「あ、パターン入ったわ」
ゲーム―――とりわけアクション系をしている者には馴染みの深い言葉をレンジが呟いた。
AIは決まった動きしかしない。ある程度のランダム機能を付けていても、複雑な演算が必要なロボットでは無限の乱数はありえないのだ。
今回使われているロボット群のコンピューターには大まかに『拠点の制圧及び周囲の人間の排除』と入力されていたとしよう。
だが魔法使いと一般人を問わず殺人を禁止されれば、手持ちの非殺傷兵器のみで戦うことしかできない。
例えば田中ロボでは足を止めて脱げビームを放つしかできないという1つのパターンしかないのだ。ランダムなのは精々攻撃する位置程度である。
超の誤算は、魔法使いだけではなく一般人が入ったことでロボットの近接戦闘を封じざるをえなかったことである。対象を無力化するだけならスタンガンやネットランチャーでも十分効果がある。だが一般人に使ってしまえば非難は免れない。
ある映画でも高性能AIによる反乱で人類は壊滅手前まで追い込まれたが起死回生するパターンは複数存在する。人間の思考の柔軟性はそれほどまでに高いのだ。
ましてや麻帆良にいるのは妙に戦い慣れ、かつチームワークに優れた生徒ばかりである。制限過多で最良の選択をできないロボットが勝てる道理はない。
ただでさえネギ達の帰還により魔法使い達の準備はほぼ整っている上、魔法とはまったく関係ない念使いという超人が複数いればなおさらに。
歩兵、戦車、航空支援という第一波が収まろうかというとき、かつての敵と比べてあまりの手ごたえの無さに、レンジはこのままで終わるだろうと気を緩めてしまった。
その直後、自身の目の前に壁とも見紛う量の銃弾が降り注ぎ、クロノスライサーによって停止した。
ネギま×HUNTER!第話『Success rate 25%』
その発射間隔の短さに一波のビープ音のような銃声を出すガトリングガン。毎分平均3000発もの弾幕を張れる彼の銃は本来、歩兵が担いで使うことを想定されていない。銃身だけでも重いのに、糾弾ベルトと薬莢まで加われば総重量100Kgを越すなどザラだからだ。
第2波と呼ぶべき後続の田中ロボには、おそらく自重とほぼ同じ重さであろうドラムマガジンとガトリングが搭載されていた。
数こそ少ないものの、元々大した防御手段を持っていない学生達はあっというまに消えてしまった。攻撃力と制圧力は似ているようで違うのだ。
「うぅわ、撃ってみてぇ」
レンジの目の前は剣山のように弾丸でびっしり埋まっている。いきなりのことで酒瓶を持つその手は冷や汗をかいているものの、弾幕のスキマから見える漢の浪漫兵器に一抹の羨望を感じていた。
だがそれも一瞬で済ませ、レンジの目はガトリングから戦力の分析のために動く。今度の田中ロボが明らかに今までの攻撃とは一線を画すモノであると、現状の被害で察したのだ。
現在進行形で田中がガトリングを乱射しているため、そしてクロノスライサーで無効化できているため観察の余裕には事欠かない。彼ならではの戦略と言える。
一番最初に目に付いた違和感は、今まで眼福気分で視姦していた裸が、攻撃を受けたあとなのに一つも見えないことだった。つまり実弾属性の脱げビームの類ではないことが伺える。
次に、その弾をくらったであろう生徒達が黒い球状のモノに包まれたこと。その黒球が消えた後には、被害に遭った生徒まで一緒に消えているということ。
もし事前にネギパーティー(兼信徒)の夕映から超の前情報を聞いていなければ、命に関わる消失現象として捉えただろう。しかし『人命に影響が出る被害は出さない』という、妙に自信をもった発言により、レンジはあくまでゲームの一環として事態を捉えた。
つまり現在の状況とは―――――!
