『お帰りなさいませ、このかお嬢様』

若い巫女の集団に迎えられるネギ一行。なぜか朝倉と夕映とのどか、そしてハルナがいるが詳細は省かせていただく。

「へぇ、ここがこのかの実家なんだ」
「アスナ……うちの実家大きくてひいた?」
「ううん。ちょっとびっくりしたけど、いいんちょで慣れてるし」

ネギやハルナとは一味違った反応をするアスナにこのかはホッとした。
ちなみにエナとレンジもあまり驚いていない。

「うちもこんな感じだったしね」
「バッテラじいさん家のほうがまだスゲェよ」

こっちも一味違う。

こうして、ネギ達は無事関西呪術協会総本山へ到着した。





ネギま×HUNTER!第11話『修学旅行珍事件その4〜舞台〜』





「まもなく長がいらっしゃいます。こちらの部屋でお待ちください」

ネギ達が通された部屋は応接室と言うには、あまりにもかけ離れたものだった。
部屋の脇では何人もの侍女が待機しており、楽器を鳴らして生の室内音楽を演奏している。
ただ正面にいる矢を持った侍女を見る限り、ただの歓迎とは違うようだ。

あまり物怖じしない3−A集団だが、さすがに厳粛な雰囲気にあてられたのか冷や汗を流している。

「やれやれ、こういう堅苦しいのは苦手なんだけどなぁ」
「か、嵩田さんはこういうの慣れてるんですか?」

丸い座布団に、正座ではなく胡座をかくあたり、苦手というより気にしないという様が在り在りと見える。さすが異世界で生き延びただけあって図太い根性だ。
対して幼いネギはこういう雰囲気はあまり経験がないのだろう。誰がどう見てもガッチガチに緊張している。

「そんな緊張せんでええよ〜」
「ほら、関東代表で来たんだからシャキっとしなさいよ」

アスナが渇をいれるが、やはりどこかそわそわする。アスナは小さく溜息をつき、他は小さく笑いを漏らした。

「お待たせしました。ようこそ、このかのクラスメートの皆さん、そしてネギ・スプリングフィールド君」

目の前の階段から誰かが降りてきて、部屋にいる全員が視線を正す。
関西呪術協会長、近衛詠春その人である。

「お父様、久しぶりや〜」
「ははは、これこれこのか」

久しぶりの逢瀬を喜ぶ親子。その場の雰囲気が一気に和んだ。

「こんな屋敷に住んでる割りには普通の人ね」
「顔色もなんか悪い感じだけど」

外見から好き勝手な想像をするハルナ達。
しかしエナとレンジは違った。

「(綺麗な纏だな)」
「(えぇ。全盛期なら2星ハンタークラスじゃないかしら)」

レンジにはまだ凝が出来ないので見えないが、肌が感じる詠春のオーラは彼の人格を表しているかのように穏やかだった。

「しぶくて素敵かも……」

前言撤回。エナとレンジとアスナは違った。こいつのオジサマ趣味は困ったものである。

「あの、長さんこれを。東の長、麻帆良学園学園長近衛近右衛門から、西の長へ親書です。お受け取りください」
「確かに承りました。大変だったようですね」

詠春はその場で手紙を開いた。
中には数枚の手紙が入っていた。確かに親書ではあるのだが、マジメに書いているのは最初の2枚だけで、最後の一枚はただ文句を書いただけ。しかもイラスト付き。

ここまで仲がいいのならさっさと話し合いでもしろと思うだろう。しかしこういう狭い社会は形式をなにより重んじる。
仲良くしよう、はいしましょう。で世の中が成り立つわけがなく、一つの事実が欲しいのだ。
互いの立場をもって和平を承諾したという事実が。

