似たようなフードを着た男女が対峙して立っているのは、違和感の塊と言っていいのだが、何故か周囲の人間は目もくれず行き来している。

「認識阻害か……私も覚えればよかった」
「いえいえ、貴女の絶も素晴らしいですよ。私ですら目の前にいるのを疑うぐらいです」
「貴方と違って、コレは無防備になるんでね」

実力者のクウネルがそう言っているのだから、一般人には隣を擦れ違っても存在に気づかないだろう。

「何か変更はありますか?」
「いや。超が壊れ始めているのを除けば至って順調だ」
「それはそれは、おめでとうございます。ならば私は予定通り彼に接触します。報酬はお忘れずに」
「わかってる。協力に感謝するよ」

では――――クウネルはそう呟いて音も無く消えた。

「………順調さ。憎たらしいぐらいな」

不機嫌を含んだ独り言を呟いて試合場を見ると、ちょうど9回戦目がアスナの敗北という形で終わった直後だった。









ネギま×HUNTER!第41話「地下へ」








無難に試合を終わらせたアスナはすぐにこのかの治療を受け、次のステップへ移行する。
地下へ向かうために編成された人数は、むしろ人数とも呼べないアスナと千草、古菲の3人だけ。

刹那の予定では一番戦力になる楓が加わるはずだったのだが、彼女は今ベッドの上で夢の中だ。しかも古菲は気を消耗してまともに戦えるかどうかも怪しい。

「(でも、今は賭けるしかない)」

修行によって実力をつけたアスナと符術を使う絡め手が得意な千草なら、互いの短所を補えるかもしれない。実戦不足で連携が巧くいかないことも考えられるが。

「それじゃあ、行ってきます!」
「お気をつけて。超のことですから、迎え撃つ準備ぐらい整えていると思います。決して無理をなさらないでください」
「刹那も次の試合頑張るアル」

対アーネ。楓を倒した実力者にデッキブラシでどれだけ抗えるだろうか。せめて破魔の剣のように何か能力が付加されていればいいのに―――と古菲は心配するが、刹那は大丈夫と言って微笑んだ。

「最悪ギブアップもありますし、逃げに徹すればそう簡単にやられません。それに、神鳴流は得物を選びません」

だが彼女はすぐに降参することはできない。もしアーネが地下へ向かった場合、十中八九アスナ達は倒されるだろう。
その時間稼ぎのために、刹那は15分間耐え続けなければならない。

「あと、ネギのことも」
「心得てます」

託すものを渡し終えたアスナと古菲は勇ましく踵を返した。

「ではウチも」
「頼むぞ。わかっていると思うが………」
「心得ております。それが大人の役割なれば」

主人であるコノカを悲しませないために、学友のアスナと古菲はなんとしてでも生きて帰す。
いざとなれば死もいとわない――――千草はそう言い残して、2人のあとをついていった。

3人を見送る刹那は申し訳なさでいっぱいだった。足止めという役割が無ければ次の試合を棄権してでも、彼女達についていきたいと願っていた。

「大丈夫やろか……」
「わかりません。ですが……」

今は信じるしかない。不安そうに寄り添ってくるコノカの肩を強く抱いて、自分にも言い聞かせるように呟いた。











同時刻、舞台脇の選手控え席は実に閑散としていた。
選手の半数以上が私用で席を外し、負けてしまった選手のほとんどが医務室か一般席へ退避してしまっている。

次の試合に脱げ的な期待を抱いているけしからん連中がざわめく中、次の試合に向けてストレッチをしている小太郎(♀Ver)に、ネギが話しかける。

「なんで超さんやマスターは、悪いことをするんだろう」
「はぁ?」

丸っこくなって可愛いと形容できる女顔を歪める。

「だって誰かが泣いたり怒っているより、笑ってるほうがいいのに、どうして……」
「そうする必要があったからやろ。誰かて邪魔が入るような面倒くさいことしたないわ」

全てうまくいくなら事も無し。それがままならないのが世の中なのだと今のネギは理解している。

「でも悪事を働くことはないと思う。事情を話して協力してくださいって言えば………僕だって」
「あんなぁネギ」

ウジウジと情けない。言っていることは正論だが、そういうものは結局一人よがりなのだ。
人の心や気持ちは人の数だけある。ある種の善意が万人にとって喜ばしいとは限らない。
また境遇も人それぞれ違う。他人が大切だと言う人間が居れば、自分が大切だと言う人間もいる。