「わかんねぇよ!!」
ダ○ョウ倶楽部の○島のように、空になった酒瓶を砂地に投げ捨てた。しかし瓶が手から離れた瞬間、クロノスライサーの解除判定が消えたため、中空で止まった。
お忘れの方のためにもう一度記しておこう、彼は戦う才能がほとんど無い。あのビスケが太鼓判を押すほどに。なにかが起きても許容できるが、何が起きているのか理解できないのだ。シャーロック・ホームズで言うところのワトソン的ポジションである。
そこで自然的に解答を示してくれるホームズが必要になるのだが、生憎その役目を担っている者は異次元と、園内で暗躍している最中の仲間であり、当然ながら両方傍に居ない。
このままなし崩しでやられてしまうのだろうか―――――そう思っていた矢先、オレンジ色に染まりかけの空が小さな紫電を発し始めた。
「はははは、苦戦しているようネ、麻帆良の魔法使い諸君!」
日が落ち、紺色が混じった夕焼けの空に超鈴音のホログラムが映った。
ネギ達の作戦に乗り、ラスボスという役になりきって、余裕がある顔で芝居口調をしている。
その余裕は確かなもので、彼女の戦力は即席魔法使いだけでどうにかなるモノではなかった。数年かけて準備してきた圧倒的物量は地味に魔法使い側を苦しめている。
そして学園長達に対してあてつけめいたものでもあった。お前達の抵抗など折込済みであり、無意味なものだと知らしめるためのものだ。
「君等の健闘は賞賛に値するヨ。しかし頼みの綱のヒーローユニット達は我が火星軍団の手で退場してもらった」
レンジはその技術に素直に感心した。カシオペアのような複雑雑多な機械を使って時間を越えるなど、素人の自分では考えつけない領域である。
将来人間がそこまで行くことが出来るというのは、ある種の誇りのようなものを感じるのだ。
だが感心している場合では無いと気づき、慌てて携帯電話からヒーローユニットの安否を確認しようとしたが、ジャミングでうんともすんとも言わない。
ならばパクティオーカードのアーティファクトで――――と懐に手を伸ばしたところで、今更指輪を出したところでなんになると気づいた。
「俺ってホント馬鹿」
酒を飲んでいたから―――というのは理由にならない。本来なら図書館で渡しておけばよかったものを、話を聞いて理解するのが精一杯だったため、普段使わなかった物を気にかける余裕などなかったのだ。
レンジが嘆いている間にも超の演説は続く。最先端技術を謳い、時間跳躍弾による隔離部屋へ違和感無く移送することを伝え、最後に肉まんを使ったオチまで用意しているという周到ぶりであった。
さりげなく未知の未来技術を暴露したものの、これは世界樹や魔法使い達の認識阻害魔法の影響で、誰も疑問に思うことなく納得した。麻帆良の頭脳と呼ばれているだけあって、この辺りの裏をかくのも上手い。
ネギの思惑にあえて乗ったこと、その上で現在火星軍団が優位に進んでいること、一方的なルールの変更、ヒーローユニットの撃破等、生徒達と魔法使い達への宣告は全て終わった。あとは適当に話を終わらせて消えるだけだ。
そうは問屋が卸さないという言葉がある。
「魔法使い諸君、私は――――――」
火星にその言葉があるかどうかはさておき
『おっぱいが好きネ』
空気が凍る―――という言葉がある、おそらくあるだろう。
寒いギャグを言った時、あるいは今までの流れをぶち壊したときに起きる現象で、この瞬間が正にそうだと言えよう。
イベントの一環として現れたラスボスが、おっぱい星人だと暴露する………台本を間違えたのではないかと疑うには十分なインパクトだった。
事実、ホログラムに映っている超はパンダ目で放心している。そう、彼女自身にとっても想定外のことがたった今起きたのだ。しかし音声は、そんな彼女のことなどお構いなしに流れ続けた。
Aカップが好きネ、Bカップが好きネ、Cカップが好きネ、Dカップが好きネ、Eカップが好きネ、Fカップが好きネ、Gカップが好きネ、ナイチチが好きネ、美巨乳が好きネ。
家で、通学路で、教室で、運動場で、公園で、更衣室で、プールで、大浴場で、保健室で、体育館裏で。この学校で愛でられるありあらゆるおっぱいが大好きネ。
プールで泳いでいる水泳部員の濡れたおっぱいが好きネ。
クラスメートの忍者少女が走るたびにバインバインするおっぱいなど胸と一緒に心も踊る!
