する立場ならなにがなんでも同じ班になるのが普通だろうが。なに進んで面倒くさいことやってんだよ。幼馴染だろ?一緒にいりゃいいじゃねーか」
「わ、私はお嬢様と気軽に話せる立場じゃ―――」
「任務のためにはあらゆることをしなければならない。正当化されなければならない。これ常識よ」
「私は!…………私はお嬢様と仲良くする資格なんて………っ」

刹那は言葉につまり、逃げるように部屋を出て行った。

「いじめすぎじゃない?」
「ああいうナルシスマゾにはちょうどいい。事情は知らんが、アレは不幸な自分に酔っている節がある」
「ケケ、不幸自慢ハ気持チイイカラナ」
「そんなもん?」
「さっき刹那が言っていた『自分に資格がない』ってやつ、よくよく考えればおかしな話だろ。資格は自分で取るか他人から貰うもんだ。ああいう自分を追い詰めるタイプにはありがちな考えだな」

グビっと酒を呷る。コイツは本当に酒をよく飲む。

「じゃあ先に風呂行ってくる。そのあとは女共の風呂上りセクシー写真を撮るからな」
「レンジ!」

部屋から出て行こうとしたレンジをエヴァが止めた。

「その前に風呂前の浴衣写真を一枚頼む」
「お前はとことん遊ぶつもりか」

ザジも入れて、はいチーズ。



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外気の涼しい風でできる湯気。演出効果を狙った天然の岩風呂。完全に日が落ちて青みの掛かった夜の空。

「風が気持ちいいね〜」
「これで桜咲刹那の件がなけりゃ〜な〜」

約一匹に突っ込みで集中攻撃したいがとりあえずやめておこう。

「カモ君どこからお酒持ってきたの?」
「さっきエヴァんとこ行ったらカメラマンの奴が飲んでたからこっそりもらってきた」
「生徒の居る前で飲んでたの?困るなぁ、あとで注意しておかないと」

まず目の前のオコジョが飲んでいることを注意しろと声を大にして言うZE。あ、突っ込んじゃった。

「ところで兄貴よぉ、桜咲の件は考えてんのかい?いくらアスナの姐さんがいるからって、達人との実力差は埋められねぇぜ」
「う〜ん、できれば戦わずに終らせたいんだけど……」
「あま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!」

どこかのワゴンな甘いを披露するオコジョ。

「甘すぎるぜ兄貴!こっちがやりかえしても正当防衛だぜ?まだ悪戯程度だが、調子に乗ってエスカレートして生徒が怪我でもしたらどうすんだよ!」
「まだ桜咲さんって決まったわけじゃ……」
「怪しい奴を怪しまなくてどうすんだよ。それに新幹線の時だって言われただろ?ありゃ宣戦布告だったかもしれねぇじゃねぇか」
「そんなぁ……」
「しかも相手は未知数。こっちは姐さん入れても2人。冷静に考えれば圧倒的不利な状況なんだぜ?」
「あわわわわ。ど、どうしたらいいのかなカモ君」

カモの顔が『その言葉、待ってたぜ』な感じの劇画タッチになった。

「安心しなせぇ。こんなこともあろうかとこのカモミール、ちゃんと調べておきやしたぜ」

そう言って空中から巻物をボゥンと取り出す。

「新幹線に乗るとき俺ッチの魔法で簡単な実力審査をしといたんだ。この中の誰かと仮契約すりゃ勝機が生まれるってもんよ」
「えぇ!?でもこれ以上誰かを巻き込むなんて」
「言うと思ったぜ。だが安心しな。多分コイツは裏の人間だ」

そう言ってカモは巻物の一番隅に書いてる人物を指差した。

「『嵩田レンジ』。こいつぁ簡単に調べただけでも桜咲刹那より強ぇ。あのエナって女も侮れねぇが」
「カメラマンの人?そういえばエナさんをマフィアから匿ってたって聞いたけど」
「ただの人間がそんなことできるわけねぇ。麻帆良の警備員ってのもきっと仮の姿だ」
「う〜ん、でも協力してくれるかなぁ」
「いざとなったら、変な連中に生徒が狙われてる=エナも狙われてるってことにすりゃ―――」
「そうなったら俺はまず犯人に同情するよ」

急に隣から声がして、ネギは反射的に小さな杖を構えた。
件の人物は、盆に酒を乗せて月見酒としゃれ込んでいる。まだ飲んでるのかこいつは。

「(そんな……いままで気付かなかったなんて)」
「(完全に気配を消しやがったんだ。やっぱりこいつはビンゴだぜ)」
「(どうしよう。カモ君と喋ってるの聞かれちゃったよ)」
「(いや、丁度いいかもしれねぇ。事情を話して協力してもらおうヤ。俺ッチに任せてくれ)」

カモは自分の徳利を持ってレンジの隣に座った。

「いい月ですなぁ」
「あぁ。いい日に京都に来れたらしいな」
「あんた、驚かないんですかい?オコジョが喋るなんざ普通じゃありゃしやせんぜ」
「喋るだけならカラスや九官鳥だってできる。人の言葉は人だけの言葉じゃないのさ」
「こりゃ一本取られやした。まぁ一献」
「これ俺の酒だろうが」
「おっと、バレてやしたか」
「仕事柄、気配には敏感でねぇ。あんた名前は?」
「アルベール・カモミール。気軽にカモって呼んでくだせぇ。実は折り入って旦那に話がありやす」
「話は全部聞かせてもらったよ。随分とお困りのようだ」
「それなら話は早い。ぜひ協力してくれちゃもらえませんかい?」
「ふむ……」

