ネギま×HUNTER!第31話『只今より第78回、麻帆良祭を開催します』
曲芸飛行する前世代の複葉機。イベント用に客を乗せて浮かぶ飛行船と熱気球。
合わせてばら撒かれる花火や紙吹雪、風船で麻帆良の空は大いに彩る。
巨大キャラクターアドバルーンに大勢の仮装集団が大行列となって、大通りを闊歩する様は実に盛大だ。
人を輝かせる衣装により、麻帆良の大地も大いに彩る。
「わーー、すごいや!こんなに大きな祭りになるなんて!」
集団登校以上の騒ぎっぷりを見てはしゃぐネギ。周りを見れば人とキグルミばかりで、建物の演出と相俟ってちょっとした異世界にいるような錯覚さえ覚える。
仮装(何故かコスプレと言わない)は微笑ましく見れるが、カメラおっさんは痛くてたまらなくはあるけども。
「わずか3日間という短い期間で入場者数は述べ40万人。学生による商売が許可されているため学園祭中に部費を稼ぐサークルが多く、祭りの規模は年々増加の一途を辿ってます」
「学園内は仮装(何故かコスプレと言わない)もOKだから歩いてるだけでも楽しいよん♪」
サークルのイベントを宣伝に来たハルナ・夕映・のどかのトリオの説明を聞いて、ネギはますます興奮する。
だが悲しいかな彼は魔法使いとして、先生として仕事がある。合間を縫って楽しむことは出来るかもしれないが、本格的に遊ぶことはできないだろう。
「………そろそろ教室に行ってみよう」
名残惜しそうにパレードを一瞥して、ネギは教室へ向った。
学園祭中に忙しいのはネギだけではない。魔法関係は世界樹のせいで必死にカップルを誘導したり、ちょっと手荒な方法で告白を阻止している。
そんな中、世界中前広場のある一角にて。
「ね、ねぇ……なんかイヤな感じしない?ここ」
「そうだな………他所行こうか」
また一組のカップルが広場から離れていく。しかしカップルだけではない。広場を中心にした半径数十メートルにほとんどの人が近付こうとしなかった。
居るのは配置された少数の魔法先生と生徒だけ。イベントを宣伝するスタッフもキグルミもいない。
その広場の中心には、一人の女性がいた。
「こっちは遊びたいのを我慢して仕事してるのに、ナニが悲しくてバカップル共のイチャイチャシーンを見なきゃなんないっつーのコンノヤロゥ」
皆さんご存知のエナだった。彼女は広場の中心でとてつもない勢いのオーラを迸らせて、誰も近寄らせないようにしていたのだ。ズシの練やヒソカの念で嫌な感じを察したキルアと同じ現象である。
更に性質が悪いことに、オーラをあてられて滅入っている魔法先生も全体的に見受けられる。すでに何人か魔法関係の保健室に運ばれている。
それほどまでに彼女は不機嫌なのだ。
「ア……アスロード君、少しでいいから気を抑えて―――」
「うん、それ無理」
懇願を一蹴されまた一人、倒れた。
もう一方で、これまた真面目に仕事をこなすレンジがいた。こっちは大勢の人で広場が埋まっている。
「神、3時の方向に該当者が。あの男性です」
ラブ臭感知装置を片手に相方を務める刹那に言われ、レンジはおもむろに
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No.028 移り気リモコン
入手難度 : B カード化限度枚数 : 27
他人が他人へいだく10種の感情を10段階の強弱で操作できる。
(他人が自分へ抱いている感情は操作できない)
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を取り出し、『愛しさ』という感情を下げた。
すると告白しようとした男性のテンションがやや下がり、カップルはそのままどこかへ行く。
そして広場から離れた場所に戻ったのを確認してメーターを元に戻した。
途端、男性の仕草がギクシャクし始め、隣を歩いている相手は怪訝な顔で首をかしげるのだった。
レンジと刹那はクスっと笑う。何度やってもこの瞬間は面白いのだ。
