「ちょっとどーすんのよネギ!こんなにカード作っちゃってどう責任取るつもり!?」 
アスナがカードをネギの前に広げ、抗議する。 
ネギが責められるのはあながち間違って無い。ペットのカモの愚行は飼い主にあるのだから。 
複製のカードをイベントの景品として渡すだけに留まらせたというものの、マジックアイテムとして充分利用できるということに腹をたてるアスナだった。 
「あと………あの人にもちゃんと謝っておきなさいよ」 
アスナが言い辛そうに指差す先には、真っ白になって燃え尽きているレンジの姿があった。 
「はは……式神の偽者とはいえ、同性とキスか………」 
「師父〜〜〜しっかりするアル〜〜」 
「大丈夫よレンジ!ネギ先生ぐらい可愛ければ何してもOKだと思うの私!」 
「鬱だ死のう」 
アスナはその気持ちがなんとなくわかるのか、くぅっと涙を滲ませて目をそらした。 
彼女が持っているスカカードの中に、デフォルメされたレンジが書かれているカードが一枚。 
前回の文を見て『なんか変だ』と思った人は、かなり注意力と読文力があると思います。 
だからと言って文章が変だという意味ではありません。変かもしれませんがそうではありません。 
Part2を読みながら見てくれると分かりますが、あのゲームに参加した偽ネギは7人。 
そのうち2体は古菲とエナによって天に召されました。 
そしてそのあと、ロビーに集まったのは夕映が仕留め損なったネギを加えて4人と書きました。 
そう、一人足りなかったのです。 
では足りない一人はどこへ行ったのか。 
そこでPart2半ばの、キスを迫るネギ達のセリフを見てみましょう。 
『キスしてもいいですか?夕映さん』 
『いいんちょさん、キスしたいのですが……』 
『チューしてもいいですか?』 
『あの…お願いがあって…その、キスを』 
『今から史伽ちゃんの唇をいただきます』 
『エナさん、接吻を……』 
『嵩田さんって綺麗な唇してますね』 
さらに、エナ達がロビーに集まった頃は、まだレンジはソファーで寝ていました。 
つまり、 
『嵩田さんって綺麗な唇してますね』 
『綺麗な唇してますね』 
『唇しますね』 
『や ら な い か ?』 
というわけである。 
「なぁカモよ、俺はいったい誰を殺せばいいと思う?誰を殺せばこの傷を癒せると思う?」 
「だ、旦那落ち着いてください!相手はただの紙だから!」 
「そうだ、紙に罪はない。ならば元凶を潰すのが、俺にとって最高の癒しとなるだろう」 
「そ、その元凶とは?」 
「テメェ等に決まってんだろーがー!!!」 
『ごめんなさーーいーーー!!』 
ネギま×HUNTER!第10話『修学旅行珍事件その3〜彼女達のチカラ〜』 
「それで、俺の唇を犠牲にして獲たこのカード、いったいなんなんだよ」 
レンジは朝倉とカモにしこたまオシオキをしたあと、休憩所のイスに座って古菲とエナのカードを手で遊びながら尋ねる。 
どうやらスカには効果がないらしく、使えるのはキスに成功したのどか、古菲、エナの3枚だけだという。 
「兄貴や姐さんにも言ったが、お互い念話できたり呼び出せたり、パートナーの能力や固有の道具を呼び出せる。オレっちの複製でもできるからやってみな」 
アデアットで道具だけ出せる。普段が普段なだけに半信半疑で、アスナ達はカードを持って唱えてみた。 
「お?」 
「あ、ほんとだ」 
「すごい、手品に使える!」 
アスナは見慣れたハリセンソードだった。見かけはマヌケだが破魔の効果で召喚されたモノは一撃で還すという反則気味な能力を持つ。 
「ワタシは三節根アルか」 
古菲が出したのは真っ赤な三節根だった。三つ合わせて古菲の背丈の倍ぐらいの長さである。 
「『如意三節根』って書いてるな。大きさ重さ長さを半分から倍まで自由自在にできるみたいだぜ」 
カモの捕捉に、古菲は早速試してみる。自分の手で持ちやすい大きさから変幻自在に変わり、それが1根ずつ分けて変えられるらしく、応用が効きそうである。 
「私のは?」 
