広い場所による一対一。それがレンジの本来の戦闘スタイルであり、クロノスライサーを最も有効活用できる条件である。
オールシチュエーション対応可、それがエナの能力である。近中遠距離は基より、地雷のように仕掛けたり非殺傷能力まである。
キメラアントとの決戦時、クロノスライサーの『隠れた制約』によって、王との戦いに参加できなかったレンジは、エナを含む仲間と共に大量の兵隊蟻を陽動する役目をになった。ネテロ達が王と親衛隊と安心して戦えるように。
荒野での死闘は丸一日もかかった。そして2体目の王位継承者の手によって王は敗れる。
要は、そのときと同じ事をすればいいのだ。
「(半径30メートルが限度か………。さすが鬼ってだけはあるな)」
『隠れた制約』の所為で効果範囲が狭められるが、350という化け物達の一部の時間を遅らせ、一匹ずつ念を纏った拳で消し飛ばしていくレンジ。
鬼達は、時を止めるという反則技を使うレンジを置いて、なんとか相手が出来そうなエナに集中して襲った。
だがエナも、そんなことは百も承知だった。
「閃光!煙幕!」
銀色の球が破裂すると眩い閃光と大気を揺るがすほどの大きな音が、鬼達を怯ます。
さらに橙色の球は破裂した瞬間オーラを帯びた煙を広範囲に撒き散らした。
「ぐぅぉお、これでは気が探れん!」
比較的手早く作れる非殺傷タイプで視界を塞ぐ。
煙を払って前へ進むが、見当違いの方向から爆発音と撲殺音が聞こえ、鬼達は混乱し始めた。
「ウゲ!」
「グゲァ!」
2人の間に入った鬼達の胴体が飛ぶ。よく目を凝らしてみると、2人の小指に結び合わせたエナの金髪が結ばれていた。
HUNTERの世界でも、彼等は同じ戦法を使っていた。クロノスライサーの効果を受けないためにエナが取った行動がこれだったのだ。
『周』によって強化された髪が切れることはない。距離に限りがあるが、それでも充分効果を発揮している。
もし切断された相手が人間だったら、小指に結ばれた髪は赤く染まっていたことだろう。
さらに、
「おのれ……どこに居――ドバン!!!――ふんぬわ!!」
地雷によるゲリラ戦法も可能なのである。
敵の居場所がつかめず、動けば地雷の餌食。
「そんなんありかーーー!!」
一匹の鬼の叫びが、350体全員の気持ちを表していた。
ネギま×HUNTER!第12話『修学旅行珍事件その5〜『クロノ・スライサー』〜』
「神鳴流奥義 百烈桜華斬!」
「たぁああああ!!」
刹那とアスナも健闘していた。運動神経がいいだけのアスナに与えられた破魔のハリセンは、一端の退魔師以上の働きを見せ、本職の刹那に至っては言うことは無い。素人のアスナを庇いながら確実に戦果をあげている。
「150体もの兵が3分で半ばまでも……化け物かこの嬢ちゃん達は!」
「いやあっちの二人組みよりマシだろ」
「……そりゃ確かに」
絶えることなく響く爆発音と撲殺音と仲間の断末魔に、鬼達はそっと涙した。
煙で状況はわからないが、時折空に飛んでいく仲間がその惨状を物語っている。
あ、また一人。
「ぐぁっは〜、天敵の神鳴流はともかく、あの譲ちゃんのハリセンは反則ですぜオヤビン」
「ぐわははは!活きのいい譲ちゃん達やないか、それぐらい大目に見てやれい」
「じゃあ向こうの組の加勢してもらっていいッスか?」
「それとこれとは話が別じゃの〜」
「ヒデェ………」
別格の鬼すら避ける彼らの非常識さに乾杯。
技術や戦術ではなく、単純に持久力が物を言う団体戦で、二人はよく頑張ったといえよう。
だが、どんなゲームや漫画でも、雑魚の後に出てくるのは、
「平安の昔と違って『気』やら『魔力』を操れる人間はしぶといなぁ」
「さて、そろそろわし等も行くかぃ」
強力な中ボスと相場が決まっている。
「烏族と大鬼!?アスナさん気をつけて、こいつ等は別格です!」
「別格でも当てちゃえば皆一緒よー!」
