ロッジにエナを置いたネギ達は、ほとんど闇雲に学園内を走り回った。
と言うのも、地下の遺跡を通って世界樹下へたどり着く方法を、誰も知らないのだ。

始めは図書館から―――と考えて赴けば、何故か警戒が厳重で近寄れず、龍宮神社近くの下水道も、超鈴音の調査のために、これまた魔法使いが大勢。

その所為で別の入り口を探すためにアッチコッチ走り回り、無駄な時間を消費してしまっていた。

「いつまで走ればいいアルかー!?」

やや本気で走り通しで、古菲は『ヒー』と喚きながら先頭を走る刹那とネギについて行く。
幸い追っ手や刺客の類は居らず、余計な消費をしないで済んでいるが、それも何時まで続くかわからない。

アーネというジョーカーが向こう側にいるのだから、今ネギ達が陥っている事態も彼女の仕業である可能性が高い。

ネギの脳裏に妙な雑音が入ったのは、そのときだった。

『先生!ネギ先生!』

テレパシーで送られてきた聞き覚えのある声は、彼の生徒である宮崎のどかのモノだった。
すぐに内ポケットから該当するカードを手探り、額に当てて返事をする。

「のどかさん?!」
『あ、やっと繋がった!ゆえ、繋がったよ!』

嬉しそうな声が返ってきた。何日も音信不通だった友人と想い人の無事が確認できたのだから当然だろう。
そしてほとんど間を置かずに、別の念波が届く。

『ネギ先生!?夕映です!無事ですか!?』
「はい、僕たちは大丈夫です!ソッチはどうなってますか!?」
『どうもこうも…家族やクラスメートがいきなり魔法のことを信じ始めて、世間はとんでもないパニックです』

神多羅木は落ち着き始めたと言っていたが、それは当事者とその周りに対してであって、被害者である一般人はそういうわけにはいかなかった。
突如植えつけられた情報と、魔法使いが施す隠ぺい工作がせめぎ合い、さながら電車同士が正面衝突するような様相だと夕映は語った。

「とにかく一度会いましょう!どこか落ち着けるところはありませんか!」
『あるです!今から指定するところへ来てください!場所は―――――』







ネギま×HUNTER!第47話 「世界は往々と」






―――――シスター・シャークティの修道院。そこなら安全だと伝えられて来たネギ達は、その建物の外にいる。
壁、屋根、入り口を陣取る突入班。そして何かがあったときのために少し離れたところに非難する待機班。
最後に、それを指揮するネギ。

すでにこのメンバーは立派な武闘集団になっていた。

『そこまで警戒しなくてもいいです。のどかもいますので早く入ってください』

予め待機していた夕映からツッコミをもらい、言われるままに玄関の扉を開く。
ごめんください―――――律儀にそう言い掛けたネギは、突然の衝撃を受けて押し倒された。

「先生!ネギ先生!」

衝撃の正体は宮崎のどか、その人だった。
数時間ぶりに見る生徒の顔は涙でグズグズで、はっきり分かるほど頬がこけていた。
彼女にしてみれば一週間近く、クラスメートと想い人が行方不明だったことになっている。衰弱するには十分な理由と言えるだろう。

だから今にもキスをしそうな勢いでも、誰も邪魔などしなかった。

「Please Help me!」
「あ、地が出た。やっぱ外人は発音が違うなぁ」

アスナはその微笑ましい状況をニマニマと眺めた。数時間近く緊張していたため、こういう癒しは一滴の水より貴重なのだ。

「のどか、気持ちはわかりますが話が進まないので控えてください」

入り口より奥の方から、制服姿の夕映が現れた。こちらも少しばかり痩せたように見える。

「皆さん、無事でなによりです」

そう言って微笑んだ顔も、やはりどこか痛々しい。

「ほら、のどか」
「……うん」

のどかはしぶしぶとネギを放して立ち上がる。しかしネギは解放されても、少し暴れ疲れて倒れたままだった。
仕方が無い――――夕映はそう呟いてネギに手を差し出した。

「立ってください。これから世界樹の下へ行ける方法を教えますから」

その一言で元気が出たネギは、夕映の手を取って起き上がった。
だが夕映が力を込めすぎたのか、ネギは起き上がった勢いを殺せず、そのまま真正面にいる夕映に向けて体制を崩す。