「いいでしょう。東の長の意を汲み、東西の仲違いの解消に尽力するとお伝えください。任務御苦労!ネギ・スプリングフィールド君!」
「はい!」

嬉そうに返事をするネギ。朝倉達はなにがなんなのかわからないなりに祝いの言葉を贈る。

「今から山を降りると日が暮れてしまいます。今日は泊まっていくといいでしょう。歓迎の宴を御用意いたしますよ」

長の提案を聞いたハルナ達は喜んだ。旅館より豪勢な食事にありつけそうだと。
なにより騒げそうだと。

「あ、でも僕達修学旅行中だから帰らないと……」
「私が身代わりをたてておきましょう」

長自ら身代わりを立てると言ったので、ネギは安心して厄介になることにした。




「ええ酒使っとるやないか〜い!」

夜になって念が戻ったレンジは上機嫌に酒を、文字通り浴びるように飲んでいた。
こいつはおそらくバッカスの加護を受けている。
というのは冗談で、実は念の恩恵だったりする。
お陰でスピリタスでもそう簡単に酔いつぶれたりしないのである。

「あの人ってお酒飲んでるとこしか見てない……」
「ま、まぁいいじゃありませんか。ここなら滅多なことが無い限り襲われませんし」

静かに食事をするアスナと刹那を置いて、朝倉達は巫女さんと一緒にドンちゃん騒ぎを繰り広げていた。どこでも順応する奴等である。

というか明らかにお酒を飲んでいる奴もいるのだが、法律はどうした。
アスナは、このかが酒ではないと言い張る液体を飲んで言った。

「でもそんなの関係ねぇ」
「いかがしました?」
「いえ、なんでも……って、このかのお父さん」
「こ、これは長!」

いつの間にか背後にいた詠春に、刹那は慌てて膝を付く。

「はは、そうかしこまらないで下さい」
「いえ、私のような者がそんな……」

どうやらこの2人は昔から面識があるらしい。今日のことやこのかの今後について話し合っているあたり、言い方は悪いが随分親密な仲のようだ。
刹那の方は今ひとつ堅いところがあるが。

「話は聞きました。このかが力を使ったそうですね。それで刹那君が大事に至らなかったのはむしろ幸いでした。来るべき時が来た。そういうことでしょう」
「長……」
「ところでこのかの力の発言は君とのパクティオーかな?ネギ君」
「え!?」

突然話を振られてしどろもどろになるネギ。
知ってて言う辺り、この人もなかなかいい性格をしている。

「このかには普通の女の子として生活してもらいたいと思い、秘密にしてきましたが……」
「あ、あの、そうなんですか!?すすすすいませっ!」
「ははは、気にしなくていいですよネギ君。さっきも言ったように、こうなる日が来たというだけです。……刹那君」
「はい」
「君の口からそれとなく伝えてもらえますか?これ以上隠すのは、あの子にとってもよくない」
「長……。わかりました」
「よろしくお願いします。……………ところで」
「は?」
「あそこの御二方は何者ですか?」

詠春の目線の先には

「元はといえばテメェが除念するからこうなったんだろ!」
「何よ!自分から引っかかったくせに!」
「しかもテメェだけ新しい武器が手に入ったじゃねぇか!羨ましいぞ!」
「じゃあレンジも先生とキスすりゃいいじゃない!」
「誰が悲しくて同性のガキとチューせなあかんねん!」
「もうしちゃったんだから諦めなさい!」
「それを言うなーーー!!」

キャッチボールというかジャグリングというか。エナとレンジは空になった皿を使って口喧嘩をしていた。何十枚もの皿が二人の間をものすごいスピードで行ったり来たりしている。
周りは観戦モードでヒートアップするよう煽っている。

「ただ単純に投げているように見えますが、あれだけの数を外さず、割らず、さらに掴み損なわず投げつづけるのは至難の業ですよ」
「はぁ……。元々非常識な人たちですから……」

いろんなサイトに出張している赤バンダナのあの人よりは非常識じゃないから安心です。

「奴等を甘く見るなよ詠春。その気になれば本山を壊滅することもできる実力を持っているぞ」
「あぁ、居たんですか。エヴァンジェリン」
「ああ居たさ!なんだ、私が居て悪いか!!というか会見の間にも居たわ!!」
「いえ、シネマ村ではろくすっぽ活躍せず置いていかれ、今まで描写がまったくなかったものですから」
「殺ァーーーー!!!!」
「はははは。魔力が封じられてなにもできないとは本当のようですな」

