「さぁ、大変なことになってしまいました!火星軍団が開始の合図を待たず、麻帆良湖湖岸から攻めて来ました!」

火星軍団による突然の奇襲は、様々なルート通じてネギパーティと学園側に伝わった。無自覚の一般人は司会者である朝倉の熱弁で、各々の士気を上げていく。

その中に紛れて、事情を知っている面子は静かに円陣を組む。

「奇襲たぁ味なマネしてくれるじゃないの」

酒気を漂わせる警備員は好戦的な笑顔でパーティ全員を眺める。その中に迷いを持っている者は一人もいない。

「ま、そんだけ超も無視できない事態ってわけだ。主導権が向こうにある以上、何をしてくるかわからん。十分注意しろよ」
「あの……不慮の事態ですし、ネギ先生に知らせた方が……」

作戦を考えたネギは魔力を回復するために図書館で横になっている。現場の状況が変化するたびに報告するのは作戦行動上で当然のことだが――――。

「カモに聞け。俺は知らん」

そんな無責任な―――――あまりにも突き放した発言に刹那は周りから同情を買った。

「勘違いしちゃダメだぞ〜おまえら。リーダーだの参謀だの、そんなんやるつもりはねぇよ。俺は―――――」

『凝』を込めた手を眼前に掲げ、

「向こうでも前線一筋だったんだ」

戦いの歌を、高々に挙げた。





ネギま×HUNTER!第58話 『反撃!――――――戦う者達』





奇襲からワンテンポ遅れて、ゲーム開始の鐘が麻帆良中に響いた。ソレと同時に一般人を含む魔法使い達も一斉に行動し始める。

主に補給地点が近い防衛拠点に留まる者と、進行ルートである湖岸へ赴く者の二つに別れ、助っ人キャラとしての役割を持つアスナ、刹那等は拠点で様子を見ることになった。

逆に助っ人キャラだけではなく、学園の人間として尖兵の役割も担っているレンジと千草、刀子は前線の状況把握も含めて湖岸へ赴いた。途中、小中高大の男女の裸体とすれ違い、眼福気分で女子を視姦していたレンジが、気分を害した千草に耳を引っ張られる形で。

「普通に考えて女の敵だよな、超って」
「そのおこぼれをもろうとる人が言いなはんな!」

これが別の男なら軽蔑の眼差しを向ける程度で済んだが、ホレた男には常に格好よくいてもらいたいのだろう……実年齢を伴わない容姿は彼女を立派な乙女に変えていたようだ。

しかしノンキにラブコメっている暇などありはしない。命の危険は無いにしろ、人生の危機と直面しているプロ達が気持ちを切り替えるのは早い。
ふざけているように見えても湖岸へ着く頃には、三人とも身も心も戦いの準備を終えていた。

眼下には大勢の魔法使いと大小様々なロボットが魔道具とビームを使って鬩ぎ合い、その合間から田中ロボットが最寄の防衛拠点へ抜けている。

「さすがに全部抑えるのは無理か。みんな結構いい仕事してんのにねぇ」

そのいい仕事に一役買っているのが大河内アキラだ。彼女の眷属が放つ無数の氷の矢はロボットを壊すほどの力は無いが、怯ませたり足止めしたりと地味に効果が高い成果を上げていた。

「撃ち漏らした数もそんなに多くありませんね。一般人の被害も……まぁこの際目を瞑りましょう」
「世界樹様々ですなぁ」

下着姿―――――それもパンツのみ残したほぼ裸体が湖岸の半分を占めているのに、男連中は野太い声を挙げるだけで、すぐに最寄の補給地点へ向かっている。流石に集団監視の中で襲おうとする者はいなかった。

「写真とか撮ろうにもビームでどっか行ってるもんな。問題は一般人がどっかで盗撮してるかもってことなんだが………」

当然のことながら湖岸の周りには非参加者の見物人で溢れていた。その中には望遠レンズ付きのカメラを構えている連中もいる。

「ま、心強い味方もいるし、なんとかなるだろ、この問題は。さっさと眼前の問題を片付けようぜ」

砂浜に跳び下りたレンジは『円』を最大まで広げる。半径100メートルという実力の割りに広い索敵レーダーには、空中も含めて人間とは程遠い形をしたロボット群を正確に捉えた。

「ヒーローユニットのお出ましだ」

彼に続いて千草は符を、刀子は得物を構えた。
湖岸を突破した田中ロボが激減するのは、もう間もなくのことである。









所変わってここは観客席。席と言っても立ち入り禁止区域外から勝手に観戦している野次馬がいるだけの場所だ。

「デュフフ、今年のイベントは気合が入っているでござるよ」
「そ、そのようですねモブ夫氏。日本の科学力もここまで来たようでござるな」

どう見てもアレな人達が混じってます本当にありがとうございました。彼等の手には大小様々なカメラがあり、そのレンズは湖岸に向けられている。

彼等が居る場所は湖に掛かっている橋の上だった。最新の光学式カメラならほとんど劣化せず遠くからでも実用レベル(?)でも撮影が可能である。

だがついぞその瞬間まで撮影に勤しんでいた面々から疎らに悲鳴が上がり始めた。

「ちくしょう、写れ、写れよ!今写らなきゃなんにもならないだろ!」

彼等が使っていたデジタルカメラが急に使えなくなったのだ。別のところでは携帯電話も使えなくなるという事態も起きており、麻帆良全域で機械が原因不明の故障を起こしている。

