ヒソヒソと、誰も居ないはずの校舎から声がする。
いや、声だけではない。物音もするし何かを叩く音までする。

やれトンカチの音を立てるなだのムリだの、それ以上に大勢でライトを使っていては潜んでいる意味がまったくないではないだろうか。外から見ればバレバレだ。
せめてカーテンぐらいかけよう。

現在3−Aでは最後の追い込みをかけている最中だった。小人のお陰で幾分作業が減ったとはいえ、やはりチンタラしていたら間に合わないらしい。

それは3−Aに限ったことではなく、明石裕奈が言うには他のクラスも潜伏しているとのこと。
尚更バレる可能性が高いような気がする。

その辺りを心得ている人物はというと、

「ふん!」

なるべく声を抑えて、古菲は釘を板に挿入(いれ)る。トンカチで叩くとかではなく、周を使って無理矢理押し入れているのだ。おかげで彼女の一角だけ妙に静かだ。
暗いので誰にもバレないからできる芸当と言えよう。

「これでスターライトスコープでもあれば完璧アルね。真奈に借りればよかったカ」

いちおう一般にも似たような物はあるが、やはりこういうのは本物が一番。仕方なくペンライトで作業を進める古菲だった。

毎年同じようなことをしているからか、彼女達は妙に手馴れた様子で作業を進めていく。

「(やばいよユーナ!)」
「(見回り?新田先生?)」

深夜一時ぐらいになったときだろうか、哨戒していた別クラスの娘が入ってきた。
相手が誰でも問題だが、特に問題なのは新田なのだ。一体どんな罰を受けることやら。
更にここにはネギがいる。教師が生徒と一緒になって規律違反しているのだから絶対バレるわけにはいかなかった。

だが、

「(デコピンマンが来た!)」
「(うげぇ!?と、とにかくみんな隠れて!)」

警備員の嵩田レンジ、通称デコピンマン。彼の噂はたった一発のデコピンから始まった。
不良生徒の撃退から始まり、古菲に挑戦する格闘家達すらデコピンで倒す。
それだけでなく、彼から逃げようとして成功した生徒は皆無という。朝の通学ラッシュで被り物を着て来る生徒を全て捕まえきったのは、もはや伝説になっている。

ある意味新田より性質が悪い。
最悪の状況だが、ここで捕まるわけにはいかない3−Aの面々は、過去最高とも言える隠伏を行った。

シンと静まる教室。そこへ件の男がライトを持って教室に現れた。

「…………右に4人……左に3人」

教室に入ってきたレンジの開口一番は彼女達の居場所だった。

「(どこかで聞いたことあるセリフアルね)」

通背拳とか使う導師のセリフです。
そんなノンキなことを思う古菲とは裏腹に、隠れている個所にライトを向けられ、そこにいる人数を当てられているクラスメートは気が気ではなかった。