「真昼間にイチャイチャイチャイチャ………他にやることはないんかコイツラは」
多いだろうと覚悟していたが、いくらなんでも多すぎだった。明日と世界平和のためにメーターを戻さないでおこうとすら考えるほどに。
「神、申し訳ありません。たった今お嬢様から呼び出しが」
「あ〜、行ってやれ行ってやれ。こっちは気にすんな」
申し訳ありません―――――もう一度謝り、刹那は素早くその場から消えた。
時間はすでに11時。少し早い昼食を摂ったら、自由時間兼パトロールが待っている。
レンジはラブ臭感知装置と移り気リモコンを構え、ひたすら任務をこなす。
しばらくして、ようやく昼勤に引継ぎを済ませたレンジはエナと合流して昼食を摂る。
「中学最後の青春がこんな仕事で終っていいのかしら」
「まだ半年も通ってねぇくせに」
食材の仕入先であるレストランでVIP並みのもてなしを受け、ゆっくり食事をする二人。
無論頬張っているのは魚料理である。
エナはテーブルマナーを知っているらしくナイフとフォークを慣れた手つきで優雅に、レンジは片足だけ胡座をかいて箸で食べていた。
「今日の予定は?俺はこれから店に行く」
「クラスとサークルの手伝いが終ったら賞金の出るイベントを一通り廻るわ。そっちと違って私は金欠なの」
ちょっとぐらい分けて〜――――とエナはごまを擦るが、レンジはバッサリと拒否した。毎月小遣いをあげているのだから当然である。
「賞金じゃなく『賞品』の出るイベントは気をつけろよ。特に『銀』のやつは」
「…………。あ〜はいはい、了解」
レンジが出店している品物を思い出し納得するエナ。
「暇が出来たら店を手伝ってくれ。バイト代は弾む」
「暇ができたらね」
仕事と学業をあわせると到底暇などできそうにない。せいぜい夜がいいところだろう。
昼夜問わずのドンチャン騒ぎなどグリードアイランドのクリアパレード以来だ。
楽しめるときに楽しまなければ損である。
レストランを出て2人は用事を済ませるために別れた。エナのことだ、きっとオーラを迸らせて客を脅かすこと請け合いだろう。いい感じのホラーハウスになりそうだ。
ではレンジはというと。魚・青果共に、学園祭中はある方法で従業員を手に入れたので任せっきりにしていた。時間も勿体無いということで、ソレとは別に新たな商売に手を出していた。
学園の通りから少し離れた所にある小さな店舗―――それも複数―――の看板にはそれぞれ『〜〜屋・嵩』の文字が書かれている。
まず一つ目の店に入ると、どこぞの高級ブランドが移店してきたのかと見紛うぐらい、様々な金と銀のアクセサリがショーケースに並べられていた。紛い物と疑っても良さそうな値段だが、もちろん全て本物であり純度もほぼ99%である。
店内には多くのカップルがアレコレと品物を吟味して、随分繁盛しているようだ。
「よぉ、繁盛してるようだな」
列のできているカウンターから事務室に入って労いの言葉を贈った人物は、
「パンフレットやイベントの賞品で広告してはりますから、少し立地条件が悪くても、返って穴場と見られてるようですわ」
OL姿のタイトスカートが艶かしい天ヶ崎千草だった。だが彼女は本人ではない。
陰陽術の定番『身代わりの札』で作られた式神千草だ。カウンターでレジをしているのもその一枚で、今も事務室の中は数枚の式神が働いている。
レンジが人員に関して心配していなかった理由がこれだった。同じ顔をしているのでおいそれと人前に出ることは出来ないが、裏方としては正に最適といえる。
しかし、だからと言ってレンジは気を抜かなかった。実力者の近衛詠春が作った身代わりですら揉め事を起こしたのは記憶に新しいだろう。信用するには何かが決定的に欠けていた。
そこで彼は『影武者切符』を使って、式神を完全に制御することに成功したのだ。自分の代わりを務めるので大抵の問題は解決するのである。
「別荘のチカラがあれば金粉少女とシルバードッグのコンボが引き立つ。一時間で金500と銀1000gが手に入るってワケだ。気づいたときには小躍りしたぜ」
