修学旅行が終わり、平穏が訪れた。父への手がかりと今後の目標もできて、ネギは大いに励んでいる。

「今日からまた頑張るぞー!」
「喧嘩だーーー!」

そんな彼の気合は一瞬で霧散した。






ネギま×HUNTER第16話 「ネギの弟子入り」





アスナと木乃香を伴って登校するネギの耳に入った喧騒。気になって声のしたほうを見てみると古菲が大勢の人間に囲まれていた。
随分とガラが悪く、中にはジャマイカ出身っぽい人や最強流の師範代っぽい人もいる。
皆それぞれ殺気立っているが、当の古菲はいたって涼しい顔だ。

「く、くーふぇさんが悪そうな人に囲まれて!?」
「あれはいつものことでござるよ。古が去年の学園格闘大会で優勝してから、ああして毎日挑戦者が絶たないでござる」

あわわと慌てるネギにどこからか沸いて来た長瀬楓が説明する。

「今日こそ勝たせてもらうぞ、中武――――ぶはぁ!!」

古菲が構える前に、合図すらせず乱闘が始まった。
四方から繰り出される攻撃を受け流しつつ、一人一人確実に沈めていく。
20人近くいた挑戦者はあっと言う間に遅刻確定となった。

その結果がいつものことだとギャラリーは思っている。だが楓には違って見えていた。
古菲が放つ一発一発が妙に軽すぎるように見えたからだ。なのに威力は普段以上。
まるで壊れやすいものを壊さないようにしているかのように、古菲は細心の注意をはらっていたように見えたのだ。

「弱いアルね。もっと強いやつはいないカ?」

だとしたら、一体彼女は今どこまで行っているというのだろうか。
楓はブルッと身震いする。近いうちに自分も挑戦者側に回ろうと考えながら。

「だったらオレが相手してやろうか?」
「し、師父!?」
「この大量のバカ共の後片付けすんのが誰かわかってんの?ん?」
「あぅ〜あぅ〜」

そしていずれはあの御仁とも。古菲を叱るレンジを見ながら、楓はヒソカに決意した。

「古菲さ〜ん、嵩田さ〜ん」

乱闘が終ったのを見計らってネギが2人に駆け寄る。古菲はあからさまに「助かった」的な顔でネギを向かえた。

「ニーツァオ、ネギ坊主」
「おはようさん。先生、見てたんなら止めろよ」
「す、すいません。びっくりしちゃって……」

止める暇がなかったのもまた事実。今回はネギに非はない。

「おら餓鬼共、さっさと学校に行けや。こんなところで寝ると他の生徒に迷惑なんだよ」

レンジは倒れている生徒を蹴って起こしていく。女にも容赦がない。
当然、そんなことをされて平気な者がいるわけが無く。

「じゃかましいー!警備員はすっこんでろー!」

ダメージの軽い者が反抗するのは必然。そして

「デコピンインパクトゥ!!!」
「ごはあぁぁ!!」

こうなるのもまた必然。髪が逆立っている生徒はまた地面にとキスすることになった。

「うっせぇよお前等。だいたいなぁ、一人で勝てねぇから大勢で挑んで、それでも負けてよく格闘家なんか続けられるなぁ?あげくの果てにはただの警備員にのされて恥ずかしくねぇのか?」

レンジは倒れている生徒の一人の胸倉を掴んで強引に起き上がらせる。

「試しに聞くけどよ、もしさっきの乱闘で古菲が負けたら、テメェ等それで満足か?あ?古菲より強いって証明になんのか?」

誰も何も言えなかった。

「あんなもん試合でも勝負でもねぇ。リンチっつーんだよ。今のテメェ等はただの野蛮人だ」

倒れている人に、軽くとはいえ蹴りをいれる人も野蛮人と言うのではないだろうか。
そんなことにも気付かない挑戦者達は、落ち込んだ様子で学校へ向った。

「ったく、近頃の餓鬼は……」

その近頃の餓鬼であるネギ達はしょんぼりした。






朝のホームルームは、いつもどおり賑やかだった。修学旅行が終っても彼女達のハイテンションが下がる気配は無い。

「えぇっと、今日からこの教室に副担任が就くことになりました」
「先生その人男!?女!?」

鳴滝姉が真っ先に挙手。紹介されるまで待てばいいものを。

「女性ですよ」

ネギがそう言った途端残念そうな溜息がいくつかの席で漏れた。やはり期待するものなのだろうか。

「それでは、入ってください」

ネギの合図で教室のドアが開かれ、少し背の高い女性が入ってきた。
ビシッと決めたスーツで、少し短いタイトスカートから見事な美脚をさらす女性は

「京都から転任してきた天ヶ崎千草といいます。一年間だけですがよろしゅうお願いします」

ガタガタ!!!!!