「無事でよかった……」

倒れないようにしっかり抱き止めた夕映は、小さな声でネギにそう呟いた。







「以前ネギ先生から頂いた地図を元に調べたのですが、この学園都市の下には昔の魔法使いが使ったと思われる遺跡があります。学園はその施設の一部を地上と繋げて、一種の要塞になっていました」

教会に繋がっていた地下道もその一つだった。蜘蛛の巣のように張り巡らされたその道は進軍を防ぎ、撤退の時間稼ぎにもなる。
その道の上に拠点を置けば補給から伝達までを敵に知られず行うことができる。

中世ヨーロッパでは教会も砦の一つと数えたという。ただし軍のほとんどが教徒であったため、表立った攻撃はなかったとのことだが、これは閑話休題であろう。

「道のいくつかは崩落で通れなくなっていましたが、幸い世界樹の下へ行けるルートは無事だったです」
「ヒュゥ、助かったぜユエっち。これで元の世界に戻れそうだ」
「あ、居たんですかカモさん」

カモは泣いた。
だが彼の心境とは裏腹に、元の時間へ帰れるとわかったネギ達は安堵を口にする。
超の野望を止めること、遣り残したこと。失われたはずのそれらを再び手に入れられる喜びは一入と言える。

だからネギ達は気づかなかった。先頭を歩く夕映とのどかの顔は、笑顔を浮かべる彼等とは対照的に無表情だったことに。






朽ちた地下施設をアッチコッチと歩き回り、たまに滑り台のような落とし穴を通ること数十分。
ネギ達は植物の根が張り巡らされている、大きな空洞に出た。
生憎世界樹の真下ではないようだが、ソレらしき根があることで随分近づいたことを実感させる。

「ここです。この扉の向こうに世界樹の真下へ通じる道があります」

そう言って夕映は固く閉ざされた大きな扉の前に立った。

「じゃあさっさと行きましょ。緊急事態なんだから壊してもいいよね!」

よしきた――――アスナと古菲はやる気満々で咸卦法と凝を纏う。ネギパーティー屈指の怪力コンビならば、例え厚さが数メートルのコンクリートでも一溜まりない。

「そんなことしなくても、ここに鍵があるです」
『アラ?』

人の話を最後まで聞かないところは、やはりバカレンジャーのツートップだった。

「私とのどかが持っている、この石版をアソコに填め込めばこの扉は開くです」
「あ、それじゃあ僕が――――」

夕映が指差したのは扉の一番上。ただしビルに例えれば4〜5階ほどありそうな位置に小さな窪みがだった。空を飛べる魔法使いならではの設置と言える。
当然この中で自由に飛べるのは魔法使いのネギだけ。それを察してネギは夕映とのどかから石版を拝借しようとした。

だが夕映とのどかはネギが伸ばした手からヒョイっと避け、ネギ達から数歩距離を取った。

「残念ながらこれは渡せません。欲しければ私達から力ずくで奪い取ってください」

アデアット、アデアント―――――二人は揃って仮契約カードの呪文を唱え、それぞれの得物を持って構えた。
夕映はパクティオーカードに付属されている魔法使いの初心者用衣装と分厚い本という、以前となんら変わらない姿だが、のどかのアーティファクトは違った。

以前はA4サイズの本だったイドの絵日記が小さい手帳になっていた。そして数も多い。

「ど、どうしてですか!?」
「こうする理由があるからです。みなさんが過去に帰るのは、私達にとって看過できないことなので」

冗談ではない。それだけは彼女達の顔から窺い知れた。

「皆さんは『親殺しのパラドックス』という言葉を知ってますか?」
「時間跳躍における『原因と結果の矛盾』の代表的問題ですなぁ。細かいところはわかりまへんが」
「大体その通りです。それを知っていれば、私が言わんとすることもわかると思いますよ?」

バカレンジャーの一人に数えられる綾瀬夕映だが、それはベクトルの問題であって彼女が持つ知識は秀才と遜色しない。
その秀才である夕映がネギ達の失踪の後、時間跳躍に興味を示した結果が、この妨害を行う理由となった。