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No.098 シルバードッグ
入手難度 : S カード化限度枚数 : 8
絶滅寸前の珍獣。銀色の毛を有する。しかも糞が銀でできている。
1日5gの金をドッグフードに混ぜて与えると、1kgの銀糞を出す。
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No.046 金粉少女
入手難度 : A カード化限度枚数 : 13
全身から金粉をふき出す少女。
1日1回の入浴で約500gの金が取れる。
非常に内気でずっと家から出ない。
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「納入の方は?」
「『麻帆良ベストカップル』で銀のブレスレットを6つ。各イベントで表彰に使う金銀のメダル50。イベントで加工するため塊を40kgずつ。今日だけで3000万の黒字になりましたわ」
レンジがレストランで『銀の賞品は気をつけろ』と言った理由がわかっただろう。例え純銀といえども犬の糞を身に付けてほしくないからだ。
世の中には知らない方がことがあるという良い例である。少なくともたった今買ったペアリングをはめているカップルには。
ちなみに金は1kg≒260万円なので、超がいくつ付いても足りないくらい大特価で売っているのはお分かりいただけるだろう。
元手がタダだからこそできる芸当であり、彼にしかできない商売だ。
「いいねぇ。このままいけば長者番付けにノミネートされるかもな。売上の2割は好きに使ってくれ。俺からのせめての恩返しだ。次の店に行って来る」
「おおきに」
役目を終えれば消える式神にそのような事はしなくても良いのに、律儀な男である。
『装飾店・嵩』から出たレンジは、隣にある建物に入った。
たった今出た店は若者しかいなかったが、ここはその逆。かなり年を召した人達が列を作っている。
仕切りの向こうからは絶えずシャッター音が鳴り、出口から出てきた老夫婦は満ち足りた表情でアルバムを抱えて出てくる。
「良い写真は撮れましたか?」
レンジはたった今写真を撮り終えた老夫婦に話し掛けた。
「はい、とても懐かしいものが。昨今の科学はすごいのですねぇ」
「まったくです。すこし拝見させてもらっても?」
「えぇどうぞ」
和服を来た老女がにこやかに応対した。アルバムを開くとアキラのように髪を縛っている袴を着た若い女性と髪が逆立っている青年が腕を組んでいる。2人の周りには仲間―――だろうか、短い金髪の外人や胸元を広げた和服美女、がたいのいい大柄の女に眼鏡でオサゲの女の子等々、大勢の人達が写っている。
どこかの集合写真なのか、大きな建物の表札には『団劇華國帝』と書かれていた。左読みのところを見ると大正辺りか。
「その頃は舞台女優をしていまして、主人とはその時に」
老女はそう言って隣にいる老人を見る。彼は―――そうだね、懐かしいよ。と相槌うった。
よほど良い人生を送ったのだろう。二人の顔は実に幸せで満ちている。
なんとなしに、レンジは次のページをめくる。
すると、さっきの写真と一変して『ピンクと白の2頭身ロボットが刀を持って何かと戦っている』写真が貼っていた。ピンクと白だけではない。黄色や赤など、随分カラフルなロボット群が多種多様の武器を使って戦っている。
「こ、これも劇ですか?」
「そうですねぇ。『人生是舞台である』………さて、誰の言葉でしたか」
老女はレンジの手からそっとアルバムを取り、別れの挨拶をした。
「さぁ行きましょう、一郎さん。少し行ったところに野点があるそうです」
ゆっくり昔話に華を咲かせるようだ。老夫婦は仲良く腕を組んで店を出て行った。