すこし体調が悪いおじさんとは思えない動きで、詠春はエヴァの猛攻をシュビビンシュビビンと避けた。

「(みんな非常識よ……)」

もう普通の宴会ではなくなった有様を見て、アスナはそっと溜息を吐いた。
たぶんこいつがこの話一番の苦労人だろう。
宴会は夜遅くまで続いたという。




宴も酣。充分食事と馬鹿騒ぎを楽しんだアスナと刹那は一足先に風呂へ。そのあと長とネギが入ってきて、さらにハルナ達が追い討ちをかけて、風呂場は大変騒がしくなったらしい。
話はその少しあとから始まる。

騒がしい風呂をなんとか終えたエナとエヴァは月夜が照らす縁側を歩いていた。
揃いの金髪が月光で神秘的な色になっている。

「寮もそうだったけど、この世界って大きなお風呂を作るのが好きなのね」
「裸の付き合い、という言葉がある。何も隠さずに向き合うという意味合いでな」
「仲のいい人同士なら楽しいけど、仲が悪い人同士だったら居心地最悪じゃない?」
「…………言ってくれるな」

向こうの世界ではユニットバスしか使ったことの無いエナには、肌を他人にさらすという大衆浴場はあまり好きではなかった。
体の傷のこともあるが、なによりリラックスできる風呂場でも人の気配がするというのが耐えられなかった。
原作のクロロやゾルディック家のように、狙われることを前提に生活をしてきたわけじゃない。
彼女は全てを失うまで、普通の子供だったのだから。

「呪いのほうはどう?そろそろ効果が切れると思うんだけど」
「まだ大丈夫らしい。明日まで保ってくれればいいんだが……」

全てを失った後は別の意味で普通ではなくなってしまったが、まぁ本人が幸せならいいとしよう。

「それにしても、ここの家の人も存外つまらないことするわね」
「何のことだ?」

エナ達が屋敷に入ってから、詠春も含めてこの家の者が無礼を働いた様子は微塵も無い。

「昼の出迎えよ。似た経験があるんだけどさ、家に帰っただけで出迎えられたり、外に出るだけで護衛つけたり。家が家だからしょうがないと思うんだけど、今日のはやりすぎね」
「いつもと同じことをしただけじゃないか?」
「そ、いつもと同じ。家の人がなんの心遣いもしなかった所為で、このかが傷つくことになったのよ。見たでしょ?不安そうにアスナに尋ねたあの子の顔」

ずっと山奥で暮らしたと、いつか木乃香は言っていた。おそらく学校等は毎日送り迎えをしていたのだろう。
エナもそれは同じだった。黒塗りの高級車に黒い服の護衛を連れて、大勢の大人に頭を下げられる。
事情が異なるため、エナは友達を作ろうとも思わなかったが、木乃香は違う。

彼女は一人で寂しかったと、はっきり言ったのだ。

「私は全部無くして、レンジやロイソンに会ってよかったと思ってる。でもあの子は親も、この家も愛してる。…………不憫ってこういうこというのかな」
「かもな。友達が居なくなれば悲しい。だが家を捨てることはできない。自分は静かに暮らしたいのに周りがそうはさせない。本人にはどうしようも出来ないことだ」

600年間、世界はエヴァを放ってはおかなかった。そして時代が過ぎて、いつのまにか多額の賞金首にされ、平穏は夢物語でしかない。

誰かが言っていた。望んだものは何一つ叶わないが、望まないものは容易に叶ってしまう、と。

「……………やる?」
「………そうだな……この3日、京都に来れて気分がいい。茶々丸ぐらいなら貸してやろう」
「私は……そうね、この前いい人形があったから、臨時バイトってことで」


エナ・アスロード、茶々丸、参戦。




「月見酒〜っと来たら〜♪」

何故ことあるごとに酒を飲むのだろう。何処の警察巡査長のように酒が水の代わりなのではないのだろうか。
レンジは三日月と夜桜を相手に、最近発売された『千の○』を傾けていた。
いつもと同じように酒を飲むレンジだが、今日だけは少し気分が違った。
原因は昼のことである。
念が使えない。ただそれだけであそこまで足手まといになるとは思わなかったらしい。
だがそれは筋違いな話だ。それを言ったらネギが魔法を使えなくれば足手まといになるし、エヴァンジェリンもそうだ。
力を使えなくなれば最強ですら最弱になる。