「あ!迂闊に出ないで―――――!?」
無謀にも烏族へ突進したアスナを止めようとした刹那だが、トンファーのような武器を持った狐女がそれを阻んだ。
「嬢ちゃんの相手ぁわし等や」
「(くっ、厄介な)」
さらに巨大な石根を持った鬼が前に出る。以前からの仲なのだろうか、いいコンビプレイをする。
刹那は小さく舌打ちした。
別の方で、アスナも苦戦を強いられていた。
確かにハリセンの効果をもってすれば、烏族とて例外なく還されるだろう。
だが、そう易々と当たらないから『別格』というのだ。
「なかなかやるがなぁ嬢ちゃん、某は今までの奴等とはちと出来が違うぞ!」
そう宣言するだけあって、烏族の男の剣技は目を見張るものがあった。
本体を狙うのではなく、わざと得物に当ててバランスとリズムを崩し、さらに剣の柄をハリセンの底に当てて胴体を開けての猛攻。
実戦剣術の教科書のような戦い方である。
こういうときのために、ネギはアスナに送っている魔力を全て防御に廻しているので、ダメージはさほどではないが、時間が経つに連れ隙が大きくなるのも事実。
そして、
「あや〜、怪我は治ってはるんどすな〜、刹那センパイ♪」
最悪の剣士までもが登場し、
「さぁ、手詰まりか?神鳴流の剣士よ」
「きぃーー、離しなさいよ!」
アスナまでもが捕らわれた。
まだ残っている鬼が居るというのに。
「(最悪だ……)」
泣きっ面に蜂、とでもいうのだろうか。更に最悪なことが別の場所でも起きた。
湖のほうから上がっていた光の柱がさらに大きくなったのだ。
「あの光は!?」
「千草はんの計画がうまくいってるみたいですな〜。うちには関係ありまへんけど〜」
そう言って武器を構える月詠の瞳の色が反転する。気や魔力が高ぶるとよく見られる現象だ。
八方塞。
この状況を打開する方法を考えた刹那は、たった一つだけ思い当たった。
だがそれを使えば………。そこまで考えて思い直した。力を今使わずいつ使う。
後のことなど知ったことか。今は今だけ考えなければならない。
ザワリと刹那の雰囲気が変わる。彼女は自分の中にある力を解放しようとした。
「誰が手詰まりだって?」
そのときだった。アスナを捕らえている烏族の後ろから声がしたのは。
「新手か!?」
「最初から居ただろ」
言うが早いか、アスナを手放して迎え撃とうとした烏族の額に指が添えられた。
「デコピンインパクトMAX!!」
「ぐわはぁ!!!」
額を貫くほど威力がある中指が振りぬかれ、烏族はぶっ飛びながら消えた。
「また会ったわねクソアマ!」
月詠は殺気を感じ、素早くその場を離れた。一瞬遅れて、彼女が立っていた場所に何かが落ち、川の水がガチガチに凍った。
「面白い技使いなはるな〜。他に何もってはるん?」
「相手してくれるなら教えてもいいわよ。命を見物料にもらうけど」
いくらか傷を負っているが、ほとんどダメージを受けていないレンジとエナが合流した。
「んなアホな!あの数をたった5分足らずで!?」
狐女が煙に覆われていたところを見てみると、つい数分前に広がっていた神秘的な川が、見るも無残な瓦礫の山と化していた。
おそらくあの辺り一帯の生態系は全滅したに違いない。
「むぅ…こりゃまいった――――うぬ!?」
さらに、どこかから飛んできた銃弾が鬼の石根を砕いた。
「これは術を施された弾丸!?何奴!」
「何者と言うほどでもない。ただのクラスメートさ」
褐色の肌のスナイパーがライフルを持って、
「師父、エナ、ズルいアル!ワタシ一人除け者にして!」
もう一人の念使いと共に茂みから現れた。
「形勢逆転。そりゃ不利ってことない?」
口調はふざけているが、リーダー格である大鬼に話し掛けるレンジの顔は真剣そのものだった。
残っているのは精々60鬼程度で上級タイプは一握り。
「たしかに、このままはちと辛いのぅ」
