ピピピ。
睡眠を妨げる不快音の元に手を差し伸べ、時計のボタンを押す。
ベッドから伸びた艶かしい女性の手はそのままもう一度ベッドの中に逆戻り。
ピピピ
それを見計らったように、別の場所に置かれた時計が音を出す。
しばらく無視していたが、流石に煩過ぎてこれ以上寝ることはできないらしい。
女性はのっそりとベッドから降りて、態々手の届かないところに置かれた目覚し時計を止めた。
時計の針はいつもより一時間も早い。しかしその理由は自分ではなく、雇い主の娘にあるというのだから文句は言えない。
女性はカーテンを開け、眩しく自己主張する太陽に向って体を伸ばす。
「今日も一日頑張りまひょか」
ネギま×HUNTER第25話「幕間・天ヶ崎千草」
うちの一日はまず一枚の葉書を読むことから始まる。
差出人は、もうこの世には居ない両親から。
どのような原理か知らへんけど、嵩田はんがくれたこの呪札には口寄せを葉書に変えたような力があるんやて。
そんなん聞いたことあらへんけど、ありがたく使わせてもろうとります。
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No.031 死者への往復葉書
入手難度 : S カード化限度枚数 : 13
亡くなった人の名前を書いて往信葉書に手紙をしたためておくと、
次の日には返信葉書に返事が書かれている。1000枚セット。
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今日は母様からの手紙やった。元気か、ちゃんと御飯食べとるか。そんな取りとめも無い気遣いが、こないに嬉しいと思うのはなんでやろな。やっぱり親やからかな。
どうにも、あの世というのはちゃんとあるようで、父様と楽しく暮らしとるんやて。ホッとする反面ズルイと思う。それぐらい思うてもええやんな。
善鬼の点てた茶を飲みながら葉書をじっくり読んでいくと、最後に―――そろそろ歳やからええ人見つけなあかんよ―――と書かれとった。余計なお世話や母様。
ええ人――――と言われて思い浮かぶのは…………やっぱあの人なんやけど………どないしようかなぁ。
読み終えた手紙を大事に仕舞い、食事を取らずに外へ出た。
早朝やのに随分な量の人が学園に向ってはる。そのうちの何割かはうちが向う場所と一致してるんやけど。
『超包子』
路面電車を利用した即席屋台には、すでに大勢の人で賑わっとった。
早朝から営業しとるし、回転が早くおいしい。まさに理想の屋台やから好んで利用する人は多い。
「千草は〜ん」
その中にうちのお嬢様がいるもんやから、朝早く起きて下見というわけや。
学祭できぐるみ着とる輩が多いし、念のためってやつやな。
「おはようございますお嬢様、皆さん」
走って来た木乃香お嬢様と刹那はん、神楽坂はんとネギ先生に向って軽くお辞儀。
一瞬、アイコンタクトで後ろに控えていた刹那はんに『安心』だと伝える。了承を意味する瞬きを受け取って、うちらは屋台のテーブルについた。
さっそく注文を取りに来たクラスメートに「いつもの」と言い渡して、取り留めの無い会話に専念。たまに話をふられてしどろもどろする刹那はんは見てておもろいわ。
こういうところは三人とも普通の学生やと思う。
操られとったとはいえ、それを壊そうとしたことを思うと、過ぎたことでも罪悪感が生まれる。
いまさらやけどね。
「おいーっす、おはようさん」
出来たて点心を食べていると、嵩田はんがリヤカーを押してやってきはった。
実はこの人、あの不思議なアイテムでできた酒や食べ物を朝晩毎日屋台へ届けていなはる。
あの別荘で食べさせてもろうたけど、酒は確かに絶品で、果物は新鮮で食べても食べてもなくならない。
大勢で訪問したときはええけど、それ以外のときは腐らすだけでもったいないということで、超がつくほど格安で超包子に届けてるんやて。
「ほい、今日の分」
「おぉ、いつもすまないネ。今日はなんなのかナ?」
オーナーの超鈴音が出迎え、中身をチェック。護衛の関係上、うちも横目で観察。
「酒は純米のにごりな」
「どぶろくカ。ここでは結構人気あるから助かるヨ」
一口舐めて一声―――美味、と。変に日本語が詳しい中国人やな。どぶろくて。
「こっちはうなぎとシャケ、タイとマグロ、サメの尾びれだ。残りはすでに古菲と小太郎他数名の腹の中だ」
「尾びれ以外全部食ったというカ!?量が尋常じゃないヨ!」
皆さんでおいしゅういただきました。はて、別荘には海しかないのに、なんで淡水魚まで養殖できてはるんやろ。
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No.008 不思議ヶ池
入手難度 : S カード化限度枚数 : 10
この池に1匹魚を放すと次の日には1匹増えている。
どんな水域に棲む魚でも生息・混泳が可能な池。
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「それと果物なんだけど………まぁ見てくれ、こいつをどう思う?」
「すごく……大きいです―――――ぬはぁ!!!」
超鈴音が言うところのすごく大きな袋を開けた瞬間、なんとも言い難い臭いが辺り一面に。あわてて袋口を閉じるオーナーはん。
「ドリアンカこれ!?」
「ピンポン。食感や臭いからしてあきらかに果物ってレベルじゃねーぞと思うドリアンだ」
「いくら果物の王様だからて、こんなディープでマイナーな物使えないヨ」
「そこをなんとかお願いできねぇかなぁ。家主に臭いから何とかしろって怒られてさ」