「お団子、お持ちしました」
「待ってました!」

なんてことを考えていても、所詮はレンジの考えることである。巫女さんが美味そうな団子を持ってきたため、すぐ考えるのを止めた。

「宴会でも思ったけど、ここの飯は全部手作りなんだな」
「もちろんです。何から何まで本山が管理している業者のものじゃないと、どこで野蛮な者が手を加えるか分かりません」

差し出された団子を手にする。なるほど、出来たてというだけあってまだ温かみが残っている。
酒の肴に合うだろう。


だが頭と心は別物だ。とにかく、今のレンジは機嫌が悪い。


「代わりに中の人間が手を加えるってわけだな。この毒入り団子みたいによぉ」

その瞬間、巫女は袖から匕首を抜き取り、レンジの首目掛けて、最小限の動きで突いた。
手応えあり。目で見るより早く手で感じた巫女は任務の成功を確信した。

頭からバシャっとかぶる液体。

それが妙にアルコール臭いとわかったのは、切ったものがただの一升瓶と気付いた瞬間と同時だった。
一升瓶から零れた酒が手に掛かる。なら、今自分の頭にかかっている酒は?

「興醒めだよ、ボケ」

声、背後に感じる気配。つじつまが一瞬で合わさったとき、巫女の意識は途絶えた。


「超〜怖ぇ〜〜」

気絶した巫女をつんつんと突付いて確認するレンジ。こいつがいるととことんシリアスにならない。マジでどうにかしてください。

なぜレンジに巫女が毒入り団子も持ってきたとわかったのか。理由は主に2つある

まず、たかが肴を持ってくるだけで気を張る侍女がどこに居る。旅館での事件を教訓に、誰かに会ったらまず凝をするように心がけたレンジには、巫女さんが何かをする気満々なのが分かっていたのだ。

次に団子そのもの。匠が作ったものや思いが込められたものには念が込められるのはご存知だろう。
もしそれが全ての団子の全ての部分からなら、レンジは疑わなかっただろう
しかし、山済みされた団子の中の約半分、それも念が点々と付着しているのだから、気にならないほうがどうかしている。

「(しかも唯の毒じゃねぇ。化学物質じゃ触ったぐらいで念は付かねぇ。………魔法薬か?)」

そう、ここが重要なのだ。既製の薬は機械で作られるため絶対に念は付かない。そして毒という劇薬を素手で持つ馬鹿がいるはずもない。

レンジの知っている事柄で、ほぼ確実にオーラが篭って、尚且つ手作りの薬といえば、魔法薬だった。
その身近な例がエヴァンジェリンの使う触媒である。
魔力が篭らなければそれはただの液体、粉にすぎない。だが一定の呪文、一定の魔力を加えれば効果は出る。

全て手作り。なのに一部からしか念が出ていない。それが疑う切欠となったのだ。

「あのオッサンは『動いたのは少人数』っつったな。っつーことは表に出ない仲間がいても不思議じゃねぇ。自分の足元も抑えられねぇのか」

大きな組織だからこそ、管理は難しいものである。詠春にカリスマ性が乏しかったのも確かに原因の一つだろう。


『きゃーーーー!!!!』


突如響く奇声。レンジは考えるのを止め、声がした方角に向った。

「第2ラウンド……いや、3ラウンドだな。これで終らせてやる」

レンジは円を可能な限り広げた。それが彼の力となる。




「茶々丸ーーー!!」
「マス………申し訳……ん」

レンジが部屋に到達したときには、朝倉達は石になっていた。
そして、護衛をしていた茶々丸は見るも無残に破壊されて、エヴァに抱きかかえられている。

「お前等は無事だったか」
「そっちこそ。さっき先生がアスナを探しに行ったわ。このかも一緒にいるから無事だといいんだけど………」
「こっちは刺客に襲われた。…………もう一人ちっさいのがいねぇな」
「綾瀬ね。逃げたか人質か………状況がよくないわ」