ちょっとどころではない。中堅どころしかいなかったとはいえ、350体を5分で倒す人間(そんな奴を人間と呼びたくないだろうが)2人と天敵娘2人。その上助っ人に2人も増えている。
「ほなうちがこうしてみるのは如何やろか〜」
月詠が場違いな口調と共に大量の札を取り出した。それはシネマ村で使った百鬼夜行のものだった。
「これに……『吽』」
呪を唱えて札をばら撒く。すると出てきたのは昼間に見たかわいらしい妖怪とは似ても似つかない、正に妖怪という言葉を体現した百鬼だった。
「おぅおぅ、やるの〜譲ちゃん」
「お〜きに〜」
「ならワシも久しぶりにやってみるかの〜。『怨』!!!」
大鬼が地面に力強く石根を突き立てた。地震のように揺れる地面。
すると、地面から続々と白骨死体が這い出てきた。
その数、およそ200。
「この辺りは昔、西洋魔術師と陰陽道の奴等が戦った場所でなぁ、こいつ等は朽ち果てても尚、現世に未練を残す怨霊共よ」
「なんて事を……死んだ者を弄ぶとは!」
「勘違いするなぁ神鳴流の嬢ちゃん。わし等鬼かて元を辿れば人の怨念。こいつ等もいずれわし等のようになる運命よ。もう人ではないわ!」
大鬼は折れた石根を構える。それにあわせて他の化け物達も臨戦体制に入った。
「来い童共!化け物の力、しかとその眼に焼き付けぃ!」
「望むところだーー!!」
鬼の気迫に一番速く反応したのは、意外にも刹那だった。元々そういう性格だったのか、それとも剣士の血が振るえたのか。
「まったく……あいつの悪いクセだ」
「その割りには真名も楽しそうアルね」
「まぁ…ああ言われればな」
龍宮はライフルを捨て、バイオリンケースから2丁のデザートイーグルを取り出し、刹那に続いた。
「くぅ〜、ワタシも負けてられないアルよ!アデアット!」
古菲は仮契約カードから三節根を召喚し、さらに練を纏った。戦いの空気に当てられたのか、オーラの迸る勢いが並ではない。
「エナ、お前はアスナを加勢しながら戦え!古菲、なるべく念を抑えろ。そのままだとすぐバテるぞ!」
「師父はどうするアルか!?」
「俺はネギの方に行く!ここまで時間が掛かるって事はなにかトラブルが起きたとしか思えん!」
「了解アル!」
「気をつけて!白髪のガキが石に変える魔法使ってくるから!」
「わかった!」
あとを託し、レンジは湖の方へ駆けた。
勇ましき女達は鬼に立ち向かう。
全ては木乃香を助けるために。
「まだですか?」
「もう少しや……」
サウザンドマスターが封じたというだけあり、鬼の召喚はかなり時間が掛かるようだ。
しかし大岩から溢れる光は増している。彼女の言う通りもう少しで召喚できるだろう。
「…………来た」
「なんやて!?」
隠れて飛べば少しは取り返せる可能性が上がるものを、ネギは湖の水を舞い上がらせながら祭壇に向ってきた。
「もうルビカンテは出せない。このまま引き付けて止める」
「くっ、失敗せんときや!」
障害物が無いネギはスピードを上げて、さらに呪文を唱える。
「風花 風塵乱舞!!」
風の魔法で水が霧状になり、祭壇全体を包む。
「これで目眩ましのつもりか?無駄なことを…」
目は確かに見えないが、代わりに魔力の塊がよく見える。
少年は近づいてくる気配に向けて手をかざした。
「期待はずれだよ、ネギ・スプリングフィールド」
「そりゃこっちのセリフだ、ボケ」
「!?」
背後から少年のものではない声がした。
話は少し遡る。
昼に千本鳥居でネギとアスナを襲った犬耳の少年に足止めを食らっていたネギは、助っ人に現れた長瀬楓と交代し、桜林を駆けていた。
「どうする兄貴!ただ突っ込んだところで返り討ちだぜ!?」
「大丈夫!なんとかできそうな策を思いついたんだ!」
「マジか!?」
「うん、練習中の遅延魔法を試してみる!」
走るネギの前に、湖の上にある祭壇が見えた。とうとう林を抜けたのだ。