ネギが言う正論とは、その人間が持っている価値観や意思を無視して、一つにまとめようとするものだ。
他人の笑顔を喜びと感じる人間が居れば、他人の苦痛に喜びを感じる人間もいる。そんな意見が正反対の人間をまとめても、壁ができて対立するのが当然だ。

『これより第10試合を始めます。選手は所定の位置についてください』

学がない小太郎はついに意見を口に出すことが出来ず、舞台へ向かった。
そしてどこからかエヴァンジェリンも現れ、まっすぐ舞台へ進む。




一人ポツンと残されたネギは、さっきの問いの答えを出そうと何度も反芻する。
何故、どうして。知識だけが豊富で、たかが10年の経験では過去の事例を照らして答えを得ることも出来ない。

それは正しくない。それは良いことだ。なのに自分が求めている答えではないと、他でもない自分が囁いている。

「悩んでいるようですね」

ハッと、声がした方向を見ると、微笑を浮かべるクウネル・サンダースが立っていた。

「貴方は……楓さんを倒した………」
「クウネル・サンダースです。以後お見知りおきを」

この人も敵だろうか――――妙な疑心暗鬼に取り憑かれているネギがそう考えていると、クウネルはその微笑を少しだけ深くして笑った。

「それでいい。悩み、解決し、そして成長するのが人。ですが深刻に構える必要はありませんよ、キミの居る場所はまだ安全ですから」
「ですが……楓さんに酷いことをした貴方が……いい人とは思えません」

おやおや――――クウネルはネギの性格とはまったく正反対の人物を思い返し、軽い溜息を吐く。どこをどうすれば、あの馬鹿からこんな石頭ができるのだろう、と。

「いい人かと聞かれると、私もどう答えていいのか考えますね。悪人ではないとは自信を持って言えますが。何せ貴方が尊敬している人と共に戦った仲ですから」

え?っとネギの目が見開く。その言葉の続きを催促しようとした矢先、クウネルがネギの頭を撫でて先手を取った。

「もし決勝まで来れたらご褒美をあげましょう。話の続きはそのあとでも十分出来ます」
「あ、あなたは――――」

誰だ――――そう叫ぼうとしたネギは、フードで隠れて見えないクウネルの、

「楽しみにしてるぜ」

この一言で沈黙した。








「(ふむ…確かに接触したな………となるとやはり……)」

舞台に上がったエヴァンジェリンは、どうせ負けるのだからと暇を持て余し、クウネルとネギのやり取りを横目で観察していた。
彼等のやりとりになにか気になることでもあるのか、試合開始間近になっても構えようとしない。

『それでは第10試合を始めたいと思います。両選手、準備はよろしいでしょうか?』

ウシっ―――と小太郎は気合を入れて開始線の上に立つ。逆にエヴァはやる気が無さそうにノロノロと位置についた。

『レディ――――』
「すまんな犬」
「?」

合図を言い終わるまでの僅かな間で、エヴァが急に不可解な謝罪を口に出した。
その途端、魔法使いの彼女からは有り得ない量の気が膨れ上がる。

「用事ができた。この試合勝たせてもらう」
『GO!!』

ゴズ!―――――一瞬で取り出した鉄扇を顎に当て、念を込めた拳が小太郎の鳩尾に入った。
脱力するように倒れる小太郎を、誰もが唖然と見る。

『か、カウントを取ります』

開始線からほとんど動いていないエヴァは、無駄だろうなと思いながら気だるげにカウントが終わるのを待った。
ふと、視線を感じて顔を上げると、面白く無さそうな顔のレンジがいる。

「(お気に入りに手を出すなと言ったところか?)」
「(馬鹿言うな。この程度で怒るほど腐っちゃいねぇよ)」

ジョイントリング経由で会話をする。

「(敵に回ったらやりづれぇって思っただけだ)」
「(敵?私はコウモリだ。どっちにもつかん)」

だが小太郎を倒すのはあきらかに敵対行為。どこかで見ている刹那の視線が痛いほど突き刺さしているのがわかる。ジョイントリングがそういう感情を別の物に変えて伝えているのだ。