写真に写っていた背景は確かに本物の町並みだった。それが炎上したり、空に有り得ない重装備の飛行船が飛んでいたり、敵と思わしき侍を模したロボットの残骸が大量に転がっていたり、あきらかに舞台で起きたものではない。
レンジは思う。大正時代にいったいなにがあったのだろうか――――と。
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No.056 思い出写真館
入手難度 : B カード化限度枚数 : 25
年月日と時間を言えば、その時の自分の姿を写真にしてくれる写真館。
連続撮影も可能。
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『思い出写真館・嵩』を刹那の式神に任せ、レンジは隣の店に赴いた。
ここも随分長い列を作っている。人の種類も老若男女と幅が広い。
内装は凄くシンプルなもので、注意書きとカウンター、それと一つの電話だけ。
受け付けには年齢詐称薬で大人になったエナがいる。もちろん式神である。
「オッス。どうよ調子は」
「暇っちゃ〜暇ね。皆順番守ってくれるからやることないわ」
なにせ全ての作業は客がするのだ。店員はあくまで保険にすぎない。
レンジはやることも無いので、注文している客の話を聞くことにした。
『もしもし?何を無くされましたか?』
「あの……3月前におばあちゃんからもらった熊のぬいぐるみを無くしちゃったの。お家の庭で遊んでたらネコちゃんがもって行っちゃったの。名前はジョンポール」
『はい、確かに承りました。明日の夕方までに責任を持ってお届けします』
少女は安心した表情で受話器を置き、代金を払って店を出て行った。はて、さっきの老夫婦の写真に載っていた子供と似ているような。
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No.060 失し物宅配便
入手難度 : B カード化限度枚数 : 30
専用ダイヤルに電話して、なくした物の説明をすれば次の日にはそれを届けてくれる。
なくしてから1か月以上経った物でないと、受け付けてもらえない。
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こちらもチマチマと利益をあげているもよう。
全部で3つの店舗。売上は装飾店がダントツで、他はおまけというところか。
それでも一日に数十万の売上が約束されているが。
「ふっ……自分の才能が怖いぜ」
怖いのはアイテムカードで彼の閃きは別段たいしたことではない。
なにはともあれ、商売の幸先に希望を見たレンジは午後のパトロールという名の自由時間を満喫するために、園内を散策することにした。
燃料代だってバカになんねーだろと思うほど、何度も曲芸飛行をする複葉機。無数に飛んでいく風船はいずれヘリウムが抜けてただのゴミとなって降ってくるだろう。
飛行船から撒かれるビラは明らかに資源の無駄遣い。テーマパーク一つで地球環境はいったいどれだけ悪化していくのだろうか。
という夢もヘッタクレもない感想を抱きながら、
「オオオ俺、オマエのこと―――!」
「カイト?」
感情DOWN↓
「それより腹減ったんで飯でもどうかな?」
「へ?」
感情UP↑
「美味い店知ってるって、違う!そうじゃなくて!」
「カイトのバカー!」
「ぶげら!」
告白ターミネーターとして戦果を上げていく。
「(他人の恋路を邪魔するのがこんなに楽しいとは思わなかったぜ。クックック)」
馬に蹴られて死んじまえばいいんだこんな奴。
「お生憎様、そうはいかねぇってことさ♪」
下手な歌を口ずさみながら、彼の仕事は続く。
いつもと違う。そこに何かが出来ていたり、本来あるもの無くなっていたりすると人は混乱する。
ましてや麻帆良の学園祭という一味違ったバカ騒ぎ。多少の違いどころではなく異世界に迷い込んだような錯覚さえ覚える。
つまり何が言いたいかというと、
「迷った………」
ということだ。ざまぁみろ。