障害物が無い湖なら杖で飛ぶことができる。杖に魔力を込め、地面を蹴った。
そのときだった。
「ネギ!!」
別の方角から、少し傷を負っているレンジが飛び出してきた。練のお陰で常人より速く動けるのが幸いしたらしい。
ネギは慌ててブレーキをかけた。
「お前まだこんなところにいたのか!今までなにしてやがった!」
「えっと、コタ」
「いいわけすんなーーー!!」
「え〜〜!?」
ゴメス!!とネギの頬を『普通に』殴った。魔力で防御力が上がっているのでせいぜい衝撃だけだろう。ダメージはないはずだ。
こういう理不尽、誰でも一度は味わったと思う。
「今からあそこに行くんだろ!俺も行くぞ、連れてけ!」
「え!?で、でもそうすると」
本来なら人数が増えるのならそれに越したことは無い。だが、さっきネギが考えた策では、身軽じゃないとできないものだった。アスナ(+新聞紙の束2人分)で遅くなるのでは、成人男性を乗せたときの結果はわかるだろう。
「〜〜〜〜〜。そうだ!兄貴、これがあるぜ!」
唸っていたカモが取り出したのは、レンジの仮契約カードだった。
「こいつは従者を召喚する機能もある!わざわざ乗せていく必要はねぇ!」
「あ、そうか!」
「ついでだ、旦那のアーティファクトの力も確認しとこうぜ!使えるかもしれねぇ!旦那、アデアットって唱えてくれ」
カモに促され、レンジはカードを手にとって呪文を唱える。
すると、金色指輪が12個もレンジの掌に現れた。
「なにこれ?」
「えぇっと、『ジョイントリング』?こんなアーティファクト見たことも聞いたこともねぇぞ」
普通は箒や杖が一般的だったり、従者の特性・性格にあわせたものが出てくる。
それを踏まえた上でも、カモにはチンプンカンプンだった。
「………。なぁネギ、ジョイントって『繋がる』って意味だっけ?」
「いえ、繋ぎ目や合わせ目という意味です。簡略してそう使うこともありますけど」
そう聞いた途端、レンジは指輪の一つをネギに渡した。
「つけてみろ。多分こういう使い方だと思う」
レンジに促されてネギは指輪をつけた。何故か左手の薬指に。
生憎切羽詰っているので誰も突っ込む者はいなかった。
「…………。どうだ?」
「えっと……特になにも起きませんけど」
「なるほど、そういうことか」
ネギの応えを聞いたレンジは納得した表情になった。
もしレンジがカードに書かれている『従者の称号』を見ていれば、もっと速く気付いたかもしれない。
指輪をはめているレンジの絵。その下の方に書かれている言葉は――――。
霧に隠れ、杖を囮にすることで白髪の少年の背後に周ることに成功したネギは、打ち合わせどおりレンジをその場に召喚した。
「行け、ネギ!このかを取り返せ!」
「はい!」
ネギは、驚いた表情のまま止まっている白髪の少年を不思議に思いつつ、それがレンジの能力なのだろうと強引に納得して、祭壇の方へ走った。
「さてと、茶々丸が世話になったな」
バキバキと指を鳴らす。相手には聞こえてはいないが、そんなことは知ったこっちゃない。もう少年に、彼の怒りを止めることは出来ないのだ。
「まず一発!」
「!?」
拳が当たった瞬間、少年に解除判定が与えられる。だがレンジはジャブのように繰り出した拳をすぐ引いて、能力の効果判定に入れた。
「まだまだ行くぜ!!オラ!」
レンジは掛け声と共に次々とパンチを繰り出す。
もうお気づきの方もいらっしゃるでしょう。
絶え間なく襲ってくる攻撃は、少年にとってこう見える。
=つ≡つ =つ≡つ =つ
∧_∧ =つ≡つ =つ≡つ =つ∧_∧
( ・ω・)=つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ))д´)
(っ ≡つ=つ =つ≡つ =つ≡つ (っ ⊂)
/ ) =つ≡つ =つ≡つ =つ≡| x |
( / ̄∪ オラオラオラオラオラオラオラオラオラ ∪ ̄ ∪
=つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ
リアルオラオラである。
=つ≡つ =つ≡つ =つ=つ≡つ
∧_∧ =つ≡つ =つ≡つ =つ=つ ∧_∧
( ・ω・)=つ≡つ =つ≡つ=つ=つ ≡つ))д´)
(っ ≡つ=つ =つ≡つ =つ=つ ≡つ(っ ⊂)
/ ) =つ≡つ =つ≡つ =つ =つ| x |
( / ̄∪ ドラドラドラドラドラドラドラドラドラド∪ ̄ ∪
=つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ
言うまでも無く念によってわずかに攻撃力が上がっているため、普通のパンチより強いのだ。
=つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ
∧_∧ =つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ =つ ∧_∧
( ・ω・)=つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ))д´)
(っ ≡つ=つ =つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ (っ ⊂)
/ ) =つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ =つ≡| x |
( / ̄∪ ナリナリナリナリナリナリナリナリナリナリナリナリナリ ∪ ̄ ∪
=つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ =つ≡つ
個人的にマリ○ナントは神だと思っております。
しこたまサンドバッグを堪能したレンジは最後に、どこかで聞いている者のために呟いた。
「そして時は動き出す」
「がは!?」
念を解いた瞬間、蓄積した衝撃も手伝って、白髪の少年は盛大にぶっ飛ばされた。それはもう原作でエヴァにぶっ飛ばされた感じで。
実際は少しずつ動いていたのだが、野暮なことは言わないでください。
「再起不能ってか?なんて言ってる場合じゃねぇ。ネギ!!」
可能な限り円を広げていたため、クロノスライサーの影響を受けない今のネギなら、予定通りいけばすでに木乃香を取り戻しているはずだった。
だがレンジが振り向いた先に、居たのはネギ一人。木乃香どころか千草すらいなかった。
そのとき、念によって停滞していた霧が、一陣の風によって晴れた。
「一足遅かったようですなぁ」
霧の向こうから現れたのは
「儀式はたった今終りましたえ」
ビル一つ分あろうかというほど巨大な、鬼。
「あの2人間に合わなかったの!?」
「わかりません!でも加勢に行かなければ!」
「そうは言っても、こいつ等が!」
残っていた60鬼、月詠が召喚した百鬼、大鬼が呼び出した幽鬼200の計360鬼。
刹那、アスナ、エナ、古菲、龍宮の5人でなんとか持ちこたえて、ようやく150鬼まで減っていた。
しかし苦戦しているのは変わらない。別格の化け物は未だ健在なのだ。
「行け、刹那!ここは私達が食い止めてやる!」
「エナも行っていいアルよ!師父を助けに行くネ!」
龍宮は月詠を、古菲は鬼達と対峙して叫ぶ。
「だが!」
「大丈夫だ!報酬は弾んでもらうがな!」
「……っ!すまない!」
「頼んだわよ古菲!」
「おう!!」
エナと刹那とアスナは置き土産とばかりに、周りにいた鬼を一掃して湖の方角へ駆けた。
「逃がさへ――ドバン!――きゃ〜ん!」
ちゃっかり地雷を仕掛けている辺り、さすがエナである。味方に当たっていたらどうするつもりだったのだろう。
「ふふふ、元気があってええ。しかしこの数を2人だけっちゅーのはちと無理やないかのぉ」