アスナ、エナがずっこける。流石に不意打ちだったようだ。

「な、あな、な、な」
「どうしたですかアスナ?」

アスナの後ろの席にいる夕映が心配そうに尋ねる。
修学旅行で夕映は千草と直接会ったことがないので、彼女が誰なのか分からないのだ。

「(ちょっと、あれいいの!?)」

アスナは平然としている刹那の方を向く。かつて敵であり、大切なお嬢様を攫った主犯なのだから、本来なら真っ先に警戒していいはずだ。

「(本山から連絡がありましたし、宴会のあと正式にお嬢様へ謝罪されたので)」

木乃香も知っていたのか、平然としている。
あまり納得いかないアスナだが、当人同士で決着がついたなら口出し出来る立場じゃないと諦め、皆に無難な説明をして席についた。

ちなみに、無難な説明とは新幹線で売り子をしていたことを話していた。
電車内の売り子から教師。確かにそりゃ驚く。

「教育実習生でもあるのでしばらくは僕の授業に同伴してもらいます。特に連絡事項が無ければHRは終りますけど?」

ネギがいいんちょに尋ねる。彼女が首を横に振ったのを確認して、千草を連れて教室を出ようとした。

「あ、そうだ。くーふぇさん」
「ん?」
「話があるので、放課後世界樹広場前の大階段で待っててもらえませんか?」

その瞬間、教室が一気に静まり、

「いいアルけど」
「よかった。それでは放課後に」

ネギがパタンとドアを閉めた直後、爆発的な騒ぎが起きたのは言うまでも無い。







放課後、一通り学業と職務を終らせた学園の人間は各々の時間を過ごす。
そんな中、学園長室に集まる一団があった。ご存知魔法関係者達である。
ズラッと並ぶ魔法使いの前には学園長と天ヶ崎千草が立っていた。

「過去の大戦により仲違いしていた我等じゃが、此度のネギ君の働きにより和平への人材交流が行われることになった」
「関西呪術協会本山を代表して参りました、天ヶ崎千草です。東西の仲違いを緩和するため尽力を尽くす所存でございます」

ほぅ、と男性陣から溜息が漏れる。生粋の京都美人である千草に見惚れているらしい。
女性陣の何人かも少し危ない視線を向けているが、これはスルーで。

「この交流が進めばいずれ東西の境はなくなるじゃろう。魔法と呪術、流派は違えど根底は同じ。互いに足りないもの、必要なものを吸収し更なる精進を期待する」

『はい!』

簡単な顔合わせを終らせ、各自の自己紹介が始まった。




他に用事がある者はさっさと退室し、その中にエナとネギの姿があった。

「エナさんはいいんですか?」
「特に話すことなんか無いしね。交流っつっても私にはあんまり関係ないし」
「…………。敵だったから、ですか?」

木乃香を攫い、大勢の鬼を嗾けて、神話級の鬼の封印を解いた。操られていたとはいえ、そんなかつての大悪党と仲良くする気は無いとエナは思っているのではないか。

そう考えたネギだったが、エナの答えは少し違った。

「別に。あの程度の敵対関係なんて、前のところじゃ沢山いたわよ」

HUNTERの世界では、それこそ敵しかいなかった。少なくとも幻影旅団の中にすら仲が悪い奴もいた。本気で殺しあったりもした。その直後に共に戦いもした。
エナにとって敵とは、自分以外の全てである。その逆も然り。

「大体魔法関係の人だって、学園長とタカハタ先生、エヴァちゃんとネギ先生以外とまともに話したことなんてないわ。そういう理由で、猿女と話すことも無し。ま、表面上は仲良くするけどね」

