広い屋敷の、これまた広い庭に大量の酒と料理が用意された。
その場にいる人間の数では、とても食べきれる量ではない。
だから、少しぐらい外から客を呼んでもいいじゃないか。
「本当にやるつもりですか?」
「私に聞くな、こいつに聞け」
「ケッケッ。働イタ正当報酬ジャネーカ」
近衛詠春とエヴァンジェリンは少し緊張した様子だった。なにせこのようなことは前代未聞。常識的に考えてありえないことをしようとしているのだから。
しかも、今回の当事者達の誰もが反対していないことも信じられなかった。
殺さないと言っていたが鬼達は手加減をしていなかった。そんな相手と杯を交えようなど、陰陽道が始まって以来の珍事だろう。
やや時間が経って巫女の一人が準備の終了を知らせに来る。
「では、いきますよ?このか」
「うん」
まさか自分の娘をこういうことに使うとは夢にも思わなかった詠春。もちろん最初は反対したが、木乃香自身も宴会に賛成したので、あきらめたのである。
オン、と詠春が唱える。
木乃香の魔力を媒介にして、庭に魔法陣がいくつも浮かび上がり、約100体の鬼が召喚された。
いくらなんでもこんなに早く再会するとは思ってなかった鬼達はざわめくが、目の前に用意されているものを見て彼等は、この召喚の目的を察した。
「It's a party time!」
ネギま×HUNTER!第14話『修学旅行珍事件その7〜敵と味方で祝勝会〜』
「飲ンデマスカーーーーーー!!!???」
『メガッサ飲ンデマス!!!』
午前4時。そろそろ日が昇ろうかというのに宴会は終る気配を見せない。
「飲ンデマスカー!?エェオイ、飲ンデマスカー!!??」
「エェモウメッチャ飲ンデマスヨまじデ!!」
普段から飲んでいるのにレンジのハイテンションぶりはなんなのだろうか。もうちょっと言うなら、鬼達のこのノリの良さもなんなのだろうか。
レンジは一升瓶ではなく酒樽を担いで、ひしめき合う庭を渡り歩いていた。皆それぞれ見知った顔同士でグループを作り、食事と酒を楽しんでいる。
と言っても人間と鬼が混ざっているグループは少ない。精々アスナや古菲達がグループに一人居る程度で、本山の者はほとんど給仕に回っている。
やはりこういうところで壁を感じるのはしょうがないことなのかもしれない。
「飲ンデマスカーーーーーー!!!」
この男だけは例外だと思われ。
それでは各グループの様子を見て見ましょう。
「つまり相手のリズムを乱すことを、もしくは掴むことを第一とする。某のように得物を叩き合わせるのもよいが、受けつつ乱すほうが体力を消耗せずにすむのだ」
「あんなに近づかれたら打ち返せないわよ」
「だからこそ前に出るのだ。ただ構えてるだけではいい的だ。戦いには攻撃と防御の主導権がある。それを掴みきれなければ先のように簡単に懐を取られるのだ」
「更に、お主の得物は刀身に破魔の力が宿っているようだが、いちいち大振りすればそれだけ隙が生じる」
「敵を倒すことが目的なら、なおさら順序だてて相手の隙を突くのだ」
「得物は何も刀身だけが武器ではない。接近されれば寝かせて突くこともできる。まずは武器と己で何ができるのか把握することが先決なのだ」
アスナは烏族の集団に囲まれて剣術のレクチャーを受けていた。中にはアスナと戦った本人もいたが、見た目がほとんど同じなのでアスナにはわからなった。
さすが長く生きているだけあって助言にも隙がない。
神楽坂アスナ、師と出会う。
「はいチ〜ズ」
『ち〜ずぅ!』
慣れない外来語を言いながら朝倉のカメラの前でピースをする狐女たち。
外見はほとんど人間と変わらないので、はっきり言ってお化けという感じがしなかった。
「えぇ?これだけで写真撮れるんかぁ?」
「すごいなぁ、昔は金属板に焼き付けとったのになぁ」
「わっわっ、撮った絵も見れるんやって」
「あぁ!?うちと半分被っとる!もっかい、もっかい撮ってくれへん?」
しかもスッゲーフレンドリーだ。時代錯誤なところを除けば、人間の女と大差ない。
命のやり取りをするという意味では、彼女達は恐ろしいものなのかもしれない。
でもこうやって付き合ってみる分にはどうだ?