エナは右手の甲から肘辺りまで機械的な筒が装着されている。十中八九なにかを撃ちだすものだろう。 
「えぇっと『マテリア・ストライク』か。後部の糾弾口に入れたものをなんでも属性強化して弾にできる大砲だな。しかも視認できる範囲なら任意で爆破できるみたいだぜ」 
「遠距離用ね。いいじゃないの」 
今まで掌から放つため近・中距離でしか使えなかったカラフルクラスターだが、これでオールレンジで対応できるようになったというわけだ。 
その様子を物陰から覗く人影が一つ。あわてて去っていく後ろ姿に、レンジは軽い笑みで見送った。 
秘密がまた漏れたことも知らず、ネギ達は今日の予定を決めている。こいつがオコジョになる日も近い。 
んで 
待ち合わせ場所にて 
「(なんでアスナさん以外の人がいるんですかーー!?)」 
「(ごめん!パルに見つかっちゃって!)」 
どこまでも抜けている彼らに乾杯。 
一方、ネギ達が原作通り(ぉ)に進んでいる間、エヴァ達はというと。 
「これいいぜ!」 
「いいです!」 
「いいわね!」 
「これいいぜ!ほんといいぜお前!」 
「いいです!」 
「いいわよ!」 
エナを交えて同じネタで遊んでいた。 
そんな彼女達が居るのはシネマ村である。 
エナは古菲達からUSJに誘われたのだが、エヴァがどうしてもこっちに来たいと言うのでついて来たのだ。 
実際来て見れば、別の班のいいんちょや朝倉がいたり、結構3−A集団で賑わっていたのだ。 
しかも更衣室で衣装を借りれるときたら、 
お人形遊びが大好きな2人が黙って居なかったというわけだ。 
「那波!次はこの『サクラ○戦風な袴』だ!」 
「馬鹿、違うだろ!那波みたいなタイプはこっちの外国礼装が似合うんだよ!」 
「朝倉さんは釣り目だから浪人風ね!みんな素材がいいから映えるわ〜〜!」 
「雪広さんはこっちの着物でお願いします」 
ある意味コスプレなので千雨も黙っていなかったという。 
ネギ達が必死に戦っているのにノンキなことです。 
「満足しましたかマスター」 
「うむ、余は満足じゃ」 
似合っているが、キャラが違うのでやめましょう。 
自分も含めて一通り着尽くしたエヴァはメモリーカードの束を大事に保管した。当分はこれで退屈しないだろう。 
ちなみにエヴァは町娘風の着物で、茶々丸はシネマ村のメイド服、エナは長い金髪をポニーにして黒装束の忍者である。 
周りも浪人に男装麗人等、一貫性のない集団だ。 
しかも唯でさえ器量がいい者が多い。彼女達は歩いているだけで自然と人目を引いていた。 
だがその先に、更に人目を引く2人組みを発見する。 
男装した刹那とお姫様風の木乃香だった。これは非常に珍しい組み合わせである。 
朝倉達はその二人の様子を伺っているハルナと夕映のところに行ったのだが、エヴァはエナと茶々丸に待ったをかけた。 
「エナ」 
「ん?」 
「別の場所に行くぞ。今奴等と関わるとろくなことにならん」 
「私はそれでもいいんだけどぉ………。ほら、あそこのメガネ貴婦人なんかいい殺気出してるじゃん」 
「戦闘狂だったのかお前は。なら止めはせんが」 
「冗談よ。戦って服を弁償しろとか言われたらレンジに何言われるか………。どこに行く?」 
「城下はもう見飽きたしな。城の方へ行ってみるか」 
「一般人は入場できたっけ?」 
「無断で入るに決まってるだろう」 
「OKシスター」 
エヴァとエナは拳を軽く叩き合わせ、さっさと朝倉達から離れていった。 
「あぁ……USJ行きたかったなぁ………」 
一応レンジもシネマ村に来ています。なぜなら学園長の依頼は木乃香の護衛であって生徒全員の護衛ではないからだ。 
詳しくは言えば、木乃香を護る刹那のバックアップが主なので、誰も巻き添えを食わないようにするのが最優先なのである。 
しっかり侍の衣装を着ているのは何も言わないでおこう。首にかけたカメラが死ぬほどそぐわないが。 
そして今、月詠に挑戦状を叩きつけられた刹那についていこうとするハルナ達を見て、さっきの呟きが漏れたというわけだ。 