どうせ一年限りだし、とエナは冷たく言い放つ。

「そういうのって………よくないと思います」
「私はいいと思ってる。説得して考えを改めたいなら、それに見合う材料を探してきなさい、ネギ先生」
「エナさん!」

階段のところまで辿り着くとネギは下に、エナは上へ向う。
彼女の姿が完全に見えなくなる前に、ネギはエナを呼び止めた。

「クラスの皆もそうなんですか!?アスナさんやこのかさんや刹那さんとも、たった一年だけの友達なんですか!?エヴァンジェリンさんや茶々丸とも、表面上だけの関係なんですか!?」

更にネギは続ける。

「京都で危険な目にあってまでこのかさんを助けたのは!?エヴァンジェリンさんと京都で遊んでたのは!?全部表面上のことだったんですか!?」
「そうよ」

階上からエナの冷たい声と、見下ろす瞳がネギの心を穿つ。

「エヴァちゃんは趣味の合う取引相手、このかのことは私も襲われたからついでに加勢しただけ。あそこで協力しておけばあとで何かに使えるかと思ってね」
「そんなのって!」
「はいはい、言いたいことはよぉっくわかるわ」

エナは少し声を大きくしてネギの反論を封じた。これ以上議論するつもりないと。

「皆と仲良くしましょう、皆で助け合いましょう。いい言葉だけどネギ先生が言っていいセリフじゃないわ」
「なんでですか?」
「だってあなた、助け合おうなんて考えてないでしょ?」

エナの言ったことが、ネギには一瞬わからなかった。

「助け合うってのはね、損得と遠慮を考えず、自分と同じ事か自分に出来ないことを相手にしてもらうことを指すの。あなた達魔法使いは一方的に助けてるだけじゃない」
「あたりまえじゃないですか!危険から助けようとしてるのに、危険なことに巻き込んだら本末転倒じゃないですか!」
「ほら、考えてない。それが現実よ。掟や道徳の前じゃ理想なんて蚊みたいなものよ。誰かのためにはなるけど自分のためにならない」

ネギは今度こそ反論できなかった。エナがあきらかに正しくないこと言っているのに、反論するだけの材料がないのだ。

「言っとくけど私はまだマシよ?世の中にはね、見返りがないと絶対動かない立派な人間はいくらでもいるんだから」

そう言ってエナは階段を上り始めた。ネギは止めようとするが、エナの言葉を否定する考えがうかばない。なにより人を待たせている……これ以上ここにいるわけにもいかない。

「ネギ先生、一つだけ教えとくわ」

視界から消えたエナの声が階上から響く。

「世の中を善悪で分けて考えるのは人として3流、両方を理解してやっと2流」

それはエナの人生を最も表している言葉だった。

「両方どうでもいいと思えるようになって一流と下衆に別れるのよ」








放課後は生徒にとって待ち遠しい日課の一つである。
部活に向う者、友人と遊ぶ者と様々だ。
そんな中、少なくは無い人数の一団が学園内を闊歩していた。
彼らは普通より輪をかけて勉学が嫌いであった。だから勉学以外のことで自分を納得させていた。
それが今日、ある人物によってあるべき姿を諭されたのだ。
だから、彼等は口をそろえて言う。

『弟子にしてください!』
「ウゼェ!」

古菲が師父と言っていたのを誰かが覚えており、そこから『レンジ=古菲の師匠=強い』という式が成り立ってしまったのだ。
当然古菲を弟子にしているのなら自分だって、と考える者が出るわけで、現在に至る。
しかも、最初は5人足らずだったのが次々と増えて40人近い人数になってしまった。おかげで警備員の仕事ができずにいる。
それだけならまだいい。問題はエヴァの別荘だ。こんな不特定多数を連れて行くのはよくない。
彼らの命どころか自分の命も危険に犯されてしまう。