よい友達になれるのではないだろうか。
「じゃあもう一回、チーズ」
『ち〜ずぅ!』
もう一度シャッターを押す朝倉は思った。
こういうときぐらいお面外せよ、と。
「畜生ぉ、畜生ぉぉ〜〜」
「飲め、飲むでござる。今だけは飲んでもいいのでござる」
「俺かてな〜、千本鳥居で戦ったりしてたんや〜。でも作者が『主役が居ないところを書いても面白くないやん?』とか言うから〜。だったらどっちかこっちに回してくれればよかったやん!ていうかネギ主役やん!」
原作ではな。
「拙者だって、原作では颯爽と優雅に現れる女忍者を演出してたのに、作者が『もうダルい』とか言うからこんなことに……」
「大してまともな文書けもせぇへんクセに長文なんか書くからそういうことになるのがわからへんねん!」
「サイト作って調子に乗って『長文つっても短編がたくさんあるようなもんだろ』なんて言うから!」
次行ってみよ〜。
『畜生ーーー!!』
「何故貴様がここに居る」
「いややわ〜センパイ。仕事やったんですからそんなツンケンせぇへんでください〜」
「お前とは人として相容れられん」
「いけず〜。まぁ、そこがええんどすけど〜」
「ええい、くっつくな!こっそりお茶を酒と換えようとするな!」
百合……?
「中国拳法の真髄は完成された構えにあるネ。より効率よく相手にダメージを与え、的確に隙を突き、臨機応変に対応することができるアル!」
「ふむふむ」
「一見アホらしい仕草をしても、それは体のバネを最大限使うためのものアル。決して考え無しにやってるわけじゃないネ!」
「ふむふむ」
「ちなみに!」
古菲の手には「鉄拳チ○ミ」の単行本が握られている。
「気だの指一本だの抜かして理論だけみれば参考になるヨ。これは」
「グァッハッハッハッハ!半分冗談で言ったンやが、まさか本気で飲めるとは思わんかったわ!」
首領格の大鬼が樽で酒を飲む。体格が体格のため大きなマグカップで飲んでいる様だ。
周りには最後に残った数匹がいる。
「人間と酒か……。昔はそういうこともあったがなぁ」
「最近は呼ぶだけ呼んで、用が終ればハイさよならって感じでしたからな」
「時代の流れ……と括るには、寂しいモンですわ」
クイッとおちょこを煽る三匹。
暗い雰囲気になりかけたそのとき、一人の女の子がグループに近づいてきた。
近衛木乃香である。
「おぉぅ、ワシ等を呼んだ嬢ちゃんやないか。どうかしたんか?」
「あ、あのぉ………今日はホンマにご迷惑をかけました」
木乃香は少しモジモジして、やがて頭を深く下げ謝罪した。
鬼達は何を言われたのかわからず、呆ける。
「うちの所為で鬼さん達が操られてたって聞いて……痛い思いしたって……」
どうやらどこかを勘違いしてしまっているらしい。木乃香に非は一切ないのだが、自分が原因だと自覚しているので、こうやって鬼達全員に謝っているようだ。
それを聞いた大鬼は
「グァッハッハッハッハ!!」
盛大に笑った。そして木乃香の頭をポスポス叩く。
「ええのぅ、ええのぅ人間は!」
「お、鬼さん?」
てっきり許してもらえないとばかり思っていた木乃香は鬼の反応に戸惑う。
周りの鬼達も似たような反応だ。
「いやいや嬢ちゃん、ワシ等はなんにも気にしとらん。久しぶりに暴れられて愉快やったわ」
「せやで。こうやって美味い酒も飲ましてもろうとるし、文句なんか言えへんわ」
「で、でも……」
なんと言って良いのか分からず、木乃香は理由もなく否定の言葉を吐こうとする。
それを大鬼が少しだけ強く木乃香の頭を撫でて止めた。
「ワシ等は皆こうやって人間と付きおうて来た。時には敵として殺しあったり、時には情を、杯を交し合ったりしてなぁ。いつからか知らんが、人間はワシ等をただの化け物としてしか見んようになったがのぅ」