いつも中等部周辺の警備をしていたため、学園祭中の学園全体パトロールなど鬼門でしかない。
破局していくカップルに夢中でその辺りの注意が散漫になっていた結果が、いい年こいた迷子ということに。
レンジは携帯のGPSやパンフを見て居場所を確認しようとしたが、デフォルメされた大まかな地図しか載ってないパンフが役に立たないのは言うまでも無く、大勢の人間が居る場所で電波がマトモに行き交うわけもなく。
『あなたが居る付近は、電波が混雑しているため、本機能は使用できません』
orzとなるしかなかった。肝心な時に役に立たないのは人も機械も変わらない。
さぁてどうするか――――適当に歩けば知った場所に出るだろうと、楽観的に考えていた時、
「おやおやぁ?道に迷ったのかぁい?」
妙に芝居じみた問いが背後から。すわ天の助けか――――レンジは期待を込めて振り向いた。
「ひゃっひゃっひゃっひゃ〜」
黒いシルクハットとマント。眼球に直接付けているのかと見紛う筒状の眼鏡。
う○こっぽい髪はいわゆるドレッドヘアー?それとも単なるパーマーか。
真っ赤な唇、ちょび髭、大柄な体格、そして奇妙な喋り方。
「へ、変態!」
そう変態だ。
パーツの一つ一つを見てもマトモじゃないのに、それらが合わさった時の相乗効果といったら目も当てられない。
正真正銘の変態がそこにいた。
「変態?はてさて面妖だ。誰が、変態だっ―――――?」
だからレンジのしたことは仕方の無いことだったんだ。『堅』にまで昇華した念を込めて、ストレートパンチが変態の顔面を直撃した。
HUNTERの世界に居たときの名残で、ほとんど条件反射だった。
「あ、わり――――な!?」
拳を振りぬいたところで我に返った。だが遅い。時間を遅くする能力を持っているのに、彼が気づくのは酷く遅かった。
結果は考えなくとも当然。一般人にオーラを込めた拳を顔面に当てればどうなるか。
拳型に凹んだ顔面が地面に転がる。窪みの加減で憤怒の表情を浮かべているそれはゴロリと、レンジの方を向いた。
数秒―――それだけ経ってようやく残された体が崩れ落ちた。
「…………やってもーた……」
レンジが人を殺したことがあるか………実のところ無い。そっち方面は旅団か2人の仲間が積極的に行っていたからだ。
襲ってくれば時間を止めてやり過ごす。そればかりしてきた。
彼のことをヘタレと言うか?それとも臆病と言うか?人殺しよりマシじゃないか。
あの誰かが死んで当然の世界で、人間を殺さなかったことだけが仲間内で唯一の自慢だった。
『あの世界』ならいくら殺しても罪を問われない。生き残れば現実へ、死ねばリセット。
それが、現実に戻って、この体たらくだ。
「とりあえず………証拠を隠滅しよう!!」
殺伐とした世界を生きて、レンジの性格は割りと頑丈に歪んでいた。
死体を隠すための場所を脳内で検索しながら、首無し死体を担ぐ。
「(別荘なら確実だが、ガキ共に―――つうかあそこまで行く途中―――――)!?」
潰れた頭も回収して、いざどこぞへと振り向いた瞬間、
「……………」
液体ヘリウムのような瞳がレンジを見つめていた。
「(見られた!)」
レンジは相手に見覚えがあった。数ヶ月前、寝食を共にした仲の少女。
ぶっちゃけレンジが勝手に部屋を占領しただけだが。
派手に薄着した彼女、ザジ・レイニーデイは静かにレンジを見つめる。
「……………」
無表情の顔は何も言わない。何もしない。ただそこでレンジを見つめるだけ。
「………………(いっそこいつも)」
「………」
凄くダメな考えをしだしたレンジの目の前に、ザジがゆっくり手を見せる。正確には指で摘んでいるモノを。
それは小さな歯車。彼女の足元をよく見ればそこかしこに散らばっている。
そしてレンジは、ようやく担いでる死体から『血』の臭いがしないことに気づいた。なんだかんだで動転していたようだ。
『人形』。似て非なるものを作るなという教義に反して作られた人の似姿。
