「問題は3つ」

ネギの作戦を聞いたレンジは熟考の末にはじき出した問題点を披露する。

「その『対非うんちゃら魔装具』はたった数時間で用意できるものなのか?」
「問題ありやせんぜ旦那。学園長の協力があれば2つ返事で魔法空輸ができる。少なくとも夕方には間に合いまさぁ」

当然学園長の説得をするのはレンジだ。なにせ一発でお願いを聞いてくれる状態なのだから。

「もう一つ、一般人を巻き込むことになるが、超の出方は?」
「それも心配は無いと思いますです。超さんは目的は『学園祭のあと』にあるので、悪名はマイナスにしかなりません。魔法使い達が敵になる以上、一般人の声こそ彼女が最も欲する武器でしょうから」
「人殺しが出てしまえば味方はかなり減ることになる……。時空跳躍弾のこともあるし、なにか対策を考えてるかもな」

まぁ結局誰も死なないんですが―――――夕映がボソッと呟いた言葉は、幸い隣にいるのどかしか聞こえなかった。

「最後、その一大イベントを、いったい何処の誰がバックアップしてくれるんだ?言っておくが、俺の資産は5000万しか無ぇぞ」

十分じゃね?―――――アスナ達にとってネックだった金銭的援助は意外なところから受けられそうだが、今回は別の所から工面してもらうことになる。

「この学園祭では最終日に入園者を対象にした景品付きのイベントが行われています。そのスポンサーは――――雪広財閥です」
「頑張れバカレッド」
「即決ですか!?」

夕映の説明を聞いて、レンジは交渉役をアスナに任せた。どこで聞いたか彼女と雪広あやかの不仲を知っているのは、その顔が物語っていた。

「喧嘩するほど仲がいいって言うじゃなぁい?」
「わかりましたよ!やればいいんでしょやれば!!」

レンジは凄くニヤニヤしていた。ノブナガとウヴォーギンの関係を知っているからか、その手の複雑な関係には目ざといらしい。

「差し当った懸念に問題は無し………か」

レンジはその場にいる全員の顔を見た。不安の欠片も見せず、差し込んだ光明に希望を見たネギパーティーに二の足を踏むものなどいなかった。

「ならやるか」

簡潔に述べた決定に異を唱える者も、またいない。






ネギま×HUNTER!55話 『反撃!火星ロボ軍団 VS 学園防衛魔法騎士団!   の段取り』







段取りを整えたレンジは木乃香、刹那、千草、カモを連れて学園長室へ訪れた。そして木乃香の口から超に関する今までの経緯を説明する。孫娘の説得でも初めは難色を示していた学園長だが――――。

「つーわけだからジジィ、『対非うんちゃら魔装具』を取り寄せてくれ。俺からのお願い」
「レンジ君の頼みなら仕方ない」
「ちょ!いいのかよそれで!」

自分の出番を取られたことと、あまりのあっけなさにカモがツッコミをいれる。ところがカモの意見に同意する常識的な人間はこの場にいなかった。

「だって神ですし」
「神やし」
「嵩田はんではるし」

彼が持っているアイテムのおかげで幸福を得た面々しかいなかった。
それならばと、カモは学園長の後ろに控えている女性に擁護の視線を送った。初めはなんなのかと思っていた彼女は、その意味を察して一言。

「まぁ……神ですから」
「oh my god!」

魔法教師として学園長の秘書的立場にいる葛葉刀子。三十路近い歳のはずが十代に見紛う姿の彼女もまた入信済みであった。そしてカモの英語の発音は本場のソレだった。

「しかし超君もなにかやっとるとは思っておったが、随分大それたことをする」

ホッホッホッ――――と、学園長はのんきに笑う。本来なら自分の立場を危うくするほどの大事件になりかねないのに、どこか余裕があった。

「じいちゃんは何もせぇへんの?」
「ホッホッ、おじいちゃんは責任者じゃからのう。この学園を守って、この学園で起きたことの責任を取るのが仕事じゃ」

ならばなおさら動くべきではないのか――――木乃香と刹那は頭の上にハテナマークを浮かべているが、レンジとカモ、千草にはそれぞれ別の視点から意図が読み取れた。

カモの場合、近右衛門はこの作戦の発案者がネギだと知って傍観に徹する気だと考えた。それはネギの成長を期待してのことだろう。成功すれば御の字で、失敗してもネギの糧になり、決して無駄では無い。

