イギリスの山間に、あまり名を知られていない小さな村がある。
自然に囲まれ、高原特有の乾いた風は快晴の太陽に暖められ心地よいものだ。

その村から少し離れた所にある一本の木の下に、一人の女性が熱心に手紙を読んでいた。

『――――というわけで、また手紙出します。体に気をつけてください』

読んでいた―――という表現は正しくない。なぜならその手紙は読むものではなく、魔法によってホログラムのように差出人を投影しているから。

受取人はネカネ・スプリングフィールド。ネギの姉である。
彼女は隠し事をしだしたことを嘆く一方で、元気そうな弟の姿に安心していた。

楽しそうな生活を送っているようで何よりだと。だから、彼女は遠くにいる弟を想い

「がんばってね、ネギ」

ささやかな声援を送るのであった。



そのささやかな声援を送られた本人は

「吸血破壊光線!!」

今日も元気に間違っていた。






ネギま×HUNTER第24話「グダグダと………」






ヘルマン事件から数日。目からビームを出せるようになったり別荘で理不尽な現象を味わったり、赤子のようにすべすべになった肌を生徒達に羨ましがられたりと、普通の人生を大きく離れた方向に突っ走るネギは、今日も平穏な朝を迎えていた。

朝「だけ」はいつも平穏なのだ。

ヘルマンとの会話で悩んでいた時期があったのだが、今では少しずつ元気を取り戻しはじめている。
しかし心の奥底にできたもやもやを取り払うことがなかなかできないらしく、アスナから見れば無理をしているのがバレバレであった。
同居人のこのかやカモでは気付かないほど、小さなことではあるけども。

「遅刻遅刻〜〜!」

表面上だけでも笑えるだけまだいい―――と、火羅凄に助言をもらったアスナはしばらく見守ることにした。
他人に打ち明けて解決することがあれば、自分で答え出して解決することもある。
頼ってくれないことを残念と思いつつも、見守ってやろうと心に決める同居人A・Kだった。

「あいた!!」

ぼーっとしていたツケがきた。前方に注意がいってなかったネギは何かにぶつかった。

「すすす、すいませ―――あ、嵩田さん?」
「ん?あぁネギか」

ネギがぶつかったのは仕事をしているレンジだった。すでに練をしていたため、ぶつかったことにすら
気付いていなかったらしい。
アスナ達も足を止めて挨拶をする。

「今日は中等部の警備じゃないんですか?」
「その答えはあと10秒後に知るだろう」

腕時計を確認して時間を計る。

「えぇこちら『太郎』、『犬』どうぞ」
『こちら「犬」。配置についたで兄ちゃん』

さらに無線で指示を出し、きっかり十秒後。

『実行委員会よりお知らせです。8時になりましたのでかぶりものを着用したまま登校している生徒はその場で脱いでください。繰り返します、かぶりものでの登校はおやめください』

学校周辺のスピーカーから警告が鳴る。しかしレンジ達の周りでは、そんなアナウンスなど関係ねぇとばかりに、かぶりものを着たまま登校する生徒が走っていた。

「さぁ、仕事だ」

レンジはメガホンを生徒達の群れに構え、堅で体を強化して叫ぶ。

「うらーー!そこーー!被り物の登校は8時までっつってんだろーー!!」
「げ!デコピンマンが出やがった!」
「くそぉ!いつも学祭門前だから油断したぜ!」
「フォーメーションを組め!今日こそ逃げ切るんだ!しんがり、任せたぞ!」
「おうさ――「デコピンインパクトォウ!」――ぎゃーー!」
「田中ーーーー!」

登校する時より若干走る速さが上がり、一目散に散らばるかぶりもの達。すでに数人はデコピンインパクトの餌食である。

しかしその犠牲はムダではなかった。

『正門横の路地裏から逃げたで兄ちゃん!目標は西と東の門や!』

前がダメなら横から。長年学園で生活していた実績が、彼等に勇気を与える。

「わかってる。こちら『太郎』、『猿』『雉』どうぞ」
『こちら「猿」。無間方処で東側は全員捕らえましたぇ』
『「雉」です。西の30人全員捕らえました』
「はいおつかれ。『猿』と『雉』はもう上がっていいぞ。『犬』は飯奢ってやるからこっちゃ来い」

所詮は無駄な努力だったかもしれない。

「そういえば、もうそんな時期か〜」
「今年はどんなイベントがあるんやろな」
「???」

かぶりものの大群を見ても慌てる様子を見せない同居人に、ネギはただ首を傾げる。






「麻帆良祭?」

パリの凱旋門に似た学祭門の垂れ幕を見たネギはホェ〜っと呆ける。
門だけでなく、妙なきぐるみがチラシを配ったり、プロレス同好会がリングを設置していたり、いつも以上に賑わっている。