大鬼は別の鬼達を見る。皆誰かしら人間と楽しそうに話しているのが見える。
「それでも、何時の世でも、少ない数やったがあの男や嬢ちゃんみたいのは居た。ワシ等と対等に話そうとする奴がな」
少し離れた所で、レンジがカッパの皿に酒を流し込んでいるのが見える。そしてカッパは倒れた。
「嬢ちゃんみたいのに呼ばれるなら大歓迎よ。困ったことがあったらいつでも呼べばいい。おいちゃんすぐに駆けつけてやるけんの」
「……うん!」
目の端に涙を溜めて、木乃香は満面の笑みで頷く。
その後、一通り話しをした木乃香は、別の鬼達に謝りに行くと言って離れた。
「つい先日までこっち側を知らんかったというのに、気丈な嬢ちゃんですなぁ」
「そこらの青二才より肝が座っている。確かに、呼ばれるならああいう者が良いな」
「時代も変わったなぁ……ホンマに…。どないですか?」
狐女がお猪口を掲げる。
その意図を汲み取り、習って烏族が、小鬼が、大鬼がそれぞれの杯を掲げた。
『良き時代に』
戦いの後には傷と怨恨と、
『乾杯』
明日への希望が残るものである。
宴会の一角にいた父親は、鬼達が娘に何もしないのを確認してホッとしていた。
「心配いらなかったようだな」
「そのようです」
そのグループにいるのは詠春とエヴァ、そしてこの事件の主犯、天ヶ崎千草だった。
チャチャゼロはすでにエナに連れて行かれてしまっている。
「やはり思い出せませんか?」
「はい。奴がフェイト・アーウェルンクスという名で、一ヶ月前に接触してきたことだけで」
「そして君の両親を口寄せし、何度か会っていくうちに取り憑かれた。こちらの内情に随分詳しいようですね」
主犯とのんきに飲むなと思うだろうが、上記の理由により詠春は千草に重刑を課そうとは思っていなかった。
確かに乗っ取られたのは千草自身にそういう考えがあったためだが、幸い死者は一人も出ていないこと、祓われたあとにネギ達を助けたこと、そして彼女自身反省していること。
これらを踏まえて、事件を起こした責任は取ってもらうことになるが、呪札使いとしての生命を断つほどではないという結論にいたった。
「この度は本当に申し訳ないことを」
「まったくだ。余計なことに巻き込みおって」
「まぁまぁ」
茶々丸を壊されたということも手伝って、かなり不機嫌なエヴァだった。どうせ麻帆良に帰ればハカセ達が直してくれるだろうが、それでもこの修学旅行中は不機嫌でありつづけるだろう。
「飲ンデマスカーーーーーー!!!???」
「うひぃ!」
そこへ空気の読めない男が一人。
樽を担いだまま、後ろから千草に抱きついてきたのだ。そりゃ驚くだろう。
「いや〜ネエチャン、石になっててわかんなかったけど、熊のぬいぐるみで助けてくれたんだってな!マジ助かったわ!」
「め、迷惑かけたのはウチやし、あのガキに仕返しせな気が済まへんかったから……」
しどろもどろになる千草に酔っ払いに絡まれてご愁傷様という視線が集まる。
だが、レンジはその視線の主達にも矛先を向けた。
「おんや〜?あんた等全然飲んどりませんね〜」
「明日、と言っても今日ですが、スクナの再封印をしなければなりませんから」
「ほう?宴会で酒を飲まないというのんけ?」
お前はどこの人間だ、とエヴァは心の中で突っ込む。
心の中で突っ込まれた人物は、おもむろに懐からフラスクを出した。平たく少しだけUの字に曲がっている金属性のアレだ。
「そんな貴様等には魂を吹き込んでやろう」
その瞬間、エヴァは肌に何かが触れたような気がした。それがなんなのかわかった頃には、
「ガボ!?」
