夕映達と分かれたネギ一行は光る根に沿って地下道をひたすら走る。

「戻るのはいいけど、具体的にどうやって超さんを止めるの?ていうか、超さんは何しようとしてんの?」

神多羅木の話は大まかな経過を語ったもので、具体的にどういうことをしたのか言っていない。(46話参照)
無事帰れても出切る事がなければ意味が無いのだ。

「皆さんが居ない間に夕映さんから聞きました。超さんは三日目の最終日にたくさんのロボットを使って学園を占拠したそうです」

そこまで聞いて、アスナは地下水道の先にあった巨大な広場と、大量のロボット群を思い出した。(42話参照)
ついでにサゾドマ蟲のことも思い出して軽く鬱になる。

「神多羅木先生の話から推測するに、魔法使いがロストしたというのは僕達に使った未来へ跳ばす銃弾が原因でしょう。僕達より早く戻ってくるよう調整し
て」(45話参照)

油断していたとはいえ、銃弾から木乃香を守れなかった失態を思い出し悔しげな顔をする刹那。

「麻帆良の世界樹は聖地の一つだと学園長が言っていました。なら超さんの狙いは―――――――」

長い道はようやく終着を告げる。眩い発光の向こうに辿りついたネギ達は、ドーム状の中心に光の祭壇を見た。









ネギま×HUNTER!第51話「託す人達」







「コイツぁ凄ぇや。こんだけ魔力を放出してんのに、あの中心の玉にゃまだ大量の魔力が内包されてやがる」

興奮か戦慄か、カモは汗を垂らしながら周りの状況を確認した。小動物ゆえの第六感は、この場所を安全だと告げている。

「これなら一日遡るのに十分だ!さっさとこんなところからおさらばしようぜ!」
「うん!」

ネギは走りながら胸ポケットを探り、カシオペヤを取り出して時計の針を回す。
だがそうは問屋が卸さなかった。

「アンギャアアアアアアァァァァァ!!」
「ウッソーーーーー!?」

ドームの天井で巨大なドラゴンが咆哮を挙げた。人間の小賢しさを手に入れた小動物の第六感はあてにならなかったようだ。

「ちゃべーー(超やべぇ)!誰かアレを止めてくれーー!!」

カモが『叫び』になりながら懇願するが、誰もが無理だと冷や汗を流す。唯一黄色いバカは目を爛々と輝かせて挑もうとしているが、同じバカの赤い方に羽
交い絞めで止められている。

「出ませぃ『鬼蜘蛛』ォ!」
「アデアット!」

千草が式で巨大な蜘蛛を、エナがマテリアストライクを召喚して迎撃に移る。
先行してエナが適当な弾で弾幕を張ってドラゴンの視界を塞ぎ、その隙に壁を這ってドラゴンと同じ位置に到達した鬼蜘蛛が魔力が篭った糸でドラゴンを
雁字搦めにした。

「うおっしゃー!やったか!?」

上手くいった作戦にカモはフラグを立てた。

「アンギャアアアアアアァァァァァ!!」
「でっしゃろな。ま、地力が違いすぎますわ」

絡まった糸が剥がせないものと悟ったのか、ドラゴンはお約束とも言える見事な『火炎』を吐いて糸と、その発生源である蜘蛛を焼き払った。

「アンタがフラグなんか立てるから」
「違う!あっしが言わなくてもああなってや―――――あ”あぁぁぁぁ!」

エナはネギの肩からカモを摘み取ってキュッとシメた。しかしまったく無駄だったわけでもなく、ほんの数秒程度の時間を稼ぐことに成功していた。

「エナさん、そんなのいいから早く手ぇ出して!」

その数秒は全員が祭壇の中心で円陣を組むのに十分な時間であった。エナはカモを摘んだまま、差し出されたアスナの手を取る。

「アンギャアアアアアアァァァァァ!!」

同時に炎を吐き終えたドラゴンが中央めがけて突進してきた。さっきまでの羽ばたく動作は一切なく、滑空による正真正銘の突撃だ。

「ネギ!」

アスナは準備が整ったことをたった一言で伝えた。それを合図と察したネギはカシオペヤのスイッチを入れる。

その瞬間、ネギ達の周り景色が落ちるように下へ流れていった。最後に彼等が見た未来の窓にはドラゴンが激突した祭壇がはっきりと見え、闇の彼方へ消
えていった。

その光景はエナとネギに少なくない何かを落として。













男は走るしかなかった。例えどんな理由があろうと迎え撃つ事もできず、しかし別の誰かに任せることも出来ない。

だから嵩田レンジは走るしかなかった。

『キャー待ってー!』

目をハートに変えた不特定多数の女性から逃げるために。

「エナのクソッタレがーー!!」

彼の叫びを聞く者はまだ戻っていない。



事の発端は覚えているだろうか。超が開催した総合格闘大会で、エナがアーネと戦うために『マッド博士のフェロモン剤』を丸々ぶちまけたことを。
エナの制約と誓約に利用されたことを知らないレンジは、老若問わず女性に追いかけられていた。

普通なら……そう、普通ならば適当にあしらうこともできただろう。曲がりなりにも念能力者がただの女に蹂躙されるわけがない。身体強化とクロノスライサ
ーを併用すれば逃げ隠れることは容易いだろう。
しかし忘れてはいけない。ここは『あの麻帆良』だということを。

『こちら麻帆大航空部3番機、七夏・イアハート!現在ターゲットはメインストリートから世界樹方面へ逃走中!』
「3番機、了解。引き続き監視を続行せよ。チーム『R・K』、こちら本部。ターゲットは世界樹にいる。繰り返す、ターゲットは世界樹へ向かっている」