「全学園合同の学園祭よ。一昨日中間テストが終ったでしょ?だから今から本格的に準備してるってわけ」
「ウチらんとこも今日から出し物なんにするか決めるんよ」

変なのにならなきゃいいけど―――とアスナは溜息を漏らす。自分のクラスのことだからこそ、不安になるのだ。

「はぁ……」

祭りと聞いても、ネギの反応は薄かった。普通ならもう少しリアクションがあってもいいのだが。

『おはようございます』

そこへ2人の女性が現れた。一人はスーツを着た千草で、もう一人は制服を着た刹那だった。
いの一番に木乃香に挨拶して、ネギ達には改めて挨拶をする。

「あれ〜、2人とも今日は遅いんやね」
「少々頼まれごとがありまして」

妙に肌に張りがあり、ご機嫌な表情で千草が言う。赤子並みというワケではないが、なにか全体的に『若返った』ような印象を受ける。
最近の別荘ではいろいろ面白いことが起きているから、なにかもらったのだろうか。

ちなみに、刹那も妙にご機嫌だった。

「それでは、私は職員会議がありますので」
「あ、そういえば僕も!」

遅刻と叫びながら走っていたのを忘れていたネギだった。当社比1.5倍のスピードで学園に向う。

「………。ウジウジ悩んじゃって、もぉ」
「なんか言ったアスナ〜」
「別に〜」

やっぱり気になるお年頃の同居人でした。








「出し物か〜。うちはなにやるんだろうね」
「普通はたこ焼きみてぇな飯屋かお化け屋敷みたいな見世物だな。外でもテント建ててただろ?」

職員会議が終って教室に赴くネギ(+カモ)と千草。
ところで、何故このオコジョはこういうことにも詳しいのだろうか。

「千草さんはこういう経験ありますか?」
「いいえ。うちは孤児でしたし、呪術協会に拾われてからは修行漬けでした。ですのでうちも年甲斐も無く楽しみにしてはるんですわ」

屈託無く笑う。京都で戦う以前ならそんな顔はできなかっただろう。あの事件で枷でも外れたか。
とにかく、笑えることは良いことだ。



生徒が学祭でどんな出し物をするのか話していると、いつの間にか教室に辿り着いていた。
中はホームルームが始まろうとしているにも関わらず騒がしい。打ち合わせをしているのか、それともまだ決まっていないのか。

ネギと千草は顔を見合わせて苦笑する。

「おはようございま〜す」
『いらっしゃいませーー!』

ドアを開いた途端、ここが学園の教室であることを忘れさせる景観がそこにあった。
中にいる人達は3−Aの生徒だが、着ているものは学生服ではなくメイド服。しかしそれも一部で、他にもバニーガールの大河内アキラや中華風ウェイトレスの古菲、丈を短くしたシスターだの猫耳ナースだの巫女みこナースだの。
室内の奥では仮設したBarで楓と四葉さつきがカクテルを作り、すでに何の集団で何を目的にしているのかわからない。

「な、な、な……なんですかこれ?」

何が起きているのか分からないネギは、比較的テンションを抑えている朝倉に聞く。

「いやぁ、最初はメイドカフェにしようと思ったんだけど、インパクトが出なかったからいろいろやってみたらこうなってさぁ」

悪びれる様子はなく、むしろ楽しんでいる。更に性質が悪いことに、9割以上のクラスメートまで楽しんでいた。
テンションが上がっているこの連中を、アスナやあやかでは止めきれなかったのだろう。

「ダメだこいつらわかっちゃいねぇ。制服系は裾が短ければいいってもんじゃねぇんだよ。巫女服なんかただのつんつるてんじゃねぇか。どこぞのイメクラじゃねぇんだ、サービスにもなりゃしねぇ」
「あらあら、頭の固い原理主義者はダメね。ただでさえ現実と空想にギャップがあるんだからこういうところで夢を見せないでどうするのよ。大きなお友達のために、子供と大人の間にいる今こそ育ちかけのふくらはぎを見せる時じゃない。この贅沢を理解できないなんて、なんという愚か者よ」
「やんのかコルァーーー!」
「受けて立つわーーー!」

