ネギま×HUNTER!話 『反撃!――――の準備 その2』





「まずは抱えている問題を出そう。一つ、数が足りないことだ」

食事中では話が進まないからと、食い終わるまで待っていたレンジは食後の茶を終わらせたタイミングを見計らってようやく本題を切り出した。

「その通りです。ネギ先生を筆頭に神とこのちゃん、アスナさん、古菲、楓、天ヶ崎、綾瀬さん、宮崎さん。エナさんもアーネを抑えるために動いてくれるかもしれませんが魔帆良全域をカバーするには……」
「俺っちは刹那っち!?俺っちを仲間はずれにしないで!」

超に対抗するのは総勢11人+オコジョの集団。これだけでも大問題だが、懸念事項はそれだけではない。

「二つ、魔法教師の大半がいなくなったこと。特に高畑先生とガンドルフィーニ先生が居なくなったのは痛いな」
「ウチのジィちゃんが無事なんが救いやろか」

最大のブレインが残っているのは救いだが、その下をまとめる指揮官クラスの魔法使いがいなくなったのは大きなマイナスだった。
平行世界の神多羅木によれば、レンジはそのとばっちりを受けることなるので戦線離脱を余儀なくされる。もうすぐ残った魔法教師から、その打診が来るだろう。

「三つ、一般人が大勢いることです。アレだけの数がまた来るとなれば、私達がどう足掻いても被害が出るでしょう」
「避難と保護にも人がいるな。………ん?『また』ってなんだ?」
「いえ、こっちのことです」

どこで手に入れたのか、『青汁コーラ』(紙パック)を飲んでいる夕映の指摘に、レンジは頭を抱える。
何をしようにもまずは人が足りない。なんとかして揃えようとしても、更に問題が浮き彫りになる。

「マイノリティが声を荒げたって誰も聞きゃしねぇんだよな〜……ノストラダムスはあんなに人気だったのに……。」

『今日は凄い大事件が起きます!』とレンジ達が騒いだところで、普通に無視されるか、悪くて益体のないパニックが起きるだけで、いいことなど一つも無い。
なまじ祭りで大小の騒ぎがあったり、認識阻害魔法の効果でその辺りに対する危機感というものがやや欠落している一般人に、レンジ達の言葉など届くだろうか。

面倒臭くなったレンジは大きくのけぞって図書館の天井を仰ぎ見た。

「ジジィがいるんだから全部丸投げしちまうか」
「旦那、そりゃ悪手だぜ?俺達が行った未来じゃ学園長達が対処しても、超の企みは成功しちまったんだ。どれだけ前情報を渡しても、結果は変わんねぇよ」

学園側が対応すれば超側も更に対応する。一見イタチゴッコに見えるが、数年も前から準備してきた超にとって『あってしかるべき』事態でしかない。
カモの言うとおり、レンジ達がなにもしなければ結果は何も変わらないのだ。

「なら仕方ねぇ…一つ一つ問題を片付けて行くか」

レンジはイスに座り直し、フラスクから一口だけ酒を呷る。その酒気に反応したのはレンジの隣(千草の真反対)に座っている古菲だった。

「あ、またお酒アルか?」
「覚えとけ。念にはこういう景気付けにもちゃんと意味があるんだよ。飲まなきゃやってらんねーよこんなもん」

俺ただの警備員やっちゅーねん――――――そういう場所の警備員になったことを嘆きつつも、問題解決への姿勢は崩さなかった。

「ネギ、起きてるか?」
「はい……」
「よし、辛いだろうが話は聞いていろ。今は一人でも頭が欲しい」

ここには脳筋しかいないから――――自分も含めて、策士に向いていない面子が圧倒的に多い場では、例え子供でも聡明な頭が必要不可欠だった。
同時にレンジはとある安堵もしている。もしここにエナが居たら、その破壊的思考がどんな無茶苦茶を提案するのか気が気でないからだ。

「まずは敵の規模だ。地下空洞にあった田中ロボが200とスクナの半分ぐらいの巨大ロボが6。これ以上の戦力に心当たりがあるのなら言ってくれ」
「さ、最終報告では田中さんが2500、戦車型ロボットが46、茶々丸さんの姉妹が数体確認されてますぅ」
「だから『最終報告』の出所はどこなんだっつの」
「はわわ、こっちのことですぅ」