「嵩田さん、いざというときはお願いします」 
「わかってるよ、存分にやりな」 
本当は存分にやって欲しくない状態なのだが、レンジは見栄を張って応えてしまった。そういう年頃なのです。 
何故か刹那と木乃香がLoveLoveだと勘違いして、月詠の挑戦状を略奪愛と思ってしまったハルナ達は参加する気満々だった。 
ただ、どう見ても戦いに向いていない人物や出で立ちの者がいるのだが、これが中学生だからか3−Aの民だからかはわからない。 
しかしコレだけははっきり言える。 
『困るな〜〜』 
本当に困ったものです。 
「(刹那さ〜ん、嵩田さ〜ん!)」 
ちょうどそこへ、カモを頭に乗せた小さなネギが飛んできた。どうやら刹那が念のためにと放っていた式神を使って来たらしい。 
今頃宮崎のどかとお弁当を食べていることだろう。 
「(そっちは終ったんだな。こっちはこれからだぜ)」 
「(本当ですか!?気をつけてください。足止めが一人だけでしたので残り全員そっちに行ってる可能性が――――あっ!)」 
「ふぉおおお!!」 
急にちびネギがポスンと音を立てて消えた。どうやら慣れない術式だったので操作を間違えたようだ。 
不意に足場がなくなったので、乗っていたカモは受身を取り損ねて地面に激突した。 
ピクピクと痙攣するカモを無視して、刹那とレンジは先へ進んだ。 
「全員こっちか……。つっても最低でメガネっ娘と猿使いの2人だろ?」 
「わかりません。とにかく油断は禁物です」 
刹那達の前に待ち合わせ場所の橋が見えてきた。 
覚悟を決める時である。 
「………結構強ぇんじゃねぇか?」 
人払いの術を使っているのか、橋にはその少女一人しか居なかった。 
例え使っていなくとも、橋に近づきたがる者はいないだろう。 
禍禍しい念が少女を中心に、橋の上で渦巻いている。 
「ぎょーさん連れてきはっておおきに。楽しくなりそうどすな〜」 
月詠の一言一言がレンジを揺さぶる。見えず、感じない波動が少女の狂喜に合わせて猛り狂っているのだ。 
ヒソカと同類。レンジはそんな感想を月詠に当てはめた。 
「せっちゃん、あの人なんか怖い……」 
そんな彼女のオーラに当てられて、木乃香は刹那にすがりつく。 
「大丈夫です、お嬢様。なにがあっても、私がお嬢様をお守りいたします」 
絶対の自信を持って刹那は応えた。 
「感動しましたわ!!!」 
だがその瞬間、お供していたいいんちょと、いつのまにか集まっていたギャラリーから拍手喝采が送られる。 
いい雰囲気台無しである。 
「つ、月詠と言ったか!?この人たちは―――!」 
「ハイセンパイ、心得ております〜〜。その人たちには私のかわいいペットが相手をします」 
そう言って大量の札から召喚したのは、エナが見たら発狂しそうな妖怪の群れだった。 
雰囲気が壊れたとはいえ、このシチュエーションで『かわいいぺット』の意味をそのまま使ったのはこいつが初めてでなかろうか。 
実際なんの妖怪なのか分からないのまでいる。プレステってなによ。99年経ってないから九十九神にならねーだろ。 
しかし外見がファンシーなお陰でギャラリー達はなにかのトリックだと勘違いしたようだ。 
ホッと安心する刹那達。 
「安心しとる場合どすか〜?」 
「!?」 
もう芝居は始まっている。木乃香を賭けた芝居が。 
月詠は小刀と短めの刀を構えて飛び掛った。 
「嵩田さん、お嬢様を安全な場所に!」 
「心得た!!さぁ近衛殿、某と共に!」 
これはあくまで芝居。わざわざ騒ぎを起こす必要はないのだ。ならば相手の心遣いに乗らせてもらおう。 
レンジは侍の格好をしてて良かったと切に思った。普段の格好でやったらただの馬鹿だ。 
「カメラマンはんノリノリや〜」 
「(この天然娘は……)」 
無知は罪というが、この場合教えなくてよかったのか教えておいた方がよかったのか迷うレンジだった。 
「しかし安全な場所ってどこに行きゃ……」 
「なぁなぁ、あそこはどうやろ」 
木乃香が指したのはセットの小さな城だった。本来なら立ち入り禁止なのだが、なぜか裏口がうっすら開いている。 