エナVS長谷川千雨。勝つのは一体どっちなのか。
議論する内容もすげかわり、作者もどう処理していいかわからないカオス空間が広がっていた。

数分後になまはげの新田が来るまで、ネギは雪達磨式に増えていく会計に悲鳴をあげつづけたという。

「随分斬新な格好どすな」
「言うな、頼むから」

猫耳スクール水着(オプション尻尾)を着せられて顔を赤くするせっちゃんでしたとさ。






放課後、別荘にて。





「うぇ〜いお疲れー!」
「お疲れさ〜ん」

レンジの音頭でジュースと酒が掲げられる。

「って兄ちゃん、酒止められてるんやろ」
「いいじゃねぇか。仕事の幸先が良かったんだから景気付けだよ」

今日の朝のようことを学祭が終るまで続けるというのだ。明日から多少の絡め手を使ってくるだろうが、あの4人パーティならなんとでもなるだろう。
そうと決まればと言わんばかりに、『酒生みの泉で作った焼酎』をバーチャルレストランで頼み、煽る。説明に書いている通り、レンジが今まで味わったどの焼酎よりも絶品だった。

「うーまーいーぞーーー!」

口からビームでも吐きそうな勢いである。

「テンションたっかいな〜」
「小太郎……漢ってのはな、飲まなきゃやってらんねー時に飲めなかったら溜まっちまうんだよ。怒りも悲しみも、喜びもな。無くしてから気付くことはよくある。オレにとってそれが酒だったんだ」

たった一日だけでも。そう願って樽から直接杯に酒を汲む。

「酒が飲めない悲しみ、怒りを、今!飲むという喜びに変えて!」
「なんかカッコイイこと言ってるようでしょうもないなぁ」

でも―――と、食事を止めて続ける。

「気持ちはわかるわ。俺もたった一言がこんなに大事なことやって気付かんかってんもん。兄ちゃんがおらんかったら……俺、ここにおらへんかったかもしれへん」

ギュっと、箸を持っていない手を握る。

「兄ちゃんだけや。俺の……俺の、名前を呼んでくれたんは!!」

今、漢が泣いた。今この瞬間生まれたこと示す産声を高らかに上げた。

「あぁ?何度でも呼んでやるさ!小太郎!犬上小太郎!」
「うぐぅ……おう!俺が犬上小太郎や!」
「そうだ!お前は犬上小太郎だ!」
「兄ちゃーーん!!!」

感極まった少年は『どーすこーい!』的な勢いでレンジの胸の飛び込んだ。

「俺、兄ちゃんについてく!兄ちゃんのためならなんでもやったるわ!」
「ならば食え、さぁ食え小太郎!オレの酒に付き合え!俺の喜びと分かち合え!」
「応!腹が破れても食い続けたる!!」

小太郎は大量のマンガ肉を頬張る。ほんの少しだけ塩辛いのは、たぶんそういう味付けなのだ。



「いいなぁ………」
「もの欲しそうな目で見るんじゃない」

少し離れた席で、同じようにマンガ肉を囲んでいるエナとエヴァがいた。

「だってぇ〜…。あんな可愛い(おいしそうな)子が『お兄ちゃんのためならなんでもする』って言うんだもん。…………ふv」
「涎を垂らすな、変な顔するな。まったく……何を考えているんだか」
「彼が攻めで受けがあの子で」
「言わんでいい!」

今の状態で話しを続ければやばい内容になると危惧し、強引に会話を終らせたエヴァは皿から肉を一本取ってエナの口に突っ込む。とりあえず口に何か入れれば会話は成立しない。

「おほほへほふひひはんへほほふんほほ(乙女の口になんてことすんのよ)」
「お前なんぞヤオトメ(やおい乙女)で充分だ」

そう言ってエヴァも肉を頬張る。

「………なんて弾力だ」

こんがり焼けて肉汁も出る。なのに肉は生のように弾力を蓄えていた。犬歯でかじりつき、たった一口分を取ろうというのに、強力なゴムのようにそれを許さない。

僅かに魔力を行使して、ようやくかじり取ることに成功した。

表面はイボの無い鳥皮に似ているだろうか。程よい油が味付けとの相乗効果で良い風味を出している。
そして口の中に入れた途端、さっきまでの弾力が嘘のように消え、牛肉の霜降りのように触感が柔らかく、抵抗を感じない。

常識外の食べ物。正しく至高の肉。そう、例えて言うならこれは

「なんかツンデレみたいな肉ね」
「だからそういう表現はやめろと………」

いい気分は一瞬で霧散した。




「最近来タ新入リガヨ〜、ナニカトきゃらガ被ッテ困ッテンダヨ〜」
「あ〜、分かる分かる。最初からいるやつより後から来た奴の方が人気出るんだよな〜。しかも向こうは元敵だろ?そういうのが読者の心を鷲掴むっつーかさぁ」
「ドーセナラぷりんノ方ガヨカッタゼ。寡黙系ますこっとハ今ノ所イネェシ。ソウナッタラソウナッタデ面倒臭ェンダヨナ〜」
「世知辛ぇな〜」