隠す気があるのかないのかわからないが、のどかが漏らした情報は貴重以外のなにものでもなかった。

「よし、敵の戦力は大体2600だ!やんなっちゃうな!これだからバカと天才紙一重って言われるんだ!」

この時点で戦力は覆しようがない差になり、その他から助勢を余儀なくされた。

「戦力差があってもやりようはあるでござるが………そういえば、肝心の学園側の戦力は如何程でござるか?」
「知りません」

レンジ以外の全員が『ズコッ』とずっこけた。

だがそれは仕方が無いことだった。魔法関係には様々な敵がおり、人数を把握されるというのはそれだけでも致命的なのだ。なにせ身元がはっきりしているネギですら、学園祭前の召集で極一部の人数を紹介されて驚いたぐらいだ。魔法的立場がネギより下のレンジ以下その他が知らなくても無理は無い。

「えぇ………現在魔帆良学園に在住している魔法関係者は教師・生徒合わせて600人だそうです。ただ弐集院先生の娘さんのように登録されているだけの方も多いので、戦力として見ていいのは400人です。超あんの姦計で主力の魔法使いが100人いなくなりましたが……」

夕映が世界図絵を取り出してスラスラと機密情報を音読する。

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれゆえっち!なんでそんなことがわかるんだ!?」
「このアーティファクトの力です。いろいろ調べてみたら……ほら、こんなことも」

カモがまるでエロ本を読むような勢いで夕映のアーティファクト『世界図絵』を眺める。

「ムヒョー!マホネットに接続できるどころかAランクの機密情報まで見れやがる!」

魔法関係に疎いレンジ達にはその凄さを理解できなかった。魔法関係とはいえそんなに深く関わることなどなく、そもそもマホネットという言葉自体初耳であった。

だがその場に一人、カモが言った言葉を理解できる人物が居る。

「カモ君……調べて欲しいことがあるんだ」

ネギだ。この中で唯一マホネットを活用していた彼が事件解決のために動いた。

「お、おう」
「『対非生命体型魔力駆動体特殊魔装具』を大量に保管している所を」

子供の口から物騒な名前が出て周りがざわめいた。

「ネギ、何をするつもりだ?」
「超さんを止める……作戦です」
「なら話してみろ。俺達は一連托生だ……一人で抱え込もうとするんじゃない」

もとからそのつもりだったのか、ネギは弱弱しくもしっかり頷き、己の直感と計算を駆使して組み立てた作戦の概要を話す。













食事、入浴、睡眠をじっくりとることが出来たエナは、ようやく本調子に戻った。ただし疲れや念が元に戻っただけで、気分は未だに最悪であることには代わりない。

原因はもうすぐ24時間が経とうというのに、まだ解決策が浮かばないことだ。
タダでさえ自力でも目的を叶えるに足る力を持っているというのに、時間の法則が後押ししていては、矮小な人間が抗えるはずがない。少なくともエナが考える範囲に答えなどなかった。

「仕方がない………」

だからエナは当初考えていた、敷かれたレールの上から外れるためのある策を実行する。
ソレは同時に諸刃の剣でもあった。敷かれているからこそ先を見通せるのに、わざわざ藪の中へ入るような愚行……それも他人を巻き込むことを前提でしようとしている。

バレれば非難は確実、そして成功するかもわからない大バクチが失敗すれば、エナは持っているモノを全て失うだろう。しかし彼女はソレを、躊躇なく、むしろ積極的に行おうとしている。

それだけの『リスク』があれば少なくない量の底上げが期待出来るのだから。



その準備をしている合間の頭の片隅で、エナはほとほと『念』という概念は自分に合っていると痛感していた。

普通、フィクションの鉄則やお約束には正義感や使命感、すなわち正の力で実力をつけていくが、力の覚醒の大半は怒りや悲しみから来る負の念から生まれることがほとんどである。わかりやすい例を挙げるならクリリンのことを想像していただければいい。