「(ただ、ある恩人たっての願いで、用事を頼まれることになった。それが済めば大人しく退場しよう)」
「(信じるぜ。こんなところで貸しを使いたくない)」

エヴァンジェリンという手札をこんなところで使うのはもったいない。いずれ大きなことが起きると分かった今では、当然の判断だ。

『カウントテン!この勝負、エヴァンジェリン選手の勝利です!!』

一撃で終わったとはいえ、神速とも言える早業を見せたエヴァに、観客は疎らながらも拍手を送る。
そして、エヴァは舞台から降りて真直ぐクウネルの下へ赴いた。













モデル都市として作られた下水道は、機能的かつ清潔に保たれている。整備しやすいよう足場は広く、天井が高く、灯りも多い。

同時に、無機質なコンクリートの迷宮が異様な不気味さをかもしだしている。
大きな音で流れる排水だが、自身の足音もしっかり聞こえる。

「まったく…超さんもとんでもないことするわね。古菲、アンタずっと一緒にいたのにわからなかったの?」
「いやぁ、前から変なヤツとは思てたアルが……」

辛気臭い雰囲気を吹き飛ばすように、快活に話すアスナ。だが受け答える古菲の笑顔は固い。
異国の地で出会った同郷の友人を疑い、戦わなければならない彼女の心中はなかなか察することが出来ない。

この探索チームのメンバーに無理矢理入ったのも、彼女の真意を確かめるためだ。

「この先のY字路を右へ。少し進んだら整備用の裏道があります」

チビ刹那がナビを務めているおかげで、この迷路も難なく進むことが出来る。

「とんでもないこと―――とおっしゃいましたが、目的がわかりまへんなぁ。ウチが聞いた限りやと、予選の演説で魔法や裏の存在をほのめかしたぐらい。常識ある者なら、間違いなく戯言として受け止めると、ウチは思いますが。まぁカ……警備員はんを拘束しとるのは許せまへんが」
「そうよねぇ。試合は普通に進んでるし、ネギが初っ端から怪光線出したせいでヤラセって噂が広まってるし」

そのせいで超が毎回『プギャー!』を連呼しているとは思うまい。

「直接会って聞けばいいアルよ。言わなきゃ殴って吐かせればいいアル」
「そうね」
「そうどすな」
「それが良いと思います」

クラスメートが相手でも穏便に事を済まそうなど微塵も考えないで、一行は地下水路を突き進む。





チビ刹那のナビ通り、Y字路を右へ向かい、その先に整備用の裏道があった。少し開けて長い長い一本道は、見渡しが非常に良いのに向こう側まで見渡せない。

「な〜んか……ひと悶着ありそう…」

下水が流れる音以外は静かな道のり。それが逆に静か過ぎて、この広い空間が異様に見えてしまう。
超ならば侵入を察知していてもいいはずだ。アスナ達は戦闘に長けているが、工作やスニーキングの類は相応の技量しかもっていない。

仮に符を使った隠伏や『絶』を使っても、機械は騙せない。己が潜伏している周辺に監視カメラの一つも無いなどありえない。

「神楽坂はん。陰陽では最初に教えられる言葉があるんどす」
「なにそれ?」
「悪いことは口にすると」

千草は袖から大量の符を取り出し、3人を囲むようにばら撒いた。
同時に彼女達の周りにある天井、床、壁にいたる全ての平面が規則的に裏返り、代わりに簡素な作りの銃座が現れた。

「遮!!」

最初の一発が放たれる直前、千草の式が完成し、怒涛のごとき銃弾を防ぐ壁が展開した。

「本当になるんどすえ」
「女子中学生が作るトラップじゃないでしょこんなのーーーーーー!!!」

本物の銃声に、ガキガキと壁に弾かれる弾は限りなく本物に近い。もしかしたらゴム弾でも使っているのかもしれないが、この量ではどんな弾でもただではすまないだろう。

「これはいよいよ痛切ですね。ここまでしてでも奥に行かせたくないということですか。どうやって進みましょう?」
「私は咸卦法があるから、これぐらい突っ切れると思う。でも古菲は……」