怒って当然やと思うわ。
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No.009 豊作の樹
入手難度 : S カード化限度枚数 : 10
ありとあらゆる果物が実る樹。
どんなに収穫しても次の日には樹いっぱいに果物が成る。
果物の種類と数はランダム。
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結局嵩田はんの熱意に負けて格安のさらに格安で買い取っとった。なんだかんだで手に入りにくい食材に料理長は満足してたわ。1個3000円ぐらいするんやアレ。
しばらくはドリアン料理が人気をだしそうやな。
3−A、朝のHRにて。
スタミナスープでやる気を出したネギ先生が率先して進めようとしてはるんやけど、なんやこの教室の人たち相手じゃにっちもさっちも行かんようや。
「ドキッ☆女だらけの水着大会・カフェ♪がいいと思いまーす!」
「女だらけの泥んこレスリング大会喫茶とかー!」
「ネコミミラゾクバー!」
「もう素直にノーパン喫茶でいいんじゃないいかしら?」
耳年増ってレベルやないな、この子達の場合。意味が分からんしなんでそんなこと知っとんのやろ。
「まぁまぁ、皆落ち着いてよ」
収集がつかなくなった教室で、エナはんの声がやけに大きく聞こえた。
「つまりこういうことでしょ?いろんな服を着て、客寄せに色気を振りまきつつ、お金を儲けられる出し物」
もう学祭とか関係なさそうや。
「この際全部合わせて『コスプレノーパンカジノ喫茶(お触り有料)』を推奨する!」
『それだ!!』
エナはん………あんただけは信じとったのに………。
「普通に刑法に引っかかるからあきまへんよ」
「何言ってんの。賭けるのはコインだって」
一枚100円ぐらいするコインやろうけどな。マフィアの娘とか言っとったけど、考えることがマフィアそのものや。
「とにかく、教師として認められまへん」
途端にブーイング。あんたらもう少し中学生らしくしたらどうや。
「あのぉ……ノーパンとかラゾクとかなんなんでしょうか……」
「よりによってその単語に反応するのはどうかと思うよネギ先生」
そこのガングロよく言った。比較的純情派には刺激が強すぎたようやな。
その後、何をとち狂ったか知らへんけど、ネギ先生を女装(ノーパン)にするということになりはった。
騒いだおかげで新田先生に怒られたけどな。なんでうちまで。
夕方、屋台にて。
わずか数十行で夕方になってもうたわ。
メタ発言は置いといて…………、夕御飯も超包子で済ますと刹那はんから連絡をもろうたので朝のように待機。なんや場所取りに使われてる気がせえへんこともないけど気にしない。泣けてくるから。
はぁ……うちの青春こんなんでいいんやろか。若返ったとはいえもう2×やし。
「そんな辛気臭い貴女にフカフィーレスープ!」
「うひゃぁ!」
いきなり目の前に立派なフカヒレスープを置かれびっくりしてもうた。
「嵩田はん!?あんたなにやっとんの!?」
フカヒレスープを持ってきたのは超包子の前掛けを着た嵩田はんやった。夕方やから警備の仕事は終ってはるんやろうけど、なんで超包子に!?
「最近さぁ、果物は増える魚は増えるで、食材は手に入るんだけどレパートリーがなくてな。料理を作る人間として使いこなしたいなぁって思って、あの子に教えてもらってるんだわ」
そう言って四葉さつきを指す。様子を伺ってみると料理中にも関わらずにっこりと微笑み返された。………正直、なごむわ。
「いやいや、最近の中学生は凄ぇな。学生だけで屋台出すわ、出資するわ、免許持って…………料理出来るんだもんな」
「今絶対免許持っていないって言おうとしはったやろ?」
「わしは調理補助じゃけぇ大丈夫じゃあ!」
「なぜ広島弁」
よくわからん人やなぁ、ホンマに。
「んで、注文は?おすすめはサメ料理とフルーツ盛り合わせだ」
絶対売れ残りなんやろうなぁ、ドリアン。あんな臭いモン誰も食べたないわ。
「ドリアン抜きのフルーツ盛り合わせで」
「ちくしょーーーー!」
泣きながら厨房に走っていった。やっぱりそういうことやったか。油断も隙も無い。
「へいおまち!」
「早!」
なるほど、だから回転率が早かったんやな。
ちなみに、でっかい皿の割りに雀の涙程度のフルーツしか盛られとらんかったわ。
でも値段は良心的やから詐欺とも言えず。なんて性質の悪い。
「千草は〜ん」
お?ようやく来はった。
学校が本格的に終業して、ちらほら教師が周りに集まって来はった。
ネギ先生を始め、新田先生やしずな先生も利用してるようや。ホンマ人気あるんやなこの店。
いったいいくら稼いでることやら。
「なんだとテメェこらぁ」
「あぁ!?やんのかオラァ!」
人が楽しく食事しとるというのに、いきなり喧嘩が始まった。どこにでもいるんやなああいうの。
隣に座ってるウルスラの娘のヒソヒソ話を聞く限り、寝技と打撃―――空手と柔道か?―――の優劣について争ってる様子。
そんなん強い人にとって関係あらへんのにな。
一般人やったらうちでも十分あしらえれるんやけど、どうもその必要はなさそうや。
『ズシン!!!』
中国の武器(名前は知らん)を思い切り地面に突き立てて、地響きと大きな音を立てた古菲はん。いつの間にやら用心棒の前掛け着けとる。
その横に料理長の四葉はんが。今日も出るんかな。
誰もが固唾を飲んで見守る中、視線の中心にいた彼女はおもむろに口を開いた。
(あんたたち、喧嘩はご法度だよ)
正直、なごむわ。たぶんあの子の笑顔で世界は平和になるんとちゃうか?