格差社会によって作られたお嬢様の黄金比おっぱいを見るのが好きネ。
中学生ってレベルじゃねー女体の神秘を見せ付けられたときは、悔しく思いつつも胸がすく様な気持ちだた。
賓乳率の高い自分のクラスが好きネ。
自分と他人を比べ、豊おっぱいするために何度も何度もスキムミルクを注文する姿は感動すら覚える!
寮の大風呂でおっぱい艦隊が出現したらもうたまらないネ。
望んでもいないのに、歳を重ねるたびに大きくなるおっぱいに悩む姿も最高ヨ!
哀れな幼児体型が、雑多な道具で健気に豊胸しているところを、悲惨な失敗を繰り返し望みが木っ端微塵に粉砕したときなど絶頂すら覚える!
寄せて上げてる偽おっぱいを見るのが好きネ。
尊いおっぱいが切り裂かれ、シリコンによって異形になったおっぱいを見るのは、とてもとても悲しいヨ。
賓乳をステータスだと自分を誤魔化している人が好きネ。
肥満のおっぱいを巨乳と定義されるのは屈辱の極みヨ!
諸君、私はおっぱいを、パライソの様なおっぱいを望んでるネ。
諸君、私に立ち向かう魔法使い諸君。君達は一体何を望んでるヨ?
更なるおっぱいを望むか?
情け容赦のないマシュマロのようなおっぱいを望むか?
力の続く限りこねくりまわし、三千世界のおっぱいを愛でる嵐の様なおっぱいを望むか?
誰もが唖然としていた。ホログラムの超はバタバタと慌てて、声を出していないのは丸わかりだ。
だが自信と威厳がこもった彼女の声は、確かに麻帆良学園都市に届いている。
だからだろう。
「………お…ぱい」
「……おっぱい」
「おっぱい!」
「おっぱい!!!」
彼女を賞賛する声が挙がるのは、必然なのだ。
魔法使いどころか、学園中の一部の男性とわずかな女性が一斉に啼き始めた。隣に居る恋人が、家族が必死に止めているが、彼等は何かに取り憑かれたように叫び続ける。
『だが、おっぱいは平等ではない』
超の演説は続いた。まだ続くのだ。
おっぱいの大きい者、おっぱいの小さい者、美しいおっぱいを持つ者、えぇそれと垂れ気味な者。
形も色も大きさも、おっぱいは皆違っているネ。
そう、おっぱいは差別されるためにあるヨ。だからこそ人は争い、競い合い、そこに新たな属性が生まれる。
不平等は悪ではない。理想のおっぱいを決め付けるのが悪ネ!
美しさを重視したEUはどうカ!?皆同じ形ばかりで面白みがないネ。
大きさを重視した合衆国は、おっぱい星人ばかり!
だが、我が火星軍団はそうではない。争い競い、常に新しいおっぱいの神秘を生み出してるネ!
火星軍団だけが前へ、未来へ進んでいるヨ。
ワタシの作品、茶々丸シリーズの完成は、火星軍団が新しいおっぱい属性を生み出しているという証!
戦うネ!競い奪い獲得し支配せよ。その果てに、おっぱいがある!!