さて、どうやってこの有象無象を蹴散らせばいいのか。

案1:これ以上の弟子は取らないという。
     ↓
   そこを何とか。
     ↓
   エンドレス。 

案2:俺に勝てたら弟子にしてやる。(弟子にしてもらう意味無し)
     ↓
   負ける。
     ↓
   また来る。
     ↓
   エンドレス。

案3:古菲に勝ったら弟子にしてやる。
     θ
   今日の朝と同じことが起きる。
     ↓
   エンドレス。

案4:ぶちのめす。
     ↓
   そこに痺れる、憧れる。
     ↓
   エンドレス。


結果=orz



まぁ4番目は無理がありそうな気がしなくも無い。

「(駄目だ、このままじゃいつまで経ってもいい案なんか思い浮かばらねぇ。誰かに相談するしか…)」

そうと決まれば誰に相談しようか。そう考えた瞬間、

「師父〜!」

究極的に頼りになりそうにない弟子が駆け寄ってきた。
気が付けばそこは世界樹広場前の大階段。

「なにしてるアルか?小鴨引き連れてる親鴨みたいなことして」
「この面子を見て言いたいことはそれだけか」

レンジの後ろに控えるのはジャマイカ出身っぽい人や最強流の師範代っぽい人や巫女服着た女やら、朝に古菲が熨した連中ばかり。

「う〜ん……記憶に無いアル」

哀れ。

『古菲さん!』

そんな彼等はレンジを押しのけて彼女の周りに集まる。一瞬勝負かと思って身構えた古菲だが、

『どうやってあの警備員さんに弟子入りしたんですか!?』

出てきた言葉にポケっとした。

「自分等今朝のことで目が覚めたッス!」
「だから古菲さんより強くなるために、師匠である警備員さんに弟子入りしようとしてるんッス!」
「でも本人は嫌だった言うから困ってるッス!」
「俺達強くなりたいッス!」
「だから弟子入りしたいッス!」

レンジを攻めても陥落しないと悟った彼等は古菲を攻めることで間接的に墜とすつもりのようだ。
だが、

「師父に弟子入りしてもワタシには勝てないアルよ?」
『どうして!?』
「今のままでワタシに勝てないなら、同じ流派を習って勝てるわけないネ」

至極もっともな意見で返されてしまい、彼等はorzになった。

「強い人に弟子入りすることは悪くないアル。でもそれは今まで信じてきた自分を裏切ることにもなるネ。自分の流派で最強になってから考えても遅くないと思うヨ」
『………わかりました!警備員さん、ご迷惑をおかけしました!』

短絡思考だからだろうか、簡単に納得した彼等はそう言い残して消えた。今後出番が来る事も無いだろう。
元々ここでの出番も本来は無かったのだから。

「いやいや、助かったわマジで」
「武を志す者として当然のこと言っただけアル」
「すでに中学生の言葉じゃねぇな。じゃあ俺は仕事があるから、また別荘でな」
「今日はトンポーローがいいアル」
「エヴァがいいって言ったらな」

まだ茶々丸が治ってないので、エヴァ邸の食事を賄っているのはレンジなのだ。
ちなみにエナはなにもしていない。ただ人形を愛でているだけだ。
HUNTERの世界でもそうだったため、もう本人達は気にしていないが普通はこう思うだろう。
逆だしエナいらねぇだろ、と。

「3時……あと2時間頑張るかねぇ…」

レンジはそのまま校舎の方へ見回りに向った。






んで






「よっしゃストライク!」
「警備員さんスゲー!」
「これで4回連続ストライクだー!」

一時間後、何故か中学生に混じってボーリングをするレンジがいた。
とりあえず成り行きだけは説明しておこう。


かつての刺客、天ヶ崎千草が麻帆良へやってきた目的は東西の和解だった。
3−Aの副担任になった彼女は親睦のため生徒に誘われる。
同じく誘われ、承諾するネギと古菲。ついでにクラスメート。
偶然居合わせたレンジは、事情を知らないが故監視することに。
取るべき得物はマイクか、ボールか。
ネギはただ、古菲の後姿を見つめる。
ネギま×HUNTER第16話 『魂を込めて』
覚悟を決めろ。それが念を強くする。


次回予告風第2段でした。(ゴメ


それから千草の事情をアスナから聞いたレンジは、女だけではマンドクサなことも起きるだろうからと言ってついてきたのだ。
現在古菲とスコアを争っている最中である。

「やるアルね、師父」
「円でピンとの距離がわかるからな。ボールの重さも綿みたいなもんだ。………ところで」
「ん?」
「さっきから妙に視線を感じるんだけど……」
「やっぱり師父もそう思うアルか?使い手でもいるのかネ」

フイっと周りを見回したら視線は消えた。だが正面を向いた途端、また気が込められた視線を受ける。
襲う気配はないものの、これではうっとうしくて仕方がなかった。
ちなみに、視線を受けているのは古菲だけで、レンジはとばっちりである。
彼は誰かに見てもらいたい年頃なのです。決してマゾ的な意味ではなく。