「岩のセットの裏に2人、書割の裏に3人ずつ。30人か……一人多いな」

現在エナはぬいぐるみ愛好会の方に行っているので除外、エヴァもサボってここにいない。
相坂さよのことは事前にエヴァから聞いているので、これも除外。

つまり総勢29人になるはずなのだ。ところが一人多い。

「そこにいるな、ネギ先生」

もう一度円で確かめると、他の生徒より一際小さい輪郭を感じた。
ライトも一緒に向けられたので驚いたのか、セットがカタっと動く。

「いくら子供だからっつっても教職だろアンタ。なに共犯なんてやってんだよ」

返事は無い。ただセットの裏から妙にさわさわと音がする。「責任は僕が――」とか「あきらめちゃ駄目ですぅ」とか。

バレてるとはいえ隠れる気はあるのかと、歎息を吐き出すレンジ。

「今日の午前7時、世界樹前広場で学園長が待ってるそうだ。徹夜をするのはいいが、遅れるなよ。それと桜咲も来て欲しいそうだ」

そう言って、レンジはライトを消してドアを閉めた。
足音が教室から遠ざかっていくのを確認して、ハルナ達はワラワラとセットから出てくる。

口々に見逃してもらったとか、意外にいい人だねとか囁かれる。
ところが、

「それと言い忘れてたんだけどNA!」

超不意打ち。足音を一切立てないで戻ってきたレンジが勢いよくドアを開けた。
あまりに突然だったためネギ達は隠れることも忘れて固まる。

「トンカチは布を巻いておけや。それだけで大分静かになる」

してやったり。レンジの顔は実に楽しそうに歪んでいた。





ネギま×HUNTER!第30話「麻帆良学園祭前日+ちょっとだけ…………」





午前7時前。レンジに伝えられた用事を済ませるために、ネギと刹那は世界樹広場前へ向った。
徹夜をしていたのか、早朝だというのに校舎内には大勢の生徒で溢れている。

「祭りの前日だけあって変なのがいっぱいですね」
「そうですね〜」

代表例は水本しげる研究会だろう。なにを研究するというのか。

「あ、刹那ちゃ〜ん」
「エナさん?」
「世界樹広場前に行くんでしょ?一緒にいくわ」

ぬいぐるみ愛好会のブースに巨大恐竜のぬいぐるみを仕上げていたエナがいた。単行本140Pの1コマ目に後姿を確認することが出来ます。

「エナさんは話しの内容を聞いてますか?僕達、何も聞かされてなくて」
「さぁ?結構な人数を呼ばれてるってぐらいなら知ってるけど」

一抹の不安を抱えて広場前へ。







一足早く広場前に集まっている魔法使いの面々。高畑やガンドルフィーニはもちろん小太郎と千草まで居た。そしてレンジも。
人払いの結界で一般人は居ない。静かなものだ。だがその場の空気は妙な雰囲気で満たされていた。
彼等の視線が、ある2名をチラチラと向けられている。

「ガンドルフィーニさん」
「なにかね?」
「すんげーご機嫌ッスね」

原作の軽い笑顔ではなく、それこそ満面の笑みを浮かべているガンドルフィーニがその一人。彼は先日の日曜からずっとご機嫌だった。家族サービスでいいことがあったのだろうか。

「それがねぇ、日曜に家内と娘を連れて家族サービスをしてたんだが、偶然揉め事をしていた団体と鉢合わせてしまってね。家族の安全を考えて、不本意ながらその場を離れようとしたんだが」
「したんだが?」
「なぜか体が勝手に動いて、いつの間にかその場を治めていたんだよ。マギステル・マギになろうとする意思がそうさせたのかもしれないな」

ホォ〜――――と、話を聞いていたウルスラの女学生や同僚から息衝きの賛辞が送られる。

「…………………。つかぬ事を聞きますが、前日だか当日にエナから何か受け取りませんでした?」
「おぉ、そういえばこのような物をもらったよ」

ガンドルフィーニが財布から取り出したのは、紛う事なき『影武者切符』だった。

「(あんの馬鹿女、よりによってこの人に渡したんかい!)」

彼は知らぬうちに、アスナのデートを覗く為の人柱されたらしい。

「家内には見直されるし、娘からは『将来はパパみたいな人になる!』って言われて、もう嬉しくてね」
「はぁ……そうですか」

結果はオーライだったようだ。

「私からも聞いていいかね?」
「なんスか?」
「君のその格好は?」

チラチラと視線を向けられる最後の一人は嵩田レンジ。彼はいつもの警備服ではなく、麦藁帽子に手拭い完備の農作業スタイルだった。
控えてある『青果【嵩】』の旗?付きリヤカーには大量の西瓜が詰められている。

「これから市場で仕事するんで。あ、これはおすそ分けなんで皆さんどうぞ」

と言って、一人一つずつ立派な西瓜を渡された。一人一つずつだ。
これから仕事がある者もいるだろう。どう考えても邪魔である。
というか、何故果物でもない西瓜が豊作の樹に生えたのか。永遠の謎にしといてください。