オールハイル――――
『おっぱい!!!!』
音頭が整った叫びが麻帆良を揺らした。明らかに最初のカミングアウトよりダメなことを言っているのに、共感し後に続く者達は倍以上に増えている。
やっかいなのは、最初は僅かだった女性が増えていることだ。
ある種の催眠やマインドコントロールならば、最悪麻帆良の一般人が超の死兵になるかもしれない。
「何が起ころうとしてるんだ………」
演説により焚きつけられた熱気は、何かの形で発散させなければならない。もし戦争中ならば、矛先を敵兵にあてればいい。
しかしこの場合は特殊すぎる。超の定義したおっぱいの対象は女性のモノのみ。つまり熱いパトスを向けられるのは女性だけになる。
もし男達が野獣になってしまったら、レンジ達は否応なく鎮圧しなければならない。そうすれば火星軍団は完全にフリー。超の作戦は成功するだろう。
麻帆良という釜の熱は十分に焚きあがった。
その熱を向けるための、最後の演説が始まる。
聞けぃ、麻帆良の全ての女性達よ。
おっぱいはやがて廃れる。シリコンそしてPAD、彼等にはもうおっぱいを導くだけの権威も力も残されていない。
泥沼と化した整形戦争にコ○アが苦しんでいるあいだ、各国の整形技術は飛躍的な発展を遂げた。
そして円高による経済の破綻によって、日本には美容外科に付き合う余力が無くなった。
だがコスメ戦争が終わったからといって平和が訪れるわけではない。
奥ゆかしさという支配から解き放たれ、これまで押さえ付けられていた諸国の薄着思想は活発化するだろう。
そしてカップの差の拡大が互いの憎しみを煽る。
大国の管理から外れて世界中に拡散する外国の巨乳遺伝子。それらがいつどこから飛んでくるか分からない時代が訪れる。
たとえ同国同士であろうが、いつ覚醒遺伝になってもおかしくない。それどころか、同じ親を持つ姉妹が憎みあう時代が訪れるだろう。今のお前達のように!
昨日までの隣人が、友人が、家族が、お前のおっぱいを見限り、お前の価値を殺すかもしれない。
お前をおっぱいを裏切る人間はいないか?
お前のおっぱいを馬鹿にする人間はいないか?
お前のおっぱいは本当に誰かに必要とされているのか?
巨乳のお前を殺してやりたいと思っている人間は、本当に誰もいないのか!!
「そんな……」
「こ、殺されるの?」
比較的おっぱいが大きい女性達が怯えだした。
逆に比較的おっぱいが小さい女性達の目が、不自然な殺気を漂わせ始めた。
「嘘だ、騙されるな!」
このままではまずいと判断したレンジが声を荒げても、動揺するざわめきが無残に消す。
『お前のおっぱいを狙う者がその中にまぎれているぞ。そのけしからんおっぱいを蹂躙する為に』
「やめろ!超の声を聞くんじゃない!」
『お前達の敵はお前達のすぐ隣にいる。お前か…いやお前だったか!!』
肉声と麻帆良に響くよう調整された拡声器による音声、どちらが大きいのか明白であり、例え届いたとしてもその場だけ。レンジがどんなに声を荒げても麻帆良という巨大な庭には届かない。
『おっぱいは無数の信管を突き刺した巨大な爆薬のようなものだ。美乳はたやく壊れてしまう。たった一年の月日で、いや!ただ一つの遺伝子で………いたぞ、敵だ!!』
「ぎゃーーー!!!」
レンジが居る場所のずっと遠くで、一人の男性が、人体には影響が無いはずの魔法銃の攻撃を受けて倒れた。
「い……いやーーー!!」
「うわーー!」
それを皮切りに乱闘が始まった。
誰かは錯乱しておっぱいを求め、誰かはその錯乱した者を止める為に。
あるいは妬ましく思っている者を狙い、そして襲われたくない一心で近づく者を撃つ。
「やめろ、やめるんだ!」
「人を乳と歳でしか判断できんのかー!」
「ぐあ!!」
錯乱した女が杖タイプの魔道具でレンジを殴打する。幸い纏を持続していたおかげでダメージは無く、なんなくナギ払う。
「やめさせろ、超ー!」
『止めたければ自分で止めてみたらどうだ、嵩田レンジ』
レンジがホログラムに向けて叫ぶと、慌てていた超は『自分じゃないです!』と手と首を横に振って弁解するが、超の声は相変わらず勝手に動いていた。