「いいねぇ、お姫様は城に戻らないとな」 
レンジは迷わず城の中へ逃げた。 
ある日♪城の中♪鬼さんに♪出会った♪ 
「勘弁してくれよホント」 
割りと切実にそう思い、レンジは大きく溜息を吐いた。 
目の前には人間大のファンシーな熊と猿、そして翼が生えた鬼がいる。 
どう見ても木乃香を狙っているとしか思えない。 
「月詠はん、上手く追い込んでくれはったみたいどすなぁ。………気ぃつけや新入り、あの男妙な術を使いますえ」 
「…………」 
レンジの念に警戒して、今一歩強く踏み出せないようだ。 
それが幸いした。 
なにせ今のレンジは念を使えないのだ。 
昨夜の騒ぎでエナに除念をかけられたため、垂れ流す分のオーラすらない。 
当然クロノスライサーなんか使えるはずが無い。 
「なんでこう間が悪いかな、俺は」 
元凶は間違いなくエナだと思われ。 
「こっちだ近衛!」 
嘆いても仕方なく、レンジはさっさと逃げることにした。距離的に近かった扉に入って階段を一気に駆け上がる。 
「これで袋のネズミ。ゆっくり捕まえれますな〜」 
余裕の笑みで見送る天ヶ崎。 
その道は屋上へと続いていた。 
刹那は苦戦していた。唯でさえ同じ流派なのに、それに加えて相手は小回りが効く小刀での二刀流。 
おそらく化け物を相手にするためじゃない。『人間』を標的にした武器なのだ。 
神鳴流剣士の大半は理由が無い限り野太刀を使うのが常。不意をつくにはもってこいだろう。 
さらに 
「ざーんがーんけーん」 
一撃一撃が重い。とても片手で技を放っているとは思えないほどだ。 
そして最大のネックが、場所である。 
足元はセットの橋。しかもクラスメートが妖怪を相手にちゃんばらをしている。 
そんな場所に、一撃必殺を絶対とする神鳴流の技を出せば、確実に被害が出る。しかし月詠は小刀で小さいながらも技を出せる。 
相手は手練、しかしこっちは決め手にかける。 
「きりが無い……」 
時間をかければこっちが不利になるのは明白。相手はそれを見越してこの場所を選んだのだろうか。 
とぼけた雰囲気のくせに腹は墨のように黒く濁っていそうだ。 
「神鳴流剣士ーーー!聞こえるかーーー!」 
突如響く女の声。ギャラリーも含めて、全員が辺りを見回して音の発生源を探る。 
「あ、城の屋根!!」 
ギャラリーの一人が城の屋根を指差し叫んだ。 
そこには巨大な弓を構える鬼と、鬼を従える女。 
矢の先にいる侍とお姫様。 
芝居としては一目瞭然だった。 
「鬼の矢が2人を狙っとるのが見えるやろ!!お嬢様が大事なら手を出さんときーー!」 
天ヶ崎千草は思った。 
「(勝った。これで神鳴流のガキは手を出せん。この男の力も気になるけど、なんや使う気はなさそうやし、このまま連れて行けば猿を適当に暴れさせて、そのまま逃げれる)」 
更に自分には仲間がもう一人居る。なにが起きても対処できるだろう。 
「さぁ、お嬢様を渡してもらおか」 
「(えぇ、みなさん。模擬刀って実は結構重いんです。よく侍映画とかでジィ〜ッと構えてるシーンがありますが、模擬刀でやると鍛えてない人は5分ぐらいが限度です。プルプルきます。調子に乗って抜いてみたんですが、いやいや重いのなんの。こうやって構えてるだけで精一杯。なんで桜咲はあんなにビュンビュン振れるんでしょうね。改めて念のありがたみを知りました、丸)」 
レンジは現実逃避していた。もうこのSSは桜咲が主役でいいんじゃないでしょうか。ちびせつなのほうがよっぽど活躍します。 
「か、カメラマンはん、これも芝居?……とちゃうよね…やっぱ」 
「いやいや、これがマジだったら後ろのファンシーな猿と熊の説明がつかない。なにあのふざけた着ぐるみ」 
はい、これで「せっちゃんが守ってくれる」うんぬんのセリフは消えました。だめだ、レンジが出るとシリアスもくそも無くなる。 
いい場面だったのに。 
「なにグダグダ言うとるんや。さっさとお嬢様を―――わぷ!」 
高いところに強い風はつきものです。 