「食ってええんか兄ちゃん!?」
「お残しと食い散らかしは許しまへんで〜」

忍者学校のおばちゃんみたいなことを言って許可をだした瞬間、小太郎の手刀が西瓜を4等分した。
中身が詰まった瑞々しい西瓜を見せられ、周りから生唾ゴックン音が一斉に鳴った。

食べたい――――しかしここで丸々1個食べるわけにはいかない。
例え魔法使いだろうが、食の魅力はかくも抗い難いものなのか。

「小太郎」
「んぁ?」
「もう2個やるから全員分切り分けてくれ」

空気を読める青年はリヤカーから新たに2つの西瓜を取り、小太郎に向って放り投げる。

「16個でええか?」
「いや」

小太郎は最初、ここにいる人数分だけ聞く。レンジはチラッと大階段の下を見て、

「19だな」

3つの人影を確認して、そう告げた。








レンジの西瓜は上々の評判だった。たった一切れなのが惜しく思うほど、魔法先生達はゆっくり味わって食べている。

「でふぁ、食べながらでよいふぁらミーティングを始めろうか?」
「大人気ないですよ学園長」

紳士らしく食べ終えたタカミチだが、口元に残っている小さなホクロはみんなのヒソカな禁則事項である。

「言わんでも分かると思うが、ここにいるのは麻帆良に常駐する魔法使いじゃ」

ネギのための紹介は西瓜のせいでほとんど省かれた。みんな食べるのに必死である。

「今日わざわざ集――シャク――ってほらったのは他でもらい。ちと厄介な問題が起きようとしておる」

誰も行儀が悪いと突っ込まない。それどころか、その問題がなんなのかと聞く者もいない。
みんなの目線は学園長でも、意識は常に甘い野菜へ向けられている。

「手短に話すと、この樹の正式名称は『神木・蟠桃』と言って22年に1度だけ、一般人が出す言霊ですら叶えてしまう濃い魔力を吐き出す。お金が欲しいとか、『ずっと俺のターン』にしたいとか、即物的なものは無理じゃが、告白やお願いに限って120%叶うのじゃよ」

一言だけ、学園長にあるまじき単語があったが誰も気にとめなかった。おそらくクロロの影響だろう。
ネット小説を見ろなんて言うから。

「噂だけならかなりの範囲で広まっておる。そうじゃの葛葉くん?」
「え?ぁ……申し訳ありません、そのとおりです」

西瓜の種を一つずつ取っていた葛葉刀子は、顔を真っ赤にして手元の資料を読み上げる。
その内容は正確と呼べるほど綿密に下調べされた物だったが、生憎まともに聞いている者は少ない。

「はい質問」

ワイルドに種ごと平らげたエナが挙手する。

「告白と認識される条件と、それ以外で強制される条件は?」
「前者は相手の前で好意を伝えること。後者は自分の意志を相手に強調して伝えることかな」

西瓜を貪りはじめた学園長に代わってタカミチが答えた。何年も勤務しているだけあって詳しいようだ。
ふ〜ん――――と空返事をするエナ。そしてなにを思い立ったのか、

「レンジ」
「WHAT?」
「愛してるから跪いて足をお嘗め」

とのたまい、

「ぐおおおお体が勝手に跪こうとしている!」
「神ーーー!!」
「駄目や兄ちゃん!それだけはーーー!」

効果覿面だったという。

「あんさん、鬼とか言われたことありまへん?」
「大きな声で言えないことしてたときは冗談抜きで悪魔とか言われたことあるから」

軽い口調で言った後、陰を施して見えなくした紫弾をレンジに当てる。
魔力で作用していたからか、レンジを操る効果は消えた。どうやら彼女はこれを確かめるためにふざけたらしい。