恐ろしく精巧に作られた物だと、動いていたときの仕草と散らばった部品の数を見ればわかる。まさしく歴史的芸術品と言える。
なのに、なぜこんな変態という外見にしてしまったのか。製作者の意図がわからない。
ともかくも、レンジは安堵した。若い身空で手を後ろに回す必要が無くなったのだから。
額を伝う冷や汗が冷めていく。冷や汗なのに冷めるとはこれいかに。
「…………」
ザジは歯車をいないほうの手で明後日の方向を指す。そこには大きなテントがあった。
『ナイトメアサーカス・WITH・CIRCENSES』と垂れ幕が風でなびいている。
「そうだよな、行かなきゃなんねーよな」
ザジは黙って頷いた。
次の興行はジャポンだと、何故か決まってしまった。
俺達はある事情でユーラシア大陸を中心に、7人という少ない人数でサーカスをしている。
こんな東の島国に来る理由は本来なかったんだが………。
『オルマロッサができる随分前に、派閥争いに敗れて東へ逃げた同族がいる』
かつての仲間から連絡を受けたから…………といって、俺にとっちゃあだからどうしたって話だ。
確かに俺はある事情から同族を追ってる。時にはアジア方面にも行くさ。
だが、俺達はもうオルマロッサとも教皇庁とも関係ない。向こうはどう思ってるか知らねぇが。
興行がうまく行ってる以上、わざわざ遠くまで足を運ぶ理由なんか無ぇってわけだ。
だのに………。
「ロメオ、シルヴィオから旅費貰ってきたぞ!現地に着く頃だと祭りやってるから話はつけてるってさ!」
俺の気持ちなんてミジンコたりとも考えねぇ同居人Nが勝手に話を進めやがった。
「だあぁぁぁ!テッメェ何勝手に話し進めてやがる!」
「いいだろ?俺一度でいいからジャポンに行ってみたかったんだ」
うっとりした表情で航空券を見るのは俺の家族で、サーカスの事務を一手に引き受けているノエルという、一見少年に見える正真正銘の少女だ。
「あのなぁ……。それを受け取ったら、俺達がオルマロッサの一員ってことになるんだぞ?」
「今更んな細かいこと言うなよ。こっちだってヴェネツィアとか入るとき目を瞑ってもらってんだからお互い様だろ」
反論しながら、まだ航空券をみてやがる。行き先のジャポンという文字が眩しくて仕方ないらしい。
「とにかく、俺は行かねぇからな。行くならお前一人で行って来い」
「は?何言ってんだよ」
ようやく顔をこっちに向けたノエルの顔は、凄くアホウを見るソレだった。
「お前以外とっくに準備してるぞ」
「何!」
俺はキャンピングカーを出て、他の同居人がいる車へ走った。本人達の要望で作った10tトラック並みにでかいキャンピングカーを、ノックもせずに押し入った。
「アンナ!ルナリア!」
キャンピングカーの中という狭い空間だ、これだけ大きい声を出せば気づくはず。
そう思っていた時期が俺にもあったんだ。
2分も経てば充分すぎるぐらい待ったと言っていい。違うとかぬかすヤツは今から2分数えて見やがれ。長いんだぞ待つ時間ってのは。
「………」
俺は車の中で響くぐらい大きく叫んで、尚且つ2分も待った。
それでも来ないってことは、ここには居ないって考えるのが妥当だ。
だから、誰か教えてくれ。
『みなさんジャポン、ジャポンです!公演のために胸や襟にレースや薄い布をつけて行きましょう!』
『お姉さま、それはジャボです』
『はぁ、なんと!また間違えてしまいました〜』
『ルナリア〜、クリオ君にヒラヒラつけて〜。向こうでおそろいになるの!』
『面倒臭い。自分でやってください。なんで私が』
『ちょっと、静かにしてくださいます!?荷造りが捗りませんわ!』
『あの〜……コルナリーナさん。それ全部持っていくんですか〜?』
『あたりまえです。田舎の祭り――――とはいえ、淑女として恥ずかしくない格好をしなければ。周りは慎みを持たない方ばかり…………私までそんな風に見られてはかないませんもの』
『ぶぅ!イリスだってオババみたいな厚化粧に見られたくないもん!』
『なんですって!』
この騒ぎはどこから来てるんだ?