「答えから言いましょう。皆さんが過去へ戻ればこの世界の人間が消滅します」

青天の霹靂、あるいは突拍子。ネギ達の捉え方は様々で、意味を理解した者が居れば、スケールが大きすぎて実感が沸かない者も居るが、驚いたことには変わりなかった。

「続いて『式』ですが、これも簡単。皆さんが過去へ戻るからです。…………詳しく説明しますと、この世の時間跳躍に置ける仮説は大きく分けて三つあります」





「一つは『不変説』。過去に起きたことはどんなに足掻いても変えられず、未来は不変である説」





「もう一つは『パラレルワールド』。何かが起きる度に別の可能性が異次元に現れる説」





「そしてこの2つを合わせた『複合説』。些細なことは変えられても、歴史的大事件等は変えられない説」





言葉だけではわからないかつての友人のためを思ってか、夕映のアーティファクト『世界図絵』から、超をモデルにした時間跳躍説の例が映し出された。

「これらに共通しているのは『自分が居た次元の未来は変わらない』ということです。それは『過去を変えられない』ことと同義」

しかし―――夕映は一呼吸置いて続ける。

「アナタ方はソレをいとも簡単に覆そうとしてるです。過去に戻る―――ーただそれだけのことで」
「それが親殺しのパラドックスと関係が?」

SF的、もしくは最先端科学の知識を持ち合わせていない刹那には、その意味はわからなかった。木乃香もバカレンジャーも、年長の千草も同じ。
ただ一人、ネギだけは事の重大に気づき、身を振るわせる。

「……今、私達がいるこの次元は、どんな理屈で成り立っていると思います?超鈴音の企みが成功したこと?いえ、もっと単純なことです」

ここでようやく、夕映は解を出した。ただ単純明快に、一言で。

「この世界は『アナタ方が学園祭から消えたことで出来た世界』なのです」

これでパズルのピースは出し尽くした。頭の回転が速い者は先の話と合わせて絵を構築していくが、やはり理解できない者はいる。

「ちょっと待って!私達は全部元に戻すために戻るのよ!?」
「元に戻すとは、一体誰を主観に置いてのことですか?少なくとも私やのどかには、元に戻したい過去などありません」

アスナは叫んだ。過去に戻ることが悪いこと―――ほとんど内容を理解できなくとも、そう言われていることだけを今更ながら察した。
だがそれは、自分が正しいことをしていることが前提の主張だった。

「このままみなさんが学園祭まで戻れば、歴史に矛盾(パラドックス)が発生します。最良で先程言った説のどれかに行き着くのでしょう」

でも――――夕映は口惜しく歯軋りをして、今まで抑えていたモノを吐き出す。

「世界がどのような結果を迎えるのかわかりません!観測できるわけがないからです!矛盾が起きて消えてしまうかもしれない!許容されて残るかもしれない!でも私達はそんな賭けに出るわけにはいかないんです!この宇宙には数え切れないほどの……命が生きてるんですから………」

ネギ先生――――夕映に呼ばれたネギはビクっと体を振るわせた。彼女の言うことを理解し、かつ自分がどういう立場にいるのかわかってしまったのだ。
だから夕映が口に出す言葉も、自ずとわかる。

「どうですか?自分が悪になった気分は」
「僕は!………そんなつもりじゃ………」

悪という言葉に反論しようとして声を荒げたが、その余地すらないことにも気づいて尻窄まる。

「超さんのことは誰かから聞いたでしょう?それをアナタは許せないと思い、過去へ戻ろうとした。………超さんも同じなんですよ。自分が生きている未来が許せないから過去へ戻ったんです。アナタとまったく同じ葛藤の果てに」

だからエヴァンジェリンは超を『大した悪』と評価した。彼女が時間の法則に詳しいかどうかは定かではないが、本来の未来を消して新しい世界を作るという所業を、エヴァが悪と見たことは間違いない。

厳密に言えば、超鈴音の独断で未来に飛ばされたネギ達には過去へ戻る権利がある。奪われたものを取り返すことが悪行であってはならないのだ。
だが巻き込まれた世界には関係がない。この世界にとって、敵は超鈴音ではなくネギだった。