「ま…魔力が本格的に影響を与えるのは学祭最終日じゃが、今でもそれなりに影響が出ておる。生徒には申し訳ないが、各々は各拠点で告白の防止を行ってもらいたい」
「それなりどころじゃねぇよ………」

抗い疲れたレンジは息を切らせながら反論する。危うく人としてあまりやっちゃいけないことをしようとしたのだから、当然の抗議だ。

「エナ!テメェなに考えて―――――っ!?」

ガバァっと起き上がって悪魔を弾劾使用とした矢先、レンジの触覚に何かが引っかかった。
慌てて円が捉えた何かを探ると、小さなラジコンヘリがホバリングしていた。

「誰かに見られている!」
「誰かに見られています」

レンジと傍にいた女子中学生が同時に、同じ位置を捉えて発言した。
髭とグラサンを備えた艶男(アダオス)が素早く反応し、ユビパッチンと共に鋭利な風の刃を放ち、ヘリを真っ二つに切り裂いた。

「(カマイタチ?あの一瞬で出せるのか)」
「(しかも結構距離があるのに………サギタ・マギカよりランクは上ね)」

ちゃっかり分析しているところは流石である。

「手応えはあったが魔力は感じなかった。機械ということは生徒か。どうします?」
「私が追います」

学園長に尋ねたヒゲグラだったが、返事は金髪の女子高生から貰った。

「深追いせんでええよ、こんなことが出来る生徒は限られておる。さて…」

学園長は再度、全員の顔が見えるように体を向ける。

「たかが告白と思うなかれ、事は生徒の青春に関わる大問題じゃ。術の使用は慎重に、揉め事を起こさぬよう穏便に頼むぞ」

学園長の、レンジの、小太郎の、千草の、その他もろもろの視線がエナに向けられる。

「喧嘩売ってんの?」
「前科持ちじゃからのう。たった今さっき」

スィっとエナは視線をそらした。

「ゴホン!パトロールのシフトは臨機応変に。以上解散!」

ガンドルフィーニは女子高生と女子中学生を連れて、さっさと不届き者を成敗しに。
残った魔法先生もチラホラとネギに挨拶をして広場を離れていった。

入れ違いで、一般生徒が集まってくる。人払いの術が切れた―――と刹那は言う。

「便利だな。俺もこういう術覚えてぇ〜」
「符術なら簡単にできますえ。なんならうちが教えまひょか?」
「書くのがメンドゥイからいいや」

チッと舌打ちする。

「んじゃ俺は市場で仕事があるから、なにか起きても自力で何とかするように」
「『困ったら助けてやる』とかじゃないんですね」

幾分軽くなったリヤカーを押して行くレンジに、ネギはただ歎息するしかなかった。









朝一から準備していた業者に紛れ、小さくなければ大きくもない中途半端な出店がポツンと広場の端にあった。
何気に種類とストックが豊富で、隣の魚屋まで兼業しているらしい。暖簾に書かれている字は大きく『嵩』とだけ。

「おい〜っす、ちゃんと準備できてるな。感心感心」

リヤカーを押してやってきたのは主人のレンジ。彼が誰を労っていたかというと、

「ウッス!精一杯働かせてもらってます!」

ちょっとこわもての青年だった。
赤く逆立った髪がトレードマークの彼は、先日レンジが拾った記憶喪失さんである。

なぜか『血だらけで麻帆良の森にある川のほとりで倒れていて、ちょっと薬中の気があって満月になると人狼(ひとおおかみ)になっちゃう』一般人を拾ってしまい、調子にのって拡大した店をどうするか悩んでいた矢先に不審人物を手に入れたので、丁度いいから手伝ってもらうことになったのだ。