「あまく見ると、痛い目を見るぞ」
強く言葉を返す龍宮だが、実際のところ数分もつかどうかという判断をしていた。
古菲が思った以上に使えるようになっていたのは嬉しい誤算だった。
だが、こと集団戦において個人の力は意味を持たない。ましてや彼女は拳法家。よほど弱い相手じゃない限り1対1を想定して戦うのだ。
2対150。数だけ見れば絶望しか見えない。
「あと一人いれば、そうもいかなかったかもしれないが……」
「大丈夫アル!ワタシが2人分戦ってみせるヨ!」
実のところ龍宮は、古菲がエナを向わせるとは思っていなかった。
理屈は知らないが、エナは絶え間なく爆弾を作れる能力をもっている。それさえあれば足止めだけはできると思っていたのに。
こういう経験が少ない古菲にはその辺りを理解するのは無理だったようだ。直感でこうした方がいいと思ったことをする。
それは強みであり弱み。
「行くぞ古菲!」
「応!」
しかし龍宮はある重大なことを忘れていた。
古菲はこと戦いにおいて天才的才能を発揮するということを。
「アハハ!アハハハハハハ!」
天ヶ崎千草の計画は成功した。現役時代の近衛詠春とサウザンドマスターが封印した鬼は、今の呪術師達が束になっても敵う相手ではない。
援軍がなんだ。そんなもの、この『リョウメンスクナノカミ』の力で払ってやる。
そして、準備が整えば、
「これで東に巣くう西洋魔術師を蹴散らすことができる!父様、母様……悲願はうちが成し遂げてみせますえ!」
大岩から出てくる鬼を眺めるその顔は恍惚と狂喜が混じっていた。
「兄貴、一端逃げるんだ!こんな奴俺達で相手にできるわけねぇ!」
「駄目だよ!ここで逃げたら誰にも倒せなくなる!完全に出る前に倒さないと!」
カモの提案を反故し、ネギは呪文を唱える。
「待てよ兄貴!確かにそりゃ強力だが、兄貴の魔力は限界だろ!そんな大技撃っちまったら―――!」
「『風を纏いて吹き荒べ、南洋の風』!」
もうカモの言葉は耳に入らない。
ネギの周りを囲っていた風と雷が、呪文の終わりにあわせて左手に収束する。
「雷の暴風!!」
今日2度目の強力呪文が放たれた。
限界まで魔力を込めた大砲のごとき一撃は、
「ムダや」
スクナの障壁に当たって霧散した。
「く、くそぉ……」
「ネギ!」
もう魔力が底をついたらしく、ついに膝をついたネギをレンジが慌てて支える。
呼吸も動悸も激しい上、発汗も夥しい。
ネギは今、4人に最低限の魔力を送っているのだから、ここまで保った方が奇跡という他無いだろう。もしくは、サウザンドマスターの息子という恩恵か。
カモとレンジは早急にこの状況の対策を考えていた。それぞれの視点から、それぞれの方向へ。
そのとき、聞きなれた高笑いが3人に頭上から聞こえてくる。
「アハハハハハ!それが精一杯か!?魔術師のクセに鬼一匹倒せへんのか!?」
「はっ、一回りも年下のガキ使わなきゃ何もできねぇ女がほざくな!」
「……ほぅ?まぁ、たしかにウチはなにもでけへんけど」
千草の狂った瞳にレンジが映る。それは下衆を見る悪帝のように、とことん人を見下した顔だった。
一方レンジは、粋がってみたものの具体的な対策は考え付いていなかった。
祭壇から大岩までそこそこ距離があったため、奇襲時のクロノスライサーが効果を発揮しなかったのが災いしたのだ。
その原因は『隠れた制約』から来ている。
同等の力を持つ者同士で、別々に力を込めたパンチを叩き合わせれば、当然強く殴った方が勝つ。
それは念にも言えることだ。より念の量を込めた者が勝つ。
そして念には『個人の容量』というものがある。これは訓練により増やすことができる。
さらに念には『個人の用量』というものもある。これも訓練により増やすことができる。
でなければウヴォーギンやゴンのように強くなることは出来ない。