偽りの愛にトチ狂った女達が結託して組織化していた。学園祭でいつも以上に人で溢れかえっていることも原因の一つとなり、その規模は想像に絶する。

「クソ!自分がどうなるかもわからねぇのかぁ!」

レンジが逃げているのは女にモミクチャにされることを嫌っての行動ではない。男として大なり小なりそういう願望があってもいいだろう、彼も男だ。むしろ彼が
逃げるのは追ってくる女達のためだった。

彼は知っているのだ。そのときの被害者は自分ではなかったが、HUNTERの世界でフェロモン剤を使ったゲームプレイヤーに訪れた不幸を。

この世にヤンデレという言葉があり、嫉妬・三角関係・修羅場という現象が起きることを、レンジは間近で見た。当然ソレがここでも起こる事を予見している


レンジが捕まり、彼を取り合う女達が殺人を犯す。そんな地獄を顕現させるわけにはいかないゆえの逃避行だ。ただその行為が更なる悲劇を二つも生むこ
とになる。

1つはフェロモン剤の効果がまだ効いていること。臭いとは消えるものではなく薄くなるもので、停滞するか風に流されて遠くまで飛ぶ。
お分かりいただけるだろう。彼が様々な場所へ逃げれば逃げるほど臭いは拡散するということが。

そしてもう一つの悲劇はまったく関係ない男性側から発生する。今のレンジを傍から見たらどう見えるか考えたとき、その答えはすぐにも分かる。
大量の女から好意を向けられながらも一目散に逃げる男に、男が向ける感情は誰が名付けたかこう呼ばれる。

『しっと』と。

「警備員でありながら婦女子を誑かす悪漢め、このしっとマスクが成敗してくれる!行くぞしっと団員の諸君!」
『ぅおーーーーーー!!!!』
BGM推奨→ http://www.youtube.com/watch?v=qiDAMSUrS8w

過去数年学園の歴史を遡っても、これほどのカオスは無いだろう。あっても今日には及ばないはずだ。

「(コレどうやって収拾すりゃいいんだろうなぁ………)」

地鳴りと砂煙をバックに走り続けるレンジは、本当に面倒くさそうな顔でそんなことを呟いた。








「ふぅ〜」

口から紫煙を吐き出し、何本目になる吸殻を赤弾で灰にする。アーネ―――――未来のエナ・アスロードはいつぞやのように世界樹の枝から下界を下瞰
している。目線の先にはあるのはもちろん過去の自分が犯した行為の犠牲者であるレンジだ。

「愛煙家だったとは知らなかったな」

彼女の隣には箒を帽子を携えたエヴァンジェリンが居た。学園祭最終日の今日、彼女の悲願がようやく達成する。その準備のためにアーネの傍にいる。

「100年………暇はしなかったけど、思い出す時間がなかったわけじゃない」
「ははっ、長い時を生きる苦悩がわかったか?まったく因果な生き物だよ、私達は」

だが――――と、エヴァは続ける。

「私達の悲願は今日達成するわけだが、お前は……否、お前達はどれだけ生きるつもりだ?お前が時間に逆らう理由はもう無くなるんだろう?」

アーネの目的は過去の自分と入れ替わること。そう聞いているエヴァは彼女に未来を尋ねた。

「冗談!100年もほったらかしにしたツケがたった100年で返せるとお思い?私が満足するまでレンジには付き合ってもらうわ」

一生ね――――――その一生が何を指すのかエヴァには理解しかねたが、笑う彼女の笑みに同属に似た悦を見た。

「アレも厄介な女に捕まったモノだな」
「アンタが言うなっての」

これから成そうとしていることを含めて、2人は本当に似ている。それが彼女達の見解だった。

「あ、ホラ見て」

アーネは新しいタバコの先端で飛行船の近くを指した。

「ようやく終わるわ」

朝日と雲に隠れて、時のトラベラーが帰ってきた。











『アッーーーーーーー!!!』

本日二度目の落下はシャレにならない高さから始まった。たかが高度数キロメートルでも、慣れていない者には失禁モノの恐怖である。

「まぁこの程度ならどうということはござらんが」

今落ちているのはほとんど実力者なので問題はなかった。楓は言うに及ばず、刹那は翼を使って木乃香と飛び、古菲とアスナは堅と咸卦法で衝撃に備え
、千草は空を飛べる式紙を用いて対処が出来る。

「(さて……どうしようか)」

結末と知っているエナはこのままネギの傍にいることを躊躇った。ネギがいることでこの時間軸の超は必ず失敗し、未来へ帰ることを義務付けられる。例えネ
ギがどんな失態と失敗を犯そうとも、帳尻を合わせる何かを宇宙意思が起こすのだ。

それを知っているのはエナだけ。つまりアーネも含まれる。
そしてアーネの目的は過去の自分と入れ替わること。つまりこの時代のエナが100年を生き、アーネとなって未来から帰らなければならない。

この流れを無視すればパラドックスが起きる。時代を流す主導権を持っているのはエナではなくアーネだった。

「(冗談じゃない!!)」

不幸と理不尽が外から来ることは許容できても、ソレに抗う権利すらないとはどういうことか。敗者が勝者に従うことを当然としても、何もできないまま敗者
にされるなどあってはならない。

ゆえにエナは決意する。超と同じように抗うのだと。

「カモ!アンタ達は適当にやりなさい!コッチは別で動くから!」
「そ、そんな!貴重な戦力が!」
「知ったこっちゃないわ!もし学園長に何か頼むのならレンジの名前を出しなさい!絶対言うこと聞いてくれるから!」

そう言ってエナは隣に居たアスナにカモを押し付けて、懐に仕舞っていた『G・I』のカードを取り出す。

「『磁力』ON、ユエ・アヤセ!」

光に包まれたエナは流れ星のように地上へ落ちていった。戦う準備を整えるために。