最初は記憶喪失とか人狼とかジャンキーに悩まされたものの、レンジが根気強く躾た結果、なんとか人前に出ても大丈夫なくらい矯正することに成功。

その際、いつまでも名無しではなんだからと、『狩る雌露(仮名)』と呼ぶことにしたそうだ。決して他意は無いそうだ。漢字だとうざったいので以後はカナで表記する。

そのカルメロ君だが、働いてみれば意外と体力があって使える。拾ったレンジに恩を感じているというのもあってよく働くこと。ただ、

「これでもうちょっと客商売用の笑顔が作れればなぁ〜」

なぜか彼は『爽やか』とか『にこやか』な表情が作れない。
どんな表情を作っても、所謂『悪人顔』にしかならなかった。

だが生来の性格なのか、物怖じしない接客と浮き沈みの激しい喋り方が、逆にコミカルな雰囲気をかもし出して面白い。

「おにぃちゃ〜ん、このレモンいくつで180円なの〜」
「い・く・つ・だ〜?小せぇこと言ってんじゃねー!アディオス籠ごと!!」
「うわ〜い、ありがと〜」

優に20個は入っているレモン入りの籠をそのまま渡した。キチンと代金と交換してハイサヨナラ。

「すんませ〜ん、この西瓜半分でもらえますか〜?」
「西瓜1個300円だコルァー!半分にするなんとぉ………さん………7で………182円だゴルァ!」
「150円だバカ」

レンジの突っ込みも重なって一種の漫才になっている。
そのため商売は値段と相俟って繁盛していた。




2人で順調に品物を捌いて、そろそろ朝のピークが終ろうとする時間になった。
レンジはカルメロを発注された品物の配達に行かせ、自身はのんびり留守番をしている。

屋台の周りはどこを見ても人人人。川の流れのようにゾロゾロと右へ左へ流れていく。
昼用の音と煙だけの花火や紙吹雪が舞って、祭りの前日とは思えない賑わいである。

「さ…て…と…。魚と果物で……………酒の委託にマージン引いて…………やべぇ、笑いが止まらねぇ」

元手タダの数種類による多売は、例え薄利でも随分な金額を弾き出し、利益は文字通りウッハウハ状態だった。

祭りが終わる頃には一財産出来ているだろう。レンジは販売許可証を取ったり所得税を納める気が無いので表向きは学園祭中にしか商売できないというのが辛いところだが。
グリードアイランドのアイテムを活用するとここまでできるのか――――学祭中に出店する物もすでに決めており、まだまだ利益は増える予定だ。

「マイナスが無けりゃプラスしか残らねぇんだってヴァ!さらば、貧しかった学生時代、フォ〜エヴァ〜♪」

イスに座って思い切りふんぞり返る。こんな気分がいい日はバーチャルレストランで酒でも――――と、どこまでもタダ思考の今後を計画していると、

「え?な、あれっ」
「ん?」

台座の影に隠れていた女学生がいきなり狼狽しだした。よく見ると世界樹広場前の大階段でラジコンヘリの居場所を察知した魔法生徒だ。

「あんた何やってんの?」
「え!?ぁ、さっきの―――」
「余所見とは余裕やな」

気配がもう一つ増えた。その瞬間、女学生が勢いよく宙を舞い、

「あ゛ーーーーー!!」

台座を巻き込んで、女学生が倒された。周りに散らばった商品がポトポトと、後を追うように地面に落ちる。

「イタ〜い」
「女!?ってあれ?あんたどこかで……」

女学生を投げ飛ばしたのは小太郎だった。さっきまで西瓜を一緒に食ってたのに、何故喧嘩をしているのか。
レンジにはわからないことだが、やるべきことが一つだけある。

「オメェ等なにすっだーー!!」

とりあえず怒っておこう。





佐倉愛衣には罰として影武者切符の力で店の売り子をさせ、レンジは小太郎を連れてネギ達と合流することにした。

3−A出席番号19超鈴音。今回の騒動の中心人物であり、世界樹広場前の大階段を小型ヘリで監視していた張本人らしい。
一度は高音・D・グッドマン、ガンドルフィーニ、佐倉愛衣の三人で追い詰めかけたのだが、すんぜのところで邪魔が入れられたとのこと。