千草の場合、かなりの憶測が入るが、超が行おうとしていることが『正義』か『悪』なのか判断できないでいるため、『中立』という立場を取ったのだと考えた。ただしその考えには超の出自と目的をある程度知っていることが前提だが。

そしてレンジは、カモと似た見解だがより視野を広げて、次代を育てることに重点を置いたのだと考えた。主要の魔法教師達がロストしたことで、残っているのは一部の熟練者と次代を担う魔法生徒が大半。この事件をそれ等の試金石にしようとしているのではないか、と。

「刀子君も行ってきなさい。ワシのことは心配せんでもええよ」
「はい」

おそらくどれでもあり、あるいはどれも違う考えを持っているのかもしれない。それだけの思慮深さを持っているのが、近衛近右衛門という男だ。

「しっかり頑張りなさい、若人達」

レンジ達は静かに頭を垂れた。








『学園祭最終日イベント!火星ロボ軍団 VS 学園防衛魔法騎士団!!』

スケジュールが午後の部に入ってすぐに、カラフルな文章だけの地味なチラシが学園各所でばら撒かれた。その広告を請け負う人員の多くはネギのクラスである3−Aの面々であった。

「ホントによかったアルか〜?アレ」
「知らないわよ。バカいいんちょが張り切っちゃったんだから」

容姿端麗なキャンペーンガールが多い所為か、飴に群がる蟻のように人が集まり、その分だけ参加者名簿が埋まっていく。ネギの作戦を成功させるという意味では重畳と言っていいのだが、アスナはあまり機嫌がよろしくなかった。

「いいんちょの説得はいい。ネギの作戦に一般人を巻き込んじゃうのも、これしか手がなさそうだからしょうがないし、私達が率先してイベントを煽るのも許す………けど!!」
「けど?」

現状を確認するように言葉をつむいでいたアスナは、ワナワナと震えている体から鬱憤を吐き出すように雄たけびを上げた。

「なんで私がこんな格好してんのよーーーーー!!」
「師父から預かったカードの中にあったアル」
「いい加減、あの人が何者なのか知りたくなってきたわ……」

現代風にあしらえた西洋甲冑とマントを纏ったアスナは、どこぞのゲームに出てきそうな姫騎士の様相をかもし出していた。ちなみに古菲は普通のチャイナとアーティファクトの三節棍である。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
No.085  身代わりの鎧
入手難度 : S   カード化限度枚数 : 8

カード化を解除した武器による攻撃を全て無効化してくれる鎧。
ただし攻撃の耐用回数1〜100回のランダムで、突然壊れるから注意。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「ま、いいんじゃない?ヒーローユニットだかヒイロ・ユイだか知らないけど、それで一般人より強いって演出ができるんでしょ?」
「別にいつもの格好でも変わんないのに………。ていうか……」

アスナは横から声をかけてきた人物の方を向き、

「なんでアンタがいるわけ?」

至極当然の質問を投げた。質問を受け取った人物は自前のペンをクルクルと回し、当然のように答える。

「レンジさんがこっち側なんでしょ?じゃあこっち側につくのが当然ってもんでしょ」

朝倉和美はそう言ってはにかみ笑った。
そう……彼女はマッド博士のフェロモン剤の呪縛から、まだ解き放たれていない。

「なんで師父がこっちにいると朝倉もコッチに来るアルか?」
「そこは気づきなさいよバカイエロー」

鈍いと書いて純粋な古菲にはパンダ目になる以外の選択はなかった。とかく色事には不慣れなお子様である。

「人手も足りないし、協力してくれるんならこの際なんでもいいわ。コッチだって後に引けないんだから!」

アスナはグッと拳を握った。

「失敗したら高畑先生と離れ離れになっちゃうんだから!アタシの幸せのために超をぶっとばす!!」
「あ、そういう理由があったんですね」

朝倉の後ろにいる相川さよが呟くが、生憎幽霊であるがゆえに誰の耳にも届かなかった。

「絶対勝つわよー!!」
『おー!』

恋する乙女を敵に回した超鈴音の運命やいかに。