『強制認識魔法の準備はもうすぐ整う。この茶番に付き合う必要は無い』
「だから仲間割れを起こしたのか!」
『私が起こしたのではない。おっぱいが全てを滅ぼすのだ。あまりにも凶暴で、神聖で脆い。よく見ておけレンジ、コレがおっぱいの正体だ』
「絶対違うんじゃないかな!」
電源を切ればいいことに気づいたのか、超のホログラムがゆっくり消えていく。
「兄ちゃん、危ない!!」
待て!―――と、超に向かって叫ぼうとしたレンジの目の前に、犬耳を生やした少女が躍り出る。彼女の前にはガトリングを構えた田中さんが数体列しており、すでに銃身は回転していた。
「狗神!」
少女の影から黒い犬が飛び出す。しかし同時にガトリングの銃口から無数の銃弾が発射された。
レンジが慌ててクロノスライサーを展開するも、間に合わなかった。時間跳躍弾は小太郎に接触し、半透明の黒い球体が少女を覆う。
「小太郎!」
呼ばれた少女は振り返った。その瞳が映したの時間跳躍弾を止めることに間に合ったレンジで、彼女は慕う人を助けることが出来たのだと安堵した。
「―――――」
少女の口がかすかに動く。自分の犠牲が無駄ではなかったことに対する思いを口にして―――――
――――――無事でよかった。彼女が残した言葉は黒い球体と共に消えた。
「お前まだホルモンクッキーで戻ってなかったんかい!!」
レンジの空しい言葉も空へと諸共に。
ホログラムを投影するための台座から降りた超は、すぐ飛行船の端へ向かった。
はるか下で起きている喧騒は肉眼では確認できないが、暴動を起こしている一般人達と、事態を収拾せんとする魔法使い達で溢れていることだろう。
「ハカセはどうしタ?」
「下の様子を調べてくると言って作戦司令室へ向かわれ――「超さ〜ん」――ていました」
傍で待機していた茶々丸のコピーに尋ねるのと、本人が走って来るのは同時だった。
さすが、総合格闘大会からハチャメチャになった計画をなんとかやりくりしていただけに、こういうときの対応は早かった。
「学園都市の各地で暴動を起こした一般人を、魔法使いが総出で対応してます。数は多いですが実力的に見て、鎮圧は時間の問題でしょう」
「魔法先生の神経系魔法なら鎮圧も容易いだろう。当初の予定通り、ロボット軍団及び鬼兵を進軍させるネ」
「………それが………茶々丸、説明を」
「開発区域の森から突如人狼と思わしきモンスターが大量に出現し、そちらの迎撃を最優先にしました。我々の戦力は実質各所へ向かっている鬼兵ロボのみです」
中央管制室にいる茶々丸のオリジナルからの最新情報を聞き終えた超は、
「この期に及んで、まだワタシの計画が成功すると信じているのなら、持ち場へ行くがヨイ」
とても落ち着いた声で命令した。しかしハカセと茶々丸は動かなかった。
当然だ。もう当初の予定は大幅に狂い、流血沙汰を起こさないようにしていたにも関わらず、一般人を巻き込んだ騒乱が起きた。
そして完全に予想できなかった人狼の襲撃。
度重なるアクシデントで、超の堪忍袋がとうとう限界を超えた。
「これは一体どういうことネ!これでワタシの苦労は全部パァ!いい加減、これだけ弄くられたんだから、世界の修正力とかいう、厨二設定が働いて原作どおりになってもいいだろ!!それだけならまだしも、異常気象で一年早めていっぱいいっぱいなのに、これ以上問題起こすな!これだから二次創作のオリ設定は大嫌いなんだよ!」
「しかし強制認識魔法を発動する鬼兵は無事ですし」
「スクナより弱いアレが、あんなチート集団に勝てるかバーカぁ!」
「残りのロボットを全て投入すれば、足止めにはなります!」
「認識阻害魔法の効果が薄れてるのに、これ以上変なものを表に出したら収拾がつかんわ!」
チクショーめー!!――――超は着ていた外郭を脱ぎ、力強く地面にたたきつけた。
「ただでさえアーネが何か企んでるというのに、アスナ達まで戻って来てさぁ大変!こんなカオスな状況が歴史上あっただろうか、いや無い(反語)!先の大会でインターネットに魔法を仄めかすのも失敗した以上、強制認識魔法も成功するかどうかもわからん!それとも世界はワタシにスターリンのような愚者になれとでもいうのか!」