「(………事情を知らなけりゃ、生徒を助けるのは当然か)」

邪魔をしたのはネギ、刹那、小太郎の3人。エナは早々どこかへ行ってここにはいない。

要は小娘一人に乗せられた単なる喜劇だ。
だが事の成り行きがわかれば、寸劇もこれで終る――――

「超さんは僕の生徒です。僕に全て任せてください」

はずが、ネギはまたも話しをややこしくする気のようだ。

レンジは凄く反論したい衝動に駆られる。さっきからネギとガンドルフィーニの間で口論が続いているが、ネギは感情論でガンドルフィーニは正論を出して互いに譲らない。この場合ガンドルフィーニが譲れないと言うのが正しいのか。

自分の中で築いた正論を押し通すところはゴンと凄く似ている。

本来ならレンジは是が非でもネギの思い通りにさせるわけにはいかない――――が、彼には早急にやらなければならないことがあった。


「兄ちゃん許して!謝るから!弁償もするから!だから捨てんでくれ〜!」


足元で号泣しながらすがり付いている小太郎をどうにかしなくてはならない。
市場からここまで、ずっと同じことをしているのだ。おかげで周囲の視線が痛いこと痛いこと。

今も気の強そうな高音の視線がブスブス突き刺さっている。

「なんでもするから!兄ちゃんの言うことやったらなんでもするから!」
「じゃあまずはソレをやめて欲しいもんだね」

ちょっと説教して終るはずが、いつの間にか妙な方向でとんでもないことに。かと言って今の要求はなぜか聞いてくれない。

「か、か、か、嵩田さん!あなたはこんな子供に何をさせるつもりですか!」
「すでに何かするという前提で話を進めるのはやめてくんない?」
「まさかいかがわしいことをするつもりじゃないでしょうね!」

なんぞやいかがわしい妄想でもしちゃったようで、顔を真っ赤にした高音がレンジに詰め寄る。

「兄ちゃんを責めんな!俺が悪いんやから!」
「どうして庇うのですか!?私はあなたのために!」
「そんなん………」

小太郎は思い返す。

『えぇっと、コタ』
『やぁ、ウェアウルフの少年』
『わかってるアル犬坊主!』

今のところレンジ以外から名前を呼ばれた覚えが無い。千草すらも………。

ここでもし、レンジに捨てられようものなら――――また幽霊のような生き様をさらさねばならなくなる。

「俺……兄ちゃんにだけは捨てられるわけにいかへん」
「……………」

何を言っていいのかわからない――――高音は沈痛な面持ちで服の胸部分を掴む。
そして、キッとレンジを睨んだ。
何も言わない……が、言いたいことは分かるだろう?―――と。

「(これは………なにかしないといけない空気なんだろうか)」

宇宙意思が囁く。『なにかしろ』と。
学園祭という夢の舞台、ほんの少し何かが起きてもいいじゃないか。

「神、ここは私に一任してもらえないでしょうか」 
「何を一任すればいいのかわからんが、この状況をなんとかしてくれるんなら喜んで任せる」
「恐悦」

宇宙意思を汲み取ってくれた刹那。彼女が何をするのか……それはまだわからない。

「ネェちゃん……俺」
「安心してください。誰もが幸せになれるようするつもりです」

小太郎を連れて行く彼女の表情は正しく策士のものだった。







「では今回は君に任せるとしよう」
「はい、ありがとうございます」

別の方ではネギが勝利していた。周りの異空間を無視できる辺り、随分彼等の扱いに慣れてきたらしい。

「だが気をつけたまえ。責任を負うというのは思う以上に辛いものだ」
「は、はい」

念を押し、頷くネギに満足したガンドルフィーニは、三白眼で睨む高音を無理矢理連れてパトロールに戻った。

ネギは大息を漏らす。自分でも強引だったと思っていたのだろうか。

「いやー、ホント助かったヨ。ネギ坊主は私の命の恩人ネ」
「おおげさですよ。でも…なんであんなに目の仇にされてるんですか?」
「それは乙女の禁則事項ネ」
「学園の禁則事項を破ったから目の仇にされたんでしょ」
「それよりネギ坊主、今何か困ってることは無いカ?」
「生徒が事情を話してくれなくて困っています」