さらに着慣れない着物が風を受け止めるものだから、レンジと木乃香がたたらを踏んでも仕方ありません。 
しかし、鬼にはそんなことは関係ないのです。 
「ムホ?」 
鬼に下した命令は『一歩でも動いたら矢を撃て』。命令を忠実に守った鬼はレンジと木乃香に当たるよう一直線に放った。 
「あーー!なんで撃つんやーーー!」 
「後悔するぐらいなら最初からするなっっっボケ!!!」 
レンジは木乃香の前に出て模擬刀で受け止めようとした。 
だがいつか言ったように、レンジに戦う才能は無い。 
結局それは、身を呈して木乃香を護るのと変わらなかった。 
弩級の矢は一直線に、 
「エナのクソッタレ!!」 
レンジは力を使えなくした元凶に、 
「ゴメン、今回は本気でそう思う」 
金髪の爆弾魔がその2つを受け止めた。 
多分彼女に関しては強いどころではないかもしれない。 
弩砲並の破壊力を持つ矢を『人差し指と薬指を下にして、中指』で挟んで止めたのだから。 
「あ、あれ?」 
いつの間にか木乃香の前で体を広げていた刹那は、来ると思っていた衝撃が来なくて呆気取られた。 
それはレンジも同じである。まさかこんなご都合主義な展開になるとは思ってなかったからだ。 
「あ、あんたどこから出はった!?」 
「あぁ〜………いつもならここでふざけたりするんだけど」 
エナは受け止めた矢を千草の目の前で折った。指で挟んだままの状態で。 
「おいたが過ぎる馬鹿にはオシオキしなきゃね」 
『堅』 
その瞬間、千草から見て小娘程の女から信じられない量の威圧感が噴出す。 
「射れ!」 
鬼がもう一本控えていた矢を番え、エナに向けて放った。 
今度は魔力を乗せた本気の一撃である。 
凝でそのことを知っているエナは素早く掌を構え、念弾を作った。 
「紺弾」 
濃紺色の球が鬼の矢とぶつかる。 
瞬間、球が矢を消し飛ばすように単一方向だけ爆発した。 
余波が千草達を襲う。 
「くぅ……仕方ない、逃げ……なに!?」 
人数が増え、またも得体の知れない術を使う者がいる。これ以上の対峙は負けを意味する。 
素早くそこまで考えたのはよかった。 
だが、隣にいる鬼の、上半身が消えてなくなっていることまでは、計算外だった。 
「(ルビカンテがあんなあっさり?並の気じゃないのか)」 
傍に控えて成り行きを見守っていた白髪の少年は、見たことのない気の使い方をするエナに興味を持つ。 
それが今後どんな展開になるのか、誰にもわからない。 
「ちぃ!新入り、熊鬼で逃げぇ!」 
千草自身も猿鬼に乗って屋根から跳び立った。 
「逃がすか。アデアット」 
パクティオーカードが光り、エナの右腕に『マテリア・ストライク』が装着される。 
左手で精製した緑色の念弾を糾弾口にいれ、跳んでいく2人に狙いを定め、撃った。 
体がのけぞるほど強い反動だが、弾速はそれに見合った勢いで2人に接近する。 
「あひぃーーー!」 
「っ!障壁!」 
緑色の弾と少年が作った水の壁が接触。瞬間、爆発する。 
爆煙と水蒸気が2人の姿を完全に覆い隠した。 
「………っ…」 
しかしエナには見えていた。灰色と白色の幕の向こうで地面に下りていく2つの大きな影が。 
「仕留め損なったな」 
「ゴメンなさい。レンジなら確実に仕留められたのに」 
「いい、今回は本当に間が悪かっただけだ」 
レンジは緊張の糸が切れて、模擬刀を支えにして腰をおろした。 
刹那と木乃香も安心して2人の傍に寄る。 
「エナちゃんすごかったな〜。影で見守ってたやなんてほんまに忍者みたいや〜」 
木乃香の能天気な発言を聞いて、エナはギクッと体が強張る。 
「そういえばお前、どうしてあんなタイミングよく出てこれたんだ?」 
「いや、それは……」 
「最初からいたのなら加勢してくれれば、ここまで苦労することはなかったんですが……」 
虚偽と黙秘は許さん。レンジと刹那の雰囲気はそう言っている。 
エナは諦めて白状した。 
実はエナとエヴァはかなり前から城の屋根にいたのだ。 