あっという間にその場が収まったので、拍手喝采を浴びながら2人は屋台に帰っていく。
「人がさ〜、料理してるときにさ〜、地響き立てるってさ〜、どういう了見なのかな〜?」
「あぅ〜あぅ〜………」
鍋が引っくり返って前掛けを汚してもうたんやな。めっちゃ怒っとるわあの人。
なんか顔が『眉間はしかめてるのに口はしゃくれて笑ってる』みたいな、わけのわからん顔になっとる。顔の筋肉器用やな。
そんな顔しながら責めるように料理をし続けとる。関係ないのにうちも怖いわ。
「それにさ〜、さっき壊した地面さ〜、なんでか知らないけどさ〜、直すの俺なんだよね〜」
「て、手伝うからもう勘弁して欲しいアル〜」
そりゃ大工は男手がやるもんやろうに。さっちゃんの綺麗な手でやらせるわけにもいかんやん。
………やばい、段々うちも染まってきとる。おそるべしさっちゃんスマイル。
そのあと、ネギ先生が酒飲んで酔っ払ったり、ちょっとヤバめの発言したりで、毎度のように騒動を起こしてた。
しかも飲んだのは白く濁った酒――――つまりどぶろくやった。誰も甘酒なんか頼まんからな、あの面子やったら。
泥酔してもうたネギ先生は屋台で一泊することに。うち等は明日に備えて自宅へ帰った。
「それじゃあまた明日NA!」
社員寮の前で、妙にハイテンションなままの嵩田はんは別荘に向った。一日休んで仕事して、一日休んで仕事して、半分ニートみたいな生活しとるんだわこの人。
ホントおかしな人やわ。敵だったうちを助けたり、なんの気兼ねなく酒飲んだり、貴重なアイテムくれたり。
場合が場合なら、絶対裏があるて疑うところやけど………なんやろな、悪い人には見えへんわ。
「ただいま」
部屋に帰ると式神の猿が駆け寄ってきた。部屋の警備を任せとるんやけど、ついでに掃除もしてもろうとる。
ズボラと言うなかれ。
着慣れないスーツを猿に渡し、チラっと時計を見る。すでに23時。こらあかん。
うちは急いで隠していた葉書を取り出した。
嵩田はんの説明やと、向こうからの返信は手紙をしたためた次の日に来るんやて。つまり午前0時になる前に書いておけば明日の朝には返事が来るっちゅーわけや。
筆に墨を付け、文頭に母江と書いて今日の出来事を記していく。
御飯はちゃんと食べている。最近の女子中学生は妙に耳年増。生まれて初めてフカヒレスープを食べた。果物の王様は尋常じゃない。その他些細なことをつらつらと。
葉書程度の大きさなので書けることは少ない。でも今日はあまり大きな出来事がなかったから少しだけ空白できてもうた。
「…………ん〜」
母江、最近気になる人ができました。
「………////」
墨やから消せへんことに気付いたのは、書いてから5分もした後やった。
翌朝
やっぱりと言うかなんというか………、返事には気になる人について教えろとか自分が父様を落としたときの方法とか、そっち方面のことしか書かれとらんかった。
あんまり娘の色恋に口出しせんで欲しいわ。参考にはするけどな。
手紙を大事に仕舞い、朝のお茶を飲み、軽くシャワーを浴びて、夜のうちに式神がアイロン掛けしてくれたスーツを着て、
「今日も一日頑張りまひょか」
また楽しい一日が始まる。今日は何があるんやろな。
幕間企画第一弾は千草でした。
ぶっちゃけネタが出なかっただけですたい。
これ以上執筆ができそうになかったらネギまのサウンドノベルを作って時間を稼ぎます。
そうならないように、お叱りのお言葉お待ちしております。