レンジは何も答えずに酒を飲んだ。ちゃんとした理由とメリットを話せと言う合図である。

「このまま旅行を続けても悪戯ばかりでいい思い出なんかできやしねぇ。もしかしたら取り返しのつかないことになるカモしれねぇ。身内がいる旦那には分かるんじゃありやせんか?」
「そうだな」
「このままマゴマゴしてても拉致があかねぇ。しかし犯人らしき人物を見つけてもあっし達には戦力がない。どうですかい?あっしらと組む意味はあると思いやすが?」
「ふむ……」

レンジはもう一回酒を飲む。カモは黙って返答を待った。

「カモよ」
「なんでしょう」
「お前は根本的な間違いを犯している。何故俺とエナが敵じゃないと言える?」
「!?それは……」
「警備員なのにカメラマンとしてついてきた不自然さ、今のところまったく被害にあっていないエナ。なにより学園外から来た裏の人間。それこそ、冷静に考えれば怪しいことじゃないか?」
「た、たしかに」
「一つのことに集中しすぎて全体を見るのを怠ったな。何故俺たちが味方だと思ったんだ?」

今度はお前が答える番だ。という意味を込めて酒を返す。
カモは小さなお猪口からグビっと飲む。

「………御2人の『目』です」
「目?」
「新幹線であなた方を見たとき、純粋に旅行を楽しもうとしてた目をしておりました。刺客にそんな澄んだ目はできやせんよ」

だが、エナは何があるか知ってて楽しもうとしてたし、レンジに至ってはその時点で帰りたがっていた。

「だからネギの兄貴に相談されたとき、あっしは真っ先にあなた方に助力をと」
「…………」
「迷惑……でございやしたか?」
「ふっ、カモよ………お前は自分を誇っていい。お前はいい目を持っている」
「それでは!」
「いいだろう!この嵩田レンジ、お前達に協力してやる!」
「や、やったぜー兄貴ーー!」
「すごい、すごいよカモ君ーーー!」

交渉成立。その喜びをカモとネギは飛び上がって表現する。

「あ〜それでなカモ。根本的な間違いはもう一つあるんだ」
「なんスか?」

ようやく小芝居をやめて素に戻る2人。

「今の会話、桜咲も全部聞いてる」

な?というレンジの合図で、ネギの近くにあった岩の影から夕凪を持った刹那が出てきた。タオルを体に巻いている辺り、風呂には入ろうとしていたらしい。おそらく直前でレンジに止められたのだろう。

「なんですとーーーーー!」
「あっはっはっはっは!」

カモの顔が文字通り『叫び』になった。悪戯が成功したのでレンジは盛大に笑う。

「えぇっと………ネギ先生、誤解されているようですが、私は一応味方です」
「へ……?」

刹那の予想外な発言にネギは呆ける。一通り笑ったレンジがその先を続けた。

「桜咲は近衛を護るために雇われた剣士だよ。関西呪術協会が生徒に手を出してる以上、必然的に近衛を護る桜咲はネギ先生の味方ってことになるな」
「そ、そうだったんですか!?よかった〜。……あれ?じゃあ嵩田さんは?」
「俺は学園長に雇われた正真正銘の警備員だ。今朝言ったことも本当だぜ。生徒を苦しめる不届き者を成敗する影のヒーローってな」
「ひ、人が悪いぜ旦那〜」
「あっはっはっは」

なにはともあれ、ネギとカモは心強い味方が出来て安堵した。この2人を加えて総勢4人(+1匹)。これだけいれば何があっても対処できるだろう。

そして、それを試す機会は意外に早く訪れた。

「ひゃああぁぁぁ!!」
「この声は!?」
「お嬢様!?」
「あ、考えてみればノーマークだったな」
「ちょっとぉ!なによこのサルーー!」

続いてアスナの悲鳴が聞こえ、ネギと刹那は急いで脱衣所へ向った。
一方、レンジは湯に浸かったままチビチビと酒を飲んでいる。

一分もしないうちに脱衣所でバタバタと一悶着があり、ネギ達の油断をついてサルの集団が木乃香を露天風呂まで運び出すことに成功した。

「まだまだ未熟だ、桜咲」

クロノスライサー発動。木乃香も含めてサル達の時間はほぼ止まった。
慌てて出てきた刹那は異様な光景に驚く。

「あなたの力ですか?」
「まぁな。手加減してるけど。さっさと終らせちまえ」
「言われなくとも」

神鳴流奥義、そう呟いて刹那は夕凪を構える。

「百烈桜華斬!!」

野太刀が円に触れるかどうか、その瞬間を見計らってレンジは能力を消した。
無数の剣閃がサルを紙へと戻していく。

「(うわ、凶悪)」

円だけは残しておいたレンジは、感じ取れないほど素早い剣速に舌を巻いた。
そして無事木乃香を助けた刹那。
同時に、竹垣の向こうにある森から人の気配が消える。
犯人を逃がしたことに刹那とレンジは同時に舌を打った。

「見られたか………」
「はい?」
「いや、なんでもない」

レンジの念能力は、傍から見たら何が起きているのか一目瞭然なのである。効果も単純なので確実に対策を練ってくるだろう。

「あ〜あ、酒もなくなったし出るか。桜咲、お前は後始末しとけよ」
「は?」
「手元手元」

そう言ってレンジはさっさと露天風呂から出て行った。言われた通り手元を見る刹那。

「せっちゃ〜ん」
「はぅあ!?」

桜咲刹那の受難は続く。

そして、一日はまだ終っていない。




カメラの話辺りがなんか不自然に見える。文字の表現て難しいですね。
そんな私をさりげなくののしってください。