「デュフフ。これだからデジタルは信用できないのでござるよ。何時の時代もアナログ最強、情弱乙ww」

現場に出るカメラマンの多くはフィルム式のカメラを多用しているという。電池という時限式では長時間の撮影に向かないからだ。
そして不慮の故障が起きても、即座に対応できる汎用性があるのも強みである。例えどんなに次代が進化しようと、アナログがなくなることは決して無い。

しかし――――――。

「ぎゃわーー!!」

いざ撮影を再開しようとした男を筆頭に、橋の上にいる観客のカメラが物理的に壊れた。

「何故?!何故こんなことがー!!」

撮影などとは関係ない普通の観客も居るのだが、冷めた目を向けられても構わず嘆く男達はあり得ない理不尽に絶望する。
フィルムは無事かもしれないと壊れたカメラから発掘するも、残念ながらフィルムもしっかり『撃ち抜かれて』いる。

「やれやれ、またくだらない物を撃ってしまった……」

麻帆良を最も見渡せる、とある場所で少女はあきれるような溜息を吐いた。
使ったばかりの狙撃銃に弾薬を再装てんして次の得物を探す姿は、彼女が長い間ソレを使い続けてきた証明であろう。

しかし彼女が引き金を引く前に、野暮な通信が入った。彼女の耳にこの3日間だけ契約を結んでいる雇い主の声が鳴る。

『計算が狂たヨ。まさかキミがソチラ側に付くとは……』
「付いたわけじゃない。依頼はそちらが先だった……報酬分は働くさ。ただ………」

彼女は覗いている狙撃用望遠スコープを銃口ごと動かした。田中ロボを拳で砕くために湖岸を縦横無尽に動き回っているにも関わらず、テレスコピックサイトの中心は常にある青年の顔を映している。

「裏切らない程度で手助けするのは、契約違反にならないだろ?」
『……好きにするといいネ』

素っ気無く通信を切られたのは、もう期待をしていないという表れか、それともプロの仕事人として信用されていることか。どちらにしろ少女は自分の言を違えるつもりは無かった。
時間がくれば彼女は与えられた仕事をこなすだろう。だがこの瞬間だけは―――――。








この話は前日まで遡る。


格闘大会で刹那に負けた真名は、通常の措置通りに医務室へ運ばれた。手の治療を適当に済ませ、次の任務が始まるまで束の間の休息を楽しんでいた。
こうやってなんの邪魔もなくベッドで眠れるのは何時以来だろうか……長くはなくとも目の下の隈を取るには十分な安眠ができるだろう。

「お邪魔しますえ〜♪」

それを邪魔する一人の少女が現れた。

「うわーーーーー!!!」

最近邪神に見えて仕方が無い近衛木乃香が医務室に入ってきた。

「ありゃりゃ、結構元気やね」

ベッドから跳び下り、壁際で指弾を向ける龍宮に対して、木乃香は残念そうな声を出した。もちろん覚えたての治癒魔法を使えないからである。

「い、一般人は入れないはずだ!どうやって入ってきた!」
「あ〜それな〜。ウチ警備員はんからおもろいモンもろうてんのよ」

そう言って木乃香が出したのは小さな紙切れだった。目がいい龍宮には紙の表面に書かれている文字をしっかり見ることが出来た。


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No.027  顔パス回数券
入手難度 : B   カード化限度枚数 : 25
どんな場所でもこの券を渡せば入ることが出来る。1000枚入り。
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「な、何をしにきた!」
「ん〜……ちょっと謝りに来たんよ。せっちゃんが迷惑かけたみたいやから。ホント、ご迷惑をおかけしました」

そう言って木乃香は深々と頭を下げた。

「そんでな、お詫びってモンでもないんやけど………」
「な、なんだ?」
「エヴァちゃん家の別荘に来てほしいんよ」

突拍子もない、それ以上に頷くに値しないお願いだった。心情だけではなく、超との契約上でも了承などできない。

「…………わかった」

しかし龍宮は頷いてしまった。安心、幸福、親近感。様々な『感情』がさっきまで木乃香を嫌悪していたものとは逆のものになっていることに、彼女は一切の疑問も持たない。

龍宮からは見えないところで桜崎刹那が『計画通り』な顔をしていることにも気づかない。当然、彼女の手にリモコンのようなものが握られていることも。



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No.028  移り気リモコン
入手難度 : B   カード化限度枚数 : 27
他人が他人へいだく10種の感情を10段階の強弱で操作できる。
(他人が自分へ抱いている感情は操作できない)
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別荘へ連れられた龍宮の身に何が起きたか………それを語るのはもう少しあとになるだろう。
ただ、別荘である種の幸福を得て、そしてこれから吐き出す自身の言葉になんの疑問も持たない経験をしたことは確かである。

「……主よ」

龍宮真名は浜辺に向かって静かに祈りを捧げた。