口に水筒が突っ込まれていた。口の中に入った液体は真直ぐ胃の中に到達する。
同じようなことを詠春と千草もやられたようで、かなりむせていた。
酒に慣れているエヴァも同様だった。今まで飲んだどの酒よりも強い。体が一瞬で火照るほど、というか舌が痛くなってくるほど強い酒だった。
「にゃ、にゃにをろませらんら〜」
「言っただろう?お前達に魂を吹き込んでやると」
もうろれつが回らないらしい。代わりに3人とも顔を真っ赤にして眼を回している。
そう言うレンジはチビチビと舐めるように酒を飲む。
「…………」
真っ赤な顔のまま千草が立ち上がった。そしておもむろに片手を上げる。
何をするつもりだ?彼女と戦った者達は何が起きてもいいように臨戦体制を取った。
彼女は大きく息を吸い、言った。
「一番天ヶ崎千草、脱ぎます!!!」
歓声があがった。
ついでに土煙がいくつか。地面に頭からずっこけた者の仕業である。
「あの、脱ぐってなんですか〜!?」
「ネギ先生、君は永遠に知らなくていいことだ」
そう言って龍宮はネギの目を塞ぐ。懸命な判断です。
ネギの耳に一枚〜、二枚〜と聞こえてくる。目が見えない分逆に想像してしまうのは人間の性じゃないでしょうか。
「罪作りな酒だ」
ばっちり千草のストリップを見ながら、レンジはその酒の強さに舌を巻く。
その酒は文字通り『魂(スピリタス)』を注いだのだ。
急遽作られたお立ち台では、足袋とニーソックスを脱ぎ終わった千草が腰帯びに手をかけようとするところである。
「やめなさい千草君」
それを止める不届き者、もとい常識人がいた。詠春である。さすが年季が入っているだけあって酒に飲まれないようだ。
周りからブーイングが跳ぶ中、お立ち台から千草を下ろすその姿は正に勇者。
アスナや刹那が大げさとは言いがたい安堵の溜息を吐く。
「止めないで下さい。ウチにはこれぐらいしか」
「馬鹿を言ってはいけない。君にはこれから働いてもらわなければならないのだから。……それに
脱ぐのは私の宴会芸だからな!!!」
時間差だった。
「二番近衛詠春、脱ぎます!!!」
千草と違って躊躇無く服を脱ぎ始める詠春。周りから「長〜〜〜!!!」とか「お父様の不潔〜!」とか黄色い声があがるが、そんなことは知ったこっちゃない。
彼は今輝いている。
「あぁ…渋い体……」
ついでにアスナの目も輝いている。
近衛詠春、彼は今日大切なものを無くしてしまいました。威厳とか信頼とかそういうものです。
「『酒は飲んでも飲まれるな』か……昔の人はいいこと言ったなぁ」
「無理矢理飲ませたくせに」
「ソレデモ飲マレル方ガ悪ィンジャネェカ〜?」
いつの間にかレンジの背後にエナが座っていた。他の学生と違って彼女だけは酒を飲んでいる。
お酒は二十歳からです。念のため。
「ガキ共はどうした?」
「眠ってもらったわ。説明するのが面倒くさいし」
「口より先に手が出るか」
「ソレノ何ガ悪イ」
「いいじゃない。流石にこの状況をみせるわけにもいかないでしょ?」
周りを見れば鬼、妖怪、『半裸』。事情を知っているのどかを除いて、夕映とハルナが見れば厄介なことなるだろう。
ただでさえ夕映は疑っているし、ハルナが知った日には目も当てられない。
ブーメランパンツが眩しいからです。
「ま、なにはともあれお疲れ様」
「あぁ。まったくエヴァがいなけりゃどうなってたことか」
エナは近くに置いてある徳利を拾って、レンジの酌をする。返杯まで済ませて、ようやく今日という一日が終ったのを実感した。
「普通の世界だと……思ってたんだがなぁ」
「あら、私にとっては異世界よ?」
「そりゃそうだけどよ、なんか……裏切られたって気がして、やりきれねぇわ」