「(まぁ、凝で見れば一目瞭然だけどな)」

ドロドロしい気を発しているいいんちょ、佐々木、宮崎を横目で見ながら、レンジは次の順番が来るまでイスに座って待った。

すると、ちょうど隣のレーンでボールを投げ終えた千草が隣に座る。

「………」
「………」

出会いが特殊だったため、なんか気まずい雰囲気が漂う。周りが楽しんでいるのにこんな雰囲気を出すのは申し訳ないと思い、

『あの…。…………』

ちょっと勇気を振り絞って話し掛けたら空回りするというそんな罠。

「………」
「………」

また気まずい雰囲気が漂う。どっかの誰かが「ラブ臭じゃないけど甘酸っぱい!」とか騒いでいるのはスルーで。

「………。京都では、ご迷惑をおかけしはりまして」

ようやく出てきた言葉は謝罪だった。それもそのはず。彼女達の行いで酷い目にあったのだから。

「最後に助けてもらったから気にしてねぇよ。それより、宴会で無理矢理酒飲ませて悪かったな」
「あ、あれは……その…忘れてくれはったら……」

わかってるよ、とレンジは笑う。2人の目の前では古菲がいいんちょに勝負を挑まれた。当分2人の番が来ることはないだろう。

「こっちに来た目的は?」
「お嬢様の護衛と東西の和解。可能な限りネギ・スプリングフィールドへの協力。東西の仲違いについては存じてはりますか?」
「魔法のことを知ったのはつい最近だ。昔の裏事情なんか興味ねぇよ。ガキ共に迷惑をかけなけりゃ俺に口出しできることはねぇ」
「生徒思いですなぁ」
「仕事だ」

レンジの手が一瞬宙を彷徨う。いつもポケットに入れているフラスクを取ろうとして、警備服だったのを思い出したのだ。
どうやら仕事中まで飲まないだけの常識は持っていたらしい。
しぶしぶ缶コーヒーをすする。

「しかし、学園長達といいあんたのところといい………随分可愛がられてんな、ネギは」
「知らへんのですか?」
「何が」
「あの子はサウザンドマスターの実子ですえ」
「…………。あぁ、例の無責任野郎のガキだったのか」
「む、無責任!?」
「そいつに呪いかけられた知り合いが居てな。3年したら解くって言ったっきり15年も音沙汰なしらしい。なるほど、呪いのことを忘れてせっせと子作りに励んでたわけか」
「そ、そういう言い方は……」
「事実だべ?」
「………あの子の前では言うてはあきまへんよ」

知ってしまったらどんな顔をしてエヴァンジェリンに会うのか、とても楽しみである。

「偉大な父親の息子で、父親を追う……か。似すぎてるな」
「は?」
「こっちの話だ」

レンジは温くなっているコーヒーをすする。苦い味は彼の心も表していたのかもしれない。





一時間後




いいんちょ・佐々木・宮崎連合VS古菲。
勉強以外は強いという本人の言った通り、結果は古菲の圧勝で幕を閉じた。
涙ながらにネギへの恋をあきらめるいいんちょと佐々木。いい話だ。
だが、ここに最も最低な女が2人。

「2人きりになって押し倒してキスして行くところまで行って挽回するのよ!略奪しなさい略奪!」
「ふぇ〜〜〜」

ハルナは問答無用で駄目だと思うのです。
そして流されるままに、トイレに行ったネギを追うのどかもけしからんと思うのです。
勘違いとはいえ、恋をあきらめた2人に申し訳が無いと思わないのだろうか。

「ところでハルナ」
「ん?」
「十歳児相手にどこまで行けばいいですか?」
「…………う〜〜ん」

勢いで物を言うのはやめましょう。

「……………。結構かかってるわね」

携帯の時計を確認するハルナ。すでに七分近く、2人はトイレに行ったままだ。

「あ、戻ってきたです」

ハルナが携帯から目を離して前をみると、なんとのどかとネギが楽しそうに話しながらこっちに来ていた。

「あれれーー!?いい雰囲気じゃない!」

自分で煽っておいてそういう言い方はないんじゃないだろうか。
ネギと別れたのどかは真直ぐハルナ達のところへ戻ってくる。

「だ、だ、大成功でした〜」
「マジ!?ナニしたの!?どこまで行ったの!?」

たった七分で出来ることはたかが知れている。それすら気付かないほどハルナは興奮していた。だから

「ネギ先生と一杯世間話しちゃいました〜」

こんなことを言われれば興醒めを通り越して怒りすら湧いてくるんじゃなかろうか。

「違うでしょーーー!」
「ごめんなさーーー!」
「2人とも漫才してる場合じゃないですよ。ネギ先生がくーふぇさんのところに」
『えぇ!?』

夕映が指差す方向には、確かに古菲と向き合うネギが居た。
あわてて二人の声が聞こえるところまで駆け寄る三人。プラスいいんちょと佐々木。
やはり諦めきれなかったようだ。