すぐに情報を交換する。この辺りはさすがに手馴れている様だ。

「誰が、誰がやった!!」
「白髪……石化……水…ゲートで…………あ、システム……。…………」
「茶々丸!」

これ以上動きつづけるのは不可能と判断したシステムは、自己保存のために機能停止を選んだ。

「…………。よく聞け、敵は石化の魔法と水を使った転移魔法を使う。水溜りに注意しろ。それと石化の魔法の多くは、発現したものに触れることで効果を出す。一度食らえば侵蝕されるまで1分と保たない。お前達なら少しは長く持ちこたえれるはずだ」
「この子達は助かるの?」
「人が使うペトリケーション(石化)は弱い。解呪ぐらいなら詠春でもできるはずだ」
「わかった。隠れてろよ」
「わかっている。さっさと行け」

レンジとエナは部屋から出て行き、ネギを探すことにした。エナがカードで念話をして居場所を聞いている。



「最強の魔法使い……か…。誰が……そんなふざけたことを言ったんだろうな……」

部屋に一人残ったエヴァの胸に、チクリと痛みが走った。




整備されていない林の中を、靴も履かずに走る少女が一人。
数分前まで友人と楽しく笑っていたのに、今はその面影すらない。
突如現れた白髪の少年によって友人たちは石に変えられてしまった。朝倉の機転で一人逃げられたのはいいが、状況を整理するのも困難なのに、それ以上に難しい『救援』をしろと彼女は言った。

こんなときに限って国家権力は頼りにならない。
ならば怪しい霊媒師でも見つけて連れてくるか。
どれも現実的じゃない。この状況も含めて全て。

「なら、非常識には非常識を!」

夕映はこの状況をなんとかしてくれると信じ、携帯電話を取り出した。
『バカブルー』
切羽詰ったこんなときに、本人が入力したとおりに表示してくれる携帯電話すら、今の夕映は憎んだ。



ゴッドファーザー。カトリック教会で、子供の洗礼に付き添い精神的な親としてその子の信仰の深まりを助ける教父、代父と呼ばれる人物。
転じてマフィアなどの親分を指す。
そう言う皮肉が込められた映画の代表テーマがホテルのロビーに流れる。
そんな渋い趣味の持ち主はバカブルーこと長瀬楓であった。
通話に切り替えた途端雨のように喋りだす友人を落ち着かせ、自分の知識と夕映が陥っている現状を照らし合わせ、

「つまり、助けが必要でござるな、リーダー」

不敵に笑った。




「こうなったらパクティオーといこうじゃねーか!」
「そういうぶっ飛んだ意見は星になってから言え」

ゴスっとカモを叩くレンジ。木乃香が攫われ、ネギ達が一方的にやられたと報告した後に今のセリフを言われれば怒りたくもなる。
彼自身パクティオーにトラウマがある分、その辺りはアスナより顕著に出ている。

「いやいやいやいや、旦那だけじゃなくて刹那の姉さんもだよ!あんた等気を使えるんだろ?兄貴と契約すりゃ魔力も供給できて倍にパワーアップだぜ!」
「でもいきなりキスなんて」
「わ、私にはお嬢様という………」
「いいじゃねーか、やっちまえよぶちゅーっと」

なぜ刹那はそこでお嬢様を出すのか。非常に追求したいところだが、今は非常事態なのでまた今度。
カモの提案は戦力の底上げとして申し分ないのだが、いかんせん言い方が下品。
今のところ誰も賛成してくれる人はいなかった。