レストランの隅ではそんな会話もあったという。





20分後、最後に差し出された味気ない栄養剤を飲んで、レンジ達はバーチャルレストランから出た。
浜辺にはレストランのほかに、リサイクルルームや美肌温泉などが設置されており、ホテルとゲーセンがあればどこかの観光所と遜色ないリゾートと化している。

「あぁ久しぶりに食ったわぁ」

膨れてもいない腹を叩く小太郎。ただの満腹感だけでなく、操作系と具現化系を併用した催眠だ。おそらく小太郎は自分の腹の中に大量の肉が収められていると錯覚していることだろう。

「……30分か。ボーヤの方はそろそろ」

割りと長くレストランにいたようだ。エヴァは懐中時計を見た後、塔の天辺に顔を向ける。
絶え間ない打撃音と、時折空に飛んでいくサギタマギカ。
何かと戦っているのはわかるが、それにしては長い。

「腹ごなしに俺らもやるか」
「よっしゃ、やったるで!」

我先に塔を昇っていく小太郎に続いて、ダラダラと浜を離れるレンジ達だった。





ウジャウジャウジャウジャウジャ。
そんな擬音が見えるぐらい、塔の天辺は大量の人狼で溢れていた。
倒しても倒してもその分だけ補充され、メタルギアRAYのように限が無い。

時間にして40分以上も戦っていたのは、エヴァの弟子ネギとレンジの弟子古菲だった。

多対戦のノウハウを養うためにセッティングされた広場では、檻で拘束された一匹の狼の周りから次々と狼が出てくる。いざというときのために茶々丸を含む、数体の姉達が控えており、どうやら訓練以上のものではないようだ。


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No.598 群狼の長
入手難度:C   カード化限度枚数:45
群れで旅人を襲う狼のリーダー。
Cクラスで最強の体力と攻撃力を誇る。
長を倒さないと部下の狼は際限なく出現する。
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エヴァと茶々丸とチャチャゼロのトリオより弱い……とはいえ、際限がないというのは精神的に辛いもので、ネギも古菲も満身創痍だ。

「くーふぇさん……僕、もう……」
「情けない弟子ネ………と、言いたいところアルが、ワタシも限界ヨ」

ネギは吸血破壊光線を出すだけの余力はなく、戦いの歌もそろそろ切れかかっている。
古菲もドッペルを出せずに堅はすでに解かれている。

ジリジリと、様子を見ていた狼が近づいてきた。
もう限界だろうか。そう判断した茶々丸が檻を収納するレバーを下ろそうとした。

「空牙連弾!!」

そこへ一人の少年が現れた。ヘルマンを討つために共闘した犬神使いの少年である。
小太郎が放った気弾はネギ達の周りにいた狼をなぎ倒し、そこに小さな空白ができた。

「疲れとるようやな。ガングロ姉ちゃん、ネギ!」
「犬坊主!?」
「情けないぞボーヤ。この程度で根をあげるのか?」
「マスター…?」

小太郎、エヴァがその空白を埋め、

「灰弾!」

無数の小型爆弾が降り注ぎ、更に2人分の空白が出来る。

「師父……エナ……」
「まだまだ長時間は無理みたいね。『流』の使い方をもう少し勉強したほうがいいわ」
「俺使えないけどNA!」
「師父のそっち方面はあきらめてるアル」

自分の師匠に酷い言い草である。

「さぁ小太郎、こいつらはあの檻の中にいる奴を倒さなかったら無限に出てくる。好きなだけ暴れやがれ」
「うっしゃ!行くでーー!!」

犬神を全開にして跳び向う。

「ボーヤはこっちだ。治療と駄目出しついでに授業料をもらってやる」
「あう〜〜〜」

エヴァは茶々姉に護られながらネギを引きずって奥の部屋へ消えていった。







「あんたすっごいやばそうな顔してんだけど大丈夫?」
「生かさず殺さずは得意だってマスターは言ってましたよ〜」

拝啓、ネカネお姉ちゃん。僕はもう駄目かもしれません。










ようやく人から名前を呼ばれた小太郎でした。
なんとかして主人公に依存させようとして、これしか思い浮かばなかったのさorz。
他のSSを見るとただ強いだけで懐かれたりするのが多かったので、同じことしてもマンネリだからなんとか新しい懐かれ方がないかと探ってたんですが・・・・これは充分無理があると自分でも思う。

無理があるのはいつものことですがね。