それ自体は別に間違っていない。負の念と言えば邪悪なものを想像するかもしれないが、要するに降りかかる災厄から生きるため、活きるための反発する力であり、生物として持っていてもなんらおかしくないモノである。

念にその概念が当てはまるのは、そういう『力』の根本が似たようなものだからだが、顕著とも言えるべき違いが一つある。

『残滓性』だ。

発っせられた力は徐々に力を失い、やがて消える。呪文が途切れれば効果がなくなり、気が緩めば波動も穏やかになるように、生み出すという行為を続けなければ形を保てないのが幻想の常だ。

だが念はどうだ。術者が死してなお、その想いが強いほどオーラは禍々しく残り、現世の人間に悪影響を及ぼす。時には発現した能力以上の力で、あるいはまったく違う力となって。

『制約』と『誓約』が念を強くする理由はここにもある。何かを守り通そうとする強い意志は強い想いでもあるのだから。



エナ・アスロードという少女は決して唯我独尊ではない。むしろ相手の反応を見てから、自分が楽しむために動く女だ。他人がいることで動ける、他力本願な女だ。35話の制約にもその一旦が見れるだろう。

この一連の事件でエナはアーネを極限まで恨んだ。恨み続けることで生まれた念は彼女の体から生まれ続け、消えることなく『残滓』となり積み重なり続け、力となっている。

あるときレンジは誰かに言った。エナは究極のサドでマゾであると。だがそれは決して加虐性欲と被虐性欲の関係を指したものではない。

エナの根本はサディストである。敵対する者を討つことで悦を得るタイプであり、マゾヒストの要素は厳密に言えば持っていない。だがご存知の通り、エナ・アスロードは捻くれている。

戦いに身を置けば不覚を取ることもあるだろう。体中に無数の傷痕を残しているのがいい証拠だ。
そんなとき、彼女は何を想っているだろうか。戦いに身を置いたこと?自分の不甲斐なさ?残念ながらどれでもない。

その鬱憤を吐き出す瞬間――――報復の瞬間を想っているのだ。より苛烈に、より残虐にと恨みを募りながら、願いながら。

『ソレをワザと行うほど』のマゾヒズムを持ち、己を傷つけるほどのサディズムを用いて彼女の念は完成する。『敵』が『敵』であること……それだけでエナは強くなれるのだ。



アーネという敵はエナにとって最悪の部類に入る………が、決して勝てない相手ではない。それと言うのも、アーネもまた時間の制約に縛られているからだ。

アーネの目的達成にはエナの存在が不可欠。手違いで殺してしまうようなことが起きれば、それこそパラドックスが起きる。アーネは暴れまわるエナを五体満足で捕まえなければならない。

そしてもう一つ。平行世界のアーネが言った『次元や未来が発生する一つの点』に対して、あの瞬間は超に対しての点であると推測すると、アーネとエナに対する点はおそらくこれから発生すると推測できる。

その瞬間を題して人は『歴史が動いた日』と称するが、もっと簡素に表す言葉がある。

『混沌(カオス)』だ。



「は〜い、ワンちゃん。いい子にしてた?」

建物の屋上にネギ達の修行用にと作られた、ある仕掛けがある。その仕掛けの中枢に据えている檻の中に、エナがよく見慣れている生物がおり、エナという肉を見て涎をたらした。

その瞬間、その檻の中にいる生物とまったく同じ姿の生物が檻の周りに現れ、一斉にエナへと襲い掛かった。だが現れた瞬間の無防備を狙って迎撃する彼女には爪も牙も届かず、逆にエナ自ら檻へ近づく。

「ギャワン!!」

グリードアイランドならこの生物を倒してカードを得るものだが、一度カード化を解除したモノは特定のアイテムを使わない限りカード化できない。そもそもアイテムではないのでソレも使えない。

だが念で作られたとはいえ、生物である以上気絶はする。その瞬間際限なく沸いて出た人狼は消え、エナも目的のモノを手に入れた。

「敷かれたレールから外れるには暴走するしかない………」

理性を持たないモンスターが、今の麻帆良で暴れればさぞ良質の混沌が出来上がるだろう。どこへ向かうかわからない未来への分岐点が。

「暴れてやろうじゃない。今日はお祭りだもの」