なんだイジメか?それとも新手の居留守か?
まだ決めて――――いや、行く気がないのになんで余所行きの準備してやがる!
「ざっけんな!」
俺は扉に蹴りを一発くれてキャッキャワイワイしている部屋の中に入った。
いくら興行に欠かせない人形だからって言わなきゃならないときがある!
俺だって男だ!あぁ男さ!男らしくズバっと言ってやるさ!
みんな下着姿だったさ。
「あ、いや、その、なんだ。ちょっと話があって」
「話し?いいですよ、聞かせてもらいましょう」
顔を真っ赤にしてアワアワ言ってるアンナを横に退けて、髪飾りに模したパルカを構えて近付いてくる。
「話を死に来たんでしょう?早く死てください」
「字が違うし笑えない!」
「早・く・し・て・く・だ・さ・い」
ゆっくり近付いてきたルナリアはもう俺の目の前だ。頭一個分小さいから顎下からグリグリとパルカをねじ込んできやがる。
「その……あれだ」
「なんですか?」
「なぜルナリアは縞パンなのか?」
やばい。半脱ぎのパンツが眼に入ってつい言っちまった。
「死んでください」
誤解だと―――誤解もクソもないと分かっていても―――言う暇もなく、鉛のように重たいルナリアのケリが腹にめりこんで、俺はぶっとんだ。
気づいた時にはすでにジャポンに居た。
冒頭の『何故か』というのは撤回させてもらう。『いつの間にか否応なしに』決まってしまったが正しい。
「それで?俺達は何すりゃいいんだ?戦争でもふっかける気なのか?」
『それもいいな』
「切るぞこの野郎」
冗談だとわかる芝居じみた言い方が気に食わん。
『相変わらず気が短ぇな』
「昔のお前よりマシだ」
チゲェねぇ――――数十年来の友人は濁声を高くして笑う。
『本題だ。以前言った通り、同族がジャポンにいる可能性がある。はぐれを入れれば世界中にいるんだが、随分量を増やしていると連絡があった』
「連絡?いつもの情報網じゃないのか?」
『マルカントニオの鼻は精々中東が限度なんだよ。匿名のタレだ』
「AAPの線は?」
AAP(対・対魔特殊部隊)。鳥兜(ルパーリヤ)を潰した後正式に教皇庁の聖部隊(カッペッラ)となったソレは、今のところ人狼で構成されたマフィア『オルマロッサ』と協力している。今のところは……な。
『アジアは奴等の管轄じゃない。下手に手を出せば、それこそ戦争だ』
「だから俺達を代わりに向わせたんじゃないのか?」
『そりゃあアイツ等のプライドが許さねぇさ』
どこの国でも自分が持つ特殊部隊がいる。伝統ってのもあるが、他所の奴等にデカイ顔をされたくないのが本音だ。だから裏の連中がおいそれと一緒の場所に居ることはない。
『知りたいのはそこの狼の現状だ。できることなら家族の輪を広げたい』
「それこそAAPが黙っちゃいないぞ」
『良き友人だからと言って、銀のナイフを持ってりゃ警戒もする。牙は多い方がいい』
所詮人間と人狼ってことか。決して相容れないわけじゃない。だが相手が悪すぎるんだ。
「わかったよ。役に立ちそうな事はないか?」
『タレによるとその学校に潜伏して、祭りの間に大規模の騒ぎを起こすらしい』
「確かに1人2人ぐらいはいるんだが………大勢いるようには思えない」
人狼は人狼じゃないと見つけられない。それが理由でAAPはオルマロッサと協力している。同族の臭いは香水や悪臭程度で消せないからな。