なんでも金のシャチホコを見物するためだとか。 
レンジ達が屋根に来たのはちょうど帰ろうとしたときだった。 
さすがに巻き込まれるのは勘弁して欲しいエナ達は、さっさと物陰に隠れたという。 
「ちょっと待て。俺達はかなり端っこに居たぜ。白髪(しらが)のガキだって全体を見渡せる場所に立ってたじゃねぇか」 
「うん、ちゃんとこっちからレンジ達は見えてたよ」 
「さすがに、あの警戒してたときに真横に居る人影を見損なうわけねぇんだけど」 
「あぁ……そういう意味でも隠れてたのよね〜〜」 
「いったい何に隠れてたんですか?」 
「ふきだし」 
・ 
・ 
・ 
・ 
・ 
・ 
・ 
・ 
「ん?」 
「いや、だからふきだし。単行本5巻171ページ辺りかな」 
さぁ、確かめてみよう。 
そのページには大きなふきだしで天ヶ崎千草がこう言っているはずだ。 
「この鬼の矢が二人をピタリと狙っとるのが見えるやろ!」 
そのふきだしは建物の端っこがちょうど見えなくなっている。 
つまりはまぁそういうことである。 
「お前世の中にはやって良いことと悪いことがあるって知ってるだろ!なにこのふざけた隠れ蓑」 
「じゃあなんですか!?私たちは聞いてるんじゃなくて見て言葉を理解してるんですか!?」 
「なに言ってんのよ。他の漫画じゃふきだしで切られたりしてるじゃない」 
「漫画の世界と一緒に……………」 
何故か口調に勢いが無くなるレンジ。彼は下手をすればそんな世界に行ったかもしれない。 
そう思うと、なぜか無償に悲しくなってくる。 
「とにかく、今後はそういう反則はしないで下さい!わかりましたか!」 
「は〜い、せっちゃん」 
「せっちゃん言っていいのはこのちゃんだけや!………あ」 
「せっちゃんがこのちゃんって言うてくれた〜!」 
「あ、いや、そのお嬢様!」 
「や〜ん、もっかい言うて〜」 
しどろもどろになる刹那。こういう彼女は大変珍しい。 
「せっちゃ〜ん」 
「だからせっちゃんって言っていいのは―――――」 
振り返る刹那。しかしそこにいたのは 
「勝負はまだ終ってまへんよ」 
凶相の月詠。 
「せっちゃーーーん!!」 
振り下ろされた刀は刹那の左肩を袈裟懸けに切り裂いた。 
血飛沫が飛び、月詠の衣装が血痕で彩られる。 
バランスを崩した刹那は屋根から足を踏み外し、落ちてしまった。 
木乃香は落ちていく刹那を追って屋根から飛び降りた。 
「油断大敵やな〜ほんまに」 
「このクソアマ!!」 
エナが紺色の念弾を作って振り下ろす。だが、弾は月詠がいた屋根を壊しただけで消えた。 
「最後は残念でしたけど、満足したので帰ります〜」 
月詠は城の屋根から飛び降り、村の屋根伝いに外へ向う。 
「逃がすか!」 
「やめろ、一般人が巻き込まれる!」 
マテリア・ストライクを構えたエナを止めるレンジ。懸命な判断だ。 
長距離から広域を爆破するのだから、もう少し使う場所を考えなければならない。 
「それより二人は――――ぬわ!?」 
エナとレンジが屋根から身を乗り出して下を見る。 
すると、同時に眩い光が木乃香から発せられた。 
「す、すごいオーラ。あれを木乃香が出してるわけ!?」 
「そういや学園長が言ってたぜ。近衛は魔法使いのサラブレッドとかなんとか」 
魔力で浮いている木乃香と刹那は、池に落ちず近くの芝生に降り立った。 
「ノンキに話してるな。桜咲は大丈夫なのか?」 
「アレだけのオーラだもの。治癒に廻したらクラピカのホーリーチェーン並よ」 
「近衛は強化系じゃねぇだろ。とにかく下に降りるぞ。今後の方針を決めておかないとな」 
「了解」 
その後、刹那の提案でレンジ達はネギ達と落ち合い、木乃香の実家『関西呪術協会総本山』へ向うことになった。 
彼らの一日はまだ終らない。 
「出るタイミングを逃した……」 
「しっかりしてくださいマスター。日はまた昇るというではないですか」 
「私は夜の方がいいんだい……」 
ふきだしの裏ではエヴァが不貞腐れていたという。 
まだ残っていたふきだしであった。