少なくとも、向こうの世界に行くまでは普通の世界だった。魔法も妖怪もない平穏がそこにあった。今でも自分の家族は何も知らない日常を過ごしていることだろう。
だがほんの一瞬で世界はガラッと色を変えてしまった。
「………なんだ、結局変わらねぇ」
レンジは、かつて自分がエヴァに言ったことを思い出した。
どこの世界も変わらない。
そう、世界はそこにあるだけで、何も変わらない。
変わってしまったのは自分だから、世界は更に広がっただけなのだ。
「どこ行ってもやることは変わんないのねぇ」
「矛盾だよなぁ。だからこそ生きていける、そうだろ」
場所が変わってもやることは変わらない。
ただ戦い続け、生き続けるしかない。
元々矛盾は生物の専売特許だ。
念使いから魔法使いへ変わっただけの世界で、レンジとエナは生きる。
そこに一切の不都合は無い。敵はぶっ殺す。それだけでいいのだから。
「これからも頼りにしてるわよ」
「そりゃこっちのセリフだ」
それだけでいい。だから……
「や〜、ど〜もど〜も〜、ハード○イで〜す」
さっさとこいつを殺してくれ。
「頼りにしてるんだからね!」
「だからそりゃこっちのセリフだ!」
「オレガヤッテヤロウカ?」
『イカーン!』
教訓、人に無理矢理お酒を飲ませるのはやめましょう。
「フォオオオオオオオオオウ!!!」
彼の声が協会本部の山に木霊する。
風流もヘッタクレもない宴会はこうして幕を閉じた。
なお、近衛詠春の痴態は朝倉のカメラにばっちり収められてしまったことをここに記す。
彼の運命やいかに。
いろんな意味で賑わった宴会は幕を閉じ、召喚された者達は皆己の居場所へ帰っていった。
今度も敵として会わないことを祈って。
時間はもう午前8時。今更本山で寝る訳にもいかず、ネギ達はさっさと旅館へ帰っていった。
去るタイミング逃した刹那は微妙な顔をしていたが、結果オーライとしよう。
誰も彼女が去って欲しいと思っていないのだから。
旅館へ帰るとあら大変。近衛詠春が放ったネギ達の身代わりが大暴れしているというではありませんか。やっぱりあの術は信用できないらしい。
風呂場でストリップショーを始める偽アスナ達は刹那が、旅館のロビーで意味もなく笑う偽ネギは本人が、瀬流彦先生を捕まえて一晩中酒盛りしてた偽レンジも本人が始末して、ようやく騒ぎは収まった。
レンジは例え偽者でも酒を飲むらしい。
そんなこんなで、今日は修学旅行最終日。数時間後には新幹線に乗って麻帆良に帰る予定である。
カエル騒動から始まったこの旅行も、終ってみればいい思い出になるだろう。
「寝るぞ、寝るぞー!ホントに寝るぞ俺は!」
班集合写真の撮影を朝倉に譲ったレンジは、6班の部屋で大の字に倒れた。
何故6班なのか。理由は彼の部屋で酒盛りをした偽レンジと瀬流彦の所為で、部屋が腐海になってしまったからだ。
他の職員の部屋で寝ればいいと言われるかもしれない。
しずね先生の部屋は倫理的に却下。
新田先生の部屋は、気分的に行きたくないということで納得してもらおう。
ちなみに瀬流彦先生は新田先生と同室なのであしからず。
寝るというレンジの提案に賛成したエナとエヴァも、さっさと布団を敷いて仮眠を取ることにした。
ネギが父親であるナギの隠れ家を、近衛詠春に案内してもらうことになったので、エヴァはそれに便乗することにしたらしい。
レンジとエナは関係ないので、時間が許す限り寝る方針だ。
「じゃあザジさん、お願いね」
「………」
目覚まし時計役を任されたザジは嫌な顔一つせず頷いた。
丸一日徹夜で、前日はキス大作戦の所為で寝不足。
宴会の酒も手伝って、レンジ達は朝日をものともせず眠りにつく。