「不本意でしょうけどここで止まって下さい。私達は皆さんを大罪人にしたくないです」
「僕は……」

リーダーが迷ってしまった。暗黙の了解に近いが、ネギは確かにこのグループのリーダーだ。その彼が立ち止まってしまい、刹那達の覇気も徐々に萎えていく。起こったことを変えるというのはそれだけの覚悟がいるということだ。

「好き勝手言ってるじゃないデコ娘」

居ないはずの声が広場に響いた。
全員が来た道をへ振り返ると、チビ刹那を侍らせたエナが立っていた。30人の魔法使いを倒してそのままチビ刹那の案内で追いついたらしい。

「ありがとうチビ。もういいわよ」
「はい。それでは」

チビ刹那はそう言って元の紙に戻った。ヒラヒラと落ちる紙は地面に落ちる前に燃え、その役目を終えた。

「さてと……話は聞いてたけど、随分なご高説だったわ。おかげでみ〜んなこの通り」

諦めているかけているネギ達をあざ笑うように、エナは異様に覇気がある声を出す。

「ま、私も気持ちはわかるけどね〜。親、兄弟、友達に恋人。犠牲にしたくない人なんて数えたらきりが無いもの。私だってレンジを死なせてまでどこかへ行こうとは思わない」

で・も――――そう言って彼女は哂う。

「それを他人に決められる筋合いはないのよね〜」
「………えぇ、アナタならそう言うと思ってました」

彼女の生い立ちに人を慈しむ感情が生まれる余地など無く、唯我論を実践する人間に犠牲を説いても意味は無い。
エナとてネギ達の葛藤や迷いは理解できるだろう。だがそれ以上に、他人の命と自分の意思を天秤にかけたときの傾き方が顕著なのだ。

そして冷静かつ残酷に切り落とすこともできる。すべては彼女の損得次第で。

「ですので、少々卑怯と思いますがこの人を連れてきました。アナタの天秤を動かせそうな人は、この人しか居ないので」
「呼ばれて飛び出てオイッスゥ」

緊張感が欠片も篭らない声と共に、柱の影から私服姿の嵩田レンジが出てきた。
途端、エナは不機嫌になった。

「なんでアンタがそっちに居んのよ」
「一応雇われの身なんだよ。文句はボーナスの査定に言ってくれ」

レンジの登場はネギ達にとって絶望だった。彼の能力は足止めにこそ本領を発揮する。動きを止めている間に増援を呼ばれれば、夕映とのどかから石版を奪うことは出来ないだろう。

「………?」

そこに木乃香は違和感を感じた。自分達を止めるつもりなら最初からそうすればいい。夕映もわざわざこんなところまで案内をする必要はなかったはずだ。

「意外です。まさか木乃香さんがそこに気付くなんて」
「ありゃ?」

のどかからイドの絵日記を見させてもらっている夕映はそう呟いた。それは木乃香を肯定するものではあるものの、同時に矛盾の肯定でもある。

「夕映ちゃん、もしかして迷ってる?」
「……………いいえ」

夕映は弱弱しく否定した。普段おっとりしている割りに、こういうことは機敏に反応するのが彼女らしい。

「正直、何が正しいのかわからないのです。変えられた未来を正すことが悪になるはずがない………でも、犠牲になる人は確かにいるんです」
「で、でも!これだけは絶対譲れなくて!」

ずっと夕映が話していたが、ここへ来て始めてのどかが口を開けた。

「60億の人が犠牲になるとか、宇宙が消えちゃうとか、わ…私には全然実感が沸かないんです!でも、でも!」

自己主張が苦手ののどかが、目に涙を溜めて必死に叫んだ。

「ネギ先生が居なくなっちゃうのは……絶対嫌なんです」

エナは急に馬鹿らしくなった。とどのつまり、人類の犠牲も宇宙の消滅も、突き詰めれば女の劣情一つで左右されるものでしかなかった。
形は少し違うが、女は世界より男を選んだようだ。

それは多分、綾瀬夕映にも言える事なのだろう。

「(………こりゃ駄目ね。いざとなったら………)」

のどかの殺し文句を聞いてエナは誰からも見えないように念弾を精製する。掌に現れたのはレンジを止めるための『紫弾』と、かく乱するための『橙弾』の二つ。

レンジさえ封じればネギから航時機を奪い、夕映とのどかから石板を奪うことは、彼女にとって造作も無い。問題はその後……刹那達の妨害を掻い潜って石板をセットすること。
それならむしろ『リアクティブアーマー』のほうが確実だろうか――――どちらで事を起こそうかとエナが決めあぐねたとき、それより早く動いた人物がいた。