「(それに……どこかで嗅いだことがある気が………)」
はっきり思い出せないのがもどかしい。
『明後日にはグリエルモをそっちによこす。こっちでも調べてみるが期待すんじゃねぇぞ』
「相談役(コンシリェーレ)を手放していいのか?」
『言ってろ。テメェこそ羽目外してガキ拵えんじゃねぇぞ。レベッカがガトリングで出迎えてくれるぜ』
「言ってろ」
やりそうで怖いとは言わなかった。やりそうで怖いから。
別れを言わず携帯電話を切った。だからだろうか、シルヴィオからメールが来た。
『迷うなよ方向音痴』
俺はゆっくり、故郷のタバコを吸う。
今日は快晴で祭りの初日だ。派手に周りが騒いで、俺のある感情が臨界点突破だ。
だから躊躇することなく携帯を叩き割った。
「もう迷ってんだよ………」
快晴の下、有り得ない数のパレードすら憎い。
何が文明の利器だ!肝心な時に役に立ちゃしないじゃないか!
………いや、あまり機能を使いこなしていなかったんだが。
『お前は方向音痴だろ?迷子になったら困るから持っとけよ』
いまどき携帯なんてガキでも持ってるぜ――――ノエルの嫌味ったらしいセリフが頭の中をリフレインする。
それじゃあ何か?俺は今時のガキにすら劣るほど機械音痴だってのか?
断じて違うぞ。俺は〜〜アレだ、まだ説明書を読破してなかったし、人ゴミの臭いと暑さの相乗効果でイラついてて、友人のなんとな〜い嫌味がシャクに触って、仕方なく携帯を叩き割るしかなかったんだ。
OK?
『迷子?情けないですね。いい歳こいて恥ずかしくないんですか?』
『はわわ、ご主人様は子供ですか!?それじゃあノエルさんはお姉さんにしましょう。わわわ私ははおおおおおお母さんでもいいいい』
『ねぇ!なんでおじちゃんはおじちゃんなのに子供なの!?』
『挙句に電話を壊して、何時間無駄にしたと思ってるんですか?それとお姉さまの夫は私が担当します』
『私は主人(パドローネ)のすることに異議は言いませんわ。えぇ言いませんとも。どんなに情けなくとも貴方は私達の主人。人形は主人を選べませんものねぇ』
なんて幻聴が聞こえてくるほど、確定した未来が俺を待っている。
「(いっそこのまま)」
サーカスにはノエルがいる。お飾りの団長がいなくても大丈夫さ。きっと……多分。
「なんて考えるわけにもいかねぇんだよなぁ」
貧乏くじだよホント。だがこのままここに居るわけにもいかない。
帰るか。何時間後になるか知らねぇが。
「うぅおおおお退け退け退けーーーー!!!!!」
「なに!?」
そうは問屋がおろさない。この国の言葉だったか?
「退けっつ―――――喰らえやーーーーー!!」
「どわーー臭!!」
はがいいとかままならねぇとか、誰のセリフだったか?
「いやぁわりぃ。なんかあんたの顔見たら何故かジャンピング放屁しねぇとならねぇ衝動に駆られちまってよ」
「か、カカカ」
「ぁん?んだよ、俺の屁でイカれちまったのか?俺の屁って危険な香りなのか?」
「カ〜ル〜メ〜ロ〜!!」
こいつのセリフだよ、こんちくしょう。
以前から書きたかったカルネヴァーレを書く暇がないので組み込みました。知らない人には余計な挿話ですが。
こういうことするから話しがややこしくなるし、終わりが遠のくというのに。
なんでだろうな、ネギまの方よりカルネヴァーレの部分を書いてるほうが執筆早かった。