「それで、さっきの続きなんですけど、くーふぇさんにお願いしたいことが」
「(しまった、とうとう本気の告白タイム!?)」

隠れきれていない手すりから身を乗り出す5人。

「あの……その」
「ネギ先せ――――!」
「こらいいんちょ、邪魔はアンフェア!」

ついに我慢し切れずに飛び出そうとするいいんちょを抑えるハルナ。この女がアンフェアを語る資格はないが、この行動だけは拍手を送ろう。

「僕に、中国拳法を教えてください!!」

ネギがそう告白した瞬間、夕映を除いた4人の顔がポカーン(AA略)になった。

「ほう、中国拳法を?」
「はい。京都で僕は2人の少年と戦いました。どちらも強かったんですが、その一人がくーふぇさんと同じ動きをしてたんです。それでくーふぇさんに教えてもらおうと」
「…つまり、強くなりたいアルね」
「はい」

少し照れながらも、ネギはきっぱり頷いた。

「だが断る」
「えぇーー!?」

ガーン、という感じの劇画風になるネギ。

「な、なん、どうしてですか!?」
「ワタシも今ある人に教えを受けてるネ。弟子が弟子を取ることはできないアル」
「え!?じゃ、じゃあ僕もその人に弟子入りします!」
「言いたいことは分かるアルが………おそらくネギ坊主の思い通りにはいかないと思うよ」

古菲はそう言って、レンジを呼んだ。
そこでネギは思い出した。古菲は何度かレンジに向って師父と言っていたのを。

「なんだ?」
「ネギ坊主が弟子入りしたいと言ってるアル」
「門前払い」
「やっぱり」
「ちょっと待ってください!」

本人を無視した会話に待ったをかける。

「何言っても無駄だぞ。俺はよほどのことが無い限り弟子は取らん」

主に不可抗力とか逃げ道がないときです。

「そこをなんとか、お願いします!」

それでもネギは下がらない。なんとかして古菲から中国拳法を習おうと必死である。

「だいたい俺はエヴァ側の人間だ。協力することはできない」

コレは詭弁だ。確かにレンジはエヴァと一緒にいることが多い。しかしエヴァに従っているわけではない。

「お前が何やっても俺は知らん。だから俺を巻き込むな」
「………」

ネギの目尻に涙が浮かぶ。怒られたり叱られたりすることはあっても、冷たくされるのはほとんど無い人生を送ってきたからだろう。

悔しそうに俯くネギの横を、レンジは通り過ぎる。もう話は無いと。

「あぁそういえば」

レンジは何か思い出したように立ち止まり、少し声を張る。

「古菲、お前中国拳法研究会の部長だったよな。それ教師は入会できんのか?」

ハッ、とするネギ。古菲も一瞬驚いたが、

「保育から大学まで、麻帆良の外から通う人もいるアル。当然教師も例外じゃないネ」

師の遠まわしな言い方を笑いつつも、応える。

「そうか。まぁ、俺は入る気ねぇからどうでもいいんだけど」

そう言って、今度こそレンジは自分の席に戻った。
ネギはすぐに振り返り、彼の背に向けて大きく頭を下げ、

「ありがとうございます!!」

精一杯の感謝を込めて礼を言った。
さっそく明日から指導をお願いするネギ。古菲はそれを快く受けた。

ネギ、古菲から中国拳法を習うことに成功。




一方そのころ




「見てよこの素晴らしき返し縫い」
「すごいわエナさん!まるでミシンで縫ってるように正確かつ素早い返し縫いよ!」
「次期会長はあなたで決まりね。他の娘もエナさんに負けないように精進しなさい」
『はぁ〜い!』

エナはぬいぐるみ愛好会に入会していた。








今回でネギまが16話まで来ましたが、ここまでネタが出てこなかったのは初めてです。
とうとうブランクに陥ったか俺。