クッ――――と、超はイラっとした。そういうことを言ってるわけじゃないのだ。
子供と侮っていたのに、なかなか手強い。

「そ、それ以外のことならしてあげられるかもしれないネ」
「ん〜〜、それじゃあ」






その夜


前夜祭の会場へ向う集団の中に3−Aの生徒がまとまって歩いている。
その後ろをネギとアスナが近付かず、離れないように着いていた。

「それでコレもらったの?」
「はい。スケジュールが忙しくて大変だって言ったら」
「アラームも使えそうにないのにどうしろっていうのかしら。動いてないし」

プラ〜ンと凝った細工の懐中時計がアスナの手で揺れる。

「使い方は後で説明してくれるらしいんですけど………」
「微妙に魔力を感じるからマジックアイテムみてぇだけどな」
「ふ〜ん」

どっちにしろ使い方が分からなければどうしようもない。
これから祭りだ。とりあえずこのことは脇に置いておこう。

『いよいよ麻帆良祭の始まりだーーー!』

お化け屋敷の準備をきっかり済ませた3−Aの面々が前夜祭へ繰り出す。夢の時間は今始まったばかり。








光は薄くなった夕日、僅かな魔力を漏らす世界樹、星、そして花火。
音は花火と下瞰する先にある雑踏。

「ネギ先生達はどうでした?」

麻帆良の地から遥か上空に位置する飛行船の上に人影は―――――4つ。

「ハカセの話しと茶々丸のデータ通りの腕前だたネ。気に入ったヨ。警備員共々仲間に入れれば、我々の勝利は確実ネ」

空の肌寒い空気を防ぐために着ているコートが風でなびく。

「ですが、エナさんから『盗撮すれば壊して直してもう一度壊して直す』と脅されました。もう私が彼等の情報を更新することはできません。…………あれは本気の目です」
「ほう、『リサイクルルーム』は茶々丸すら直すカ。それはそれは………」

わざと口調を強調して、超は飛行船の先頭にいるもう一つの人影へ振り返る。

「貴女の世界はココよりデタラメらしいネ」

超の視線の先で長い金髪がなびく。腕を組み、麻帆良を下瞰しているその人物は、

「漫画の世界だから文一つで世界が引っくり返る。それは多分デタラメじゃない……人の意思よ」

薄く笑った。






「な〜んつって、カッコつけすぎちゃった?」
「せっかくのイイ雰囲気が台無しネ」

三者三様の歎息が飛行船の上で静かに漏れる。














おまけ

「なあなあ兄ちゃん」
「なんだ」
「豊作の樹って果物しか成らんのやないんか?」
「あぁそうだ」
「西瓜て野菜やろ?」
「認めたくないが、そうだな」
「なんで西瓜が成るん?」
「別に成ってないぞ」
「せやったら、あの西瓜の山なんや」
「安かったから纏めて買ったんだよ。不思議ヶ池に流しているウナギも同じ所で買ったんだ」
「どこやそこ」
「中国」
「ぐ、急に腹が!!!!」
「寝冷えだな。健康には気をつけろよ」










注:カルメロ
『月光のカルネヴァーレ』に出てくるサブキャラで、作品内で一番輝いている人。



ちょっとだけカルネヴァーレでした。分かりづらいネタですんません。
準備期間は無事終了。布石もとことん出し尽くすことに成功しました。まだまだ出ますがね。
さぁ、カルネヴァーレの始まりだ。