ネギ・スプリングフィールドは深く頭を下げた。

「夕映さん、のどかさん……ごめんなさい。僕達は過去へ戻ります」

そう言ってネギが顔を上げたとき、彼の頬には涙がつたっていた。

「僕にはわかりません。超さんの目的も、この世界の行く末も、全部丸く収まる方法も」
「なら現状維持が最良だと、思いませんか?」
「それは僕達にとって最悪の選択です。僕等にとっての最良は…………」

ネギは一度振り返り、アスナ達の顔を伺った。何をするのだろうという不安が明確に浮き上がっているのを確認して、ネギは断言する。

「僕達の日常に帰ることです。遅刻をしないために走って、授業中に居眠りしている生徒をしかって、赤点の人たちを集めて補習して、素行の悪い人を注意して。そんな日常に帰ることです」

素行の悪い―――そのフレーズを聞いてエナは笑った。そして、ネギの答えに心の中で花丸を描く。

正義や悪を抜きにしても、女の泣き落とし程度で決意を撤回するぐらいならここに留まったほうが彼のためだ。
誰が相手で、どんな理屈を晒しても貫き通す覚悟が無ければ、正義にも悪にもなれはしない。

「そうですか……」

夕映――――ひいてはこの世界がネギを悪と罵っても、己の正義に従った者は裁けない。止められない。
何故ならどちらのすることも同じで、言い分も正しい。絶対に妥協できないことがぶつかれば、することなど一つだ。

「では、戦いましょう」

ネギの決意がもう覆らないと悟るや、夕映とのどかはそれぞれ杖を構えた。それに応じるべくネギも、アスナ達も得物構える。

「おい、そこのネギ以外。お前等の相手は俺だ」

横槍を刺してきたレンジは3対8という不利を、2対1と1対7という更に不利な形に指定した。

「いいんですか?」
「『クロノスライサー』は仲間が居ないほうが使いやすいんだよ」
「…………ありがとうございます」

いいってことよ――――これから戦いをしようという気概を微塵も見せないレンジが、アスナ達の前に立った。

「何勝手に決めてんだって顔してんな。いいんだぜ?このまま始めても」

そう言ってレンジは『堅』を纏う。実力のある者がほとんどのネギパーティには効かないハッタリだが、彼の能力はこの場の誰よりも厄介なのは身にしみている。

半径100メートル。部屋というより広場に近い地下室だが、扉の前にレンジが陣取っている以上、近づくことはできない。
意を決して総攻撃をと考えても、京都でエナと一緒に数多の鬼を屠った時の恐怖が、アスナ達に二の足を踏ませる。

古菲は改めて思った。レンジの能力は守りに大して絶対的有利だと。

そうやってレンジの隙を伺っていると、逆に隙を突かれる羽目になった。

「『アカンパニー』ON!『アーネ・トム』!」

レンジは一瞬でネギがカードの効果の範囲外になる位置に立って呪文を唱えた。瞬間、光の塊が彼女達を多い、一瞬で部屋の中から消えてしまった。。

「アスナさん!」
「邪魔をされたくないので、この上の階にある広場に退場してもらっただけです。嵩田さんに勝てば戻って来れるはずです」

追いたいという衝動に駆られても、ネギは後ろを向くわけにはいかなかった。
杖はすでに構えられている。戦いはもう始まってしまったのだ。

「夕映さん、のどかさん………」

ネギは沈痛そうに杖を構えた。

「僕は……謝りません」
「私達ですよ……ネギ先生」

のどかは目に涙を溜めて微笑んだ。そして――――。

「ラス・テル マ・スキル マギステル!」
「アブ・オー ウォー・ウス クェ・アド!」
「モルス・ケルタ・ホーラ・インケルタ!」

誰も望んでいない決闘が始まる。
彼女達が発した始動キーは、ネギ達の皮肉を込めたものなのだろうか。















アブ・オーウォー・ウスクェ・アド 『最初から最後まで』
モルス・ケルタ・ホーラ・インケルタ 『死は確実、時は不確実』


ラテン語の格言です。