『纏』『練』『堅』のように体を護るオーラは他人の念を防ぐことができる。密度が増せば銃弾や刃物すら防げる。
原作では足し算や引き算で念を足し引いて格闘の訓練をしていた。
それから見て分かるように、『ある一定量と密度があるオーラをぶつけなければ相手のオーラを破れない』
そして、レンジの『隠れた制約』には『密度』が深く関係している。
全ての念技術には『密度』がある。当然円にも。
『円』と認められるには『オーラを半径2メートル以上広げ、1分以上維持』できなければならない。
『纏』と『練』の応用技である円は、広げれば広げるほど維持が難しい。
レンジのクロノスライサーは『円』の密度を上げて『発』にするというものだ。偶然の能力発露のため、本人も詳しいやり方は知らないが。
このクロノスライサーは『対象の時間を遅くする』
しかし『円には一定量の密度が要求され、それにより能力の効果は増減する』ものでもある。
つまり『密度が薄ければ能力は発動しにくくなるし、濃ければ大抵のモノに効く』ことになる。
コレを踏まえて『ある一定密度のオーラをぶつけなければ相手のオーラを破れない』ことを考えて欲しい。
作者の独自解釈及び説明不足により、上記の文がよく分からないことになっているが、つまりはこういうことである。
『100のオーラを纏っているモノには、円に100以上の密度を用いらないとクロノスライサーは発動しない』
一般人ならただの円程度で充分だが、オーラの塊である鬼達はそうはいかない。彼らは存在そのものが纏や堅であり、発なのだから。
レンジが虫キングとの最終決戦に参加できなかった理由。それは『敵があまりにも強すぎたため能力が発動しなかったから』なのだ。
「(ただの鬼共で30メートル……。この鬼だと効くかどうかも怪しいぜ……)」
当然、目の前にいる大鬼は虫キングほどではないにしろ強そうである。
まだ岩から出て切れてないうえ、千草がなにも命令していないから何もしない。
「この女を使って鬼を操ることぐらいならできますえ」
それも今終る。
千草が手を振るとスクナの口が開かれた。
口内に赤い光が収束する。
「これが巨神兵のモデルっつったら、俺信じちゃう」
「旦那ぁ、なにノンキなこと!!」
「喚くな。撃つ瞬間横に跳ぶぞ」
レンジは円を最大限広げ、目を凝らしてその瞬間を待った。
「消し飛びや」
赤い熱線がスクナの口から放たれた。熱線は祭壇を切断し、一直線にネギ達へ向う。
間一髪、円の感触を信じたのが幸いし、レンジ達は熱線が当たる前に避けることが出来た。
熱線の威力は衰えることなく、祭壇まで続く一本橋を麓まで真っ二つに両断した。
直後、熱によって蒸発した湖の水が彼らを覆う。
「フフゥァハハハハハ!さすが神と崇められてるだけのことはあるわ!」
千草の高笑いが響く。今の一撃は、確かに人を殺せる威力のものだった。もうネギが子供だからという手加減は一切ない。
彼女は完全に理性を失っている。
「くそ……馬鹿とガキが力持つと碌な事になりゃしねぇ」
今の千草と白髪の少年のことを思い返したレンジはそう呟いた。
その独り言を聞いたネギはしょんぼりした。
「人手が足りねぇし、なにより決め手に欠けてる。カモ、なにか手はねぇか?」
「人手ならパクティオカードで呼びゃいいッス。けど決め手は俺にも……。このかの姉さんを取り戻しゃ制御できなくなるから、時間稼ぎぐらいは……」
「だったら話は早ぇ。霧が晴れねぇうちにさっさと呼んじまえ」
「アイサー」
カモはオコジョアビリティで作ったコピーカードでアスナ達とコンタクトを取る。
「(……何故だろう。後先考えないで魔力を使い果たしたネギよりオコジョのほうが役に立ってる)」
盛大な皮肉も、今は言う暇も無い。
元からなかったシリアスさがAAのおかげでさらになくなってしまいましたね。
あっても左へ受け流しますがね。