「と、とにかく話し合ってる時間はないです!」
「そ、そうですね!早くこのかさんを追いましょう!」

顔を赤くして浴場を飛び出すネギと刹那。置いていかれたことに気付いたアスナは急いで着替えを取りに戻った。

「こんな状況なのに微笑ましく見れるっておかしな話ね」
「カモが意図的にそっち方面へ持っていってる気がするよ」

レンジ達も、アスナを待たずにネギ達を追いかけていった。




森を流れる川で待っていた千草は、少年が連れてきた木乃香を見て喜んだ。
千草は少年のことを新入りと呼んでいる。

「これでお嬢様は手に入った。あとは祭壇に連れて行けばウチラの勝ちやな」

少年はそんな千草の様子を冷めた目で見ていた。
この二人には何か隔たりがあるように見える。

「さぁ、祭壇に向いますえ」
「待て!!!」

千草が上流の湖に向おうとしたとき、気をたどって追いついたネギ達が立ちふさがった。
レンジとエナはまだ来ない。

「……またあんたらか」
「無駄な抵抗はやめろ!明日の朝にはお前を捕らえに応援が来る!」

明日の朝。それが聞けただけで千草にとっては上々だった。

「そんだけ時間があれば上等や。教えてくれたお礼に、あんたらにもお嬢様の力の一端を見せたるわ」

千草は木乃香に札を貼り付け、唱えた。

『オン』と。




レンジとエナが辿り着いたとき、そこにはネギ達と犯人以外の人影で溢れていた。

「ちょっと、こんなのアリなのーー!?」
「このか姉さんの魔力で手当たり次第召喚しやがったな」

その数およそ500。大から小まで様々な妖怪がひしめきあっていた。

「そっちのわけわからん使い手のために出血大サービスや。あんたらはこの鬼共と遊んどきぃ」

それだけ言い残して、千草達は湖へ跳んでいった。
残ったのは大量の妖怪と、たった五人の人間。

「悪いな譲ちゃん達。呼ばれたからには手加減できんのや。命はとらんけん恨まんといてな」

リーダー格の鬼の一言にアスナの歯が鳴る。ただの女子中学生には辛い光景だろう。

「(兄貴、今だ)」
「うん、風花旋風風障壁!!!」

カモの合図と同時にネギが竜巻を発生させた。
障壁というだけあって、どの鬼も近づけないようだ。

「よっしゃ手短に作戦立てようぜ!どうする!?なんか案はねぇか!?」
「どうもなにも、二手に分かれるしかないでしょ、この場合」
「では私が一人でここに残ります」

エナの提案に刹那がすぐ飛びついた。

「元々化け物を退治調伏するのがわたしの仕事ですから」
「だ、だったらわわわ私も残る!こんなところに一人で残していけないよ!!」
「あら、誰が一人でって言ったのよ。私達も残るわよ」

アスナが残るといい、さらにレンジとエナまで残ると言った。

「待ってください。それだとネギ先生一人を向わせることになります。それじゃあ二手の意味が」
「いや、それでいこうじゃねーか」

刹那の抗議にカモが待ったをかけた。

「いくら慣れてるからってこの量を2人や3人で抑えられるもんじゃねーだろ?要はこのか姉さんを取り戻しゃいいんだ。兄貴一人なら杖ですぐ追いつける……よっしゃこれで行こう!」

カモの頭で全てのピースが揃った。

「鬼は旦那達が足止め、兄貴は一撃離脱でこのか姉さんを奪取!あとは全力で逃げて本山の援軍を待つ!代案がなけりゃこれで行くぜ!」

カモのこういうところは賢者、助言者として申し分ない。今までも影からネギを助けてきただけあって頼りになる奴ではある。

「よし!そうと決まったらズバッとパクティオーと行こうぜ!!」

コレさえなければ。

「えぇ!?」
「緊急事態だ!手札は多いほうがいいだろうがよぉ!!!」
「はいぃ!!」

カモの気迫に押されて、ネギと刹那は了承した。一瞬で書き上げた魔法陣の上で二人は見つめあう。

「す、すいません、ネギ先生」
「いえ、あの……こちらこそ」

キスが情事に入るのなら、ここでアスナが胸を集らせてもおかしくない。非常時ということですぐ正気にもどったが。

「では」

刹那がネギの頬に手を添えて、唇を当てた。
その瞬間、仮契約が成立した。

「ネギ先生、このかお嬢様を頼みます」
「……はい!!」

互いの決意を確かめ合い、刹那は託しネギは応えた。
時間が来たのか、徐々に竜巻から夜空が見え隠れする。

「レンジ………」
「………はぁ……」

エナに促され、レンジは、

「おいネギ」
「はい?ピギ!?」

ネギにヘッドバットをくれてやった。

「だ、旦那何す―――おぉ!?」

レンジの突然の奇行に驚いたカモだが、目の前に現れたもう一つのカードを見て仰天した。

「いいかネギよく聞け。あいつらが何を考えてるか知らんが、他人を犠牲にしてなにかしようって考える奴は大抵ろくでもねぇ。お前が失敗すればさらにろくでもねぇことになるだろうよ」