ひとしきり大声を出して落ち着いた超は、それでもまだ足りないのか独白を続ける。
「去年はよかった。計画が順調に進みつつもクラスのみんなと馬鹿騒ぎが出来ていたあの頃は。だというのに………、祭りで喧嘩騒動の発端になった挙句、ワタシの人間像はおっぱいぷる〜んぷるんてか!しかも狙ったようにクラスメートの特徴を使って、まるでワタシがネットリ見ていたような言い方!これで明日学校に言ったら『オメーの席ねーから!』とか言われること請け合いネ!」
「(不憫すぎる……)」
「(でもこれだけのことをしてまだ学校に居座るつもりみたいですよ?この創造主)」
ひとしきり叫んだおかげか、頭に上っていた血が降りて冷静になった超は、ついでに襲ってきた脱力感に抗わずその場にへたり込んだ。
「………わかってたヨ、ネギ坊主達が帰ってきた時点でワタシの世界線は失敗が刻まれていると。向こうのワタシもそうするために、ワタシの敵になると」
比喩や揶揄でもなんでもない、次元を超えることで超の敵は他ならない超自身でもあった。成功と失敗、次元を隔ててこの2つを同時に存在させるにはこの方法しかなく、その覚悟があったから躊躇無く実行する。
「でもネ、夢を見たっていいじゃないカ。例え失敗しなければいけない運命でも、連綿と時間を越え失敗し続けて、受け継がれた果てに居るワタシが考えた方法の正当性を確かめたくなってもいいじゃないカ」
自分の可能性を確かめたい………それは学者としての執念だけではなかった。
自身の行いが裏の世界の歴史に残ったことで、改良に改良を重ねた方法を試すというのは間違ってはいないだろう。事実、そのおかげで成功した次元が派生するのだから。
だが失敗しなければいけない次元で成功してはならない。ゆえに超鈴音は役目が決まり次第、さっさとこの時間から退場することを心に決めていた。未来の自分や技術があることでタイムパラドックスが起きたら下も子もないのだから。
しかしそれではたった一つの誤算が生まれてしまう。役目が決まってさっさと退場してしまえば『歴史に残るほどの大事件として扱われない』のだ。
簡単に終わってしまえば過去の類似した事件と一まとめにされてしまい、人々の心に残りにくくなる。
そうなれば『未来の超鈴音へメッセージを残すことができない』のだ。
この方法は失敗した、ならば次はこの方法だ――――――そうやって繰り返されてきた時間を途切れさせないために、そして現在の最良の方法を確実に伝えるために、超鈴音は『絶対に手を抜いてはならず、かつ決して成功しない』ように調整しなければならなくなった。
コレをなんと言うか知っているだろう―――――――喜劇、あるいは茶番と言うのだ。
「作戦はもうすぐ最終段階へ入る。………こないのカ、ネギ坊主?」
未来を救うために決心し、そのためにあらゆるものを犠牲にして捨てた超鈴音は、このロクでもない時間を永遠と繰り返し続けるのだ。
成功の時間軸にいる超鈴音は幸せだろう。例え失敗しても、己の信念と情熱を全て注いで果てることができるのだから。
この超鈴音は、過去も未来も変えることを許されず、遠い未来へ帰っても変えられなかったその世界で生き続けるしかない。人生を犠牲にしてでも変えたかった地獄を目の当たりにしながら果てるしかない。
「早く……この幕を下ろしてよ」
ここまでの犠牲を用いて、考え付いた全てが成功する確率は―――――――たったの25%であった。
参考URL
少佐の演説 http://www.youtube.com/watch?v=QUX0SXbiW34
ブリタニアの演説 http://www.nicovideo.jp/watch/sm4806268
ジーンの演説 http://www.youtube.com/watch?v=qkOUg5CPO8M
総統閣下の演説 4:00まで
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16857875