ボッと魔力と気を合成して発動すると、ハリセンも大剣に代わった。刀身を盾に使えば、持ち前の脚力で走破できるだろう。

だが古菲は念を使えない。纏ぐらいなら今でも使っているが、銃弾を防ぐには堅はできていたい。

「ウチの式紙で補いまひょ。猿鬼、熊鬼、出ませい」

結界内にファンシーな着ぐるみ型の式紙が現れた。

「こ、これを着るアルか?」

古菲はイヤそうな顔をした。

「この式はウチの家系が編み出した秘術の一つ。戦えない要人や術者本人を中に入れて自動で守り、手動で動かせばパワースーツのごとく力を授ける優れもんどす」

そう言って千草はいそいそと猿鬼の中に入る。器用にチャック閉め、口から顔を出したら―――――キリッとした顔なのにどこか間抜けだった。

「更に中はシルク100%で通気性も良し!」
「そこまで拘らんでもいいアル!」

う〜う〜、と熊鬼の前で悩む古菲。

「ほら、時間が無いんだからさっさと着なさい!」

とほほ〜、と観念して古菲は渋々装着した。実体が無いおかげで小柄な古菲が着ても綺麗にジャストフィット。

「似合ってるわよ古菲」
「覚えてるアルよアスナ」

今にも笑い出しそうな顔を背けて嘲笑のような賛辞を、古菲は額に井桁マークを出して耐えた。
アスナは深呼吸して無理やり笑気を飛ばし、突進の準備にかかる。

「チビ刹那さんはここね」
「はい、お邪魔します」

襟の中にチビ刹那を隠して、大剣を前面に構える。

「合図と同時に全速前進。突っ切るわよ!」

一人だけやる気の無い返事をして、3人は地下道を走った。









「あちゃー。やっぱり来ましたか〜」

侵入者有りの警報を受信したハカセはすぐに端末で3人を捉えていた。
連れて来た千草は予想範囲外の相手だが、魔法先生が数人来ることを想定していたことに比べれば、むしろ都合がいい。

彼女一人の実力はアーネやエナほど突出しておらず、むしろ弱いほうに入る。
このままクラスメート共々捕縛しておけば、向こうは手を出しにくくなるし戦力を減らすことになって一石二鳥。

「超さ〜ん、そっちの具合はどうですか〜?」

二試合連続で瞬殺。またプギャーでもしているかと思いきや、


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意外におとなしかった。

それがかえって怪しく見えたハカセは、超が使っている端末を覗いてみる。







         し!     _  -── ‐-          ,  -‐───_ノ
  小 妄    // ̄> ´  ̄    ̄  `ヽ / ヽ,. ´          )    魔  え
  学 想    L_ /             ヽ /            ヽ    法   |
  生 が    / ' ./ / /           /   '             i   !?  マ
  ま 許    /  / ,/ /         i ヽ   /            く      ジ
  で さ    l  l l   !         l  i!   /i! i     l!,l     .厶,
  だ れ   i   l| il /|        j  ハ ハ  l/ /| l      |!/l l ト    ヽ
  よ る   l  | |_|_|_l !        l / !__!_| トi/ | l!     j!/ i l!     レ、⌒Y⌒Y⌒ヽ
  ね の   _ゝ|// l_/-」_ヽ    /_ /__|_」 !、Nl-‐┼!    ,イ./ ̄`iリ``! |!     i!    l
   l は  「  l Lンナ二` 、   /─ァ‐-、l| |! | _「_ヽ  / ソ  __リ │'    / / |    l
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人_,、ノL_,iノ!    ヽi!     r─- 、  「      L_ヽ  r─‐- 、 /,  ´,.┬ ´// l!   /
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ハ キ  {         人ヽ/!/`hノ  )  モ    |/! 「ヽ,`ー /)       ヽ   //
ハ ャ   ヽ.     r-、‐' // //.l-‐く   |     > / / `'//-‐、    ノヽ  ソ
ハ ハ    > /\\// / //ヽ_ !   イ    (  / / //  / `ァ-‐ '  〉、
ハ ハ   / /!   ヽ    レ'/ ノ        >  ' ∠  -‐  ̄ノヽ   /  丶
       {  i l    !    /  フ       /     -‐ / ̄/〉 〈 \ /!     \









            畜生………
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        Λ_Λ . . . . . / :::/   ⌒i :: ::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::
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