ネギはジクジク傷む額を無視してレンジの言葉を集中して聞く。

「男を見せろや!お姫様を助けてハッピーエンドになるのが物語りの決まりだ!」
「はい!!」

ネギは刹那から覚悟を、レンジから気合を貰い、応えた。
そして、風が消えるのと同時に叫ぶ。

「雷の暴風!!!」
「紺弾!!」

5人の分の想いを乗せて。




「桜咲、何匹までいける?」
「精々100匹でしょうか。うしろに控えている別格を覗いてですが……」

落ち着いてみれば見るほど非常識な数に冷や汗が出てくる。
アスナは刹那が言った「チンピラ500人」というジョークのお陰で震えは止まっている。しかし普通に考えて、それでも辛いのは変わらない。

「神楽坂をいれて150。残りは俺とエナが引き受けてやる」
「無茶言わないで下さい!」
「残念だけど無茶じゃないのよ」

練、そして円が刹那の前に現れる。

「私達、赤い糸で繋がってるから」

なんのことなのかわからない刹那とアスナを置いて、2人は前へ出る。
エナは灰色の念弾を作り、比較的弱そうなカッパが密集しているところへ投げた。
距離的に半ば辺りまで飛んだ灰色の球は斥力から引力に変わった瞬間、無数の小さな球になってカッパ達に降り注いだ。

「クラスター爆弾」

その名を示すように、小さな球は広範囲にわたって爆発し、カッパ共を一掃した。

「なんじゃ今の技ぁ!?」
「ひぇ〜、爆発なんてありかよ」

見たことが無い技に驚く鬼達。

「馬鹿め、爆弾を使うなら接近されれば――――!?」
「巻き添えを狙ってたんなら、的外れよ」

他より速く移動できる烏族の一匹がエナとの距離を詰めようとした。だがそれより早く、逆にエナが距離を詰めた。

「クレイモア」

紺色の球を浮かせた右手を下から上に振る。強烈な指向性爆弾は何百という念の破片を撃ちだし、烏族の上半身を丸々消し去った。

「うわ、えげつな!」
「なんちゅー恐ろしい技や」

デモンストレーションとしては成功を納めただろう。
なんか怖いエナを襲うのに躊躇した鬼たちは、もう一人の方に狙いを定めた。

「だったらお前からじゃーー!」

兜をかぶった一匹の鬼が棍棒を構えて突進した。そういう命令なのか、レンジが男だからだろうか、殺すき満々である。

「懐かしいな〜、エナ」
「そうね」

レンジは慌てず円をギリギリのところまで縮める。そして鬼の棍棒が円に触れた瞬間、

「キメラアントの時もこんな感じだったよな〜」

鬼の頭がレンジの拳で殴り消された。
その様子を離れた所から見ていた化け物は戦慄する。

『棍棒を振り下ろした鬼が途中で止まり、男はわざわざ思い切り振りかぶって殴った』

時間を止める。状況から見てそう考えざるをえない。

「おいおい、反則だろそりゃ……」

これから始まる虐殺ショーを思うと、鬼達は今回呼ばれた不運を呪うしかなかった。




少し離れた所でレンジ達の様子を見ていた刹那達は呆気取られていた。
アスナはエナの実力を始めて見たし、刹那はレンジの力がどういうものか知って驚いている。

「あの二人、あんなに強かったんだ」
「そのようですね。強いと思ってましたが、まさかあんな力を持っていたとは……」

心強い仲間がいることで勇気が湧いてきたのか、アスナのハリセンを持つ手が握力を増す。

「私たちも負けないわよー!」
「はい!!」

任された数を殲滅するために、アスナと刹那は駆けた。
そんな二人を見て鬼達は思う。

あっちじゃなくてよかった、と。





一方、湖に到着した千草達は巨大な岩の前にある祭壇に木乃香を安置した。

「あの大岩には。昔サウザンドマスターと今の長が封印した、誰も召喚できひん巨躯の大鬼が眠っとる。お嬢様の力があれば制御可能なはずや」
「急いだほうがいい。ルビカンテを退けた者がいるのなら、あの鬼達も大した時間稼ぎにならない」
「わかっとるわ。護衛のほうはまかせますえ」

千草は少年にあとを任せ、さっさと呪文を唱え始めた。

神をたたえる祝詞が、湖に静と響く。



役者、未だ揃わず。