「なんだか眠いんだよ……パトラッ…ぐぅ………」
そんな犬はいません。
after time at1:00
ネギ一行は長と合流してナギの隠れ家に案内してもらいました。
モダンな感じの雰囲気がとってもおしゃれです。
ネギを含めて、便乗してきた木乃香やハルナ達は、備品を手荒に扱わないように厳重注意されて本を物色しているようです。
そのあとは原作と変わらない展開が続きます(ォィ
だってもう分かってる展開をいちいち書くのもアレやん?知りたければ他のSSを見る方がいいです。
ただ、原作と違った展開が一つだけあった。それは
「ネギ君、朝から木乃香が妙に余所余所しいのですが、なにか心当たりはありませんか?」
「えぇ!?さ、さぁ僕にはさっぱり!」
「これが年頃の娘ってやつなのですかねぇ。寂しいものです」
父親の酒乱ぶりを見せ付けられれば当然と思われ。
彼が真実を知る日は、おそらく来ない。来ないほうがいい。
その後、詠春は部下からも余所余所しくされ、首を傾げる数日を過ごしたという。
余談だが、スクナを再封印しに湖へ赴いた詠春達は、あまりの惨状に呆然としたという。
封印するための大岩の手配、水の補給、水棲生物の補給など、封印するまでにかなりの時間を要したらしい。
エナ、恐ろしい子!
近衛詠春が湖で嘆いている頃、麻帆良の関係者達は京都駅に集合していた。
このまま新幹線で麻帆良に帰る予定だ。
数日の修学旅行も終ればあっと言う間。多少のハプニングとそれに巻き込まれた者はいるが、いい思い出となるだろう。
彼女達がクラスごとに別れて車両に入っていく。それを見届けるレンジは、ようやく訪れた開放感を満喫していた。
どうせ帰りの車内で写真を取らされるハメになるのだろうが、それは大した問題ではない。
なにせ何人か眠たそうな顔をしているからだ。欠伸を連発している寝不足組みならすぐ寝るだろう。
寝顔を撮るというストーカーチックなことをできるというわけだ。
「あの、少しいいですか?」
そんなとき、急に背後から声をかけられた。
振り返ると、そこにはいたのはバッグを持った黒い長髪が特徴的な長身の女の子―――大河内アキラその人だった。
レンジは彼女の訪問に心当たりがなかった、せいぜい写真を撮る時に何度か見かけたぐらいで、彼女もそれは同じだろう。挨拶ぐらいはしたが、所詮はその程度だ。
「えぇっと、何か用かな」
しかし尋ねてきたからには用があるのだろう。もしかしたら言伝かもしれない。
「あ、あの……」
寝起きのぼんやりした目で彼女を見ながらレンジは思う。
なんでこの子は顔を真っ赤にしてモジモジして俯いてなにか言い辛そうな感じなのだろうと。
自分の社会の窓でも開いているのだろうか。それはない、ちゃんと確認した。
ならば服の恥ずかしいところが破れてたりしてるのだろうか。それもない、戦いの後新しく買いなおした。
ならば一体なんなんだ。
そうレンジが思ったとき、大河内アキラは顔を上げた。
「あの……返事はもうちょっと待ってください、考えたいんです」
俯いていたときより顔を真っ赤にして、大河内はそう言った。
レンジが「何を?」と聞き返す前に、彼女は対峙するのに限界が来たらしく、普通の人ではありえない速度でその場から消えた。
ずっと様子を見ていたザジの視線が痛い。
古菲とか龍宮がいたら「ふむ」とか「ほう」とか言ったんだろうなぁ。
そう考えたあと、レンジは思う。
何をした、偽レンジよ。
へへ、燃え尽きちまったぜとっつぁんよ〜。
次回から少し迷走期に入ります。更新頻度は変わりませんが、内容がいつもに増してグダグダだったりしょーもなかったり、なんか変だったりします。
学園祭に入るまでしばしのご辛抱を。